匣舟
2025-06-22 22:32:41
2256文字
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ふたりの秘密の園

薬草園の奥で逢瀬をする数と乱の話

ふたりの秘密の園


 タッタッタッと駆け足で薬草園に向かって走る人影がある。その人影とは、一年は組の保健委員会に所属する猪名寺乱太郎だ。周りをチラチラと見ながら薬草園の奥へ奥へと入っていく。薬草園の奥に入り込んだ乱太郎は、人の後ろ姿が見えた途端チラチラと周りを見渡すことをやめて笑顔で駆け寄っていく。
「せんぱいっ!」
 乱太郎に呼ばれて振り向いたのは、三年は組の乱太郎と同じく保健委員会に所属する三反田数馬だった。乱太郎の顔を見るやいなや花のように綻んだ顔を見せる。
「乱太郎、来たんだね。」
「はいっ、数馬先輩っ。」
 数馬先輩に早く会いたくて授業終わったらすぐきり丸にしんベヱにも何も言わずにに抜け出してきちゃいましたあ。と照れながら笑う乱太郎の事を微笑みながらかわいいなぁ。と見つめる数馬。
 乱太郎と数馬ふたりがいるのは、薬草園の奥にある、ふたりだけしか知らない秘密の園である。
 乱太郎と数馬がこうして秘密の園で逢瀬をするようになったのは、乱太郎と数馬が恋人になってすぐのことだった。
 付き合っていることは乱太郎も数馬も誰にも言っておらず、ふたりでどこかに出かけるのも学園内で会うのも一苦労なふたりが安心して逢瀬できる場所を考えた時に閃いたのが薬草園の奥の草むらだった。
 ふたりは保健委員会に所属していて、薬草園の維持管理をしているので忍術学園の誰よりも薬草園のことを熟知している。
だから、薬草園の奥にある薬草に囲まれた草むらなら誰にも見つからないだろうということで、いつもふたりで逢瀬を楽しんでいるというわけだ。
 乱太郎も数馬も保健委員なので、当番があるしなんせ乱太郎は彼がいるところにトラブルありという性質を持っているので、会える時間は限られている。だから、ふたりは忙しい時間の合間を縫ってこっそり逢瀬を楽しんでいた。
「今日もお疲れさま、乱太郎。」
「数馬先輩もお疲れさまでした。」
 今日は委員会がなかったが、薬草園の手入れに毎日出ている乱太郎に労いの言葉をかける数馬。
 乱太郎はご褒美というように数馬に抱き着くと、そのまま膝に乗ると甘えるように数馬の頬に自分の頬を寄せた。そんな乱太郎の甘えん坊な行動に、数馬はかわいいなぁと思いながら頭を撫でると、そのままぎゅっと抱きしめてあげるのだった。
「数馬先輩、今日はどんな一日でしたか?」
うーん、今日はね、いつも通り左門と三之助の方向音痴に作兵衛が怒ってて、藤内は予習の予習をするぞーっ!ってひとりで張り切ってたし、孫兵はジュンコとラブラブだったかなあ。」
「あははめちゃくちゃ想像できます。」
「ふふ、そうだろう?じゃあ乱太郎は?」
私ですかあ?私も普通でしたけどあ!でもテストの結果がいつもより良くて、土井先生に泣かれちゃいました。」
「それはいいことじゃないか。土井先生の胃薬の服用も減るといいなぁ。」
「ですねえ。」
 なんて、お互いの一日の出来事を話すのがふたりにとっての逢瀬の楽しみだった。数馬は乱太郎とこうして過ごす時間が好きだし、乱太郎もまた数馬とこうしている時間がとても好きだった。
「ねぇ、乱太郎。」
「なんですか?数馬先輩。」
「今日はなんだか、テストの点数がちょっと良かった乱太郎に甘えたい気分なんだけど。」
「ふふっ。いいですよ、数馬先輩。」
 乱太郎が断るわけもなく、数馬は嬉しそうに笑うと乱太郎の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。そして、甘えるようにすり寄るとそのまま首元に顔をうずめた。
「あーもう、乱太郎とずっとこうして居られたらいいのに。」
 数馬は抱きしめる腕にぎゅっと力を込めながら、そうつぶやいた。そんな数馬の言葉に対して乱太郎は抱きしめ返しながら優しく頭を撫でた。
 ふたりの間に沈黙が訪れると、そのまま暫くの間ずっと抱きしめあったまま時間を過ごすのだった。乱太郎が甘えるように数馬の頬に自分の頬を寄せたり、数馬が嬉しそうに頭を撫でたりと逢瀬の楽しみ方をそれぞれがしていた。そうしてしばらくしながら過ごすと、先に口を開いたのは乱太郎の方だった。
「わたしもね、ずっと、ずうっと数馬先輩と居られたらなって、そう思うんです。」
 でも、授業もあるし、委員会もあるし、当番の日だってあるから、こうした時でしか会えませんよね。と乱太郎が呟くと、そうだね。と数馬が続けて言った。
「でも、こうしてここで数馬先輩を私だけがひとりじめできるので、私はそれだけで幸せです。」
 乱太郎はそう言いながら数馬への思いを表現するかのようにさらにぎゅうっと抱きしめた。
 数馬は乱太郎の言葉に、僕も乱太郎のことをひとりじめできて本当に幸せだよ。と返すと、乱太郎の首元に顔をうずめながらぎゅっと抱きしめ返した。
「らんたろう、」
なんですか?」
「すきだよ、ほんとうにだいすき。」
んふふ、知ってます。私も数馬先輩のことすきで、だいすきです。」
ふふ、知ってる〜。」
 乱太郎の首元に顔をうずめたまま、数馬はそう呟くとそのままぎゅっと抱きしめ返した。
そんな数馬の行動に、乱太郎はくすぐったそうに笑いながら、そんな私だけが知ってる甘えん坊な数馬先輩もかわいいなあ。と心の中で思い、そして、そんな数馬のことが大好きであるし愛おしいと思うのだった。
 薬草園の奥にあるふたりだけしか知らない秘密の園では、今日も誰も知ることなく、乱太郎と数馬の愛が育まれている最中である。