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syanpon
2025-06-25 01:39:25
2939文字
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飽和cdの青【前編】
月夜さん(tukiyobakarika)との合作小説です!!!
前編を担当させていただきました!
ふわっと原作軸よりのオトスバです!
後編は月夜さんのぷらいべったーに!
【媚薬】
性欲を促進させる薬としての意味合いが強いが惚れ薬の意味合いも持つ言葉である。
「というわけでこれだ」
「というわけでじゃないんですよ」
思わずオットーは反射でスバルの言葉をぴしゃりと否定するがお構いなしといったふうにコトン、とスバルは目の前にコップほどの大きさの瓶をおいた。色ガラスの中には均一な大きさの飴がころりころりと入っているのがみてとれる。
執務室にくるなり我が物顔で椅子に座り、媚薬の定義を語り始めたことから嫌な予感はしていたがどうやら目の前に置かれた「それ」はその類であるようだ。
飴の入った瓶を楽しそうに揺らしながらスバルは説明しだす。
「なんか、恋を疑似体験できる飴らしい。舐めている間、はじめに目に入った人間に恋した気分になるんだと」
「そんな怪しいものを買うなとか色々言いたいことはあるんですが僕の前に持ってきたってことはですよ」
「今からこれをお前の目の前で食おうと思う!」
「そうだと思ったよちくしょう!」
ドンと机を叩けばスバルはそんなことに気にもせずケラケラと笑って「こんな面白いもの試せるのお前くらいだろ」と言ってのける。信頼してくれているのは結構なことだがこういった突拍子もないことも持ち込んでくるのだ。この年下の友人は。
スバルは恋というものは知っている。
恋というものがどんなときめきをもたらしてくれるものなのかも知ってはいる。
なぜならここにきてからずっと、銀髪の少女に恋焦がれているのだから。
だからこれは「恋を知りたい」なんていう可愛らしい動機なんかではなく、目の前の友人への嫌がらせであり、甘えであり、偶然にも手に入れたおもちゃに対する好奇心であった。
わあわあと騒ぐオットーを背景にしながら瓶の蓋を開けて中の飴を手のひらに一つ転がした。ビー玉程度のその飴はほんのり淡い桃色をしており恋をうたった売り物にたいしてまぁ凡庸な色合いをしている。
躊躇なく口の中に飴を放り込む、ほんのり甘い、桃のような味がした。口の中で転がしながら目の前で頭を抱えて顰めっ面をしているであろう男を視界に入れてやろうとスバルは顔をあげた。
___炭酸が弾けたように視界が瞬いた気がした。
正確に言えばオットーがちょっといつもよりもキラキラしてみえる。
「おお
……
」
「なんとも言えない感想ですね」
「んん、ちょっと待って」
スバルは今オットーに恋をしているのだ。軽率に喋らないでほしい。男性にしてはほんの少し高くて柔らかい音がスバルの耳をくすぐるのがどうにも落ち着かない気持ちになってしまう。ただ、スバルの静止に大人しく口をつぐんでしまったため、その声が聞こえなくなってしまったことに勝手に残念な気持ちにもなる。
そろそろと再度オットーの顔を見れば呆れたように目を細めた男の瞳が自分だけを映していることがひどく嬉しい。炭酸の弾けたラムネみたいな、太陽に照らされた海のような瞳がただただ綺麗だな、なんて思った。
光に照らされた髪の毛がオットーが呼吸をするたびに軽く上下に揺れている。スバルのそれとは違った柔らかいそれに触れたくなって気がついた時には手を伸ばしてしまっていた。
「ナ、ナツキさん?」
「おー、ふわふわ
……
」
カロカロと飴を口の中で転がしながら拒否されなかったことをいいことにそのままオットーの髪の毛に指を差し込んでゆっくりとすかした。距離が縮まったことで綺麗な青がより近くでみえる。スバルの動き一つに動揺したようにその青は揺れた。
ずっとふわふわしたような気持ちがして瞬きをするたびにキラキラと視界が瞬く。心臓の鼓動がいつもよりもはやいがそれに対して嫌な気持ちなんか全くしなかった。
「なぁオットー」
「はい?」
「お前に恋すんのめちゃくちゃ楽しい」
だからそれをそのまま目の前のこいつにも教えてやろうと思ってスバルは正直に伝えてやることにした。
コツンと額が何かに当たる感触がする。
気がついてみればどうやら近づきすぎていたようでお互いの額が当たっている。心地よい音を立てていた心臓が一気に早鐘を打ち、スバルはオットーを突き飛ばすようにして慌てて距離をとった。椅子に座っているオットーはその場から動かず、反動でスバルは床に尻を強かに打ち付けるがその痛みなんて全く感じなかった。
口から心臓が飛びだしてしまいそうで、心臓の代わりに腹の底からの大声をぶつけてやる。
「ち、ちかい!」
「あんたが近づいてきたんでしょうが!僕は動いていませんよええ!」
「あとお前まつ毛めちゃくちゃ長いのな。今知ったわ」
「切り替え早いな!?そしてそれは褒められているんですかねえ」
恋している人間の新しく知ったところだから褒めているのではないだろうか。知らんけど。
自分から距離をとってしまったが触れていた髪の毛の感触が忘れられなくて手のひらをなんとなしに擦り合わせてみる。
近づきたいのに近づきすぎると恥ずかしい。
普段当たり前に見えていたものがもっとよく見えたりしてしまう。
こうやって一緒の時間を過ごしているだけでも満足してしまう。
飴の効果は覿面だったようだ。スバルはもう口の中で小さくなってしまった飴玉を噛み砕いて飲み込む。
飲み込んで目を開けるとさっきまでの煌めきは落ち着いて騒がしかった心臓もとっくにおさまってしまっていた。
呆れたように帽子をとって頭をがしがしと掻いているいつものオットーがスバルの視界に映り込む。
あと打った尻がだんだん痛む。
「なんつー即効性」
「あ、終わりました?」
ほっとしたような顔をしてオットーが立ち上がり座り込んだスバルに手を差し出してくる。素直にその手を取ればグッと強い力で引き上げられて立たされた。
「いやー、面白かった。オットーがめちゃくちゃキラキラして見えんのよ。なんなら今ちょっとくすんだお前?」
「ひでえいいようだな!その即効性はなんだか怖いですがまあ悪いものならベアトリスちゃんがすぐ取り上げるでしょうしね
……
」
スバルの好奇心が満たされたであろうことを確認したオットーは大きくため息をついた。
危ないことに首を突っ込むわけじゃないのならばまあこのくらいのわがままに付き合ってやるのはやぶさかではない。やぶさかではないのだが屋敷の他の人間に見られたら色々と誤解を招きそうな絵面ではあったななんて思い返す。
「よし!」
そうやってほんの少しだけ思考を外に飛ばしていたため、オットーはスバルが二つ目の飴を取り出していることに気がつくのが遅れてしまっていた。やけに元気な掛け声を聞いた時にはもう遅い。
ニヤリと新しいおもちゃで遊び倒してやろうという笑顔でスバルは目を白黒させて顔を引き攣らせたオットーに宣言してくる。
「じゃあ2個目いくか!」
「あー!!あんたねえ!」
口に含んで瞬きをしたところから始まり、口腔内から消えてしまえば瞬き一つで終わる感情。
スバルはこの、溶けて消えること前提のインスタントな恋心をいたく気に入り、2人きりの執務室になるたびにこの飴を口に放り込むようになるのだった。
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