77nairo
2025-06-23 19:33:10
1337文字
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ドライブ


 自分の出番がないからといって、壁にもたれて休むなんてことは許されない。なにしろここは山王工業なのだ。
 サイドラインぎりぎりに立ってコート内の様子を観察しながら、一之倉は内心でため息をついた。今年の一年生は自分ひとりで局面を打開しようと狙うヤツばかりで、チームプレーがなっていない。それで実際に点が獲れるなら文句もないけれど、それほどの実力もない。
 一之倉は左隣に立つ沢北にちらりと視線をやった。沢北は一之倉と同じように背筋を伸ばして立っているけれど、明らかに退屈していて、まぶたなんて普段の半分くらいしか開いていない。誰のせいでこんな退屈なプレーばかりになっているのかなんて、きっと本人は考えてもいないだろう。
 また一人、生意気な一年坊主がワンマンプレーで突破を試みて、河田にブロックされた。
「一之倉、松本」
「はいっ」
「はい!」
 堂本監督に呼ばれ、一之倉と松本はパイプ椅子に座る監督の元に全速力で走り寄った。全国大会常連校の監督としてはだいぶ若いはずなのに、監督の眉間には深いシワが刻まれている。
「今年の一年生たちは、沢北の悪いところばかり真似しているようだ」
 一之倉は深く頷きたかったけれど、すんでのところでこらえた。しみじみと頷いた松本に頷き返してから、監督が一段低い声を出す。
「山王のバスケを見せてやってくれ」
「はいっ」
「はい!」
 一之倉と松本は再びサイドライン際に立って、交代を待った。深津がちらりとこちらに視線を寄越して、悠々とシュートを放つ。スリーポイントラインの一メートル後ろから放たれたボールは、バックボードに当たってからネットをくぐった。
 ピーッと笛が鳴って、松本と一之倉がコートに足を踏み入れる。深津、一之倉、松本、野辺、河田の布陣。入学したばかりの一年生にぶつけるには少々大人気ないメンバーだけれど、監督の意図は察せられた。
 全国各地から集まった新入生たちの天狗鼻をへし折る。そして山王のバスケを叩き込む。
 交代の間際、松本の手がぱんっと一之倉の背を叩いた。
「パスくれよ」
 松本の尻を叩き返す。
「いいトコに走れよ」
 一之倉の返答に満足したのか、松本はこちらに視線も寄越さずにコートの中へ走り込んだ。深津が、どこに焦点が合っているのだかわからないいつも通りの目をしながら、唇の端をゆがめている。
 新入生チームのスローインでプレーが再開された瞬間に、一之倉と深津でボールマンをはさむ。ボールマンが焦って腰が高くなったぶん、隙が生まれる。一之倉はその隙を突いて、ボールをちょんと弾いた。弾いた先を見なくても、そこに誰が走り込んでいるかは知っている。
 ボールを持った松本が、ぐんと腰を落としてディフェンスを置き去りにした。トップスピードに乗ったままドライブで仕掛け、フォローに入った相手センターも抜き去る。最後はフリーになって、呆気ないほど簡単にレイアップを決めた。
 は、は、は、と耳障りな音を立てて息継ぎをしているのは、松本のプレーを初めて間近で見た新入生たちばかりだ。深津も野辺も河田も、当たり前の顔をしてディフェンスに戻っていく。
 ただ一之倉の心臓だけが、三十キロ走ったあとみたいに高鳴っている。