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スヲマシ
2025-06-26 10:33:57
2077文字
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柴チヒwebオンリー
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夏至の閃き
柴チヒwebオンリー作品③
柴さんを待つチヒロくんと夏の思い出
「今日は夏至やから明るい内に帰れるかも」
朝、警備の依頼があると出かけた柴さんが、そう言っていたことを思い出す。柴さんは年中厚着の俺と違って、季節によって服装が大きく違う。そのせいか、季節や温度に関しては俺より敏感だ。それなのに行事には鈍感で、俺がその日にちなんだ料理を作ると「そういえばそうやな」と驚いてから、喜んで食べる。
夏至は季節と行事、どちらに入るのだろう。
昼飯は一人きりなのでカップラーメンにした。手軽なのはもちろんあるが、一緒に食べる相手がいないと料理に身が入らないのは、ここ三年程で初めて知ったことだ。柴さんの食べ過ぎに注意したこともあるし、栄養素の偏りは理解しているが、たまに食べると美味い。
食べ終わった後の片付けでパッケージに夏季限定の文字を見つける。こんなところにも夏は潜んでいるのか。
夜は何にしようかと悩む。明るい内に、と言うくらいだから七時半までには帰ってくるんだろう。それまでに出来る料理
……
夏至に食べる習慣のある物はタコだと何かの本で読んだ。
柴さんとタコといえば、たこ焼きが真っ先に思いつく。これは関西人だからとかの偏見ではなく、実際に六平の家にいる頃から何度も作ってくれたから。二人で暮らすようになってからも時々作ってくれるそれは本当に美味しい。けれど、今日は疲れているだろうし、何より暑いし、タコの酢の物くらいに抑えておこう。
そう、結論づけた時に引っかかった。
暑いのに、たこ焼きにも夏のイメージがある。
考えて、すぐに気づいた。柴さんと行った夏のお祭りで食べたせいだ。
献立を決めて買い出しに出たスーパーの入り口で、麦わら帽子を被った六歳くらいの男の子に後ろから抜かされた。そのまた後ろからは母親らしい人が、静止の声を上げながら追いかけてくる。男の子が転んだりしないか心配で少し見ていたけれど、無事に追いつかれ、母親に抱き上げられた。
柴さんに麦わら帽子を貰って、ああやって抱っこしてもらったのもあれくらいの年だったはず。「似合っている」、「かわいい」と何度も褒め称えられたのを覚えている。それが子どもながらに恥ずかしくて、「もういいよ」と言ったのだ。でも、柴さんから貰う物はなんでも嬉しくて、夜の天体観測の時にもずっと被っていた。
俺の気に入った様子を見て、それが似合う場所に行こうと、ひまわり畑に連れて行ってくれたのはそのすぐ後。
あの一面に広がる黄色と眩しい陽射しは一生忘れないだろうな。
会計を終えて、袋に詰め直す作業中、目に着いたのは来月開催される花火大会の知らせだった。
この地域の花火大会は七月にあるのか。
去年、柴さんに連れ出されたことを思い出す。三つ前にいた拠点では、八月の俺の誕生日の二日後だった。
十七歳になった日の翌々日という中途半端なその日に花火の音に紛れて、俺は柴さんに好意を伝えた。声が届くかは半分賭けだったけれど、耳のいい柴さんにはちゃんと聞こえたらしい。「俺もチヒロくんのこと好きやけど、十八までは我慢しよか」特に考える様子もなく、そう言われた。
我慢の意味を詳しく尋ねたい幼い俺と、訊いたところで思った答えが返ってくることが分かっている冷静な俺が、あの日から胸の内で絶えず喧嘩している。
拠点に戻ると、じっとりとした熱に襲われた。梅雨時の湿気と最近の気温上昇の相性は最悪で、不快感がある。それらに負けて、エアコンは今月に入ってすぐつけ始めた。帰って来たばかりの今も流れ作業のようにスイッチを押す。
その一連の行動で思い出したのは昨日のこと。
「これならチヒロくんとくっついても暑くなくてええね」。十八まで二ヶ月を切った時にそんな思わせぶりなセリフを吐く罪な大人は、まだ距離を保って接してくる。
室内にまで柴さんとの夏が追いかけてきては逃げ場がないな、そう自嘲した。
時刻は六時半。夕飯の準備はつつがなく終わって、手持ち無沙汰になり、椅子に腰掛ける。正面の窓越し、まだ存在を主張する太陽に目を細めた時に思う。
俺は、夏の思い出まで柴さんから与えられてばかりだ。
一つ閃いた瞬間、タイムリーに携帯が揺れた。
『柴です』
「柴さん」
『連絡遅なってごめん。七時までにはそっち着けると思う』
「はい」
七時なら日の入り前だ。
「あの、柴さん」
『うん、どうしたん?』
「海行きませんか?」
『海!?』
不意を突かれたのだろう、戸惑った声が聞こえてきた。
「海です。今日、夏至でしょ。ここからなら日の入りに間に合うと思うんです。どうですか?」
『チヒロくんが行きたいならどこにでも行くけど
……
』
予想した通り、柴さんは俺の提案に乗ってくれた。
「うん、行きましょう。迎えに行くので」
待ち合わせ場所を決めて、電話を切る。
今年の夏は俺から柴さんへの思い出を作りたい。
それに夕焼けのムードにやられて、手くらいなら繋いでくれるかもしれない。
十七歳と十ヶ月の俺は、そんな淡い期待を携えて拠点を出た。
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