三毛田
2025-06-25 22:44:10
1079文字
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34 034. 振り向いて

34日目
俺だけを見て

 好きになったから、振り向いてほしい。
 なんて、すごくわがままだ。
 努力もしないくせに、何言ってるんだよ。
 物語の登場人物に、そんなツッコミを入れていた。なのに、いざ自分が同じ立場になると、彼らの気持ちが痛いほどわかって。
「うう……
「どうした、穹」
 優しい声で名前を呼ばれ、心配そうな表情を向けられたら。
 縋ってしまいそうになる。
 俺だけを見てと、俺を好きになってと、身勝手で傲慢な欲望をぶつけてしまいそうに。
 そんなことをして、彼が離れていってしまえば元も子もないのにさ。
「たんこぉ」
「大丈夫、大丈夫。俺は今ここにいる」
 縋りつくように、丹恒の腰に抱き着く。
「好きなだけ甘えればいい」
 手甲をしていない手で、優しく頭を撫でてくれる。
「本音を言うとさ」
「ああ」
「好きな人がいるんだ」
「そうか」
 ぐりぐりと、膝に額を押し付けて。呟くと、柔らかな声。
 ああ。安心する。
「丹恒先生は、誰かいる?」
「何の話だ」
「今の流れで、何でそうなるの。好きな人がいるって言ってるんだから、好きな人」
……よく、わからない」
「そう、なんだ」
 太腿に頬をくっつけ、上目遣い。
「誰かに好意を抱くという、理由を理解できない。が」
「が?」
「お前が、教えてくれるのであれば知りたい」
 揶揄う意図はみえない。彼なりに真剣に知りたいのだろう。
「えっと……その人のことを思うと、胸がドキドキするんだ」
「ふむ」
「それで、さ。目が合えば嬉しいし。同じ空間にいることが出来ても、やっぱり嬉しい」
「なるほど」
「振り向いて欲しくて、色々やってさ。空回ることが多いよ。でも、ちょっとでも笑いかけてもらえると、それだけで報われるんだ」
 太腿を撫でると、流石に頭を鷲掴まれた。
「穹」
「セクハラは、駄目だ」
「セクハラじゃないってばぁ」
 太腿の間に顔をぐりぐり押し付けると、今度は拳骨。
「あうあう」
 見上げると、真っ赤になって俺を睨む丹恒。
 ちょっと太腿が弱い?
「説明されても、理解は出来ない」
「まあ、誰かを好きになったのは俺も初めてだから、こう! っていうのは説明するのは難しい」
「なるほど」
「でも」
「でも?」
「丹恒の事、好きだから振り向いて欲しいっていう気持ちはある。うん」
 頭をさすりつつ、また太腿に頬をくっつけ上目遣い。
「俺が、好き?」
「うん。丹恒が好き。ちょっとセクハラしたくなるほど、好き」
 太腿の外側を撫でると、後頭部を掴まれてしまう。
 まあ、今のは俺が悪いので、甘んじて受け入れよう。