syanpon
2025-06-26 19:49:00
10929文字
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青時雨に秘密をひとつ

うさぎさん(nmdusg)とのリレー合作小説です!!
起承転結の起と転をわたしが、承と結をうさぎさんが書いてくださっています……!!
キスにまつわる学生現パロのオトスバです!!!



「よしきた決戦の日!」
「いや戦うのは僕なんですけどねえ」
 天気は快晴、空に向けてガッツポーズをするスバルの背中にオットーは呆れたように声をかける。
確かにオットーの試合の日であり、その応援に来たことに間違いはないのだがスバルにとっても本日が練りに練った作戦の決行日であるため、この気合いの入れ方は間違っていないのだ。しかし、オットーから見れば確かに友人兼恋人が自分以上に気合を入れている姿は不気味にうつったかもしれない。
 こんなところで疑われて作戦を看破されてしまってはおじゃんだと思いスバルは話を逸らすように「勝てよ」とオットーの目の前に拳を突き出した。
 スバルの拳を見たオットーは嬉しそうに笑うと己の拳をコツンとスバルのそれに当ててくる。スバルがもしも可愛い彼女であったのならばここでハートマーク付きの「頑張って」なんて応援と共にほっぺにキスの一つでもかましてやっていたかもしれないが、あいにくスバルは可愛い女の子でもないし今日はオットーのほっぺたよりも大事な標的があるのだ。
 改めてスバルはまじまじとオットーの顔を見やる。風に揺れるふわふわの髪は汗や前髪が目にかからないようにヘッドバンドがつけられている。その部分が少し凹んでいて恋人の欲目もあるがちょっと可愛らしい。

 そして普段つけている丸い眼鏡が取り払われている。
 気がついた時には学園生活の中でオットーはほぼ眼鏡をかけており、取り外した姿を見るのはこういった体を激しく動かす競技がある時のみであった。
 スバルは目が悪いからかけているんじゃないのか、コンタクトをいれてる姿とかは見たことないもんな、なんて思っているが、実はオットーが眼鏡をつけはじめたのはスバルのためだったりする。

 スバルがテレビのクイズ番組に挑む眼鏡をかけた男を見ながらなんの気無しに「眼鏡似合うやつかっこいいよな、頭良さそうで」といった当日の帰り道、オットーは眼鏡を作りに行った。好きな子に見た目からでもかっこいいと思われたかった青少年のいじらしいアピールである。
 もちろん、スバル本人にそんな遠回しのアピールが伝わるはずもなく、いきなり眼鏡をかけてきたことに対して視力の低下を心配されるだけだったのだが。スバル本人はまさか自分が言った何気ない一言がきっかけだなんて思ってもいないし、眼鏡をかけたオットーもかけてないオットーも大好きなのでやっぱりこのアピールはあんまり関係がなかった。なんならこうやってキスの障害として立ち塞がってきたまである。

 乾燥したのかオットーが唇をペロリと舐めて湿らせる。ずっとキスのことを考えていたスバルにそのなんでもない行為は大変目に毒であり変に動揺した心を誤魔化すようにオットーの背中をコートに送り出すようにばしりと叩いてやった。

 スバルに送り出されたオットーの背中が小さくなったのをみてからスバルは計画を書き記していた科学のノートをこっそりと開く。計画は今のところ順調だ。
 眼鏡もない、試合会場は段差だって多いから身長差も土壇場で誤魔化せる、なんていったって試合に勝ったあとの恋人にキスを送るなんていうのは最高にロマンチックではないだろうか。

 コートに目をやれば大好きな灰色の髪が緑の芝生の上で縦横無尽に踊っていた。相手のゴールにボールを入れればいいというくらいの最低限のルールしか知らないスバルであるがオットーが活躍していることだけはわかる。
「うわ、めっちゃ囲まれてる」
 相手チームがパスを受け取ったオットーからボールを奪おうと三人がかりでプレスをかけていく。自陣にボールを戻すように声がかかるが、ボールはオットーの足元から吸い付いたように離れなかった。
ほんの少しボールを外に蹴り出してつられた相手のスペースに潜り込んで一人躱す。体を反転させてしっかりとボールをキープしながらタックルしてきた選手をその細い体のどこにそんな力があるのかわからないが押し返して抜き去ってニ人目。三人目の股を抜くようにボールを転がすかと思えば、ボールが相手の頭上を弧を描いて飛んでいく。
あっという間に三人を抜き去って追加点をもぎ取っていく。
 スバルの両隣後方から大きな歓声が上がった。チームメイトにもみくちゃにされるオットーを熱に浮かされたようにみていると視線に気がついたのかスバルにピースサインを送ってくる。
「ゔっ」
 あの男はスバルがオットーの顔が大好きだということをもっと自覚するべきだと思う。
 あと、そのスバルにしか向けないはずの笑顔を大衆にも見せていることもよくないと思う。自分は「ナツキさん、その顔僕以外の前でしちゃいけませんからね」なんていうくせに!実際スバルはその顔がどの顔なのか全くわからないのだが。
 オットーの笑顔にドキドキしている間に試合は進んでいき三分のアディショナルタイムを残すのみとなっていた。2点もこちらがリードしているためほぼオットーのチームが勝つとみて間違いないだろう。

(これが終わったらき、きすを……
 試合が終わるということはスバルの作戦決行の時が刻一刻と迫っているという意味でもある。いざその時が近づいてくると満タンの風船の空気が萎んでいくように、あれだけ自信満々だった計画に自信がなくなってきてしまった。 土壇場には強いが自分ごとになると途端にネガティブになりやすい。スバルの悪い癖だった。
「も、もしもキスして嫌がられたらどうしよ……
 そんな最低最悪の想像が脳裏をよぎる。
 唇を寄せた時に手のひらで止められたら?
 体を離されたら?
 あの綺麗な瞳がスバルを嫌悪感のある目で睨んできたら?
 そんなことをあの恋人はしないだろうが、ポジティブなことを考えるよりも最悪の想像をするほうが容易い。
 緊張と興奮で熱くなっていたからだがきゅっと冷えた心地がしてスバルは自身の悪い想像から目を逸らすようにぎゅっと強く目を瞑った。

 だからスバルは一瞬反応が遅れてしまった。
 周りの観客の悲鳴も、遠くで自分の名前を呼ぶオットーの声にも。
 目を開けた瞬間、ボールが眼前に迫っていた。
「え」
 もう避けることが不可能な距離にまで近づいていた硬いサッカーボールをスバルは驚きで目を見開いたままま、ただただ見つめていた。

 そうして視界は暗転した。