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者
2025-04-02 17:41:38
3964文字
Public
紫白:短編
面影を歌う(紫白)
何でもOKな方向けというか私向け。
捏造と妄想と思い込みと夢しかないです。
ルートとかはあんまり考えてないけど多分🟥真…だって一番らんらんだから…。
時代考証はしてなくて、街の様子とかはゲーム準拠、いろんな事がぜんぶ捏造です。
誤字脱字とか変なところはこれから直します(たぶん)
面影を歌う
ことの始まりは、当たり障りのない小物の位置だった。元化は全く気づかなかったようだが、紫鸞は気づいた。何者かが留守中に宿へ忍び込んだらしい。その事実に、紫鸞は注意深く部屋の中を見まわした。他に違和感は無かった。減った物も、増えた物も、移動した物も無かった。ただ、乱雑な机の上に放られた小物だけが、ほんの少しだけ動かされていた。
その次は、武器だった。壁に立てかけられていた長物が、自然に倒れたのであろう位置に転がっていた。やはりその他には何も起きていなかった。弟子をとると同時に紫鸞と部屋を分けた元化にも、彼らの部屋の様子をそれとなく聞いてみたが、特に変わったことは無かったらしい。ならばと紫鸞は、机の上に小石を置いておいた。
机の上の小石は、それからすぐに消えた。おそらく、忍び込んでいるのは白鸞だろう。本来であれば何の痕跡も残さずに好き勝手できる技量を持つくせに、なぜだか紫鸞に知らせてくれたのだと思った。物盗りであれば金目のものが無くなっているはずだし、間者であれば紫鸞は気づく。おそらく白鸞は、いずれ何らかの目的を持ってこの宿に潜り込むのだろう。見られたくないものは隠しておけと、どういった風の吹き回しなのか、教えてくれているのだった。白鸞にならば、見られて困る物も、持って行かれて困る物も無い。武具の類だけは、手を離れるのは少し困るが、無ければ無いで何とかできるはずだ。白鸞も、無闇に何かを壊す質ではないから、紫鸞は好きにさせることにした。
程なくして、部屋の中のものは一切動かなくなった。おそらくだが、白鸞が役目なりなんなりを始めたのだと思う。彼が今、誰かの下に居るのか、それとも上に居るのかは、紫鸞にはわからない。いつ白鸞が部屋にやってきているのか、やってきていないのか、紫鸞にはわからなかった。だから気まぐれに、机の上に花を置いておいた。歩いている時にふと目に留まって手を伸ばすような、手折って持ち帰っても誰からも何も言われないような花だ。花はたまに無くなっていたから、白鸞は紫鸞を正しく理解して持って帰ったのだと思った。
そんな事が何度か続くと、今度は白鸞が物を置いていく事があった。そんなに頻繁にこの部屋を訪れて何をしているのかとも思ったが、紫鸞が置いておいた花が押し花になっていたり、なんらかの丸薬が置かれていたりした。丸薬の近くには、いつも何種類かの草花が置いてあったので、紫鸞はそれを元化に見せた。元化は薬草の名前や効能など小難しいことを語り、弟子がそれを一生懸命に書き留めるのを見届けて、最後にはいつも紫鸞に「疲れが取れるものです」「二日酔いに効くかも」「うーん、何でしょう
…
滋養強壮かな?」などとわかりやすく教えてくれた。紫鸞はなるほど、と言いながら、元化にいつ飲んでもよいと言われたものはその場で口に入れた。
白鸞の置いていくものは、だいたいすぐに消えていった。押し花は数日間は眺められたが、それでも机の上に置いておけば、かさかさに乾いてほろほろと崩れた。丸薬はすぐに飲んでしまうし、添えられた草花は元化が使った。それでよかった。紫鸞が置いておいた花も、全てが押し花になって返ってきたわけではない。きっとすぐにしなしなになってしまったり、あるいは食べられる草だったりしたのだろう。それでいいのだ。贈りあったのは、物ではないのだから。
ある時、風の強い夜があった。白鸞は目的を果たしたのか、もう宿には来なくなっていた。最後の訪問があったと思われる日、机の上には、どこかから引っ張り出したのであろう元化の書いた観察日記という書簡と、よく眠れるらしい丸薬が置かれていた。紫鸞は当然のようにそれを口に入れたし、その夜はなんだかいつもより上手に眠れたと思う。そんな事を思い出しながら紫鸞が椅子に座ってうつらうつらとしていると、ふわりと空気が動いた。紫鸞がぱっと目を覚まして顔を上げると、戸口に白鸞が立っていた。
「眠るなら横になれ」
いつものように白鸞は、挨拶もなしに言う。まるでもうずっとそこに居たように振る舞うから、紫鸞もそれに倣ってそうだなと寝台に上がった。紫鸞が寝台に入るのを見届けた白鸞は、今度は腕を組んで紫鸞を見下ろした。それを見て、並んで横になるのか、珍しいこともある物だ、と思い、紫鸞は隅へ寄った。しかし白鸞は、寝台の端に腰を下ろしただけだった。
「元化の書簡に、あまり眠れていないようだと書かれていたが」
ややあって、白鸞の声がふわりと降ってきた。そういえば、そんな事を書かれたような気もする。紫鸞は少し考えて、そうかもしれないが、特に困ってはいないと告げた。昼間にうとうとして叱責される立場でもなく、身体を動かしている間は眠気は感じない。全く眠れないならば問題だろうが、そういうわけでもない。眠りは浅いが、ぐっすり眠れる夜もある。そんなことをつらつらと話していると、白鸞はぽんぽんと紫鸞の胸のあたりをたたいた。目を閉じろと言われ、おとなしく瞼を下ろす。途端に、風が草木を揺らす音が耳に入ってきた。ざわりざわりと、指先が少し冷える。
「全く、手のかかるやつだ」
白鸞はそう言うと、静かに静かに歌い始めた。紫鸞もよく知る、里の子守唄だった。それを聞くのは、いつぶりだろう。思い出そうとして、自分の知っている歌と少し違うことに気づいた。紫鸞がそっと目を開けると、白鸞は窓の外を眺めながら歌っていた。けれど紫鸞の視線に気づいたのか、そっと振り向いた。
「どうした」
その声は、とても柔らかかった。それはそうだ。子供を寝かしつける時、そこには緊張を生んでいけないのだから。紫鸞はゆっくりと目を閉じた。自分の知っている歌と少し違うようだ、と囁くように告げると、白鸞が小さく息を飲んだのが聞こえた。そうして気づく。あの里で、自分に子守唄を歌ってくれるような者は朱和しかいなかった。里の最強を誇る朱和は、けれどあまり歌が得意ではなかった。だからきっと、白鸞の歌うそれが本来のもので、紫鸞の聞き慣れた歌は朱和のものだった。朱和だけの、ものだった。口を開く前に思い至れば良かったと少しだけ後悔しながら、それでも紫鸞は、思い出せた事が少しうれしかった。
そんな事を考えている間、風の音ばかりが聞こえていた。もう歌ってはもらえないかもしれない。そう紫鸞が諦めかけた時、白鸞は再び歌い始めた。それは紫鸞のよく知る歌で、つまり、少し調子のずれた、朱和の子守唄だった。白鸞も知っていたのか、とつい目を開くと、白鸞はすぐに振り返り、紫鸞を睨んだ。手負いの獣は、向けられる視線に敏感だ。紫鸞は慌てて目を閉じた。目を閉じて、部屋を満たす子守唄に身を委ねた。
何故白鸞が今ここにいるのか、この部屋でしばらく何をしていたのか。今どこでどのように暮らし、誰とどのような関係なのか。紫鸞の知らないことは山ほどある。けれど、今はそれでよかった。言葉で説明できる事柄は、言葉の使い方でどうとでも姿を変えてしまう。白鸞はそれが上手くて、紫鸞は下手だった。だから紫鸞は、ただ白鸞の歌を聞いていたかった。
「紫鸞どの!大丈夫ですか!紫鸞どの‼︎」
翌朝は、元化に激しく揺さぶられるという目覚めだった。そんなに深く眠ってしまうなんて、さすが白鸞の子守唄は効果があるなあなどと呑気な事を思いながら起き上がり、気持ちよく伸びをすると、元化は大きく息をついた。
「よかった
…
もう目が覚めないかと思いましたよ」
どうしたのだと首を傾げると、視界の端で、元化の弟子が何やら布を振り回している。戸も窓も開け放されていて、机の上に香炉があった。
「何の香を焚いたんですか?
…
というか、香ですか?強い作用があるみたいですけど」
そう言われ、紫鸞は目を瞬かせた。弟子が布を振り回しているのは、どうやら換気を急いでいたらしい。強い作用のある香とやらに覚えは無いが、心当たりはあった。白鸞が来ていた、と告げると、元化は眉を顰めた。
「白鸞どのの調合であれば、あなたが死ぬことは無いのでしょうけど
…
。なかなか起きてこないから部屋にきてみれば、俺たちが部屋に入っても何をしてもうんともすんとも言わないんですもん。肝が冷えました」
それはすまなかった、と、随分すっきりとした頭で謝り、紫鸞は好奇心から香炉の蓋を開けた。そこには、前の日に元化が焚いた香の灰しか残っていない。元化も横からそれを覗き込んで、しきりに首を傾げていた。慌ただしい部屋の中で、朝の空気は穏やかにその場を満たしていく。紫鸞は香炉の蓋を閉めて、部屋を照らす光を見回した。机の上に、いつだったか白鸞が持っていった小石が置かれている。その上に、少しだけ灰のようなものが付着していた。元化は全く気づかなかったようだが、紫鸞は気づいた。白鸞はその小石の上で香なり薬草なりを燃やしたのだ。元化の弟子が布を振り回して換気をしている間に、きっと燃えかすの大部分は吹き飛んでしまったのだろう。紫鸞が試すように置いた小石は、結局紫鸞の手の中に戻ってきた。少し、特別な存在になって。
昨夜は、風の強い夜だった。白鸞の子守唄は、この部屋の外には出ていかなかったはずだ。ざわざわと揺らされる木々も、その根本に縋る草花も、眠れぬ夜を過ごしたに違いない。きっと、白鸞も。朱和の子守唄を知る者は、もしかしたらもう、白鸞と自分しかいないのかもしれなかった。それでもまだ、あの歌はこの世からは消えていない。
紫鸞は、小石を少しつついてみた。わずかに残った名残は、灰というよりは焼け跡のようで、きっともうしばらく、そこに留まってくれるだろうと思った。
〜おわり〜
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