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者
2025-03-27 10:50:05
4361文字
Public
紫白:七つの夜を渡る
七夜#2 一つの朝を分かつ(紫白)
七つの夜を渡る(
https://privatter.me/page/685610541987e
)の続きというか後日談というかの短いおはなしです。
何でもOKな方向けというか私向け。
捏造と妄想と思い込みと夢しかないです。
🟥真ルート後くらい。
時代考証はしてなくて、街の様子とかはゲーム準拠、いろんな事がぜんぶ捏造です。
誤字脱字とか変なところはこれから直します(たぶん)
一つの朝を分かつ
白鸞に会いに行ってみよう。紫鸞はふと、そう思った。
思い立ってしまえば自由の身は軽く、けれど形だけはきちんと、城に登っている面々に挨拶をしてから自室を出た。なんだかんだと面倒見の良い黄蓋は紹介状を認めてくれて、紫鸞はそれを持って馬を走らせた。紫鸞の馬は、大変な名馬とまではいかないが丈夫で強い。幾度も戦場を共にした半身だ。適切に休みと食事をとらせ、無理をさせなければ、あっという間に距離を駆け、白鸞が居を構えているかもしれない、と風の噂に聞いた集落へ到着した。突然現れた紫鸞を人々は少し訝しんだが、黄蓋からの紹介状を見せ、それからたまたま、以前紫鸞の下で勤めていた者がその村にあり、紫鸞はどうにか歓迎された。白鸞の行方を尋ねれば、しばらく不在にしているという。
「あちこち出かけておられますんで」
一室を貸し茶を淹れてくれた者がそう言うので、自分も似たようなものだしな、と紫鸞は思った。その割に、白鸞は用向きがある時は確実に紫鸞を訪れる。紫鸞はなんとなく、自分の力不足を感じた。思い立って来てはみたが、一度帰るか、それとも数日ならば待たせてもらえるだろうかと考えていると、先ほども助けてくれた顔見知りが、焦ったように部屋に入ってきた。
「今し方、報せが入ったようです」
気まずそうにしているので先を促せば、どうやら白鸞は、道すがら立ち寄った村落に病人がおり、少し様子を見ているのでいつもより戻りが遅れるだろうとの事だった。そんな風にまめに連絡を入れるのか、と少し羨ましくなるが、思い返してみれば、里の者はいつだって綿密に連絡を取り合っていた。なるほど、長らく何の報せも寄越さなかった自分を死んだと思っていたのも無理はないだろうと、紫鸞は今更ながらに思った。
「隊長殿は、医者のご友人がいらっしゃいませんでしたか?」
そう声をかけられてしまえば、逡巡は消えた。丁寧に礼を言って村を発ち、馬を走らせて、元化の居る宿へ戻った。
「わかりました。行きましょう」
少し長めに留守にすると言って出て行った紫鸞がも二日もせず戻ってきたので、元化とその弟子は少し驚いて見せ、けれど事情を聞けば、元化は手早く旅支度を済ませた。二人は馬を持たないので、紫鸞はまず元化だけを伴った。元化の小さな悲鳴を聞こえないことにして、戦場で仲間の救援に向かうかのように馬を走らせた。白鸞が留まるほどの病人となれば、おそらく先は長くない。白鸞は医者ではないから、治すためというよりは、死後の諸々の手伝いをしようと思ったのだろう。ああ見えて、細々と気の利く男なのだ。そして紫鸞と同じで、目の前にある悲しみを素通りできない性質を持っている。
慣れない早馬で元化をへとへとにしながらも、その甲斐あって、翌日夕方には白鸞のいるであろう辺りに到着した。ぽつりぽつりと民家のある小さな集落で、手入れされた畑には、いずれ実をつけるだろう野菜達が葉を広げていた。もうすぐ赤くなる夕日が、それでもまだ、空を青く保っている。馬から降り人を探して歩いていると、遠くから赤ん坊の鳴き声が聞こえた。声からして、生まれて数日ほどだろう。紫鸞と元化は顔を見合わせ、その声のする方へと向かった。
果たして、白鸞は居た。一つの小さな家の前で赤ん坊を抱いて、体を揺らしてあやしながら、何かを話かけている。近づいていく紫鸞と元化に気づくと、一瞬だけ驚いて、またすぐにいつもの様子に戻った。きっとこの家に病人がいるのだ、と元化が慌てて家に入ろうとするのを、白鸞は止めた。
「死んだ」
「え?」
「お前にできることはもう無い」
「
……
」
「
…
産後の肥立が悪く、先ほど息を引き取った」
白鸞は医者ではないが、人が確実に死を迎えたかどうかを判ずることはできる。人を殺す術を知っているから、苦しみを与えない術も知っている。元化は医者なので、人を救うことができるかどうかを判ずることができる。人を生かす術を知っているから、すでに消えた命に対しては何もできないことも知っていた。白鸞の言葉に一つ息を飲んだあと、元化は小さく息を吐いて、それから大きく吸って、家の中へ入って行った。もう白鸞は、止めることはしなかった。通りすがりの医者です、と名乗る声が小さく聞こえてきて、紫鸞は目を伏せた。しばらくすると、赤ん坊の父親が家から出てきて、小さくて柔らかい体の、けれど強い声で泣く赤ん坊を引き取っていった。白鸞の腕の中でついぞ泣き止むことのなかった赤ん坊は、それでも懸命に生きていて、いつのまにやら粗相をしたようだった。赤ん坊を抱いていたあたりがしっとりとしているのに気づいて、白鸞は少し笑った。そのままどこかへ行ったかと思うと着替えとたらいを抱えて戻ってきて、井戸を借りて洗濯を始める。紫鸞はその様子を、なんとなく見ていた。
「
…
朱和が、子を持てない身だったのは知っているか?」
ぽつりとこぼされた言葉を、紫鸞はなんとか落とさずに拾った。拾ったは良いが何も言えずに目を丸くしていると、白鸞は呆れるでもなく、洗い物の手も止めない。
「里の最強になるとはそういう事だ。そんな折にお前を拾ってきたものだから、思うところのある者もあっただろう。私も、お前のことは朱和の子のように思っていた」
そうだったのか、と、今更ながらに里で向けられていた視線に少し納得がいった。けれど、どのように返事をすれば良いのかわからなくて、紫鸞は黙っている。遠くで、赤ん坊がまた泣き出した。
「悲しみの中にあって、けれど赤子があれば、立ち止まることは許されない」
聞こえてくる泣き声は、少しずつ、けれど確実に激しくなっていく。白鸞は洗ったものを絞って、近くの木の枝に干した。
「子に勝る宝なしとは、よく言ったものだ」
そう言って、赤ん坊の泣く家を見やる横顔は、あの日、山の上から人々の営みを眺めていたものと同じだった。きっとその心の先に紫鸞は含まれていて、けれどもしかしたら、白鸞自身は含まれていないのかもしれない。紫鸞はそう思って、少し焦った。白鸞の肩に伸びそうになる手をなんとかおさえて、白鸞も里長にとっての宝だったんだな、と言えば、紫鸞の期待に反して、きらめいていた目が伏せられる。
「
…
さてな」
世界を映すのを一瞬だけ休んだ瞳は、すぐにまた前を見る。元化を手伝いに行くぞ、と白鸞の足が一歩を踏み出す前に、紫鸞は辛うじてその腕を掴んだ。その勢いのまま、自分は白鸞のことを宝物だと思っている、と伝えると、白鸞はわかりやすく眉を顰めた。お前のような父を持った覚えはないとすげなく言われ、親子でなければ宝にしてはいけないのかと言い縋る。紫鸞の手を振り払おうとしていた腕は一瞬動きを止め、白鸞は信じられないものでも見るように紫鸞を見た。そこにあるのは怒りでも嫌悪でもなかったから、紫鸞はそっと、白鸞の腕を離した。すぐに去ってしまうのだろうと覚悟していたが、白鸞はそこに留まった。じっと紫鸞と目を合わせて、少しずつ少しずつ、本当にゆっくりと、くしゃくしゃになっていた眉間が緩んでいった。ぽかんと開いていた口は静かに閉じて、瞬きを忘れていた瞳が息を吹き返す。その様子を、一部始終を、紫鸞もじっと見ていた。
「ふ」
小さく、短く、ささやかに、白鸞は笑った。それはあの日、違う道を帰れと言った時の、困ったような笑顔ではなかった。それよりもっともっと昔、朱和がこぼしたくだらない駄洒落で笑いを堪えられなくなった白鸞が、幼いながらに平静を保とうと努力して、そしてその努力が実らなかった時に、朱和が見せたものによく似ていた。ようやく、少しだけでも心が伝わったのだと思った紫鸞は、自分の頬が緩んでいくのを感じた。けれどやはりそれを見るなり、白鸞はいつもの仏頂面になって、家の方へ歩き出した。その背を、紫鸞は追うことはしなかった。
翌日、元化の弟子が到着した。全てが終わっていることを知ると若干狼狽えたが、ついでだからと元化と家々を巡り、怪我人や病人があれば診て回った。白鸞は、時々頼まれては子守りをしていた。今や赤ん坊は、白鸞に抱かれればぴたりと泣くのを止める。赤ん坊は、抱いている者が気を張っているとそれを感じ取って泣き出すのだと、いつだったか、どこだったかで、紫鸞が近所の赤ん坊の子守りを任された時に教えられたことを思い出す。思い出し、少し胸の辺りがあたたかくなるのを感じた。
「私はそろそろ戻る。
…
が、何か用があったのではないか?」
その夜、白鸞はすでに身支度を整えて馬を引きながら紫鸞に声をかけた。唐突だったので紫鸞は一瞬言葉に詰まり、夜は危険だから朝まで待てと返したが、白鸞は取り合わなかった。それはそうだろう。紫鸞とて、必要であれば夜に旅をするし、その方法だって里で習ったものだ。白鸞は、もう一度用向きを尋ねた。立ち去ってしまう前に答えねばと、紫鸞は口を開きかけて、止まった。そういえば、特に用事は無いのだ。ただなんとなく、会いに行ったら会えるかな、程度の動機だったのだから。言い淀む紫鸞を見る白鸞の目は、少しずつ疑わしげになっていく。紫鸞は慌てて、ただ会いたかっただけだと正直に告げた。その時の白鸞がもし赤ん坊を抱いていたら、赤ん坊は間違いなく大声で泣き出しただろう。白鸞はそういう顔をした。
———
白鸞は、自分の宝物だから。
紫鸞がそう言うと、白鸞はじっと紫鸞を見て、そうか、とだけ言い、馬に乗って背を向けた。その姿は、夜の中に早々に溶けて行った。別れは、可能な限り陽の下が良いと紫鸞は思う。小さくなっていく背を、ずっと見ていられるから。その背が振り返るかもしれないと、長く待っていられるから。今日、白鸞が夜に発つ理由は、きっとそういうことなのだと思った。もしかしたら、少しは名残惜しさを感じてくれているのかもしれない。だからこそ夜にしたのだ。お互いが速やかに、夜明けとともに、それぞれの日々へと戻れるように。
次に白鸞に会いに行くときは、朝に着くようにしよう。紫鸞はふと、そう思った。それから、もう見えない白鸞の背をもう一度探した。白鸞は、振り返りはしないだろう。それでよかった。白鸞は、自分がこうしてずっと見送っていることを、きっと知っている。
〜おわり〜
わか・つ【分(か)つ/▽別つ】
1. 一つのものを離して二つ以上にする。別々にする。分ける。
5. 同じ感情をお互いに持ち合う。
引用元:Weblio辞書 デジタル大辞泉
ttps://www.weblio.jp/content/%E5%88%86%E3%81%8B%E3%81%A4?dictCode=SGKDJ
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