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スヲマシ
2025-06-26 10:41:27
1611文字
Public
柴チヒwebオンリー
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安眠妨害
柴チヒwebオンリー作品②
買い物先でパジャマを見る二人
「昔、チヒロくんにパジャマ買うたん覚えてる?」
大型家具店の衣料品コーナーで、柴さんが俺の方に振り返って訊いてきた。
柴さんは数え切れないほど俺に物を贈ってくれたが、今の問いに当てはまるのは一つだけ。
「覚えてますよ。ボタン練習だって買ってきてくれたやつですよね」
「え!?小さかったのにそんなことまで覚えてるん?さすがやな」
いつもこうした些細なことでも褒めてくれる。それが嬉しいけれど、少し恥ずかしくて、棚を覗くフリして目を逸らした。
それに、驚く柴さんの思っていることと、真実は少し違う。
「片付けてた時に父さんが教えてくれたんです。『チヒロは柴が買ってきたパジャマでボタン練習したんだぞ!』って」
「なるほどな」
納得の言葉と一緒に右手でグーを作って左手の平を打つ。その仕草は本当にこうする人がいるのか、と思ったけど、既視感があったので父さんもやってたかもしれない。薊さんもやるのだろうか。
どうでもいい思考を物理的に消すように頭を小さく振る。
「その節はありがとうございました。お陰でスムーズにボタンを留められるようになったと言ってました」
柴さんの方に向き直って目を合わせてお礼を伝えた。
他人事のようだが、なにせ記憶がない。でも、柴さんの贈り物あってこその成長だったと思う。
柴さんは目を瞬いた後、「どういたしまして」と笑って、
「なら、それ以来?新しいの俺に買わせて」
と、言ってきた。
今度は俺が目を瞬かせる。
「え?」
「ちょうど最近聞いてな。スウェットよりパジャマの方が安眠効果高いんやって。チヒロくんいつもスウェットで寝てるやろ?総とっかえとはいかんでも何着か、疲れた日だけでも着るやつあってもええんちゃう?」
論理的根拠のあるプレゼントらしい。でも俺が引っかかっているのはそこじゃない。
「それにパジャマみたいに決まった寝巻きの方が寝るスイッチが
……
」
パジャマがいい理由を柴さんがこんこんと説明してくれているが、耳に入って来なかった。
「ま、待って下さい」
「やっぱ、昔と同じ青色じゃ嫌やった?」
俺の耳に届いていない間に具体的な色味まで決め始めていたらしい。
でも、そんなことはどうでもいい。
思い出してほしい、俺たちの今の関係と状況を。
「今、俺ハクリと一緒の部屋なんですよ」
「せやな。ハクリくんにも買って帰る?」
何も伝わってない!
「柴さんが選んだパジャマなんて、意識しちゃって眠れる訳ないでしょ」
もう、勢いに任せて全部言ってしまっていた。
俺たちは、つい先日、付き合い始めたばっかりだった。
「あ〜ごめん」
謝っているのに、柴さんの口角は完全に上がっている。この表情は俺が照れているのを見て喜んでいる。段々分かってきた、付き合うまで知らなかった柴さんの新しい表情だ。
「それなら、ハクリくんと一緒のを買って解決、とはいかへんね。パジャマは皆で来た時にでも各々買おうか」
「はい
……
」
にやけ顔のまま、それを隠そうともせずにウンウンと柴さんは頷く。
俺ばかりが照れている。何か仕返ししてやりたい。
ふと、柴さんが見ていたパジャマが寝心地の良さを謳うものだったことに気付く。
「なら、一着だけ今、買って下さい」
「うん?ええよ。何か気に入ったのでもあった?」
買わない話をした後にすぐに同じ物をねだるのはどうかと自分では思ったけれど、柴さんはあっさり了承した。
「柴さんと二人だけの日に着る物を買います」
「確かにそれなら意識しても大丈夫やんな」
今の一言じゃ、まだ余裕の表情は崩せない。むしろ、口角は一段階上がったが、俺は負けじと続ける。
「この肌触りのいいやつにします。これで一緒に寝たら、柴さんの方から沢山触ってくれますか?」
柴さんの黒い瞳に動揺の色が浮かぶ。
俺はちょっと得意になって愛しい人の様子を見ていた。
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