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Ai
2025-06-22 04:15:39
8492文字
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パラライ
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ファンタジーパロの1部
パラライのファンタジーパロのリレー小説をKsyさんとしてて、そのパロの最初のストーリー。
壮大に始めてしまったので、完成までに何年かかるか分かりません。
頑張って完成したら、上手い具合に載せたい✨️
Ksyさんが小説を書くのが本当に上手すぎるので、見劣りしないように頑張らなくては…!と焦りながらバトンを握りしめて走ってます。
1、出会い
Ⅰ
満月が夜を彩るのは明日になるだろう。
ピンク色のローブを夜風にひるがえしながら、アンはきらびやかな街路を踏みしめていた。
ここ最近、訪れた街の夜は暗い闇に飲みこまれ、灯火が乏しいところばかりだった。だが、この街は別格だ。星を散らしたような光が暗闇を切り裂き、青白い明かりで街を照らしている。
光の正体は無数の青い玉だった。人魂のような見た目をしていて、まるで生き物みたいに街のなかを蛇行している。そのなかのいくつかが、アンの歩く速度にあわせ、離れないように寄りそってくる。
「へえ、この人魂みたいなの付いてくるんだ。こんな魔法、始めてみた」
アンは「ふふっ」と笑い声をもらし、ただよっている光の玉を指でかるく弾いた。光は一瞬、揺らいで闇に青白い光の線を刻んだ。
「可愛いね。けど⋯⋯なんか監視されてるみたいで、あんまり良い気はしないかな?」
アンはピンク色のローブのフードを深くかぶり、執拗につきまとう光の視線を遮断した。細い人差し指を紅の唇にかるくそわせ、静かにささやく。
「⋯⋯『Express Your Attitude』」
その瞬間、風がざわめいた。アンの薔薇色の長髪が女神の衣のように優雅にゆれて、彼の姿は一匹の猫へ変貌した。先程までローブに身を包んでいたアンの姿は夜の帳に消えさった。
目標を見失った青い光が左右にゆれ、その残像が夜の闇に青い光の弧を描いた。光の隊列がアンを捜して散り乱れていく。その一瞬の隙を、アンは待っていた。
子猫の姿をしたアンは青い光を横切って疾走した。あらゆる獣を凌駕する疾さで、建物と建物のすき間を突き進む。追跡者を振りきるために計算された経路を選んでいるようだった。
この街の抜け道も、構造もアンは知らない。だが地理も何も知れぬ街でも共通点があることは熟知している。
人気のない、街から切り取られたような場所。どこにでも存在する見捨てられた街の残骸。そこへ入りこめば、十中八九、監視の目をまぬがれる。それはどこの街を訪れても同じことだった。そして、きまってそういう場所は明かりが薄く、埃っぽい臭いがたちこめている。
裏路地のさらに奥までかけぬけて、ようやく青い光が見えなくなったとき、アンは前足を止めた。
「
……
やっぱ、よそ者を監視するためだったんだ」
静かにひとり言をつぶやいて、アンは埃にまみれた頭を左右に振った。
この世界は魔法であふれている。火を起こし、水を出し、多くの人間が魔法をもって生計を立てる。その数は多種をきわめ、すべてを把握するのは無理に等しい。
さきほどの青い玉ように人間を監視する魔法があることもアンは知らなかった。もともと、アンは変身魔法を得意として極めてきた。専門外の魔法を知らなくてもなんら不思議はない。
それにしても、なんの理由があって監視されていたのだろう。アンはきちんと役所の許可を得て、街へ入ったというのに随分な仕打ちではないか。これでは完全に不審者あつかいである。
「まさか、僕の目的を⋯⋯」
いや、それはさすがにないか。と、アンは首を振った。ついでに青い玉の気配がないことを確認して、魔法を解く。
淡いピンク色をまとう光の粒子がアンを宝石の輝きでキラキラと包みこみ、路地の一角をわずかに照らした。だがすぐに光は闇に飲まれ、しんとした夜があたりをうめつくす。
泥の臭いをのせた湿った風が吹きあれて、星屑を織りこんだピンク色のローブがひるがえった。
「やっぱり、この姿が一番
――
」
「変身魔法⋯⋯、初めて見た」
背後から足音とともに青年の声がした。振りむくと、大量のスコアを抱えている赤毛の青年が立っていた。
楽士
……
、なのかな?
アンの見立てはハッキリとしなかった。だって、おかしいのだ。楽士と呼ぶには変わった格好をしている。フードの付いた赤色の服のうえに水色の上着を羽織り、下は上着とセットなのだろう。同じ色あい、同じ炎の刺繍があしらわれている。
これまでアンは数多くの街や村を訪れてきたが、こんな服装の楽士とは初めて会う。そもそも、こんな服自体、初めて見た。ファッションに気遣っているアンでも、まだまだ知らないことがあるらしい
……
。
アンはたずねてみたくなった。この背年がいったい、何者なのか。はたして本当に楽士なのか。暴きたい。
「あのさ、君」
「あ、えっと誰⋯⋯? ここの人間じゃないよな」
青年の口調はお世辞にも大歓迎と言えるものではなかった。自ら声をかけておいて、油断せざる瞳でこちらを見定めている。
大量のスコアはきっと大切な宝物なのだろう。敵かどうか判別しながらも、青年は手放さまいと必死に抱えている。
武器をかまえない相手に、わざわざ警戒する必要はなかった。スコアが武器だという可能性も捨てきれないが、なんとなくそれはないような気がした。
アンはニコッとほほ笑むと、両手をあげて答えた。
「アン。僕はアン・フォークナー。旅人だよ。君は?」
「旅人
……
」
パチパチと青年がまばたきをして、警戒していた瞳をといた。
「俺はアレン。ラッパーをしてる」
初めて聞く響きだった。服装においてもだが、アレンと名乗るこの青年はどうやらアンの未知にあたるらしい。
「えっと、ラッパーって?」
「ああ、やっぱ知らないよな。けっこう古い音楽だし。ずっと昔の音楽でさ、HIPHOPっていうんだけど」
ヒップホップ
――
これも知らない響きだった。
「へー、古代の音楽か。すごいね。どんな音楽なの?」
「え⋯⋯あー、えっと。どこから話せばいいんだ? さっきも言ったけど、HIPHOPは昔に流行ってた
……
いや、まず音楽の歴史から話したほうがいいよな。古代の話になるんだけど」
晴れわたった空のように澄んだ瞳で、アレンが話しだした。
「あ、え
……
ちょっ」
だんだんと押しせまってくるアレンに、アンが一歩ひるんだ。そのときだった。背後から光をまとった高速の矢がアンのローブをかすめた。
「おい、殺すんじゃねーぞ! アイツは生け捕りにしなきゃならねぇんだ」
「ああ、そうだった。今日こそ、捕まえてやる。観念しやがれ、アレン」
放たれた矢と声の方向を振りむくと、路地の入口に恰幅のよい男がふたり、道をふさいで立っていた。ひとりはオノをひきずり、ひとりは弓を持っている。さっきの攻撃は彼が放ったものらしい。
「アン、ここは俺がどうにかする。だから
……
」
アレンが顔を強ばらせ、スコアを強く抱きなおした。
「僕に逃げろっていうの? へー、侵害だな。僕、こう見えて逃げ足は速いんだ」
「なら、なおさらだ。俺が時間を
――
」
「逃げるときは一緒だよ。なにより君のヒップホップの話、まだ聞いてないし」
大きく見ひらかれたアレンの瞳に、アンの美しい笑顔が鮮明に映った。その姿がアレンに覚悟を決めさせた。
ふたりは言葉なくうなずきあうと、後ろに続く長い一本道に目をむけた。アンがフードを深くかぶり、指でカウントをはかる。
3
……
2
……
1
――
ふたりは同時に駆けだした。
Ⅱ
この街の路地裏は格子状のつくりになっている。だが人が通ることは想定していないのか、いたるところの地盤が歪んでいた。当然、光はない。月明かりだけが頼りになる。
この道は普段、静まりかえっているが、今夜はひそまるどころか、騒々しさを絶していた。
アレンとアンが闇のなかを駆けぬけ、その数百メートル後ろで殺気にあふれた男たちが武器を振りまわしている。最初の追っ手は二人だけだったのに、逃げているうちに男の数が増えつつあった。
アレンのペースにあわせながら、その後ろを走っていたアンはふいに首だけ振りむかせた。
「ざっと見だけどっ
……
、十人以上はいるね」
「嘘っ、だろ
……
!」
息を切らして答えるアレンは限界寸前だった。それもそのはず、かれこれ十五分以上は全力疾走を続けている。これまでいろんな街を駆けまわってきた旅人のアンですら体力の限界が近かった。
ましてや、追っ手の数は数分ごとに増えている。どうしてアレンがここまで追われているかは知らないが、これ以上、逃げきるのは難しそうてある。
アンの見立てだと、おそらくアレンは戦えない。確証はないが、攻撃に転じようとする気配がまるで感じられないのだ。弱いというより人を傷つけられないお人好しなのではないかとアンは思う。
最悪の場合、アンが戦うしかない。正直、アン自身もアレンのことを言える立場ではない。得意魔法は変身だし、戦闘能力もそこそこである。ひとりであれば、持ち前の速さで彼らをまくことはできるだろうが、アレンも一緒となるとそれも難しかった。
ほんの数十分まえに会った青年。たった一夜の出会いかもしれない。それでも
――
。
「戦うしか
……
」
自分の声かと思った。だが、それはアンの口から発したものではなかった。前を走るアレンのひとり言だった。
アレンの腕に力がこもり、抱きしめていたスコアがグシャッと音を立てた。加速もままならない足を止め、アレンは男たちのほうを振りむいて仁王だった。
「アン、狙われてんのは俺だ! だから俺が
……
!」
「アレンっ
……
!」
アンの悲壮な叫びを、男の群衆が薄汚い嘲笑でかき消した。好機を待ちつづけていた男がアレンに突進をしようとその刃を振りあげた。そのときだった。
「戦う必要はないかと」
アンたちの背後から声がした。夜風に溶けこむようでいて、どこか鋭い刃の響きをおびている。
振りむいた勢いで、不安を覆い隠していたアンのフードが脱げた。そのさき、彼はひとりの青年を見た。月の逆光をあびて、暗闇に美しいシルエットが浮かびでている。はっきりとした表情は読みとれない。だが彼が不敵な笑みを浮かべていることだけは顔が見えなくても想像できた。
「夏準!」
スコアを力強く抱きしめなおし、アレンが叫んだ。
「
……
まったく。もう少し学びを持ってはどうですか、アレン」
「夏準、今はそれどころじゃ
――
!」
「分かっていますよ」
愉快そうに、焦りもないように、夏準と呼ばれた青年が気品たっぷりに人差し指をたてた。指先をそっと唇にそわせ、強者の余裕をこめてつぶやく。
「『자유롭게 날자』
……
」
その瞬間、風がざわめき、夏準の指先から星屑を散らしたような光がはじけた。この街で最も深い闇を、夏準の光が意図もたやすく押しかえしていく。あまりのまばゆさにアンはローブの袖で自身の瞳を守った。
強すぎる光が次第に薄れ、アンがそっと目を開けると、羽のような、花のような形をした美しい光の粒子が銀河の流星のようにまばたいて夏準のまわりをただよっていた。
そのあまりの美しさにアンは言葉を失ったが、驚くのはそれだけではなかった。頭上に大きな影が覆いかぶさり、さらに深い闇をアンの足元につくっていた。
「
……
これって」
見あげた先に、巨大な燕が翼を大きくひろげていた。体長8mはあるだろう。アンが知っている燕の二十倍
……
いや、そんなものではない。何十倍もの大きさがある。
「まさか、幻覚
……
?」
「召喚魔法です。彼はとても働き者でして、何かとボクを助けてくれるんですよ」
いつの間にか、夏準がアンの隣に立っていた。ふいに夜風が吹いて、夏準の髪がなびいた。月と同じ、金色の髪だった。
「さあ、アレン。行きますよ」
「おう!」
呼吸を整えたアレンの前に、燕がその大きな頭を垂らした。アレンはきつくスコアを抱きしめると、地面を蹴って燕の頭に飛び乗った。
オノをかまえていた男が怒鳴り声をあげたのはそれとほぼ同時だった。
「夏準、テメェいつも
――
!」
ギリッと奥歯を噛みしめて、男はあふれんばかりの殺気で夏準を睨みつけた。だがそれを夏準は恐れるそぶりもなく、むしろするどい眼光で見返す。
「やめてください。あなたのような無粋な人間に名前を呼ばれるのは大変心外ですので。『48』
――
そちらの通称名で」
「こいつ、馬鹿にしやがって! 今日こそ、テメェらまとめて殺すッ!」
夏準が言い終わらないうちに、男がオノを振りかざして突っ込んできた。
「来る
――
!」
アンは叫んだ。月光を引き裂くオノが数十メートルまで迫ったとき、アレンが思いきりアンの腕を引っ張った。
「アン! コイツに飛び乗れ!」
月明かりのなかで、くしゃくしゃになったスコアが舞い散った。アレンが大切に抱えていたスコアだった。アンの腕をつかむためにアレンが放り投げたのだ。アンには楽譜が読めない。ただ、それでも無数の音符が描かれた紙はとても美しく見えた。
「
……
スコアが!」
アンは手を伸ばした。拾わなければ。あの青年に、アレンに渡してあげなければ。これはきっと、彼の
――――
。
だが、アンの手は届かなかった。指先にもかすらなかった。ほかでもないアレンによって、その腕は強く引き止められていた。
「アレン!」
「いいから! 早く!」
「けど
……
!」
「アン!」
名前を呼ばれて顔をあげると、焦りに満ちたアレンの瞳に自分の姿だけがくっきりと映っていた。ただ真っ直ぐと。アンの姿だけが映っていた。
アレンの隣を見ると、いつの間にか飛び乗っていた夏準が身を乗りだすアレンを必死に支えていた。
「アン、早く!」
「
……
アレン!」
アンはアレンの手をつかんで、燕に飛び乗った。倒れこむアンをアレンが抱き支えると、すかさず夏準が燕に合図をおくった。その瞬間、燕は大きく羽をしならせて、地上の砂を吹きとばした。地面と羽のあいだで突風がまきおこり、オノを振りかざしていた男が悲鳴をあげてぶっ飛んだ。勢いで男の手から離れたオノがブーメランのように激しく回転して、男の群衆に襲いかかった。どよめきが悲鳴にかわり、男たちが間一髪のところで避けると、オノは地面に深く突き刺さった。
「テメェ、クソがっ!」
群衆から罵倒が飛びかったが、すでに頭上高く飛びたった三人には届かなかった。
Ⅲ
進行方向から吹きつける風になびく髪を押さえながら、アンは今日初めて出会った青年たちに笑顔をむけた。
「君たち何者? こんな召喚魔法、使えるなんて」
アンが居た街では自分の背丈と同じ大きさの生物を召喚するだけでも難しいと言われていた。それをこの夏準という青年はやってのけている。不思議でしかたなかった。
「すげーよな。夏準は召喚魔法のスペシャリストなんだ」
「なぜ、あなたが嬉しそうなんですか、アレン」
「えー、だって」
「まあいいです。それよりアレン。あなた、ボクになにか言うことはありませんか?」
やや呆れぎみに夏準が言うと、アレンはバツが悪そうな目を風の流れにあわせて泳がせた。
「あー
……
夏準、いつも助けてくれてありがとな」
「それだけ、ですか?」
「あー、えっと
……
ごめん。なにも言わずに散歩に出て」
「謝るくらいなら少し行動を改めて。ああ
……
、学習能力の低いアレンには少々、難しい話でしたか」
「うっ
……
返す言葉もねぇ」
随分と辛辣な言い方をする夏準に、アンが首をかしげた。
「いつも助けてるって?」
「ああ。アレンが狙われたのはこれで十九回目なんです。特に夜道は危険なので、勝手に出ないように言っているんですけどね。どうやら、ボクの言葉の意味が分からないようでして」
「だから、悪かったって! 反省してる」
「反省している人間は十九回も同じことはしないんですよ、アレン」
怒っているのか、じゃれているのか。いまいち見分けのつかない二人に苦笑いをうかべながら、アンは会話に割ってはいった。
「なんでアレンは狙われてるの? さっきのヤツら、アレンを狙ってたんだよね」
「ああ、えっとそれは
――
」
「それはあなたの素性を教えてもらったあとでお話します」
無理やりに夏準が割りこんだ。自分たちの情報を出す前に、アンがどういう人物か確かめたいのだろう。そんな知略が見てとれる。
「オッケー。僕はアン・フォークナー。通称名はanZ。僕的にはアンって呼んでくれたら嬉しいな」
この世界にはふたつの名前がある。通称名と呼ばれる表向きに使用する名前と本当の名前だ。アンを例にあげるなら『anZ』が通称名になる。
「それで? ボクが見るかぎり、あなたはこの街の人間ではないと思うのですが
……
」
「僕は旅人。ちゃんと検問を受けて入ってきたし、怪しいヤツじゃないよ」
「夏準。アンは俺を助けようとしてくれたんだ」
「それは察しついていますよ。ボクが聞きたいのはあなたの目的です。現在、この街は
とある騒動
・・・・・
により警戒が強まっています。そんなときにわざわざやってくる旅人だなんて、怪しすぎると思いまして」
ここにきて青い玉の謎が分かった。アンを執拗に監視していたあの魔法はおそらく、夏準のいうその騒動が原因なのだろう。そしてもうひとつ。それがアレンが狙われている理由なのだというのも、彼の言動から察しがつく。
すこし考えて、だがすぐにアンは腰にさしていた短剣を鞘ごとふたりの前に出した。
「ユッカの剣
――
。呪いを解くための剣なんだ。人を殺す能力はないけど、とある呪いを解くための剣。僕はこの剣の使い手を捜すために旅をしてる」
「とある呪い?」
アレンが首をかしげた。そのしぐさがやけに素直で、アンはふとほほ笑んだ。
「黒薔薇の呪印って知ってる?」
「いや、俺は
……
。夏準、知ってるか?」
「ええ、一応は。確か、古の魔法で人を操る禁術だと聞いたことがあります。魔法を受けた者は黒い薔薇の呪印が身体に刻まれ、その呪印は一生解けず永久に服従状態になるとか
……
」
ちらり、と夏準がアンを気遣わしげに見た。そんなことを他人に言っても大丈夫なのかと心配するような目付きだった。話すように強要しておいて、不思議な青年である。
「助けてもらった人間に隠し事をするつもりはないよ。僕はこの剣が使える人間を捜してるんだ」
「捜してるって。この世界で、そのたったひとりを
……
! そんな
――
」
「無謀だと、思う?」
はじめて、アンはするどい目をした。ななめから降りそそぐ月の光が端正な輪郭をはっきりと映し、アレンが息をのんだ。しばしの沈黙が空気を制し、アレンと夏準はアンの眼光から目をそらせなかった。
燕の羽ばたく音がして、ようやくアレンが正気づく。
「夏準
……
、あのさ」
「仕方ありませんね。ボクたちも手伝いしましょう」
「手伝うって
……
え、僕の人捜しを?」
驚きを隠せなかった。これまでそんな申し出をした者はいなかった。ただのひとりもいなかった。短剣を持つ手に無意識に力がこもった。長いまつ毛で何度も月の光を弾きながら、アンはたずねた。
「けど。僕は旅人だし、二人を雇うお金は
――
」
「ご心配なく。金品などにはいっさい、興味ありませんので」
「でもそれじゃ、君たちにはなんの得も」
「ありますよ。あなたの発言で、ひとつ可能性が浮上しましたから」
今度はべつの意味で驚きを隠せなかった。そんなアンと裏腹に、夏準は落ちつきはらった声で話しはじめた。
「魔犬殺し
――
。ここ最近、立て続けに起きている事件です。じつに奇妙でして、毎晩七時に魔犬が殺されているんです」
「まさか、
とある事件
・・・・・
って」
「ええ、そうです。そしてその魔犬殺しの犯人としてアレンが疑われているんです」
「アレンが犯人なんて、嘘でしょ?」
「ええ。冤罪ですよ。なぜなら彼は毎晩七時にボクと夕食を取る約束をしていますから」
それは確実な冤罪だ。だがなぜ、誰も気づかないのか。普通ならすぐに分かりそうなものだというのに
……
。
アンはハッとして、夏準を見つめた。まさか、黒薔薇の呪印が関係していると夏準は考えているのだろうか。
「夏準、まさか」
「それは分かりません。ですが、何か事件の解決に繋がりそうなら
――
その価値はあるかと」
夏準がにっこりとほほ笑んだ。その笑顔を見て、ふいにアレンがため息をついた。
「アンを助けるのに、そんな理屈こねなくてもいいだろ。なんというか、ホント夏準は素直じゃ
――
」
「なんですか、アレン」
「
……
あ、いえ。なんでもないです」
一言もとに夏準はアレンを制したが、つまりこの夏準という青年は理屈をこねることで、アンに手を貸そうとしているのだった。アレンという青年は見るからに人の良さそうな雰囲気をしているが、どうやら夏準という青年も同じようである。
「あ、そうだ! ヒップホップのこと教えてよ。さっき聞きそびれたから」
HIPHOPと聞いて、アレンの目が星空みたいに輝いた。この青年たちのことをもっと知りたい。こんなに強く思ったのは旅人となって初めてのことだった。
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