ジョニーの自由な振る舞いは、密やかな関係である第二連王相手にも勿論発揮されている。その気にさせておいてお預けにしてみたり、茶化したり誤魔化したり。
本当に恋人だと思っているのかほんの少し不安になるほどいつも通りの距離感を、グッと近くする出来事のひとつがベッドインだった。お互いを求め合って身体を何度も重ねる行為の心地よさ。それが悲劇を起こす事になるとは知りもせず……
「もう良いぜ」
ある日。レオの私邸についてすっかりと勝手を覚えたジョニーは、何処にタオルが置いてあってヒゲ剃りはここ、歯磨き粉はこっち…と家主に聞かずとも準備を進めて寝室へ戻ってくる。
ペットボトルに入った二人分の飲料水をベッドサイドのミニテーブルに置いて、ベッドに腰掛けるレオの隣へジョニーも腰掛けた。
ギシッ
「そっちはどうだい」
行為前は毎回緊張に顔を強ばらせる男の心を解そうと、ジョニーが少し大袈裟に座ったせいでスプリングが強く軋む。レオの身体がぼよんと軽く弾み、もう少し優しく座れんのかと思わず小言を言いそうになった辺りでようやく二人の目が合った。
「……いつでも準備は出来ているが」
「おっと、そんなに待ち遠しくさせちまったか」
「んなわけあるかっ!」
ギシ、ギシ、ギシ
冗談めいた口調で揶揄ういつもの様子にレオの緊張の糸が解かれ、その肩を掴んで照れ隠しに揺さぶった。思ったよりも勢いが強かったらしく、スプリングの弾みで二人の身体が跳ねる。
揺れながらもしっかりとレオの手首を掴み返したジョニーは、ベッドの真っ白なシーツへ彼を倒し覆い被さった。
「俺もこれ以上待ったらオーバーヒートしちまう」
指を這わせてレオの衣服を脱がせていく傍ら、露出していく肌にちゅっと唇が落とされる。顕になった首筋へ頭を埋め、何度も執拗に舐め上げた。
じゅッ、じゅるッ
「ん……ッおい!待てっ……」
待たないと返事代わりに水音を響かせ強く吸い付けば、目の前の獅子へ赤い痕が出来上がる。
まだまだ物足りないジョニーは全身へくまなく唇を落とし痕を残す傍ら、弾けるようなレオの胸筋を優しく揉んだり、触れるかどうかのギリギリで焦らしてしっかり情欲を煽っていく。
(マルチタスクが得意、そう辞書に追加しても良いくらいには器用がすぎる……ッ)
心中悪態をついてしまうほどジョニーの的確で丁寧な前戯は効果抜群だ。
レオの顔はじわりと火照り、欲がむらむらと煮え滾って仕方がない。そう悟られないよう険しげに目を伏せ身を捩るものの、ジョニーから見ればもう堪らないと言ってるようなもので、熟れていく姿により一層そそられてしまう。
「そろそろこっちも窮屈だろ、脱がしてやるよ」
下腹部に手を伸ばしズボンのジッパーを摘まれた辺りで、悶えるばかりだったレオはハッと意識を浮上させる。このままやられっぱなしではあまりにも気に入らない。
ジッパーを下ろそうとする手を取り、ベッドのスプリングを利用してがばりと起き上がった。
ギシギシギシ!
揺れる視界がそのまま物凄い力でひっくり返る。さっきまでレオに伸し掛り彼を翻弄していたジョニーは一転組み敷かれ、突然の事に目を丸くする暇も無く肌を暴かれていた。
レオの手がガシッと豪快な手付きで胸筋を掴んだと思いきや、拙く揉みしだく様はどうも自分がされる時のものを手本としているらしい。
「ん……っ……はぁ……中々良いぜ……」
真剣な顔で全集中を寄せる彼の様子に笑みを浮かべていたジョニーも、段々と心地の良さに身を委ね始める。偶に漏れる吐息の艶めきがレオをもっと、と突き動かしていく。
「外すぞ……」
「大事に扱えよ、っ」
行為上障害になりうるジョニーのサングラスを外すと傷付けぬようヘッドボードへ安置し、その日初めてのキスをした。戯れのように唇を押し付け合うだけではすぐに物足りなくなって、舌を絡ませ何度も深く。
ぐちぐちッ……にちゅ……ぬぢゅっぬぢっ……
「は……ンぅ、うぅ……ふ……っ……」
「……ふ……っは、ぁ……ンぅ……」
お互いの唾液がぐちゅりぐちゅりと混ざりあっていく音が二人の耳を犯していく。このまま生まれたままの姿になって、準備をしたらついに繋がる……と同じビジョンを脳裏に浮かべていた筈なのに。
ギシシシ! ミシ! ドサッ!
「んー!」
レオがまたもやひっくり返された。
「俺様のテクニックで腰が立たなくなるくらい天国見せてやる、今日は大人しくしてな」
「それはこっちのセリフだ! 天国どころか極楽まで見せてやる!」
ビジョンは同じでも今日はお互い自分がリードする気満々らしい。
完全にスイッチの入ったジョニーの攻勢をじたばたと身動ぎで阻止するレオ。ただ愛し合う行為は、男の意地を掛けた不退転の戦に突入した。いつの間にか組み合って、言い合いながら広いベッドの上をぐるりぐるりと回転する半裸二名。
ギシシシシ!
「極楽ならお前の方がた〜っぷり見てるよな? 俺様のナカで何回もよ」
ギシ! ミシ! ギシ!
「そっちだって声に出さずとも果てた時分かるが!? 不正は通じんぞ!」
ギシギシギシ! ミシシ! ギッ!
「ふざけんじゃねぇ!」
「ふざけとらんわ!」
ギシ……ギ……シ…………ミシッ!
「「ん?」」
長い攻防の最中、第二連王専用特注ベッドが遂に嫌な音を立てる。何が起こったのかまだ理解出来ていない二人が真っ先に感じたのは、場所に似つかわしくない浮遊感。
ドスン!
「「うおぉ!」」
幾ら豪華なラグでも防ぎきれぬ落下の衝撃を尻に受けようやく気付いたようだ。
そう、第二連王専用特注ベッドは、真ん中から思い切り割れてしまった。高級木材のフレームは今までレオとジョニーの体重から起こされる情事での衝撃を受け止め続けていたが、もう体力のある重量成人男性が激しく動くのは致命的なまでに傷んでいたのだ。
「流石の俺様でもベッド割れんのは初めてだぜ……」
衝撃で途端に落ち着きを取り戻したジョニーは物凄い気まずさを堪えレオの顔をチラリと伺う。目を見開いて静止するままな姿が実に痛々しい。
「……大丈夫か?」
「……明日これを見た使用人にどう言い訳するか考えている」
現実逃避気味に思考を巡らせる寂しげな肩が慰めで叩かれたのを皮切りに、その日は終わった。
床にシーツを敷いて、失敗の二文字を飲み込みながら純粋な共寝をする。さっさと先に寝てしまったジョニーの寝顔を見つめ、レオは何を思うのか。喪失感、悲しみ、悔しさ、或いはもっと深い何かかーー?
(新しいベッドはどうオーダーしたものか……男二人分の激しい運動に耐えられる素材となると……)
第二連王は切り替え早く、堅実に未来を見据えるのであったーー。
終
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