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もち粉
2025-06-18 21:02:28
1563文字
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私を抱きしめて
カブミス
カフスボタンの話
細く開けた窓から、晩春の夜風にのって新緑の香りが運ばれてくる。
布団の中で本を読みながらも外の音に耳を澄ましていたミスルンは、家に近づいてくる馬車の音に欠けた耳をぴくりと動かした。
寝台を下りて玄関に向かうと、ちょうど家に入ってきたカブルーが荷物を使用人に預けているところだった。
「おかえり、カブルー」
「ただいま、ミスルンさん」
カブルーがミスルンに声を掛けると、仕事のできる使用人たちは速やかに退出した。これから何が起こるかは予想できたので。
ミスルンはこちらを向いたカブルーの姿に思わず足を止める。カブルーは夜会の衣装のまま帰宅していた。
髪もセットして、革靴もピカピカで、明るい縹色の礼服がカブルーの褐色の肌をよく引き立てていた。
「うん?」
期待した目でこちらを見つめるカブルーは、褒められたくてしっぽをふりふり待っている子犬のようだ。
「
……
私の男は姿がいいなと見惚れていた」
正直に伝えれば「えへへ」と笑う。
「そう言ってくれないかなと思って着たまま帰ってきました」
「甘え上手なところは相変わらずだ」
クスクスと笑い、襟元を軽く引っ張って引き寄せると、両手で頬をすくい上げられるようにしてキスをされる。カブルーの腕を辿って下ろした手の先の固い感触に気づいた。
寝室に戻っても、カブルーはまだ着替えずにミスルンの視線を楽しんでいた。何せその姿をもっとよく見せてくれとミスルンからのご要望があったので。
「めずらしいな、カフスボタンをつけているなんて」
「そうですよ、ミスルンさんに一昨年貰ったやつです。あんまり着ける機会がなかったんだけど、今日の夜会でのキーパーソンが宝飾品好きで有名だったので、会話のきっかけになるかなと思って」
「うん、よく似合ってる。私の見立ては確かだったな」
満足気に盛装したカブルーを見やるミスルンに「ふふ」とカブルーは笑う。
「どうした?」
「俺ね、今日いいこと聞いちゃいましたよ。カフスボタンを贈る意味」
「あっ
……
」
ミスルンがバツが悪げに顔を赤らめる。
「『私を抱きしめて』って意味なんだそうですね」
「うん
……
」
ミスルンはそっとカブルーの腕のカフスボタンに指を滑らせた。
「これくれた時ってまだ恋人同士じゃなかったですよね。もしかして告白の意味が籠めてあったりとかしました?」
にこにこと顔を近づけてくるカブルーに、ミスルンは観念して白状した。
「そのつもりではあった。お前が気づかなければ、それはそれでよかった。あの頃はこうして気持ちが通い合うとは思っていなかったから、独りよがりにひっそり告白したつもりだった」
「あの時気づかなくてごめんなさい。残念だな、気づいていれば、もっと早くこんな関係になれたのに」
「そうだな、だが今こうしてお前といられるだけで幸せだ」
「俺もですよミスルンさん。さて、それじゃあ
――
」
カブルーが腕を広げる。
「?」
「三年越しになってしまいましたが、カフスボタンのお誘いに答えて抱きしめさせていただいても?」
「
――
うん」
言葉を交わした瞬間、カブルーの暖かい腕がミスルンを包み込む。
鼓動が聞こえる。短命種のカブルーの鼓動は長命種のミスルンには早すぎるように感じる。こんなにトクトクと流れたら、あっという間に終わってしまうのではないか。
「遅くなって、ごめんなさい」
「
――
うん」
ミスルンは、ほうと息をついた。
ゆっくり目を閉じて、ただカブルーの鼓動を感じる。じんわりと体温がひとつに溶けてゆく。いずれ来たるべき離別からは目をそらし、カブルーの胸に頬を寄せる。いっそう強く抱きしめられて、今はただそのぬくもりに身をゆだねた。
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