Momosei808
2025-06-22 00:08:55
3756文字
Public SD(リョ花)
 

変わるもの、変わらないもの

ワンライ:リョ花 × 数年後 × ポロシャツ

「おい、花道、見ろよコレ!!」

六月も終わりのこの時期、オフシーズンに数年振りに日本に帰国したリョータは叫んだ。
此処は、神奈川のリョータの地元、更に言えばリョータが家族と住んでいた団地にほど近いブティックの店先である。
リョータは、アメリカから花道と連れ立って帰国し、先ほど二人でリョータの実家である団地に顔を出したばかりだ。
そして、梅雨も終わりかけの湿度の高い地元を歩き回っている時に、目にした「それ」に、リョータは愕然とした。

「湘北の……、湘北の制服が変わってやがる………!!!」

リョータの呟いた言葉に、隣に居た花道も何事か、とブティックのショーウィンドウを見遣る。
「さっきから何騒いでんだよリョータ………、うぇっ!?」
そして、花道もまた、視界に飛び込んで来たものに驚愕の声を上げた。

そこには確かに、学ランから様変わりして、ブレザー形式のデザインになった湘北の男子生徒の制服と、
夏服としてのポロシャツが並んで飾られていた。
冬服と夏服のところに、ご丁寧に「湘北高等学校制服」と記載があるので、疑いようも無かった。


思わず二人は顔を寄せ合って、ショーウィンドウを覗き込んだ。
リョータは、呆然としたまま呟いた。
「俺たちの学ランが……消えた?」
「ホントだな……、つーか、何だか気取った感じに変わってねーか?」
「これ、ブレザーってやつだよな? 海南みてーな」
「あー……、帰国してからここら辺で、見たことねー制服のガキが大勢居やがるのはどうしてだ、って思ってたけど」
「あーー!! そういうことか!! あれ、制服変わった湘北生かよっ!?」

二人が数日前にアメリカから帰国してから近辺を歩いていると、どうにも見覚えの無い制服を着ている学生を多数見かけた。
女子も男子も、夏服として上にポロシャツらしきものを着ているのが、一定数以上居る。
紺色のポロシャツは、この季節には動きやすく快適に過ごせそうだと思っていたが。

まさかそれが全員、自分達と同じ湘北の生徒だとは。

「学ランじゃなくなったどころか、夏服がポロシャツかよ……???」
リョータと花道が湘北高校に在籍していた十年近く前は、男子の制服は学ランだった。
二人とも、一般生徒よりも丈を詰めた短ランという改造制服を身に纏っていた。
そのおかげで、二人はたびたび生活指導の教員に目をつけられた。
更にこの二人は、夏服も他の生徒よりも自由に着こなしていた。
花道は、Tシャツを中に着て、上に指定のシャツを、ボタンを留めずに羽織っていたし、
リョータに至っては、独自にポロシャツを着ていた。

「今、ポロシャツが夏服なのかよ……? 俺がたびたび教員に目ぇつけられてたのは何だったんだよ……

ぶつぶつと呟くリョータを尻目に、花道はブティックの扉を押した。
カランカラン、という呼び鈴が鳴るのも気にせず、ずかずかと店内に入って行く。
「あ! おいっ!? 花道ッ」
慌ててリョータも後を追う。
店内は、布や服の独特の匂いが漂っていた。
エアコンもついているようで、蒸し蒸しとした外よりはだいぶ過ごしやすい。
個人経営の、地元密着型のブティックらしい。
店内には、自分達以外に客は居らず、ところ狭しと、地元の年配の人間が着るような独特のフォルムの服がディスプレイされている。
(きっと、店ん中のオリジナルの服よりも、学校指定の制服の方が売れてんだろうな)
リョータがそんなことを思っていると、花道は件の湘北の新制服のゾーンに到着していた。
畳まれて並べられた中で、一番大きいサイズを手に取って広げ、目の前に掲げている。
興味深げにしげしげと眺めていた。
リョータも隣に並んで、自分に合ったサイズはどれかと見定め始めたところで、声をかけられた。

「いらっしゃいませ。湘北の制服をお探しでしょうか?」

振り向くと、いつの間にか店の奥から店員がやって来たらしい。
髭を生やし、髪を後ろに撫で付けた五十代くらいの男性だった。
にこにこと笑って二人に語り掛ける様子を見て、リョータと花道は恰好を崩した。

「あ、えと……、俺ら、制服探してる、っていうか」
リョータが遠慮がちに口を開くと、傍らの赤髪の大男が言ってきた。
「オレら、湘北のOBなんだけどよ、学校卒業してからこんな風に制服変わったなんて知らなくて、驚いた」
その言葉を聞いて、店員の男は訳知り顔で頷いた。
「なるほどなるほど、湘北の卒業生の方だったんですね。そうですねぇ、制服が変わったのは三年前ぐらいでして、最近こちらに顔を出していなかったら吃驚されたと思います」
店員の言葉を受けて、リョータも尋ねてみる。
「あの、俺ら学ラン世代なんですけど、ブレザーに変わって、反対、っていうか反発みたいのって、無かったんですか?」
「まあ、一部はあったかもしれませんが……、何より、校内で学生たちの署名で変わったみたいですよ」
「そう、なんスか」
「暫くは、制服が学ランスタイルとブレザースタイルで入り混じってて、校外から見ると少し混乱したみたいですね。女子はそれほど変わらなかったんですが、男子の変更がどうにもね、大きかったみたいで」
「夏服がポロシャツに変わったのも、生徒たちの案なんスか?」
「そうですね、何代か前の生徒会が働きかけたみたいですよ。ポロシャツだと通気性も良いし、いちいちアイロンとか当てなくて良いし、手入れも楽なのでね」
……今、男子も女子も、夏服はポロシャツなんスか?」
「完全にポロシャツになったワケじゃなくて、従来どおりのシャツも制服としてあって、半々ぐらいですね」
ふうん、とリョータが呟いたところで、花道が再び口を開いた。

「なあ、コレ、オレらも着て良いか?」

え、とリョータは虚を突かれた顔をした。

*******

あれから、なかなかに大変だった。
花道が湘北の新制服の紺色のポロシャツを着ても良いか、と尋ねて間もなく、店の奥からもう一人の店員の女性がやって来て。
その店員は、これまで二人の応対をしていた男性店員の妻だったワケなのだが、
『まぁまぁリョータくんっ!? 立派になってぇ~~~!!』
リョータの母のカオルと顔見知りだったらしい。
聞くと、リョータのあの高校時代の気合の入った短ランも、このブティックで特注したという。
『カオルちゃんとこの子だからねぇ、特別にね! 注文したわよ』
『はぁ………
リョータが圧倒されていると、今度は男性店員の方が目を剥いた。
『ちょっと待って……、リョータって……、もしかして、宮城リョータくん!?』
『え、ええ』
『うわーーーーー!?!?!? ということは、隣の君は、桜木花道くんっ!? 湘北バスケ部の、黄金世代の二人じゃないか!!! NBAに行った、日本バスケの期待の星!! スポーツ番組で君たちの特集、何度も観たよ!!』
こんな感じで、夫婦そろって大騒ぎし始めた。
最終的に、店員夫婦が良いカメラを持って来て、カメラでタイマーをセットして、リョータと花道と共に四人で写真を撮ったのである。

湘北の制服のポロシャツを身に着けた、リョータと花道と共に。




……何か、凄かったな」
ブティックを出て、海岸沿いの国道の歩道を歩きながら、リョータが呟いた。
あれよあれよと湘北のポロシャツを着せられたと思ったら、何故か店員と一緒に写真を撮ることになってしまった。
隣を行く花道が言う。
「でもよ、良かったじゃねーか」
「何が?」
聞き返すと、花道は偉そうな顔をしたまま言ってきた。

「正々堂々と、ポロシャツを制服として着れただろ?」

花道の言葉に、リョータは思わず目を丸くした。
湘南の潮風に吹かれながら、花道が続ける。
「オレよぉ、高校の頃、リョータのポロシャツ、かっけーな、って思ってた」
……マジ??」
何だそれは。初耳だ。
「周りにそうやって着てるヤツ、殆ど居なかっただろ。多分校則違反だったよな? そんでも着てたから、気合入ってんなぁ、って思ってた」
……はなみち」
「リョータのポロシャツ姿、久々に見てー、って思ってよ。さっき、店員にああいう風に頼んじまった」
そう言って花道は、ニッ、と笑った。

……そーかよ」
リョータは思わず俯いた。
いつもこうだ。
花道の言葉は、自然とこちらを支え、気分を上げてくれる。
何年経っても変わらない。
普段、遠い異国の地で、離れてプレーしていたとしても。

リョータは、花道にも分からないように、微かに口角を上げた。


「リョータの久々のポロシャツ姿、似合ってたぞ」
「そーかよ、どーも」
「まぁ、オレには負けるけどな」
「言ってろよ」


六月も終わりの時期の潮風を浴びながら、二人はどこまでも共に歩いていた。

《終》


*******

(余談)
二人が立ち寄ったブティックでは、『あの宮城リョータ選手&桜木花道選手ご来店!』というポップと共に、あの写真が掲示されたらしい。
その結果、湘北の夏服はポロシャツの占める比率が圧倒的になったということを、リョータは数か月後に母からの国際電話で聞くことになる。