かん
2025-06-20 22:31:28
8734文字
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たとえあなたが、マドンナでなくても

森田ひかるさん



最初はただの雨宿りだった


たまたまそのお店が目の前にあったから

傘持ってなかったから

どこでもよかったから



入ったら、見たことある人がいて

でも喋ったことはない彼

気づかれてないと思ってた



気づいてほしくなかった




気がついたら雨が強くなって


彼にケーキをサービスしてもらって

話聞いてもらって





なぜか全部バレてて




気がついたら、心の声が漏れてて



涙が止まらなかった




でもあの時食べたケーキ


ただ美味しいんじゃない

いろんな気持ちが溢れてるケーキ


あの味は忘れられない



想えば、あの時にはもう














「わたあめいかがですかー?」




「二組でカジノやりませんか!?」





学園祭初日、多くの人でごった返す廊下。

保護者はもちろん、他校の生徒や小学生に卒業生までいろんな人が来てるみたい。



「お待たせしました、どうぞ」


「紅茶2つと


自分のクラスは、コスプレ喫茶。

コスプレしたクラスメイトが、パンケーキやら飲み物を持ってくる。


裏では必死に調理する。



客足は好調


いや待ってる人がいるくらい大人気。


昼過ぎになっても全然衰えない。

他とは明らかに違う。




まぁ当然か





ひかる:ありがとうございます!






「すいません」


ひかる:はい!


「これって








"お疲れ様会しませんか?"






昨日森田さんに何言った?






クラスのマドンナに、何お願いした?




〇〇:あ゛ぁ




体の奥底から声が漏れる。




自分ごときが何言った?

お疲れ様会?2人で?バイト先で?



自惚れすぎてる。


勢いであんなこと言うもんじゃない。


何を調子に乗ってるんだ

もっと謙虚にならないと




「プリン2つでーす」


「はーい」


「金券お願い」


〇〇:どうも


自分はお金の管理をするので、基本裏側で待機。


誰も見てないし基本自由だからすごく楽。


休憩はないけど。



「すみません」


ひかる:はい!


「チェキ、お願いしても


ひかる:もちろんです!何枚撮られますか?


「じゃあ.二枚」


ひかる:かしこまりました!こちらへ!




笑顔100%、テンションMAX。

誰よりも神経すり減らして頑張ってる。





ひかる:こちらで、いかがですか


大丈夫です」


ひかる:はい!ではこちら、どうぞ


「あありがとうございます」


ひかる:ありがとうございました!



「すみません、チェキ撮れるお店って


ひかる:こちらです!並んでお待ち下さい!







「ごめーん一気にどさっとなるけど


〇〇:


「おーい、大丈夫?」


〇〇:ありがとうございます!


「うるさ


〇〇:あすいません


「敬語やめて、同級生」


〇〇:ごめん


「何見てんの?」


〇〇:えいや


「ひかる?呼ぼうか?」


〇〇:大丈夫


「そ、ならいいけど」


〇〇:が、頑張らないと


「やる気あるね、なんかあったの?」


〇〇:いやみんな頑張ってるからそれに感化されたみたいな


「確かに、真剣だ」


〇〇:ちゃんと目標が


「ね、一位取れたらいいね」







〇〇:ですね


「じゃ、よろしく」





本当に一位を取れて、取れたとして



自分は喜ぶんだろうか。

喜ぶべきなのか?



森田さんは、喜ぶんだろうか。










**********************








「とりあえず初日、お疲れ様でしたー!」



「お疲れ様でしたー!」



初日が終了、クラスはおそらく全体2位


生物部の金魚掬いの次だと思う。


十分、いやかなり健闘してる方だ。




さすが





「ある程度片付けしたら自由解散で!」






疲労感が一気に来た。


ノンストップでは流石にしんどい。


幸い今日はバイトもない。


早く来て帰ってゆっくりし






チョンチョン






〇〇:ん?





ひかる:がおー




〇〇:





ひかる:が、がおー












ひかる:無視するなー!



〇〇:はっ!?



目の前に現れる、アニメから出てきたみたいなマドンナさん。


ひかる:せっかくやったのに、無視!?


〇〇:ごめん……かわっ


ひかる:ん?





〇〇:変わってるなぁって


危なかった


ひかる:ちょっと!失礼なんですけども!


〇〇:ごめん


ひかる:むぅ


こっちはまだ上の空

破壊力がすごい。



〇〇:どうしたの?いきなり


ひかる:今日一回も、話してないよね?


〇〇:


ひかる:してないよね?


〇〇:そんなこと


ひかる:今も目が合ってない


〇〇:森田さん忙しいそうだっ


ひかる:休憩あった


〇〇:こっちが忙しくて


ひかる:もーいい


〇〇:え?


ひかる:そんな感じやったら









ひかる:明日、お疲れ様会せんからね?







耳元で囁かれて、心臓が跳ねる。


〇〇:


ひかる:せっかく楽しみにしとったのにっ


〇〇:ごめん


ひかる:そっちから誘ってきたのに


〇〇:すいません





ひかる:後悔してる


〇〇:してない


ひかる:やったら、ちゃんとして


〇〇:ごめん


ひかる:もっかい





ひかる:この衣装、どう






〇〇:似合ってるか、かわ






「森田さーん!」





ひかる:はぁ、また明日


〇〇:え


目が合わないまま、呼ばれた方へ行ってしまう。

.
ひかる:はーい、何ー?




〇〇:



〇〇:森田さん



「森田さん、明日シフト増やせない?」



〇〇:え?


ひかる:なんで?



「このままじゃ一位取れないかもだし

「どうしても一位取りたいから


ひかる:でも、私結構


「やっぱり、無理?」


〇〇:


ひかる:



「お願いっ!」

「お願いします!」


何人かに頭を下げられる。


行く手を阻むように。


選択をひとつに絞るように。








ひかる:わかった、やる!


〇〇:


「ほんと!?」


ひかる:みんなで一位取ろう!



「ありがとうめっちゃ助かる!」

「じゃあ明日の





〇〇:



足が動かない。


止めないとダメだろ、こんなの


頭ではわかってるのに

体は動かない。



助けろ、自分。

目の前で苦しそうに戦う彼女を。



必死に前を向いている彼女を、助けないと





わかってる。

わかってるけど






それができるほど、強くなかった。




「●●、ちょっと手伝って」



〇〇:うん




持ってるだけの気持ちなんて無に等しい。



結局その日、森田さんとの会話はこれだけだった。






〇〇:


モヤモヤしたまま夜が進む。


日曜日、今日が最終日。


そして、森田さんとのお疲れ様会までそんなに時間はない。


その時が早く来てほしい自分と、まだ来ないでほしい自分が葛藤し合う。


森田さん、嫌じゃなかったかな

気遣われてないかな

無理してないかな


勝手に想像して勝手に傷つく。


自分の脆さ、自分がわかってるから苦しい。





今の自分に何かできること。




思いついたのはひとつしかなかった。



体が勝手に動く。



スマホを手に取り、電話をかけた。








〇〇:ふわぁねむ



結局ほぼ徹夜みたいになった


とりあえず今日の休憩で休まないと








〇〇:おはよ






「どうすんの!?」




教室に入った途端、学級委員の声が自分の耳に飛び込んでくる。





「一旦落ち着いて


「代替案考えないと


「いやでも時間が



「これじゃ営業できないよ!」



〇〇:えっ



耳を疑う一言が。





「いや、しょーがないけどそうするしか


「今から変えられないし」





ひかる:おはよー……


ドア前で突っ立ってると、森田さんが入ってきた。


〇〇:おはよう


ひかる:なんかあった?


〇〇:わかんない



ひかる:おはよー!



「あ森田さん」



ひかる:何かあった?トラブル?





「調理係がいない」



2人:えっ!?



ドリンクを入れたりホットケーキを焼いたりする係、その人たちが休み?



「朝、熱出したって連絡来た」


ひかる:今、何人いるの?


2人」


ひかる:2人


〇〇:


基本3人で作業するから、できないことはない。

ただ休んでる子がホットケーキを焼いてるから、数少ない必須枠なのに


これじゃ回んない」


「いや、今日営業しないと


私生徒会に言ってくる」


「ちょちょちょ待って」


「一旦落ち着いて


「この教室も抽選で当たって使ってる」


「道具とか材料とかたくさんのお金がかかってる」


「早く言って譲らないと、他の人に迷惑なの!」




確かに、できないなら譲るべきか





でも」







ひかる:はいっ!



突然、手を挙げる森田さん。



「森田さん?どうしたの?」




ひかる:〇〇くん、料理できます!




〇〇:待って




「●●、それほんと?」



突然至近距離に級長が現れる。



〇〇:いや、やったことありません



「森田さん、ほんと?」



ひかる:嘘です、喫茶店で料理してます!



〇〇:森田さん



「●●、ほんと?」


〇〇:森田さんが嘘をついてます!



「森田さんが嘘をつくわけない、ダウト」


〇〇:




マドンナ厄介すぎる



ひかる:〇〇くんが作るケーキがいちばん美味しいです!


〇〇:そんなことないし、ケーキの材料はありません!


「一応あるよ」



冷蔵庫に入ってるスポンジケーキ。

いちご、牛乳、砂糖など。



ばっちり作ろうとしてる。





「作ってみたものの失敗して」




〇〇:


「はい、料理して」


ひかる:頑張って〜


〇〇:ほんとに、まずいかもですよ


ひかる:大丈夫、絶対おいしい






ひかる:私が保証する







〇〇:

 
置いてあるエプロンを見に纏う。


卵を2つ、割ってボウルに入れた。









「すいません、これ2つ」


「かしこまりました、少々お待ちください」



「ケーキ2つ」

「こっちも2つです」

「チョコ2つです」


〇〇:待って待って待って


営業してまだ2時間。

昨日より忙しい

それも別の理由で。



「ケーキ売れてる」

「評判めっちゃ良いよ」




〇〇:あははははっ




顔が引き攣ってます。

手が疲れて痙攣してます。




ひかる:言ったでしょ〜、絶対おいしいって


隣で自慢げなマドンナさん。


〇〇:仕事は?


ひかる:今日はね、そんなに働かなくて良いって!


嬉しそうに、自然に笑ってる。


〇〇:よかった


ひかる:ん?何?


〇〇:これ、お願いします


ひかる:他の人にお願いしてよ〜


〇〇:友達なんでしょ?お願いします


ひかる:はぁーい


ケーキを持って表に出ていく。






保乃:あ!ひぃちゃん来た!


松田:えー!かわいー!


ひかる:えへへでしょでしょ


衣装を褒められご満悦な表情。


保乃:美味しそうやなぁ


ひかる:あっ!はい、どうぞ!


2人:いただきます



ひかる:どう?





保乃:美味しい!


松田:ほんとに美味しい


ひかる:えへへよかった


保乃:お店出せるレベルや


ひかる:だよね!私もそう思う


松田:美味しすぎて黙っちゃう


ひかる:私もなっちゃう!


保乃:え、ひぃちゃんが作ったん?


ひかる:ううん、違うよ


松田:あ、違うんだ


ひかる:ん?なんで


松田:なんかすっごい嬉しそうだったから


ひかる:へ?


松田:自分のことみたいに喜んでるなぁって


ひかる:そ、そうかなぁ


保乃:なんかありそうな感じ


ひかる:いやいやなにが


松田:そういえば、あの子


ひかる:げっ


松田:ひかるが前から言ってたあの子、どこ?


保乃:あー!最近よく聞く子!ほんまや、会いたい!


松田:どこにいるの?


ひかる:い、今はいないかなぁ





松田:怪しい


保乃:あやしい


ひかる:とにかく!今はいないから


保乃:あ!名前思い出した!


ひかる:ちょっほのちゃん








保乃:●●くんや!






〇〇:はい



突然名前を呼ばれて、表に出る。




松田:●●くん?


〇〇:はいそうですけど


松田:へぇ〜笑


保乃:ふーん笑


ひかる:


顔を真っ赤にして俯く森田さん。


どういう状況?



保乃:じゃあじゃあ!このケーキ作ったんは?


〇〇:僕です


保乃:え〜笑


松田:そういうことか〜笑


ひかる:


〇〇:なんですか?


保乃:あ、ひぃちゃんの友達です


松田:ケーキ美味しかったです!


〇〇:ありがとうございます


ひかる:もう終わりってことで


保乃:好きな人いますか!?


〇〇:ん


ひかる:ほのちゃんっ!


保乃:好きな人、いますか?


〇〇:えー


ひかる:


流石にこのタイミングでは







「●●ー!ショートケーキ2つ追加!」


〇〇:あ食べてくれてありがとうございました






ひかる:


松田:いいね


保乃:いい、真面目


ひかる:わ、私も仕事しないと


松田:ひかるがんばれー!


ひかる:声が大きい!


保乃:自信持ったらいけるー!



ひかる:う、うるさい!!!!









**********************







「おつかれー」



〇〇:お疲れ様です


ひかる:またねー



元に戻った教室、騒がしさはもうない。



〇〇:やっと終わった


ひかる:ふふふお疲れ様でした


窓の外は薄暗くて、街灯もついてる。


他の人はみんな、打ち上げに行った。


今ここにいるのは2人だけ。



ひかる:〇〇くん大活躍だったね


〇〇:本当に疲れた



結果は後日、放送で。

みんなの体感では自信あるらしい。

自信は全くない。




〇〇:なんで給料出ないの?


ひかる:バイトじゃないから笑


〇〇:やってることバイトより多いのに


ひかる:ケーキ大人気だったね


〇〇:店長に感謝しないと


ひかる:ふふっ.だね


噛み締めるように小さく笑う。



〇〇:楽しかった?


ひかる:ん?


〇〇:今日は、楽しめた?





ひかる:最高に楽しかった








〇〇:じゃあよかった


ひかる:へ?



〇〇:森田さんが楽しかったなら満足



今日は笑顔が多いように見えて、なぜかこっちまで嬉しかった。



ひかる:私の代わりに頑張ってた人がいるからね〜


〇〇:


ひかる:本当に感謝してる、ありがとう





燦然と輝く目、心の靄が澄んでいく。



〇〇:うん


ひかる:照れてる〜ふふふ


可愛い、って言いながら笑う森田さん。


誰が言ってるの



〇〇:お疲れ様会



ひかる:ふふふちゃんと言って?




〇〇:お疲れ様会しませんか



ひかる:はい、行こ?


〇〇:


差し出された手を、自然に繋ぐ。


覚悟を決めるしかない。











カランコロンカラン




ひかる:お邪魔しまーす


明かりをつけると、誰もいないお店。

店長も気を遣ってくれてるみたい。



〇〇:準備手伝ってもらえますか?


ひかる:はい!やります!


〇〇:じゃあ


お皿もコップも、椅子も。

この場所にも。




全部2人分だけ。

2人だけ。




体が熱い。




ひかる:よしっ、じゃあ乾杯し





〇〇:ちょっと待ってて


ひかる:



冷蔵庫を開けるとそこにあるもの。

生クリームたっぷり、苺が綺麗に乗ったホールケーキ。



プレートには



"森田さんへ"


一言だけ添えられてる。



ひかる:……へ?


丁寧にテーブルに置く。


〇〇:これ、あの


ひかる:



〇〇:せっかく来てもらったし



〇〇:感謝の気持ちを込めて作ったから、食べてみてほしい







〇〇:あ、乾杯の後で


ひかる:いただきます


〇〇:えっ?


フォークで切った大きな一口を、パクッと頬張る森田さん。


〇〇:森田さん、乾杯が先


ひかる:



〇〇:森田さん?







ひかる:こっち来て


服の裾を小さく掴まれる。


〇〇:え?





ひかる:近く来て


ぎゅっと裾を掴まれたまま、今より更に至近距離に。


〇〇:あのっ、これどういう


ひかる:


〇〇:森田さん



ひかる:好き


〇〇:あよかった、頑張って作って




ひかる:違うっ


〇〇:








ひかる:〇〇くんが、好き






〇〇:へ?


瞳をしっかり見て、そう伝えられた。






ひかる:いつからかな


ひかる:ここで初めて会ったときかな


ひかる:あの時からずっと、〇〇くんのことで頭がいっぱいで


ひかる:私あんまりそういう、感情今までなかったから変にテンパっちゃって


ひかる:頑張ってアピールしたけど、全然だめだった笑



〇〇:




ひかる:気づかない癖に、さらっとかっこいいことしてさぁ


ひかる:〇〇くん、気づいてなかったでしょ?


ひかる:意外とモテるんだよ?自覚ないの?


ひかる:なんか私だけ妬いてるみたいでそういう自分もなんか嫌だった



ひかる:だからっはっきり気持ち伝える


ひかる:伝えて、もっと私のことそういう風に見てもら






〇〇:森田さん




ひかる:えっ!?




思わず、抱きしめてしまった。





ひかる:な、何!?どうしたのいきなり








〇〇:ずっと好きです









ひかる:へ?



〇〇:付き合ってくれませんか?




ひかる:なんで


〇〇:初めて見た時からその一目惚れで


〇〇:気づいたら目で追ってた



ひかる:



〇〇:同じクラスになれたときほんとに嬉しかった


〇〇:マドンナって言われてる森田さんと釣り合わないけど森田さんがいいなら







ひかる:ばか!




〇〇:えっ


肩におでこをぐりぐりして、抱きしめる力が強くなる。



ひかる:ばかぁ言うのが遅いっ


〇〇:えいや、タイミングが無くて



ひかる:そんな素ぶり見せなかったくせにっ!


〇〇:いやいや森田さんこそ


ひかる:下の名前!〇〇くんしか呼んでない!


〇〇:それだけ


ひかる:その癖にそっちはいっつも苗字だし


〇〇:好きな人にいきなり名前は、無理


ひかる:もおっ!怒った!


〇〇:えぇ


がっしりしがみついて離れる気配がない。



〇〇:あの森田さん、苦しい


ひかる:こっちの心の方が苦しいもん


〇〇:ごめんなさい


ひかる:そんなんいらん




ひかる:ちゃんと、言って







〇〇:好きです、付き合ってくれませんか?







ひかる:大好きっ






その日いちばんの笑顔を向けてこっちを見る



森田さん。








たとえあなたが、マドンナじゃなくても



この気持ちに、変わりはない。





FIN