水底を泳ぐようにゆらゆらと、静かに。
ただ〝そこに在る〟。それだけでいい。
そのはずだった。
「
……」
もうすぐ隠匿の刻だからか、人々は足早に去っていく。
深い低温ピュエロスに沈めていた体を起こすと、少しだ頭がスッキリした。
少しずつ、欲が出てきた頃のことを思い出し。
彼に触れてもらえるのであれば、何でもしてやろうと、若気の至りのようにがむしゃらに行動して。
少しだけ困らせてしまった。
『丹恒。お前が俺のためにいろいろやってくれるのは嬉しい。でも、無理はしてないか?』
眉毛を下げ、先の言葉を告げようか迷っていた様子を見せ。
そんな彼に、もしかしたら独りよがりだったのかもしれないと反省。
けれど、そこから紆余曲折あり、恋仲になれたときは嬉しかった。
嬉しすぎて、己を制御できず、周辺を水浸しに。
『
……すまない』
『丹恒でも、こうなることあるんだ』
濡れた前髪をつまみながら、少し意地悪そうな顔。キュンと胸が締め付けられ、尻尾が出てしまい。慌てて隠したのも、今となってはいい思い出だ。
「戻った」
「おかえり〜。低温ピュエロスは気持ちよかった? 蒼龍ちゃん」
揶揄うような声。
「ああ。少々火照った身体も冷えたし、頭も冷えた」
「そかそか。ご飯買ってきてあるから、食べよう。ミュリオンはどうする? ハニーケーキもあるけど」
「ミュー!」
桃色の妖精は、穹の言葉に姿を現し。
それから、器用にフォークで切り分けて食べる。
「ほら、穹」
水分補給をしてから、穹のためにハニーケーキを切り分けてから彼の口へと運ぶ。
俺も大地獣の薄切りりステーキの入ったサンドイッチを食べる。どうやら、俺たちの会話を聞いて、新しく開発したメニューなようだ。
アグライアから苦言を呈されるかと思ったけれど、これは許容範囲だったようで。見逃されたのだろう。もしくは、彼女も気に入った可能性がある。
それか、彼女に近しい人が気に入った可能性も。
考えたところで、すぐに答えは出ないのだからこうして穹に餌付けするしかない。
「美味しい?」
「ああ。悪くなかった」
口に入ったハニーケーキを飲み込んでから、俺に問いかけてきて。
「美味しいのは、いいこと」
「そうだな。薄切りステーキの味付けも、好みだ」
「そっかぁ」
唇の端にハニーソースをつけたまま、ニコニコと。
「丹恒がそう言ってくれるなら、俺もあそこの店でバイトしたかいがあったよ」
「バイトをしていたのか」
「うん。レシピ提供のついでに」
楽しそうに笑う。
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