桜霞
2025-06-23 23:20:52
2881文字
Public 【RKRN】夢
 

【RKRN】結婚したらこんな感じなのかな【hidy夢】

青風さん(@aokaze_dream)さんの『六年生の兵太夫と忍務で怪しい城に潜入する話(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24780671)』の続きを書かせて頂きました(許可いただきました、ありがとうございます)。
解釈違い等あったらごめんなさい。
六年生ってこんな感じなのかなって想いを馳せながら書けました、楽しかったです! ありがとうございました!
※くのたま夢主です。
※支部の章節を読んでいただいてからの方が分かりやすいです。





 ゆっくりと、意識が浮上する。
 体は、まだ重怠い。眩しい陽の光が、瞼の上から照らしているのが見ずとも分かる。
 衝立の向こう側に同室の気配は無い。うっすらと瞼を押し上げて、何度か強く瞬く。ぼんやりとした景色が次第に焦点を結んで、見慣れた天井が視界いっぱいに広がった。
 障子から差し込む陽の光から、朝はとっくに過ぎて、もう間もなく昼の時間帯だということが分かる。
 やっぱり寝過ごしてしまったなあ、と兵太夫は気怠い体を押して起き上がった。意識して肺を膨らませ、全身に血を巡らせる。ゆっくりと立ち上がり、布団を片付け、兵太夫は井戸に向かった。
 朝の一番流行る時間を過ぎたから、井戸の周りには誰もいない。
 冷たい水で顔を洗いながら、そう言えば、井戸の周りで同学年の忍たまに会うのはめっきり減ったな、と兵太夫は改めて気が付いた。進級した忍たまがかつてなく多いとは言え、六年生になると実習が増えて座学はほとんどなくなってしまう。あったとしても、級友が全員揃っていることはまず無い。
 実習明けの兵太夫は休みだが、同室をはじめとした他の六年生は、何かしら用事があるのかもしれなかった。
 二度寝を決め込みたい身体を無視して、忍装束に着替えた後、兵太夫は部屋を出て、食堂へ向かった。
 昨日の約束がなければ、顔も洗わずに心行くまで二度寝を決め込んでいたかもしれない。腹は減るが、慣れたものだ。
 学園は静かなものだった。日差しは麗らかにも力強く、空にかかる雲も少ない。太陽が天頂にかかるまではまだ時間がかかるだろうが、朝食には遅く、昼食には早い時間帯だ。とは言え、食堂のおばちゃんなら、何か作ってくれてるだろう。
 というか、あいつ、起きてんのかな。兵太夫は、昨日の実習で一緒に組むことになったくのたまを思い浮かべた。彼女とは、顔見知りの時期を含めれば、なんだかんだ一年の頃からの付き合いである。いろいろあって、実習では同質と並んで一緒に忍務に挑む数が多い。忍務によっては、学園外で待ち合わせることもある。彼女が遅れてきたことはないので、朝に弱いのか、しかしだからといって強いのかは断定できない。
 食堂に近付くにつれて、米や味噌のいい匂いがしてきた。魚を焼いている香ばしい香りも、微かに漂ってくる。兵太夫はここにきて初めて空腹を感じた。
 扉を開けながら、「おばちゃん、おはよー」と声をかける。はいおはようと聞き慣れた声が返ってくるかと思いきや、ひょこっとお勝手から顔を覗かせたのは、先程まで思い浮かべていた彼女だった。
「え」
「おはよ、兵太夫」
 思わず瞠目して立ち止まってしまった兵太夫に、彼女は顔を引っ込めながら「よく寝れた?」と声を響かせた。
「あぁ、まあ……おはよ……
 トントントン、と調子よく包丁がまな板を叩いている。なんとなくお勝手を覗き込むと、割烹着を着た彼女が、なにやら葉物を切っているところだった。
「もうすぐできるから。ちょっと待ってて」
「うん……
 彼女の手つきは慣れたものだった。へえ、料理できるんだ、と意外にも感嘆してしまう。
 とはいえ、忍術学園の食堂でおばちゃんが用意してくれるのは、朝食と昼食だけだ。必然的に、忍たまおよびくのたまは、夕飯を自分たちで作ることになる。だから彼女とて、料理はできるんだろうけど。
 兵太夫の視線をよそに、彼女は竈門と調理台を行ったり来たりしている。箸を揮い、鍋をかき混ぜる手つきに迷いはない。美味しそうな匂いが、兵太夫のところまで漂ってくる。
……
 何もしないでいいのかな、ぼく。
 しかし、手伝うよと言おうとしたところで、彼女が焼き上がった魚の切り身を皿に乗せた。かと思えば、味噌汁とご飯を椀によそっている。
…………
 兵太夫は、開けかけた口をきゅっと閉じた。遅かった。
「はい、お待ちどおさま」
 全ての料理が配膳されたのを見て、兵太夫は彼女のぶんの盆も持った。
「あ、……ありがと」
「いーえ、」
 踵を返した彼女が火の始末をする。兵太夫が椅子に腰かけたところで、彼女が割烹着を脱ぎながらお勝手から姿を見せた。なんとなく、その姿を視線で追いかけてしまう。割烹着姿を見たのが初めてだからだろうか。なんだか、新鮮な感じがする。今までだって、一緒にご飯食べたことはあるのに。据わりが悪いような、そうでもないような。
「いただきます」
 二人揃って手を合わせ、兵太夫は味噌汁から口をつけることにした。
「おばちゃんが、買い出しに行っちゃったみたいで。いつもと味、違うからね」
 彼女の言葉に、兵太夫は内心、確かに、と頷いた。口の中に広がるだしの香りが強い。それに、野菜がごろごろと入っている。
「具だくさんだね」
「おばちゃんに使っちゃってって言われたの」
「美味しいってことだよ」
 一拍、動きを止めた彼女が、視線を逸らせて、瞼を伏せる。
……今日は妙に素直ね」
「そう?」
「あっ、焼き魚、私が焦げた方、食べるつもりだったのに」
「こっちの方が塩多そうだったから」
……しょっぱいの好きなの?」
「しょっぱいもの食べると目が覚めるだろ」
……?」
 そうかなあ、という顔で小首を傾げる彼女。兵太夫はなんとかして苦笑を堪えた。
 彼女は、思っていることが、すぐ顔に出る。昨日、捕まってしまったのだって、きっとそれが理由だ。
 忍者、向いてないんじゃなかろうか、という言葉を、ご飯と一緒に飲み込む。
「今日、この後の予定は?」
 代わりに選んだ言葉に帰ってきたのは、気怠そうな「補修」と言う声音だった。
「鉄の手枷でも外せるようになりなさいって」
「ふーん。大変だね」
「そう。関節外すと痛いじゃない? あとで保健室に行こ」
…………
 確かに、関節を外して手枷から逃れることはできるけれども。兵太夫は、できるだけいつも通りの声音を装った。
「針金、貸してあげる」
「? 針金なんかでどうするの」
……鍵開けの要領で手枷を外すんだよ」
「手、動かせないじゃない。そんなことできるの?」
 今度こそ、溜息を堪える兵太夫。
 本当に、彼女は忍者に向いてない、気がする。いや、針金を隠し持てる可能性を考えたら、関節を外せる方がいいのかもしれないが、しかし。
……あとで教えてあげる」
「昼までに済ませられる?」
「おまえの覚えの善し悪しによる」
 彼女は、むっ、と顔をしかめた。可愛いな、と盗み見るが、彼女は気付いていないようだった。
「言ったわね」
 むきになったのか、ばくばくと米を掻き込む彼女を見て、兵太夫は内心、やれやれと肩を竦めた。
 また、感情が顔に出ている。ほんと、忍者に向いてない。
 というか、このかわいいのが、表に出にくくなるのなら。
 いっそ、忍者に向いていてほしくないというか。
………………
 菜っ葉の煮浸しを口に放り込む。焼き魚を食む。米を咀嚼する。味噌汁を含む。
 兵太夫は、言葉ごと、彼女の食事を胃の腑に流し込んだ。