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ミズト
2025-06-25 01:07:45
3540文字
Public
三次元版権二次創作
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Can't find a promise to believe in
会計士2直後 ストーリーなんてものはなく唐突に終わる これまでの行いのしっぺ返しを食らう兄
チャタフーチー川沿いでの数日間のキャンプを終え、兄弟を乗せた車は最寄りの空港へ向かって走っていた。
ハンドルを握る兄は珍しく機嫌が良かった。助手席でああだこうだと途絶えることなく話しかけてくる弟
——
ブラクストンの声も、悪くないBGMだ。他人との会話は、好悪にかかわらず、兄にとってストレスになる。自然な会話を成立させなければいけない、そのために最適な返答を膨大な会話パターンの中から取捨選択するといった作業を、弟相手にはしなくていい。返答を間違えても、噛み合わなくても、返事さえしなくても、弟は気にしない。兄がそういう人間だとわかっているから、期待していない。勝手に喋って、勝手に満足する。その雑な態度が兄にはありがたかった。時々は煩わしく感じることもあるが。
ゆったりとアクセルを踏みながら、兄はキャンプ場で過ごしたこの数日間を思い出していた。
川の水を足でばしゃばしゃと撥ねさせながら、冷たい冷たいと笑っていたブラクストン。水が冷たくて何がそんなにおかしいのか兄にはわからなかったが、弟が楽しんでいるなら、それでよかった。森を歩けば、聞こえるのは土を踏みしめる音、木々のざわめき、川の流れる音、鳥や虫の鳴き声。兄の神経を逆撫でする刺激的な音は一切なく、隣を歩くブラクストンも珍しく言葉少なで、「気持ちいいな」とだけ零す。兄は無言で頷く。自分以外の誰かと、同じものに対して同じ気持ちを共有できている。それは兄にとって得難い喜びだった。
キャンプ場に来てまで、目玉焼きとベーコンとパンケーキを三つずつという普段と同じ食事を作る兄に、なぜかまた弟は声を上げて笑って、「俺にも作ってくれよ」と言った。兄の作った食事を美味そうに食べていたが「やっぱ足りねぇな」とぼやいて、来る途中のコンビニで買ったパイにかぶりついていた。同じベッドで眠るブラクストンは枕の位置を奔放に動かし、シーツはぐちゃぐちゃに乱し、ブランケットを引っ張ったかと思えば蹴飛ばす。まったく寝ているときでさえ落ち着かない奴だと兄は眉間の皺を深くした。なのになぜか気付けば眠りに落ちていて、目覚めると朝だった。隣を見ると弟はまだ眠っていた。ふと子供の頃を思い出した。
このキャンプを、ブラクストンは楽しんでくれていたはずだ。“普通”の人々が日常的に行う「愛想笑い」と本心からの笑顔の判別は、兄にとって難しいことだったが、それでも弟の笑顔に偽りはなかったと思う。だから、「次はどこに行こうか」との問いかけに、どこか張り詰めた沈黙が返ってくるとは全く予想していなかった。
「ブラクストン?」
「聞こえてるよ。次のことは、
……
いきなり訊かれてもすぐに思いつかねぇよ。お互い仕事の都合もあるだろ?」
それもそうか、と兄は納得したが、八年前に交わした口約束を思い出す。来週会おうという拙く唐突な誘いに、弟は「場所を教えて」と一足飛ばしに答えてくれた。何をいきなり、とか、仕事がどうとか、都合がどうとかなんて、頭によぎる一瞬さえなく。あの反応を思うと、今の答えにはいささか歯切れの悪いような、素っ気ないような印象を抱いた。
勝手に想像していた。ブラクストンなら「次はここに行こうぜ、いつにする?」なんて返事をしてくれるものだと。しかし現実は違って、そのギャップに少し戸惑っている。
「思いついたら教えてくれ。日程もいくつか候補を上げてくれればすり合わせをする」
「
……
あのさ、あー、
……
ちゃんと言わなきゃわかんねぇよな。次の約束はしたくないんだ」
「
……
。僕が何か」
「兄貴は関係ない
……
いや、あるけど、俺の問題だから」
それきり黙ってしまった。弟の言葉の真意が全く推察できない。ほんの数分前までけらけらと声を上げて笑い、よく回る舌で車内の静寂を紛らわせてくれていたのに。
ブラクストンは兄の特性をよく理解していて、回りくどい表現や、言葉の裏側に真意を隠す、などという話し方はしない。そのブラクストンが言うのだから、「次の約束をするのは嫌で、その理由は兄にも関係があるが、ブラクストン個人の問題である」、それ以外に何も、弟から兄に伝えるべき情報はないのだ。 要求もなければ、交渉もできない。兄にできることは何もない。しかしきっと、確実に、自分がどこかで選択を誤った。それだけは、わかる。
次ぐ言葉を見つけられず、走行音だけが低く響く車内で、兄はただ目的地に向かってアクセルを踏み続けるしかなかった。
“来週”が八年二ヶ月後になったことのあるブラクストンにとって、仕事を終えた足でそのまま向かう兄とのキャンプは思いがけない喜びであった。川の水に足を浸し、天高く伸びる木々の間を歩き、澄んだ空気の中で食事をし、夜は一つのベッドで眠った。兄と共に。子供っぽいはしゃぎ方をしていると自分でもわかっていたが、敢えてそうした。こんなこと、最初で最後かもしれないから。
そこそこの歳まで生きてきたのに、今までの人生で一番幸せかもしれないと感じているこの瞬間を、余すことなく堪能しておきたかった。木々の葉を透かした、青い陰が落ちる兄の姿を、木漏れ日が掠めて光る瞳の色を、川のせせらぎに溶けそうな静かな声音を、風に乗って届く肌の匂いを、できる限り記憶に焼き付けておきたかった。次が無いなんてことは、さすがに寂しすぎて考えたくはないが、それが何年先になってもいいように。この思い出だけで耐えてゆけるように。だって兄がする未来の話など何ひとつ信用していないから。
次の約束がいつになったっていい。待つ必要があるのなら、いくらでも待つ。待たせる理由が言えないのなら説明さえなくていい。待っていてくれと、ちゃんと伝えてくれるのなら。自分の言葉に背かないのなら。しかし兄は唐突に姿を消し生死さえも明かさず、ブラクストンにとっては唯一の心の拠り所であった再会の約束も、簡単に反故にした。
それでも兄との再会を諦めなかった。いや、諦めきれなかった。もはや妄執に近かったかもしれない。だが信じられるあての無い希望は残酷だ。いっそ捨ててしまえたら楽なのに、決して手放せず、期待と落胆、恐怖と安堵を繰り返して精神は磨り減ってゆく。短髪で背が高い男性の後ろ姿を見かけるだけで跳ねる心臓を、その顔を見たとき頽れそうになる体を、始末屋の仕事をするたび死体の群れの中に兄がいないようにと祈る切実さを、兄がいなくてほっとする矛盾に軋む心を、兄は知る由もない。想像すらしない。ブラクストンの苦しみなど、露ほども。
だから、兄に“次”の話をされても、ブラクストンは応じることができなかった。どんな約束にも絶対は無いとわかっているが、「お前を巻き込みたくない」なんて勝手な理由で、何も言わず行方をくらませるような相手と約束を交わせるほど、酔狂でもない。もしまた同じことをされたらと思うと、怖かった。叶えるつもりがないのなら、はじめから期待させないでほしい。そんな弱気なことを思ってしまうほど、兄の存在は心の大部分を占めていた。空虚な魂を“ブラクストンという人物の型”に流し込んで人生を演じているような、夢と現実の境目すら曖昧な日々をまた何年も繰り返すなんて、さすがにもう、耐えられる自信がない。
ブラクストンが口を閉じれば、車内に残るのは寡黙な兄のみで、目的地である空港近くの駐車場に着くまで静寂が続いた。
「さんきゅ」
軽く礼を言って、後部座席に置いていた鞄を掴み、ドアを開ける。兄は正面を凝視したまま、指でハンドルを叩いていた。何か言いたいことがあって、言葉を探している。ブラクストンにはそれがわかったが、わざわざ助け舟を出す気はなかった。気付かぬふりをして車を降りる。
「兄貴と過ごせて楽しかったよ」
またな、と自分からは言いたくなかった。くだらない意地だ。もし本当に「また」が無かったら、きっと正気ではいられないのに。
ああ、僕も
……
などと兄は口ごもる。他に言いたいことがあるのに横から「返事をする」というタスクを差し込まれたせいだ。僅かに残った情けで、ブラスクトンはしばしその場に留まる。
「ブラクストン」
呼びかけられる。兄の言葉を待つ。
「お前は約束をしたくないと言ったが、僕はしたい。どうすれば、次の約束をしてくれる?」
車のハンドルをじっと見つめてそう訊ねた兄に、
「俺と会いたいなら、兄貴から連絡してこい。本当にその気があるならな」
さて、生きてる間に連絡が来るといいが。ブラクストンは皮肉っぽく口を歪ませて、ドアを閉めた。
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猫はどうなったんだろう?(´・ω・`)
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