syanpon
2025-06-26 19:49:00
10929文字
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青時雨に秘密をひとつ

うさぎさん(nmdusg)とのリレー合作小説です!!
起承転結の起と転をわたしが、承と結をうさぎさんが書いてくださっています……!!
キスにまつわる学生現パロのオトスバです!!!



 さて、まず最初に考えるべきはシチュエーションだ。いつ、どこで、どんなふうに。ここをしっかり練っておかないことにはこの計画の成功は有り得ないと断言してもいい。なぜならこういうのは初動が大事というのがお約束だからだ。

 シャーペンの消しゴム部分でこめかみをリズム良く叩きながら、スバルは眉を寄せて脳内シミュレーションを繰り返す。
 オットーの聡明さを考えても失敗はできない。つまりスバルに与えられたチャンスは一度きり。ならば作戦の決行場所にはどこが最も相応しいだろう。
 一番に候補に上がるのはやはり慣れ親しんだ学校内だが、意図せず公開告白を繰り広げてしまった手前では人目があまりにも気になりすぎる。スバルはもとよりオットーもまた校内での視線に敏感になっているため、今は互いに一定の距離を保っているのが現状だ。
 なお、その焦れったい空気が初々しさに拍車をかけ、一部の層を余計に悶えさせていることなど二人は知る由もない。

 学校が駄目となれば、次に挙がるのは互いの家だ。
 とはいえオットーの家は商売を営んでいるため親族含め人の出入りが激しく、逆にスバルの家には専業主婦の母が随時在宅している。用事で不在になったタイミングを狙ってもいいが、己の母の挙動を考えると不安要素しかないのが本音だ。別の意味でのサプライズになるのは非常に困る。初キスに親の存在がチラつくのはスバルにとってはもちろん、仕掛けられるオットーにとっても回避願いたいだろう。
 そんな理由で互いの家も候補には加わらず、だからといって活動範囲の限られている高校生の頭では他の場所も浮かばずスバルは初手から躓くこととなった。

 *

「そういえば、今週末のことなんですけど」

 昼休み。
 スバルが押し付けた紙パックの青汁飲料をようやく空にしたオットーが、僅かに引き攣った声で話題を切り出した。
 疲弊したその表情にさすがに四日連続で押し付けたのは不味かったかと若干の罪悪感を抱くも、この件に関してはスバルも巻き込まれ事故の被害者であるために口を噤まざるを得ない。
 スバルの母が突拍子もないことを仕出かすのはもはや恒例であり諦めの域であるが、それにしても誰も好き好んで飲まない青汁飲料が箱で五つ自宅に届いた時には己の目を疑った。
 その日以来、愛する息子の健康のためにと半ば強引に紙パックを鞄に捩じ込んでくる母の優しさを無碍にするわけにもいかず、スバルは手近なオットーを巻き込み青汁の消費に尽力する日々である。
 ちなみにスバルもオットーも青汁は好きではなく、スバルの両親に至っては揃って記憶の彼方だ。もはや彼らにはリビングのど真ん中に鎮座するダンボール箱が見えていないらしい。どうりでいつまで経っても箱の中身が減らないわけだ。本当にどうして買った。誰も得しないじゃないか。多少経済は回ったかもしれないがこちら側の犠牲があまりにも大きすぎる。
 閑話休題。青汁特有の苦味を母手製のマヨネーズ入り卵焼き(マヨネーズ別添え)で中和しながら、スバルはオットーの口にした『今週末』に何か予定があっただろうかと深く考えずに首を傾げた。
 その様子にオットーは案の定と言わんばかりに顔を顰め、これ見よがしに溜息を吐く。

「練習試合、見に来てくれるって言ったじゃないですか」
……あ」

 そういえば、そんな話をした気がする。
 忌まわしき緑色の飲み物のことで頭がいっぱいだったが、思い返してみればそう、確かに二週間ほど前にオットーから試合観戦の誘いを受けていた。
 スバルの友人もとい恋人はこう見えてサッカー部のエースだ。普段の柔和な見た目に反して試合中は鋭い眼光で相手を制圧し、高い頭脳で味方を勝利を導く姿が人気であることをオットーは知らない。断じてギャップにやられたとかではないが、スバルもオットーのそういうところをほんの少し、いやだいぶ好ましく思っていたりする。

「まさか忘れてたんですか?」
「い、いや、覚えてた。うん、ちゃんと覚えてたって。ホント、この青汁に誓ってもいい」
「青汁に誓われたところで僕は嬉しくもなんともないんですが……来てくれるってことでいいんですよね?」
「おう。それはもう、めちゃくちゃ応援する――

 ――あ。
 ひらめいた。

「なぁ、オットー」
「なんですか?」
「お前まだエースだよな?」
「まだ、ってなんですか。一応そのつもりですよ、次の試合も」
「その試合――絶対に、勝てよ」

 最高の作戦が突如としてスバルに舞い降りてくる。
 いまいち状況が飲み込めず困惑した表情を浮かべるオットーを差し置いて、スバルは抑えきれずに口角を引き上げた。