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桜霞
2025-06-24 01:03:19
3211文字
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【RKRN】夢
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【RKRN】まもりたい、その笑顔【kusk夢】
灯さん(@akasatana7123)の小説『化粧すら利用しよう(
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24274857)』の続きを書かせて頂きました(許可いただきました、ありがとうでした!)。
笑顔 is 最強。
※トリップ夢主です。
※灯さんの小説を読んでからの方が分かりやすいです。
タソガレドキ城城下には、家臣の居住が構えられている武家地、神社や寺が集まっている社寺地、そして物流の要である町人地が、山間から扇子のように扇状に広がっている。町人地では、生活に必要な薪や炭、食糧などをそのまま卸して売る地域や、金物や織物など、職人を抱える工業地域など、大まかな物の種類によって自然と生活範囲が仕切られていた。料理屋や馬借、船で荷物を渡す船頭などは、町のあちこちに軒を構えている。
そのうちの一区画、小間物が集まっている辺りに、高坂の姿はあった。その隣には、最近タソガレドキで匿っている娘の姿もあった。
往来は賑々しく、様々な人と物であふれ返っている。まだまだ領土の狭いタソガレドキだが、鉱山があること、また別の山からは良質な茶が採れること、そして薬草類の栽培に成功していることから、領内の経済は日の本の中でも随一を誇っていた。故に、タソガレドキ城下街には、京にも負けず劣らずの品揃えがある。
彼女を連れた高坂は、化粧道具を扱っている店を目指していた。化粧道具の中でも安いものから高いものまでさまざまあるが、今向かっているのは城下一大きい店で、手に取りやすいものから装飾に凝った高級品まで取り揃えていることで忍軍の中では有名だった。
「人通りが多いですねえ」
「大丈夫か? 疲れてないか」
「はい! 大丈夫です。あんまりこういう賑やかなところをゆっくり見たことが無かったので
……
尊奈門と出かけるときは、城下の外れのお団子屋さんとかだったから」
「そうか。はぐれないようにな」
「分かりました!」
聞いている方の気持ちが良くなるほど、いい返事だ。高坂は緩む頬を、意識して引き締めた。
突然高坂たちの目の前に現れた彼女は、未来、または別の世界から来たのだという。タソガレドキ忍軍の中には、彼女の話を信じる者も、または眉唾と信じない者もいた。
しかし、彼女が自分の生家に帰ることができる方法が未だ不明である、という事実は、確固たる真実として眼前に横たわっている。
この事象を面白がった殿の恩情により、女中として忍軍にて雑用をこなす仕事を与えられ、本人はお世話になるのだからこれくらいは、とはりきって日々奮闘している。
何の苦労も知らなかったような手先はいつの間にか荒れて、爪も短く、丸くなっている。不憫とは思うが、彼女はよく礼儀と道理を弁えていたから、高坂は哀れを口に出さなかった。努力して筋を通そうという姿勢は、力強い美しさに満ちている。
「それにしても、お化粧道具について私に聞きたいなんて
……
、高坂さんの方がお詳しいのではありませんか?」
「きみがそれを言うのか?」
ええ? と素っ頓狂な声を上げる彼女に、高坂は思わず、ちょっとだけ笑ってしまった。
高坂の凛々しい精悍な顔立ちを、清廉で綺麗に整った顔立ちの女性に変えたのは、誰あろう彼女の手腕だ。彼女の私物を使い、高坂はどこからどう見ても女の顔になることができた。
元の顔の造形を殺さないよう、白粉と紅だけしか用いなかった高坂にとって、彼女の細い指と小さな筆で自分の顔をちょこまかといじるとああいう風になるという新事実は、喜ばしい衝撃以外の何物でもなかった。それに何より、ずっと探しあぐねていた彼女との会話の糸口を、高坂は離す気がなかった。
本来であれば、今日も彼女の手腕を発揮してもらう予定だった。だが、なんとなく周囲の視線を気にした高坂が、城下のどこそこで、と待ち合わせ場所を指定したのだ。
忍軍ではあの高坂に春が来たと専らの騒ぎだった。高坂とてその気配を感じ取ってはいるが、音に聞こえしタソガレドキ忍軍のプロ忍たちは、その騒ぎを当人の目の当たりにするのは避けているようだった。一部例外は発生していたが。
とは言え、気にされている事実は、気になる。
一度気にしてしまうと、ある筈の無いところに自分を窺う気配を感じてしまう。さりげなく辺りを見回す高坂の表情は、予断がない。
きびきびとした高坂の表情に、もしかして、と、彼女は小さく肩を落とした。
「あの
……
、高坂さん」
「、なんだ?」
「すみません、やっぱり、お出かけ、嫌でしたか?」
「えっ? いや、そんなことは
……
!」
高坂は慌てて彼女に向き直った。
確かに、当初は彼女に化粧をしてもらう予定だったが、出かけることそのものが嫌になったわけでは、とそこまで考えた高坂の動きが、はた、と止まる。瞬いた高坂に、彼女は小首を傾げた。
「今日
……
紅を差しているのか?」
「!」
高坂の言葉に、彼女は瞠目した。
「睫毛も、くっきりしているような
……
瞼もか?」
「!!」
彼女の瞳がみるみるうちに丸くなる。きらきらとした水面が、高坂を映した。
「そうなんです! 高坂さん、すごい!!」
「そ、そうか」
「気付いてもらえるなんて、うれしい! 流石は高坂さん、よく見ていらっしゃいますね! 尊奈門なんか、『油でも口に塗ったくったのか』なんて言うんですよ!!」
花の咲いたような笑顔から一転、むう、と頬を膨らませ、ひどいですよねえ、と言う彼女。くるくるぱたぱた変わる表情を見ていると、胸のどこか奥深く、張り詰めていたものが、緩んでいくような心地がする。一方、これを尊奈門が先に見たのかという、どす黒い靄のようなものが澱となって沈んでゆくのも分かる。
「尊奈門には、後で灸を据えておこう」
「あっ、でも、仕方のないことなんです。これはグロスって言って、厳密に言うと紅とはまた違うんです」
「そうなのか」
「艶々してるでしょ」
確かに、と頷く高坂。皺の目立つ老女の唇は、確かに縦にひび割れていることが多い。唇が艶々しているだけで、こうも若やいで見えるのだなと、高坂は新しく得た気付きをしっかりと内心に留め置いた。
「目に見えないぐらいの針を紅に仕込んだプランパーっていうのもあるんです。針に刺激されて、くちびるがふっくらするんです」
「痛くはないのか」
「痛いのもあります!」
「痛いのに、そのぷらんぱあとかいうのを使うのか」
「おしゃれは我慢です」
そんな、忍者はガッツだ、みたいな。突然の根性論に、高坂は思わず彼女をまじまじと見つめた。
「でも、なりたい自分になるのも、おしゃれ
……
っていうか、お化粧の醍醐味だと、私は思ってます」
なりたい自分になれる。化粧をしている時だけは。
瞬きながら相槌を打って、高坂は思案する素振りを見せた。
忍は、任務故に、自分ではない誰かになる。望んでやっていることではない。かと言って忌避しているわけでもないが、彼女の言うことは一理ある。
もし、誰もが、なりたい自分になるために、筆を取ることができたなら。彼女の生家のあるところが、そういう場所であったならば、それは。
「
……
きみらしい、素敵な考えだな」
「そうですか?
……
へへ」
はにかんだ彼女の頬が、じわりと朱に染まる。可愛いなと思う。つられて、高坂の頬も緩む。
「
……
以前、化粧を施してくれたとき」
はい、と彼女が高坂に向き直る。
「以前から、一緒に出掛けたいと言ってくれて、嬉しかった。
……
私も、同じことを考えていたから。もう少し早く、声をかければよかったと」
「!」
小さく息を呑んだ彼女の眦が、優しく綻んだ。
「よかったあ。楽しみにしてたの、私ばっかりじゃなかったんですね」
「楽しみにしていてくれたのか」
「あ! もう! はずかしい!」
「ふふ、」
彼女はちらりと高坂を見上げた。凛々しい眉は柔らかく、目尻は優しく、口元は穏やかに弧を描いている。初めて見る高坂の素顔だった。
笑顔が一番のお化粧だっていうのは、あながち嘘ではないのかもしれない。
彼女はなんだか、緊張したり期待したりしていた自分と、爽やかに別れを告げることができた。
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