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ふーこ
2025-06-20 21:29:46
7842文字
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小説
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××も風邪をひくか
皆守と葉佩。
なにも起きていない。
皆守って風邪ひくのでしょうか。
目を開いても暗がりがあるばかりで、自分が今どこを向いて寝転がっているのかも分からなかった。
細胞が暗闇に慣れるよりも先に、重くてだるい体の感覚と喉の渇きに気づいてしまって滅入る。水が飲みたい。しかし起き上がるのが、どうにもしんどい。それなら再び眠りにつきたいと思うが、のしかかる不快感が自分の体の輪郭をはっきりと意識させるせいで上手くいかない。
どうして目覚めてしまったものか。
いや、それを言うなら、そもそもこんな風邪なんてもらっちまったのが良くない。熱に浮かされた思考はもやのように曖昧で、すぐに散らばって溶けようとする。
思い出すのは九龍のことだ。昨晩、ヤツは遺跡の中でひどく震えながら、痛むらしい頭を抱えていた。しかしそれを心配できたのも束の間、唐突に生気をみなぎらせた顔を上げて「治った」とケロリとしている、その人間離れした体の仕組みに感心すればいいのか不気味に思えばいいのか分からない。不気味に決まっているだろ、とすぐに断言できないのは今の朦朧とした意識のせいであってほしいところだ。
ともかく、そこまでが昨日の話だ。一晩明けて今日の午前中、俺はいつも通りに保健室で夢の中にいた。そこまでは代り映えのない安寧な日だったんだが、八千穂と雛川に見つかったのが運の尽きだった。おせっかいというのは一人いるだけでも厄介なんだから、二人がかりでやってきた日には根負けもするというものだ。
むりやり出席させられた授業がやっと終わったと思えば、真面目に座ってくだらない講釈を聞いていたせいか頭が痛かった。近くの席の男子も「俺、今日寝不足でマヂ頭痛なんだよ」と机に突っ伏している。いつもくだらないことばかり喋っている奴だが、そればかりは俺も内心で同意した。
それ見たことか、俺にはまだ睡眠が必要なんだと体が言っている。八千穂に当てこすりをしてから屋上で昼寝の続きとふけこんでいたら、それがダメ押しとなったらしい。少し寒いくらいの空気が眠気を誘ってちょうどいいと思ったんだが。
九龍の体質を、やはり俺は羨ましく思うべきか。
いよいよ無視できない喉の渇きを癒そうと頭を持ち上げるが、ぐらりと重力を見失って、再び枕に頭を沈める。
なんてこった。正直、寝すぎで腰だって痛いってのに。
結局今の俺にできるのは曖昧な思考だけだ。暗闇の中で、目はカーテン越しの光を懸命に拾い始めている。何か面白いものが見えるはずもない。壁の白っぽい感じが、かろうじて目に入っているだけだ。
騒がしい生徒だらけのこの寮も、今はどこからも話し声が聞こえてこない。たぶんもう夜も深いのだろう。つまりは明朝までに回復できそうな余裕はないということだ。
明日、俺が教室に一度も顔を出さなくても、いつもの自主休講だと思われるはずだ。今まで「今日は休みます」と優等生な宣言をして休んだこともないのだから。ちょうどいい。昨日の今日で俺が風邪で寝込んでいると知ったら、八千穂が大げさに気に病むだろうということが簡単に想像できる。しゅんと項垂れて、「いつものサボりだって決めつけて、ムリに授業に誘っちゃったせいだよ」とかなんとか言うだろう。雛川だってそうだ。真っすぐに俺を見上げて「気づけなくて、ごめんなさい」なんて言うに違いない。そうされると俺は、すごく居心地が悪くなる。
「勘弁だな」
思わず呟いた自分の声がかすれて弱々しく、またうんざりした。
起き上がるのはもうしばらく諦めておくとして、いったい今は何時だ。枕元を探ると、すぐに携帯が指先に触れた。
待受を開いて、小さな画面の強烈な眩しさに反射的に目を閉じる。目の奥に残ったキーンとした痛みが引くまで目を逸らし、余韻が引いたころにようやく画面を確認した。充電もせずに転がしたままだったが、まだ電池の目盛りは二つ残っている。画面の隅にあるゴシック体の2:46の文字を読み取って、人の気配がほとんどしないことに納得した。
そうだ。こんな夜更けには誰も起きていない。おそらく《宝探し屋》も、例外ではなく。
果たして本当にそうだろうか。
あいつが比較的真面目に授業へ出席していることを考えると、深夜のむちゃな探索なんて頻繁にしていないと思うが、かといって夜中に何をしているかなんてことを全て見通しているわけでもない。今もどこかを徘徊しているとしても、驚きはしないかもな。
だから今、部屋の扉が開いたような気がしたのは、気のせいなのか現実なのか。どちらがより在り得ることなのか、とっさに判断が付かなかった。
ただ、本当に扉が開いたのだとしたら。俺の部屋に勝手に入ってくる輩なんて一人しか思いつかない。
「おーい」
そこにいるのか? と尋ねているような、ひっそりとした、慎重な声色だ。この声の主には似合わない気もする。
予想した通りの来訪者の気配に、意図しない笑いが漏れた。勝手に部屋に入っておいて、今更なにをそんなにしおらしくしているんだか。返事をしようとしたが、乾いた喉ではうまく声が出せない。ゆっくりと唾を飲んでから息を吸い込むと、今度は咽せて咳が出た。
それを聞きつけてか、玄関の侵入者がこちらを気取る。気を遣いつつも躊躇いのない足音がどんどんと近づいてきて、俺はそいつがベッドの横にたどりつくのを観念した気分で待っていた。
「起きてたのか」
あの物々しいゴーグルも無いというのに、この暗い部屋で九龍の目はしっかりと俺を捉えているのを感じる。その様子は、猫か、梟か、そういった夜行性の生き物を連想させた。
「他人が勝手に部屋に入ってくれば、目だって覚める」
「その前から起きてたろ」
深夜の空気の中、抑えた声がやけに響いていた。
九龍がベッドの脇にしゃがみこんで顔を覗きこんできたところで、俺もようやく九龍の顔をはっきりと認めた。お前の風邪で俺がこんなに苦しんでいるというのに、涼しい顔をしやがって。
「風邪か? 授業はともかく、放課後に一回も姿を見なかったから変だと思ったんだよ」
「冴えてるぜ、名探偵さん。ついでに、誰のせいだかも考えてみてくれないか。答えは簡単なはずだ」
ちくりと刺してやる気持ちで睨んでやると、うひゃあ、と九龍はわざとらしく手で口を覆った。
「まさか、俺のせい? いつの間に甲太郎にうつったんだろ。ああ、熱まであるよ」
九龍は俺の髪をかき上げて額に触れながら、そう言った。いつもなら振り払っているところだが今日はそんな気力もない。それどころか手のひらの冷たさが心地よくさえあった。
自分の呼吸が浅くなっているのが分かる。たった数往復のこんな会話でも体力を消耗しているらしい。このまま九龍の手を氷嚢代わりにして目を閉じてしまいたい。次になんと言ってやろうか、うまく思いつかない。
「もし飯食ってないんだったらさ、用意してやろうか。インスタントだけど」
九龍の方は昨晩の風邪の影響は微塵も残っていないようで、ベッドに肘を置いて次々と話しかけてくるものだから、無視もできない。飯と聞いてもあまり意欲は湧いてこないのが正直なところだ。
「今は飯より、水が飲みたい」
「ああ、そうか。違いない。風邪には何より水分だ。水飲んで寝るのが一番だね。甲太郎の得意なことで安心してるよ」
「
……
嫌味か」
九龍の手が額から離れた。そんなつもりじゃ、と言った声が驚いた風だったから、それじゃあ心からそう思って言ったのかと呆れる。それはそれで、失礼な話だ。
「俺の部屋から持ってくるよ。たくさんあるんだ」
たくさんあるという水の出所を詳しく尋ねる気にはならなかったが、これはありがたい提案だった。頷くと、九龍も頷き返してきたのが仰々しくておかしい。
静かな足音が数歩分も聞こえた後、扉が開閉され、部屋には静寂が訪れた。ぼんやりした頭で天井を見つめながら、そういえば九龍は何の用事で俺の部屋に来たんだと疑問が浮かぶ。
連絡が来ていたことに気づかなかったのかもしれない。遺跡に一緒に来いという誘いを、無視していたのだろうか。携帯をもう一度開こうかとも思ったが、あの眩しさと目の痛みを思い出して怯んだ。
こうして部屋にやってきても何も言われていないのだから、大した用事なんてなかったのだろう。ただ俺が学校にもマミーズにも現れなかったことを不思議に思っただけだ、きっと。
大した用事もないのなら、来てくれなくたってよかった。こんな夜中に。こんな風に弱っているときに。
帰ってきた九龍の気配が近づいてくるのを、ベッドに横たわってただ待つことしかできない。無力な子供になってしまったような、情けない気分になる。
「お待たせ。ミネラルウォーター、選り取り見取りだよ。気になる産地の発表から」
九龍はリポーターのように前置いて、両手に抱え込んだペットボトルを順に机に並べ始めた。それを見ていて違う意味でも情けなくなった。感傷にまで横入りしてくる図々しい能天気な発言だ。
「これはマミーズ、これはカオルーン、これは購買で、これは
……
」
「説明はもういい。精神衛生上、これ以上は聞かない方がいい気がする」
「俺は、あらぬ誤解を受けている気がする」
「誤解なことあるかよ。お前があちこちで、ゲットトレジャーとかなんとか言ってきたって話だろ」
「それはそうですけど」
九龍は唇を尖らせてマミーズ産(入手した場所のことだ)の水を渡してきた。九龍の言動に文句はあっても、差し出された水は水だ。これはこれ、それはそれ。手のひらに伝わるひんやりとした感覚が心地よく、なんとか体を起こして口をつけると、ただの水がやけにうまかった。
喉が潤って気分はいくらか良くなったが、九龍のように一瞬で風邪症状をなくせる訳もない。相変わらず重い体を再びベッドに投げ出してしまいたいと思いながら、なんとか踏みとどまる。九龍がベッドの横に立ったまま様子を窺っていたからだ。
「悪かったな。もう大丈夫だから、お前も部屋に帰って寝ることだ」
「えっ、なんで」
「なんで、ってどういう意味だよ」
「朝まで様子見ててやろうと思ったのに。風邪ひくと弱気になるもんなんじゃないの」
溜息が出そうだ。それはどこから仕入れた情報だよ。自分も弱気になったりなんかしないくせして、よく言う。怪我も病気も一人で勝手に治すくせに。自分の足を止めて他人に寄り添うなんてタマじゃないくせに。俺はそんなことをしてほしいなんて、一言も言っていないのに。
「その顔。何を言いたいかは分からないけど、不満そうなのだけはよく分かる」
九龍は俺の顔をまじまじと見て、眉を下げた。そうして立ち去ってくれるのかと思えば、どっかりと床に座り込んで腕組みをしている。
「不満なのが伝わって、どうしてそういう態度になるんだ」
「責任っていうかさ。俺の風邪がうつったんだし。さ、大人しくもう一回寝てろって」
何が責任だよ、と馬鹿らしく思うのに、半ば強引に毛布を押し付けられると思惑に流されそうになる。
級友に見守られながら安心してぐっすり眠れるという奴が、この世にはどの程度いるだろうか。しかしそんなことを訴えても、いつも学校で寝こけているやつに言われても説得力がないだの、あれこれと言われるに決まっている。
九龍の言う朝が何時のことだかは分からないが、あと三時間だか四時間だか、そのくらいの間。きっと九龍はここに座っているつもりなのだろう。暗がりの中で、忠実な犬のような振りをして。
変わったヤツだ。そう結論づけるとともに、諦めて体を横たえる。
「ああ、そうだ。このことは、八千穂と雛川には言わないでおいてくれないか」
「このことって、寝かしつけのこと?」
馬鹿、と怒ろうとして咳き込んだので、九龍は慌てて発言を撤回した。下手に言い返すよりも効いているようだったのが憎らしいが、今日のところは許してやろう。
「分かった、分かった。風邪のことは内緒な」
「
……
気にされると、面倒だからな。あいつらは特にだ」
九龍はベッドの淵に頬杖をついて「ふーん」とだけ返事をした。本当に分かってるんだろうな、と不安になるが、念を押すのは必死すぎるか。
「お前、本当に朝までいる気なんだな。感染ったって文句を言われても、受け付けないぞ」
「平気だって、もとは俺のものなんだから」
指で作った丸印があまりにもお気楽だ。割り切るために目を閉じると、相変わらずの重い倦怠感がまとわりつく。息を吸っても吐いても何も変わらない。楽な姿勢なんてものもない。
暗闇の中、何も話さない九龍はもうそこにいないかのようだった。黙っている九龍は恐ろしい。何を考えているかも、次の瞬間どこに行くのかも分からない。
額に汗がにじんだ。黙っているから怖いなんていうのは間違いだ。本当は、九龍が喋っていても、いなくても、俺はこいつが次の瞬間に何をするかなんて分かりようがないんだから。
振り返りもせずにどこかに行ってしまうとしても、逆に俺を打ち倒して先に進んでいくとしても、どっちにしたってその先の九龍のことを、俺は知りようがない。
そんな当たり前のことが今更になって焦りのように体の中に広がっていく。馬鹿らしいと一蹴するには弱り過ぎている。風邪で気弱になるなんて情けないことと思うが、しかし、まさにそれに陥っているのでなければこの体たらくは何だ。
長く息を吐くと、自分の心臓の音が妙にはっきりと聞こえて気分が悪かった。ざくざくと砂を踏んでいるような規則的な音がだんだん自分から発せられているものではないように思えて、気持ち悪い心細さに落ちていく。いつになったらこの心臓は、時々こんな風にして早鐘を打つのをやめるのだろうか。安寧の夢の中から俺を引きずり出してべたりと地面に投げつけるのは、いつもこの鼓動だ。耳を傾けても辛いだけだと分かっているのに。
ふと、不愉快な心音に混ざって聞こえてくる音があった。スイッチが切り替わるように、意識が内から外へ向かう。
それは小さな鼻歌だった。
異国っぽい音階のようだが、どこの地域のものかを俺は知らない。繰り返されるメロディはところどころが掠れて途切れ、そうしてはまた続いていく。うるせェなと茶化すような気分にもなれないまま耳に馴染んでくるころ、心臓の音はもう不愉快に主張してくるのをやめていた。
恥ずかしくてそれを本人に確かめることはなかったが、九龍が紡ぐこのメロディはきっと子守歌なんだろうと思った。この曲自体がそうでなかったとしても、少なくとも九龍はこれを俺が眠れるようにと願って口ずさんでいたんじゃないだろうか、と。
そうでなければ、どうしてだか安心して眠りに落ちていくことに違う理由付けをしなくてはいけなくなるから、困る。それをするには頭が働いていなさすぎる。
朝まで眠ることができて、目が覚めたら体調も少しはマシになっているだろうか。それともあと何度か目を覚ましては暗闇でふらふらと目を回すことになるか。そんなことを考えている間も、九龍はずっと小さな鼻歌を歌っていた。
案外と自分が繊細でないことに驚いたものだが、目覚めると外はもう明るくなっていた。文句を言いながらぐっすり眠った人間になってしまったと思うと自分が忌々しいが、おかげで致命的な倦怠感は取り除かれ気分は格段に良かった。
それから俺は九龍の姿を探した。ベッドの横に座っていた影は既にそこにはなく、床に寝転がっているということもなければ、椅子に座って本を読んでもいないし、PCをいじってもいない。
カーテンの隙間から差す光は十分に強く、生徒たちが慌ただしく朝の準備をする時間はとうに過ぎているらしいと分かる。
「
……
もう、タイムオーバーだってか」
朝まで様子を見ていると言っていた九龍も、俺がしっかり眠っているのを見て帰っていったことだろう。当然のことだ。だが、何かが欠けたような錯覚だけがぽかんと胸の中にあって、自然と肩が落ちる。
今ごろはもう真面目に授業に出席しているだろうか。「皆守クンはまたサボり?」なんて八千穂に聞かれても上手くごまかしているといいが。
「タイマー、まだ切れてないよ」
「うお!?」
思いがけず返事が聞こえて今度は思い切り体が跳ねた。声の出所を探すと、仕切り壁の死角から九龍が顔を覗かせた。その手には安っぽいプラスチックのキッチンタイマーを握りしめている。
「いるならいると言え。叫んじまっただろ」
「タイマーよりも存在証明よりも、まず朝のあいさつだろ。おはよう。調子はどう?」
「
……
おはよう。調子は、まあまあかな」
「それはよかった」
間抜けだ。このやり取りも、九龍がいないと思って消沈したことも、まだここにいると分かって悪くない気分になっていることも。
そして九龍の握りしめているニワトリ型のタイマーもまた、緊張感がない。九龍の部屋で見たことがある気がするから、どのタイミングでかは分からないが自室から持ってきたのだろう。
「そんなものを持って何してるんだ?」
「うどん茹でてる」
「どうして」
「食べやすいものと言えば、うどんらしいから。この學園にいるとなかなか食わないよな。二人分作ってんだけど、甲太郎が一人前を食いきれなかったら俺が食う」
体調不良の寝起きというコンディションで動きが鈍かった脳が少しずつ動き出す。
耳を澄ますと、簡易キッチンから湯を沸かしている音が聞こえる。鍋は何を使っているんだろうか。まさか俺のカレー鍋じゃないといいが。
「そんな世話焼かなくたってよかったんだが
……
。もう作り出してるんなら、しょうがないな。いただくとするよ」
「素直じゃないな。おまえの分だけカレーうどんにしてやろうか」
「俺にとっては立派な病人食だ」
九龍はどこまで本気に思っているのか、短い笑い声だけを返して再び壁の向こうに引っ込んでいった。
その時に俺も起き上がって、九龍に昨晩からの礼を言えばよかったんだろうが、沸騰した鍋のぐらぐらいう音を聞いているうちにそのタイミングは過ぎてしまったという気がした。
俺の目が覚める前から茹でていたらしいのに、ずいぶんと念入りだ。大雑把に見えて食品の加熱をしっかりしてるってのは、どんな過酷な状況でも生き延びてみせる《宝探し屋》らしいと言えば、そうなんだろうか。
いや、ばからしい。これはそんなんじゃないってことを俺はきっと理解して、自覚している。どんな顔をして受け取ろうか決めあぐねて目を逸らしているだけだ。
壁の向こうで九龍は鍋の火をじっと見ていることだろう。
ふざけたタイマーが、ピヨだかコケコッコーだか騒ぎ出すまでの間。きっと普通より少し長く取っているであろう茹で時間の、その間。俺は、愛情が溶け込んでいるみたいなその時間の受け取り方を決められないままでいるのだろう。
優しさを受け取ろうとすると、同時に苛立ちとどうしようもなさが連れ立ってやってくる。それからは逃げ切れないという確信めいた思いがある。目を閉じてみても目眩がしている気がして、完治はまだ先に感じられた。
やっぱり、そもそもこんな風邪をもらっちまったのが、本当に良くなかったんだろう。
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