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やまだ
2025-06-24 22:15:14
1461文字
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アークナイツ
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ロゴ博
誰からも好かれる人間、というものがいる。この大地に生きるすべての命から憎悪される呪われたサルカズとは対極に位置する、それこそ奇跡のような存在として。
ロゴスも多分に漏れずその人間を好いている。好意を特に隠しもしていない。
ただ、それが当人に正しく伝わっているかはどうにも不明瞭なのだった。
「水の匂いがするな」
「河谷の霧の香りであろう。今だけのものだ。じき消え失せる」
ロゴスの妹たちが紡いだ糸を姉たちが織り、最後に母がまじないをかけて作りあげた小さな護符を、ドクターの指が興味深そうに撫でている。
バンシーは親切だな、などと言って笑う男は、はたしてこれが異例の贈り物であることを理解しているのだろうか。バンシーの王と先代女王の呪力が込められた護符など、この世にふたつとない品だ。テレジアですら手にしたことはないだろう。
溜め息が出る。聞き咎めたドクターが護符を載せた手のひらから目を上げた。
深夜のロドス艦内はすっかり静かで、広い廊下にはロゴスとドクターしかいない。分厚い窓ガラスから月光が差し、薄ぼんやり常夜灯で照らされるばかりの床を洗っていた。伸びるふたつの人影は光に怯えたように壁に貼りついている。
「
……
それはうぬの魂を守護する符だ。特にサーミやカズデルヘ向かうならば手放さぬよう」
並ぶ細長い影のあいだに空隙がある。ロゴスが護符を持つドクターの手を掬うようにすると、影も細く繋がった。
「何か話したそうだ、ロゴス」
「
……
何を口にすべきか、少々迷っておる」
「難儀だな、バンシーは」
「ドクター、これはそのような理由ではないのだ。ただのアエファニルとして、うぬへ告げる言葉の順序を迷っておる」
ドクターは苦悶するロゴスを見つめてただ微笑んでいる。青少年の苦悩を見守るようなあたたかさは、サルカズとはいえまだ年若いロゴスが向けられるにふさわしいものだったが、大多数の若者と同じくロゴスもまた年長者から向けられる微笑ましい視線を素直に受け入れられはしなかった。なぜならロゴスには、彼から幼な子のごとく愛玩される気など一切ない。
「私は君と違って、世の中を数字で見がちな人間なんだが
……
」
口を開け閉めするばかりのロゴスを見かねてか、ドクターはからかうような笑みを浮かべる。
「私へ告げたい言葉たちのなかで優先順位がもっとも高いものは何かな、ロゴス?」
む、とロゴスは口を閉ざした。
誰からも好かれる人間がいる。ロゴスも彼を好いており、それを本人へ隠しもしてこなかった。
はたして伝わっているのかどうかと諦め半分でいたものだが、しっかり理解はされていたらしい。
待たせていたらしい。
そしてどうやら、待っていてくれたらしい。
「ドクター」
珍しく無邪気な目をして笑うドクターの頬に月光が白くきらめいている。
「ドクター」
「聞いている」
ロゴスは知らず深呼吸していた。淡く水の香りがする。懐かしい河谷の香りだ。ドクターのためにはるばると帰郷し、一族総てを巻きこんだ。
振り返ると笑えてくる。なんとなりふり構わず、見苦しくて、必死なのだろう!
「我はうぬを選んだ。うぬに選ばれたい。選んでくれようか」
笑み含みの希求に笑顔を返される。ドクターは少し肩を竦め、半歩前に出た。距離が埋まり壁の影も重なる。
「アエファニル、私はもう決めている」
ロゴスは静かに背を丸め、薄いドクターの肩に額を載せた。
ほのかな故郷の香りよりも、楽しそうに笑う人の気配があざやかだった。
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