ながとぅ
2025-06-20 17:06:27
2836文字
Public ZZZ/ビリイト1W
 

ZZZ【ビリイト1W/拝呈、まだ見ぬ俺へ】

ビリイトワンウィーク第6弾!!今回は…間に合った…!!
お題①: 夏のデート
お題②: 秘密をあげる
反省点:今回のお題は雰囲気だけになってしまったぁ…スマヌス…


意識が浮上していく中、視界は真っ暗のまま。
暗闇に赤い《Caution.》の単語が点灯し、ビープ音が響く。
――警告。
一体俺は何をした、いや……もしかすると、外部から何かされたのかもしれない。物理的に何かあったのか。
警告の赤文字が別の一文に入れ替わるのを恐々見つめる。

《Data recovery in progress.》
――データ修復中。
データ修復が必要なくらい大仰な出来事が今まであっただろうか。
郊外で拾われてこの方、覚えがない。
ますます何が起こったのか分からない。

《Do not force shutdown. It may cause data loss.》
――強制シャットダウンをしないでください。データ損失の原因となる可能性があります。
更に続く文字に、ありもしない度肝を抜かれる。
待て待て。強制シャットダウンなんてした記憶はない。
俺自身が内部的な強制シャットダウンをかける事はあっても、システムに警告される外部的な強制シャットダウンなんて――

「パイセン、やっと起きました?」

――とか何とか一人で悶々としているうちに視界が明るくなった。
再起動が済んで、“目”が機能して、外界の景色を認識出来るようになったらしい。
そして、同時に聞こえた、聞き慣れた声。

「んライト?」

はて、俺は本当に何をしていたんだったか。
ライトが傍にいるという事は、俺自身が何者かに物理的に害された可能性はゼロに等しい。

「あの時はさすがにどうしようかと思いましたよ」
「は?」

そうだ。システムに警告を出されて――待て。
視界には天井とライトの顔。背中は何やら冷たい。
一体、何がどうして俺は地面に、仰向けで転がっている?
それにライトとの距離が異常に近い。
不意に左手が持ち上がっていく。
一瞬、誰かに操作されているのかと焦ったものの、ライトによって持ち上げられているだけだった。
視界に映った光景。
それは、紛れもなく俺の左手がライトの手をかたーく、きつーく――離さないと言わんばかりに握り締めているではないか。

「とりあえず、そろそろ手ェ離してもらっても?」

――嗚呼、全部思い出した。

【拝呈、まだ見ぬ俺へ】

――どうも。
倉庫の隅で埃を被っている文鎮こと、ビリー・キッドです。
えー、ライト曰く。
一晩中降った雨で帰れなくなって翌朝、俺が安否確認をしに来た。帰ろうとする俺を引き留めたライト。
その時、ライトからされた告白によりオーバーヒートを起こし、その排熱に耐え切れず強制シャットダウンした。
そして、ライトが俺の手を掴んでいたのが不幸だった。俺の手が無意識にその手を握り返し、水溜りに倒れた。
踏ん張って支えようとしたが、足を滑らせ、俺の上に倒れ込んだ。
で、あの状態に至ったのが一時間前。

「パイセーン?」

そこから手を離して飛び起き、目を白黒させながら倉庫の隅に向かって突進。その後、体育座りで絶賛文鎮中という訳だ。
後ろからライトの声が聞こえるが、無視。

「いじけてないで来てもらっていいです?」
……やだ」
「やだって子供じゃないんすよ」
「やだ」
「パイセーン」
「先帰れって言っただろ」

そもそも、どんな顔をしていいのか分からない。
いや、ライトが俺の事を思い出してくれたのは本当に嬉しいんだが、それどころかじゃないのだ。
情報量が多い。多すぎる。最新鋭の戦術兵器である俺様のスペックでも足りないくらい情報過多だ。
オーバーヒートを起こさないという保障などない。自信もない。むしろ、オーバーヒートを起こす自信しかない。

「ったく仕方ないっすねぇ……
「おッ、い!!ライト!?」

ジャケットの取っ手――装飾を掴まれ、強制的に身体が伸びる。そのまま仰向けで倉庫の外まで引きずられていく。

「ほら、見て下さいよ」
「んだ、よ――

目の前には二重の虹。
言葉を失った。
知識では知っていたけれど、初めて見た。

「すげぇ……
「なんか夏の雨上がりみたいな景色っすよね」

殺風景の荒野にかかるくっきりと二重の虹。

『チキンになるなよ、“俺”』

――嗚呼、背を押されている。

……なぁ、ライト」

ようやく自分の足で立つと、装飾から手が離された。
そのままライトと向かい合う。

「どうしました?」
「初デート記念」
「ん?デートって――

かつ、と軽くぶつかる音が聞こえた。
ライトのサングラスと俺のフェイスカバーが触れ合う音だ。
そして、唇に“唇”を押し当てる。
とは言え、俺に唇はないので、フェイスカバーを人間の顔に見立てた時、口に当たる部分。
再度かつ、と硬い音がした。今度は何の音か分からなかったが、ゆっくりと顔を離していく。

……人間は好きな相手とイイ雰囲気の時こう、するんだろ?」

何とも言えない沈黙が流れる中、言葉を捻り出す。喉が詰まるとは、こんな現象を言うんだろう、なんて関係ない事を考えながらライトを見る。
すると、翡翠の目がサングラスの奥で丸くなっている。
何故か俺がいたたまれなくて、じわじわと恥ずかしさがこみ上げて、整髪料の落ちた髪が熱を放つ。
ライトはこっちを凝視しているのに、目を合わせられない。
いや、ライトから見れば“目”は合っているはず。切り替わらないようにしながら必死になって合わせている。
しかし、俺の視界はライトを映していない。

「パーイセン、こっち見て下さいよ」
……見てるだろ。目、合ってるぞ
「目だけ向けるんじゃなくて視界に入れてもらって」
「うぐっ!?」

――バレていた。
仕方なく視界にライトを入れる。それだけでヒートシンクの放つ熱が増えていく。
髪の合間、フェイスカバーで点灯している黄色の目が泳いでいるのが分かる。

「嫌、だっただろ……
「ははっ!違いますよ。ただ、もうちょっと優しくしてもらわんと」

思わず卑下の言葉が出てしまったが、口元を擦りながら笑いかけてくる。

「最後に当たったの、俺の歯なんで」
「え、あ、マジか!悪い!やっぱ慣れねぇ事はするもんじゃ――
「いーえ、パイセンに好かれてるって十分分かったんで」

照れくさそうに笑うライトの背後、虹がゆっくりと薄くなっていっている。

「夢で言われたんすよ。自分に負けるな、ちゃんと伝えろって。それに無敗のチャンピオンが自分に負けられる訳ないじゃないすか」
「それって
「あの人も確かにビリー・キッドですけど、俺のパイセンじゃあない。侵蝕症状で死にかけてた時も含めて、色々と助けてもらったんで感謝はしてますけどね」
「ライト
「今日の出来事は俺とパイセンだけの秘密、ですよ」

今度はライトの顔が近付いて来て、唇と“唇”が重なる。
遥か遠く――虹の向こうで人間の“俺”が微笑んだ気がした。

END?