himuri
2025-06-22 22:42:57
2932文字
Public #鋼徹ワンドロワンライ
 

【村荒】真相は闇の中

第六回 鋼徹ワンドロワンライ「放課後」

放課後と散髪



 最近、放課後になると現れる、六頴館の制服を着た男子がちょっとした話題になっている。
 彼が現れると、女子がちょっと騒ぐ事に、三門市立第一の男子たちは面白くない。
「でもあれボーダー隊員だろ?」
「そうなの?」
 そんな面白くない三門市立第一の男子は、今日も正門前で誰かを待つイケメンを教室から睨んでいる。
「そう。ほらあれ」
……誰?」
「村上先輩」
 彼らは二年生なので、友人が先輩とつけるならそれは三年生という事になる。
 視線の先にはその先輩が走っているのが見えた。
「知ってんの? 有名人?」
「ボーダー隊員じゃん」
「えー、知らん」
 三門市立第一は、どのクラスにもボーダー隊員がいる。とりたてて話題にする状況でもないし、珍しいものでもないし、隊員たちが授業を公的に休めるのずるいなーくらいしか思わないのだが、それはそれとして、有事の際には助けてくれるかもしれない人でもある。
「マジで? 結構有名だと思うけどな」
「なんで有名なん? 強いとか?」
「ボーダー隊員ってわりとみんな有名じゃね?」
……あんま興味ねぇからなぁ」
 そうぼやいていると、件の村上先輩という人が例の六頴館男子のところまで駆け寄っていて、何だか嬉しそうにしている。
 隣の部屋から、キャーという甲高い声が聞こえた。
「なんなのあれ、アイドルみたいじゃん」
「知らんけどアイドルと同じかもな~」
 正門の前にいる彼らは、なんだか楽しそうにしていて、ふざけて肩を組んだりしている。そのたびにキャーという声が聞こえてきた。何がキャーなのか、正直ちょっとよくわからない。
「顔がよければいいのかよ~」
「顔がいいからいいんだろ」
「くそっ、真理か」
 正門の彼らはまだそこにいるが、そろそろ移動を開始するのか、ふざけあったまま、教室からは見えなくなったりする。
 とりあえず見ていて思うのは、何だかあざとくない? という事と、やたら距離近くない? という事だった。
 別に男子でふざけている時に距離が近くなる事はあるのだが、妙にもやもやする。何となく、それだけで片づけられる距離感でもないような気がするのだ。
「くそー、六頴館にこもってりゃいいのに」
「おまえ、自分の好きなコが隣の教室で夢中になってるからってそんな」
……脈ないかな?」
「知らんけど」
 そんなわけでとにかく気に食わないのである。
 とはいえ、わりと普通の高校生活を送っている身としては、喧嘩を売ることも出来ず、ただただ教室から睨みを利かすくらいしか出来ないのであった。



 そしてそれから一週間ほど経過した頃。
 再び例の六頴館男子が姿を現わした。しかもその日はもう下校しようとしていたタイミングで、物凄いタイミングでの遭遇だった。
「おわっ」
 思わず変な声が出た。
 たぶん不意に横を歩いているのが芸能人だった時の反応に近いと思う。経験した事ないけど。
 しかし仕方がないのだ。なにぶん、目の前にその六頴館男子が来たので。不意打ちは卑怯だぞと思ったけどそれはこっちの都合だ。
 とはいえ変な反応をしてしまったので、六頴館男子はあからさまにこちらを見た。が、特に何の反応もされずに通過した。
すると背中越しに聞こえてくる。
「よお、村上」
「もうちょっと手前で合流出来ると思ったんだけど、悪い」
 という会話がもろに聞こえてきた。
 しかもその二人の足音から、六頴館男子は今まで来た道をUターンしている。という事は、至近距離で声が聞こえる状態という事だ。
「補習どうなった」
「あぁ、なんとかクリアした」
「そうか、じゃあ今日は大丈夫か?」
「ああ、今日は約束通りやれるよ」
「久しぶりだからな、楽しみだ」
「俺、それを目標に頑張ったから……
「効果てきめんだな。おまえにしか効果ないけど」
「俺以外はダメだからな」
「わかってるよ。そもそもそれを人参に出来ないだろ」
 そんな会話が聞こえている前方を行く俺は、もしかして駅までずっとこの調子か? と気が付いた。
 それに何だか妙に甘ったるく聞こえたりするのは気のせいなんだろうか。一体何が効果てきめんなのか全然わからない。
 わからないのだが、何だかこう、特別感があって、これ聞いてていいのかなと不安すら覚える。
 ちらりと友人を見れば、友人はこの状況を楽しんでいる気配があり、にやにやとこちらを見ているので、ひとまずぶん殴った。ゴッというそこそこ鈍めの音が響いた。たぶん絶対、見られている。
「いってぇな!」
「おまえ楽しんでんだろ!」
 立ち止まって痛みをアピールする友人に従って、こちらも立ち止まる。すると、例の二人が横を抜けていった。
 その時、俺の視界には、例の六頴館男子が口パクで、「大丈夫か?」と聞いてきたのが見えた。その口パクは友人にも見えていて、反射的に二人して大きく頷いた。
 頷く二人を見届けて、六頴館男子はそのまま立ち止まらず歩いていく。
……
「かっこよくない?」
……なんかさぁ」
「何?」
「先輩の方に睨まれてた?」
「え? わからん」
「気のせいかな……
 そう言いつつ二人は同時に前を向いた。
 すると少し先、もうあとちょっとでその道を曲がるだろうというところで、先輩が六頴館男子の腕を引くのが見えた。
 腕というか、手を繋いで、というか。
……
「なんかさぁ」
「おう……
「もしかして、なんかそういう?」
「なんかそういうって何……
「えっと……仲良し、というかその上位互換っていうか……
 友人はもごもご言いよどんでいる。
 そして二人とも、その関係性について言葉にするのが憚られて、なんだか妙なテンションになった。
「そ、そもそもおまえのせいだろ」
「何が」
「なんかニヤニヤしてっから」
「だってなんか変な想像しそうだっただろ!」
「ってことはおまえもだろ!」
「だってなんか意味深に聞こえただろ!」
 タガがはずれて、ついうっかり大声でやいやいやっていると、周囲を歩く人々からはうるさい高校生がいるなと思われていそうな視線をもらったが、もはや気にしている余裕はなかった。
「隣のクラスの女子たちってわかってんのかな
「やめろやめろ~。それはなんか、関わったらいけないやつな気がするぞ」
「そもそも気のせいという可能性は」
「あるある。俺たちの勘違い」
「手繋いでたのも見間違い?」
「そうそう」
 人間、都合の悪いものに対しては意識的に記憶の改ざんが行われがちだ。
 とにかく、今感じた特別感とかそういう、普通の友人同士ではあり得ない距離感とか、そういうものは見ていなかった事にしたい。
 そして出来れば、自分が淡い想いを寄せる隣のクラスの女子は、こういうのを知らないでいてほしいのだが。
 真相は闇の中。
 わざわざ掘り起こす必要はないのだが、相変わらずキャーキャー聞こえる声に、何となく頭を抱えてしまう日々だった。




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ひむり
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