匣舟
2025-06-21 22:27:12
3165文字
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愛を込めて、なんてね

リクエスト作品の兵乱。
からくりのことになると一生懸命になって一緒にいるのに乱そっちのけで一心不乱に紙にからくりのことを書いてる兵とそれを愛おしそうにみている乱の話。

愛を込めて、なんてね

 今日はおいしいうどん屋さんが近くの町にできたとしんベヱから聞いたのでそれを食べに兵太夫とふたりで町へ繰り出すはずだった。私服に着替えて、お金があるかちゃんと確認して、忘れ物がないか確認して無かったので兵太夫を迎えに行こうと自室を覗いたら、兵太夫と三治郎の自室に広がるのはからくりの設計図と、からくりの部品らしきものであろうものがそんじょそこらに散らばっている。
「兵ちゃん〜?」
 私、準備できたよ〜。と声をかけると兵太夫は驚いた顔をして、すぐ申し訳なさそうな声でこう言った。
ごめん、乱太郎。すぐ、終わるからちょっと、ちょっとだけ待っててくれる?」
 目の前で手を合わせながら懇願する兵太夫にこの感じはすぐ終わらないなあ。と察した乱太郎はうん、いいよ。と笑いながら承諾した。乱太郎は一度自室に戻って荷物を置いてくると、まだ一心不乱に設計図を書きながら机に向かっている兵太夫の後ろ姿が見えた。
(まだやってるなあ、兵ちゃん。これは一日こうだろうなあ。)
 乱太郎は微笑みながら静かに襖を閉める。こういったことは珍しくない。むしろない方が珍しいと言える。からくりのことになると周りが見えず、一生懸命になる兵太夫だから、今日も多分一睡もせず徹夜をしてからくりの設計書を書いていたのだろうと思う。
 だってまだ兵太夫は寝間着の姿で、太陽に照らされて目の下に隈が出来ている。多分この調子ならば朝ごはんも食べてないのだろう。兵太夫がからくりに夢中になっている姿を一刻眺めてから仕方ないなあ。と笑った乱太郎は食堂へ朝兼昼用のおにぎりを作りに行こうとそっと兵太夫の自室を後にした。
「おばちゃん、ご飯余ってる?」
 食堂に着いてすぐにおばちゃんにそう尋ねると、余ってるわよ。と答えが返ってきた。じゃあ、汚さないようにするから台所借りて大丈夫?と乱太郎が問いかけると、おばちゃんはいつものやつね。わかったわ。使ってちょうだい。と微笑んだ。
ちなみに今日はどこに行く予定だったの?」
「最近できたっていううどん屋さん。しんベヱが美味しいって言ってたから。」
 行きたかったんだけど、まあね。いつものやつが。と乱太郎が笑うと、こうなるの珍しくないものね。先週もだったかしら?とおばちゃんも一緒に笑った。いつもこうして兵太夫が乱太郎との約束をすっぽかしてからくりに夢中になるのは乱太郎のみならず、食堂のおばちゃんにも知れ渡っている。
 理由は単純明快で、いつもこうなったら乱太郎が朝兼昼用のおにぎりを兵太夫に握るからである。
 乱太郎は兵太夫のために何度もおにぎりを握ってきたから、最初は上手に三角に出来なかったおにぎりも握る度におばちゃんにアドバイスをもらって、それを実践してだいぶ様になってきている。
 おにぎりを握るのは乱太郎が保健委員会でやっている包帯を巻くときみたいなものだと、乱太郎は思う。キツく握ると口当たりが固くなるし、ゆるゆるだと食べた瞬間からおにぎりが崩れる。だから力加減をしなきゃいけない。保健委員会の歌を鼻歌で奏でながら、にぎにぎ、と乱太郎はおにぎりを少しづつ増やしていった。
「おばちゃん、いつもありがとうね。」
「それはこっちのセリフよ。いつも余ったお米使ってくれてありがとね。」
 おにぎり少しずつだけど、握るの上手くなってるわね。これも兵太夫くんへの愛のおかげかしらねぇ。さあ、兵太夫くんの所に行っておいで。と微笑むおばちゃんにもう、おばちゃん上手いこと言わないでよお〜。と少し照れながら、行ってきます!と手を振って乱太郎は食堂を後にした。
「兵ちゃん、入るよ。」
 乱太郎がおにぎりとおばちゃんの善意で持たせてもらった味噌汁と漬物とお茶を持って兵太夫の自室に入ると、やっと設計図を書き終わったのか、筆を置いてぐぐっと伸びをする兵太夫の姿があった。
「あ〜……終わった。」
 あ〜疲れたあ……。と肩を回しながらそう呟く兵太夫に乱太郎はおにぎりを差し出しながらお疲れ様。と微笑んだ。
……ありがと、乱太郎……。」
「ううん。いつものことだから。」
 気にしないでいいよ。と笑う乱太郎に、いつもごめんね。と謝る兵太夫。そんな兵太夫に、乱太郎は静かに笑みを浮かべてお茶をすすった。
「毎度のことだし、気にしてないよ。」
 こうならない事の方が珍しいでしょ?と微笑むと兵太夫は眉を下げながらまた謝罪の言葉を口にした。
「いつも本当にごめんね、乱太郎。ほんとありがと……。」
 ごめんね。ともう一度謝りながらおにぎりをひとくち頰張る兵太夫に、ほら、お腹すいてるんだから食べなよ。と微笑む乱太郎。
「いつもごめん。」
「ううん。大丈夫。兵ちゃんは、からくりのことになると周りが見えなくなるもんね。」
うん……。でも、今回は本当に乱太郎に申し訳ないって思ってて……。」
 今回は本当に反省しているらしく、何回も謝罪の言葉を口にする兵太夫に乱太郎は気にしてないよ。と言い続ける。
「だから、気にしてないよ?」
先週も行こうって言って行けてないじゃん?」
 そう。兵太夫の言う通り先週もうどん屋さんに行こうね。と言ってこうなって今週に先延ばしになって、そしてまた同じことを繰り返しているのである。乱太郎の顔色を伺う兵太夫に、乱太郎はふふ、と笑いながら口を開く。
……まあね?でもさ、兵ちゃん。」
 私はね、そんなからくりに夢中になる兵ちゃんが大好きなんだよ?だから気にしないで?と微笑む乱太郎に兵太夫はぱちぱちと目を丸くさせる。
「え、」
「だから私は兵ちゃんを怒るつもりなんてないよ。」
 私はね、からくりのことになると周りが見えなくなって、からくりのことになったら目を輝かせるところも、一生懸命に設計図をみたり、設計をしたりするところを見てるのがすごく幸せで、大好きなの。だからね、
そんなに謝らないで。ね?」
「乱太郎……。」
 兵太夫は、そんな乱太郎の愛の告白のような熱烈な言葉に少し照れたように笑った。
「うん……。乱太郎、おにぎりいつも握ってくれてありがとう。めちゃくちゃおいしい。」
……ふふ、どういたしまして。」
 そう言ってもらって何より。さ、冷たくならないうちにおにぎり食べちゃおう?と微笑む乱太郎に、そうだね。と兵太夫も微笑んだ。そして二人で他愛のない話をしながらおにぎりを頬張ったのだった。
 乱太郎の作ったおにぎりを食べて、食堂へと皿を返しに行くと兵太夫が廊下を歩きながらあ!と声を出した。それに少し驚きつつも、乱太郎はどうしたの?と返す。驚いた顔をした乱太郎を見て、おっきな声だしちゃってごめんね、忘れてたことがあったんだよ。と兵太夫は頬をかいた。
「あのね、三ちゃんからうどん屋さんの帰りに美味しい団子屋さんがあるよって聞いてたの忘れてたの。」
 多分、学園から歩いてもそんなにかからないから、うどん屋さんの代わりと言ってなんだけど、行かない?と照れながら乱太郎に手を差し伸べる兵太夫に、乱太郎は微笑みながらもちろん!と返した。
先週と今日のお詫びとして乱太郎はお金持たなくていいからね!」
 僕が払うから!と胸を張って手を置く兵太夫にわぁ!兵ちゃん太っ腹だね〜!と言いながら兵太夫と乱太郎は手を繋いで、兵太夫の自室へと戻る。
「あ、乱太郎。」
「ん?なあに兵ちゃん。」
……いつも本当にごめんね。ありがとう。」
 また謝る兵太夫にもう、謝らなくていいよ!と肩を叩いて笑った。
「ふふ、どういたしまして!」
 そして二人はまた手を繋いで歩き出す。今度は、今度こそは絶対にうどん屋さんに行こうね!なんて言って笑いながら。