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haru_haru0704
2025-06-17 18:29:55
9548文字
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とげとげきえん
カカロ×忌炎 全年齢
忌炎が13歳になっちゃう話
『今すぐ破陣基地に来い。忌炎が妙なことになった』
哥舒臨からそんなメッセージを受け取ったカカロは、仕事を切り上げてまっすぐに破陣基地へと向かった。
そして到着早々、彼が見たものは──
「この基地に、何か用ですか?」
身長が30cmほど縮んだ忌炎だった。ダボついた白衣を着た彼は、訝しげにカカロを見上げている。
「き・・・忌炎?」
「はあ、俺は忌炎ですが・・・大人の俺の知り合いですか?」
忌炎はじとりとカカロを見つめた。いかにも警戒していますという顔だ。
普段の彼なら、カカロに向かってこんな顔は絶対にしない。
カカロは居心地の悪さを感じつつ、まずは自己紹介をすることにした。
「ああ、その・・・俺は幽霊猟犬という傭兵団の団長をやっている、カカロだ。夜帰の戦争の手伝いをしたこともある」
それからお前の恋人だ、と言うかどうか迷って、結局やめた。
今その事実を伝えたところで、どうにもならない・・・どころか、冷たくあしらわれそうな気がする。何というか、この小さな忌炎は雰囲気が刺々しいのだ。
「・・・で、哥舒臨はどこに?」
「将軍・・・いえ将軍代理なら、執務室にいるはずです」
「そうか。ありがとう」
カカロは会話を終わらせると、執務室に向かった。まずは彼から話を聞いた方がよさそうだ。
一方忌炎はというと・・・なぜかカカロを追いかけ、後ろについてきていた。
「・・・ついてこなくてもいいんだぞ。場所はよく知ってる」
「乗りかかった舟ですから。それに、あなたは俺のことも知っているようですし」
「・・・そうか」
「ああ、カカロ。よく来たな。まあ座れ」
哥舒臨に促され、カカロは応接ソファに座る。彼の背後にいた忌炎は、やや所在なさげにしていた。
「ん?なんだ、後ろに忌炎もいたのか。小さいから見えなかったぞ」
ハハ、と笑われた忌炎はムッとした表情になった。
カカロはソファの空いたスペースをポンと叩き、忌炎を呼ぶ。
「忌炎。ここに」
「・・・・・・」
忌炎は、なぜお前の隣に・・・という顔をしたが、大人しくそこに座った。
哥舒臨も彼らの向かいに腰かける。
「で、まあ、見たとおりだ。忌炎がガキになった。中身もな」
「原因は?」
「先日調査した、妙なソノラのせいらしい。周波数の乱れが現実世界にも及んで、どうたらこうたら・・・詳しいことは知らん」
「そうか。・・・いつかは治る、と思っていいのか?」
「治る見込みは十分ある、らしい」
哥舒臨の言い方には含みがあった。つまり、治らない可能性もあるということなのだろう。
忌炎が子供になったとてカカロの気持ちは揺らがないし、また大人になるまで待つ覚悟だってある。
しかし、今までの思い出が全てなくなってしまうのはとても惜しく感じた。
共に駆けた戦場の血生臭さ。
窮地を乗り越えた後の平和。
仕事の合間を縫っての逢瀬。
ささやかに、けれども確かに交わした愛の言葉。
「なんでそんな顔・・・」
気落ちした様子のカカロにじっと見つめられ、忌炎はうろたえた。
口を噤んでしまったカカロに、哥舒臨は呆れた溜息をつく。
「忌炎。今日は仕事をするなとは言わんが、たまには休んでそいつと会話してやれ」
「・・・わかりました」
カカロは、医学書を読む忌炎のことをじっと見ている。
しばらくの間はその視線を無視していた忌炎だったが、やがて溜息をついて本を閉じた。
「何か用ですか?」
「いや・・・用があるわけでは」
「そうですか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい沈黙。
忌炎は読書を再開しようか迷って、結局やめた。こんなに見つめられていては、本の内容が頭に入ってこない。
話題を無理矢理ひねり出し、カカロに尋ねる。
「ええと・・・カカロさんは傭兵なんですよね」
「ああ。無音区の浄化から、行方不明のペット探しまで・・・報酬さえ貰えれば、何でもやる」
「そう・・・ですか。・・・違法なことでも?」
「違法な仕事はやらない。・・・まあ、犯罪者を殴り飛ばすことはあるが」
それが傷害罪と言われればそうかもな、と肩をすくめながら苦笑するカカロ。
もっと無法者なのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないようだ。忌炎は少しだけ、カカロに対する警戒を弱めた。
ぽつぽつと他愛のない会話をしていた2人の元に、哥舒臨がやってきた。
「カカロ、研究院から連絡があった。忌炎の症状だが、あー・・・外部、なんちゃら共鳴?で元に戻るかもしれないらしい」
「重要なところがよく分からないんだが」
「簡単に言うと、忌炎の周波数を元の形にチューニングしてやればいいらしい。で、そのチューニングができるのは当然、忌炎の周波数をよく知っている人間だけだ」
「なるほど」
カカロは頷いた。その外部なにがし共鳴とやらには心当たりがある。
それはまだ哥舒臨が今州に戻ってきていなかった頃のこと。残像の穢れに呑まれかけた忌炎を、カカロはその方法で救ったのだ。
「チューニング・・・」
哥舒臨の話を聞いた忌炎は、不安げな表情を浮かべていた。
共鳴者にとって、周波数とは重要な意味を持つものだ。それを他人に無理矢理矯正されるとなれば、不安に思うのも仕方のないことだろう。
・・・とそこまで考えて、カカロはふと疑問に思った。
この忌炎はもう共鳴能力に目覚めているのだろうか?彼は以前、『俺が共鳴能力を得たのは比較的遅い年齢だった』と言っていた。
「まあ、チューニングなんぞしなくても治る可能性はあるらしいが。やるかやらないかはお前たちに任せる」
哥舒臨は研究院からの情報をあらかた話すと、また部屋を出ていってしまった。
残された2人はしばし沈黙していたが、やがてカカロが口を開く。
「お前の意思に反してチューニングをする気はない。そもそも、意思に反していたらチューニングは失敗するだろうしな」
「そう・・・ですか。ありがとうございます」
「・・・ところで忌炎、今のお前は共鳴能力を持っているのか?」
「持っていません」
「そうか」
ということは、今の忌炎はただの子供。しかも、兵士ではなく軍医。
多少の剣術と護身術くらいは覚えているかもしれないが、普段の勇猛果敢な将軍殿と比べれば、その戦闘能力は天と地ほどの差があるだろう。
「何かあれば、すぐに俺を呼べ。俺がお前を守る」
カカロの言葉に、忌炎は目を見開いた。しかし、すぐに不満げな表情へと変わる。
「自分の身くらい自分で守ります」
「・・・お前の力を侮っているわけではない。聡明なお前なら、危険を避けるのは容易いことだろう。それでも・・・お前が、心配だ」
カカロは忌炎の傍に近寄ると、そっとその手を取った。
まだ小さい、子供の手だ。皮膚も柔らかくて薄い。戦うことに慣れていないのがよくわかる。
「大切な人を守りたい。そんな気持ちは、お前にも分かるだろう?」
カカロは掬い上げた忌炎の手の甲に、ちゅっと口づけた。
「わ!?」
忌炎の手が、びくっと跳ねる。カカロは潔くその手を離してやると、薄く笑みを浮かべた。
「まあ、そういうわけだ。だからいつでも頼ってほしい」
「・・・っ」
忌炎は頬を薄桃色に染め、カカロに口づけられた場所をもう片方の手でさすっている。そしてぱくぱくと口を開いたり閉じたりした後、「・・・考えて、おきます」と言葉をしぼり出した。
*
その翌日、忌炎は恐る恐るといった様子でカカロに依頼をしてきた。
「北落野原でしか採取できない植物がほしくて・・・ついてきてもらえませんか」
当然、カカロの返事はイエスである。断る理由がない。
それに、他でもない忌炎からの依頼だ。報酬だってもちろん必要ない。
カカロが頷くと、忌炎はやや興奮した様子で喋り始めた。
「まさか北落野原で植物採取できる日が来るなんて。今はもう、残像潮もほとんど起こらないんですよね?俺はずっと、危険な北落野原しか見てこなかったから・・・平和っていいですね」
「ああ。ここ数年で、ソラリス全体が平和になってきている。悲鳴や鳴式は漂泊者によって食い止められ、俺たちは仲間の尊い命を失わずに済む・・・ありがたいことだ」
とはいえ、北落野原に丸腰で乗り込むのはさすがに危険だ。
カカロは念入りに自身の装備を確かめてから、「行こうか」と忌炎に声をかけた。
忌炎は北落野原の地面にしゃがみ込み、植物を丁寧に引き抜きながら半分独り言のような内容を喋っていた。
「この植物は薬になるんです。根の部分は頭痛や炎症などをおさえる成分が含まれていて、花びらの部分は・・・」
彼は事細かに植物の仔細を語ってくれているが、話が進むにつれて医学用語と思わしき単語が増えてきた。医学に詳しくないカカロにとっては、さっぱり意味不明である。
カカロは時折「そうか」などと無難な相槌を打ちながら、周囲の様子を窺った。特段変わった様子はないが、少し空気がピリついている気がする。
残像潮、あるいは無音区?
・・・いや、そこまで不穏な気配ではない。せいぜい、数匹の残像がうろついている程度か。
周囲をぐるりと見回す。──いた。岩場の陰。3体。いや4体か?
「これを煎じると・・・カカロさん?どうかしましたか?」
カカロの殺気を感じ取ったのか、忌炎は不安そうに顔を上げる。そして、カカロが長刃の柄に手をかけているのを見るやいなや、さっと立ち上がって植物と採取道具を袋に突っ込んだ。カカロが走れと言えば、彼はすぐさま走って逃げ出すことができるだろう。
聡明な子だ。カカロは思わず口角を上げた。
「残像が何匹かいるだけだ。お前は気にせず採取を続けていればいい」
「でも・・・」
忌炎の言葉を待たずして、カカロは駆けた。駆けながら長刃を抜き、高く跳躍する。
上から叩きつけるようにして斬りかかれば、残像は耳障りな悲鳴を上げた。
「──壊れろ」
刃を突き刺し、抉り、引き抜いて、斬り払う。
集まっている残像は雑魚ばかりで、まったくカカロの敵ではなかった。30秒もかからず残像を倒した彼の元に、遅れて忌炎が走ってくる。
「もう終わった」
「ケガはありませんか?」
「ああ。問題ない」
カカロは長刃を素早く振ってから、腰に収めた。残像相手の場合はこのような血払いの動作は必要ないのだが、つい癖でやってしまう。
忌炎はカカロの周りをくるりと一周して本当に怪我がないことを確かめると、安心したように息を吐いた。
「カカロさん、強いんですね・・・!」
忌炎はキラキラした目でカカロを見つめている。その様子はまるで、幽霊猟犬に入団したばかりの子供のようだった。
カカロは微笑ましい気持ちになりながら、忌炎の頭を撫でる。
「強くなくては、お前の隣に並び立てないからな」
「・・・未来の俺は、ちゃんと強くなれていますか?将軍として、責任を果たせているんでしょうか・・・」
そう言いながら、不安げに眉を寄せる忌炎。いかにも責任感の強い彼らしい言葉だが、細かいことを気にしすぎるのはあまり良くない癖かもしれない。
今この時ばかりは、将軍の座という重荷のことは忘れて、屈託のない気持ちで過ごしてもいいのではないだろうか。
「ああ。お前は将軍としてよくやっている。戦闘能力も知略も申し分ない。働きすぎるのが玉に瑕だが」
冗談めかして言うと、忌炎はくすくすと笑った。年相応の笑顔に、自然とカカロの頬も緩む。
やはり、しかめっ面よりも笑顔の方がいい。
*
北落野原から帰ってきた忌炎は、さっそく植物から薬を作ると言って医務室へと行ってしまった。
ワーカホリックな気のある忌炎のことだ。きっとろくに休憩も挟まず、やりたいことを全てやり終えるまで熱中してしまうに違いない。夕食まであと2時間もないが、食堂まで食べに来るかも怪しいところだ。
カカロは食堂のキッチンを訪れると、調理担当の夜帰兵に断りを入れ、料理を作り始めた。
医務室の扉をノックし、中に入る。
近頃は負傷者がめっきり減ったせいか、医務室には忌炎しかいなかった。彼はじっと何かの本を読んでいる。
「忌炎」
「・・・・・・」
「忌炎」
「・・・あ、すみません。何か用ですか?」
二度呼びかけて、忌炎はようやく反応した。
没頭しやすい性格なのは知っていたが、大人の彼はもう少し機敏に反応する。若さゆえの集中力、だろうか。
「もう夕食の時間を過ぎている」
「ああ・・・えぇと・・・」
忌炎は気まずそうに頬を掻いた。あまり良くないことをした自覚はあるようだ。
大人の彼は、悪びれずに「問題ない」などとのたまうような男であるから、それと比べれば随分とマシな反応だろう。
「そうなるだろうと思って、お前の分を取り置いてもらっている。食堂に行くぞ」
「う、でも、もう少し、」
「どうしても中断できない作業なのか?」
カカロは忌炎の目をじっと見つめた。
どうしてもと言うなら、待ってもいい。だが、そうでないなら引きずってでも食堂に連れていく。
そんな意思を感じ取ったのか、忌炎は明後日の方向に視線を逸らした。
「・・・中断できます」
「よし」
夕食用の料理はカカロによって温め直され、ほかほかと湯気を立てていた。
忌炎は「いただきます」と手を合わせてから、料理に手をつける。カカロも彼の向かいに座り、同じ料理を食べ始めた。
今日のメニューは、白米、チキンソテー、野菜炒め、コーンスープ、それから豆と魚の煮込みもの。いつもより、少し豪華な食事だ。
忌炎はやや不思議に思いながらも、ぱくぱくと勢いよく食べ進めていく。集中している時は空腹なんて気にもしていなかったが、こうやって食べ始めるとさすがに空腹を認識させられる。
夢中で食事をする忌炎のことを、カカロは慈愛の眼差しで見ていた。
カカロは、食事を終えて茶を飲んでいた忌炎に話しかけた。
「まだ胃に余裕はあるか?軽いデザートがあるんだが」
「はい、まだ食べれますけど・・・デザート?」
忌炎が頷くと、カカロは立ち上がってキッチンの奥の方へと入っていった。
少しして、2つの皿を持って戻ってくる。
「カスタードプリンだ。かなり甘さを抑えて作った。もう少し甘くしたいと思ったら、このメープルシロップをかけてくれ」
皿の中央には、ふよふよと揺れるプリンがのせられている。受け取ると、その皿自体がよく冷やされていることがわかった。
プリンの隣にはスプーンと、メープルシロップ入りの小さな容器も添えられている。
「これ・・・カカロさんが作ったんですか?」
忌炎は尋ねつつ、スプーンでプリンをすくい上げた。そのままぱくりと口に含む。
おいしい。
カカロの言葉通り、甘さ控えめだ。ちょうど、忌炎好みの味だった。
「ああ。お前に食べさせてやりたいと思って」
「俺に・・・どうして」
忌炎はメープルシロップの容器を持ち上げ、ほんの少しだけプリンの上に垂らした。せっかく用意してくれたのだし、まったく使わないというのも何だか申し訳なかったからだ。
カカロは誤魔化すように微笑むと、「もう使わないなら俺がもらおう」と手を差し出す。
容器を渡すと、彼は中のメープルシロップを全て自分のプリンにかけた。あんなにかけて、甘ったるくないのだろうか。
忌炎はもう一口、二口、プリンを口に運ぶ。
カカロは質問に答える様子がない。
「・・・もしかして、さっきの夕食・・・カカロさんが作ったものが混じっていましたか?」
「さあ。どうだろうな」
「どうしてはぐらかすんですか」
忌炎は鋭い口調で尋ねる。作ったなら、作ったとそう言えばいいのに。
カカロの曖昧な態度は、なぜだか忌炎を苛つかせた。別にそこまで怒るようなことでもないはずなのに、どうしてだろう。
「・・・そう怒るな。誤魔化して悪かった。なんというか・・・俺は、そういう言葉を口にすることに慣れていないから。気恥ずかしいというか・・・」
「・・・つまり?」
カカロの言葉は要領を得ない。忌炎が続きを促すと、彼は何度か頷いた。
「ああ、つまり・・・だな。・・・お前のことを愛している」
「え、」
まっすぐに見つめられたまま告白され、忌炎はうろたえた。
いや、なんとなくそんな気はしていた。していたのだけれど、急にそんな、ストレートな言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。
カカロは忌炎の動揺に気付いているのかいないのか、さらに言い募った。
「お前の身を守りたいと思うのも、こうして料理を作るのも、お前が大切だからだ。・・・これで、回答になっただろうか?」
「あ、あの・・・はい・・・」
カカロと視線を合わせているのが恥ずかしくなって、忌炎は手元のプリンに視線を落とした。
甘さ控えめの、プリン。忌炎好みの。
それは紛れもなく、カカロの愛が込められたものだった。
「・・・っ」
恥ずかしい。聞くんじゃなかった。せめて、これを食べ終わってからにすべきだった。
後悔するが、もう遅い。
「食べないのか?」
笑い混じりの問いかけが降ってくる。
忌炎はのろのろとスプーンを動かし、プリンをすくい上げた。
「た、食べます」
ぱく、と口に含む。
メープルシロップがかかっていないところを食べたはずなのに、それはなんだかさっきよりも甘い気がした。
*
それから丸一日、忌炎は悩んだ。そして悩んだ末に、決断した。
今夜、カカロにチューニングを試してもらおう。
これ以上、自身が果たすべき責務を哥舒臨に押し付けたままではいられない。
それに、カカロなら。あの強くて優しい人になら、この心身を預けられる。
夜も更けてきた頃、忌炎はカカロに貸し出された部屋を訪ねた。
「忌炎?どうした、こんな時間に」
カカロは不思議そうにしながらも、忌炎を部屋に招き入れる。
「眠れないのか?」と尋ねるカカロに首を振り、忌炎は切り出した。
「チューニングを、試してくれませんか」
「・・・わかった。じゃあ音痕が見えるように、服を・・・いや、まだ無いんだったな。一応、音痕の位置を気にした方がいいんだろうか・・・」
考え込むカカロに、忌炎は尋ねる。
「俺の音痕はどこに出るんですか?」
「うなじから背にかけて」
「わかりました」
忌炎は頷き、上に着ていたシャツをがばりと脱いだ。
カカロは少し焦った様子を見せたが、無視してその手を取る。
「お願いします」
「・・・それだと寒いだろう。それに、立ったままやるのも疲れる。ベッドに行こう」
「はい。どこででも大丈夫です」
カカロの言葉に頷いた忌炎は、自らベッドへと向かった。
背後のカカロが「やましい気持ちはない・・・」と言い訳がましく呟いたのが何だか面白くて、思わず笑みを浮かべる。
「ふふ、わかってますよ」
忌炎の体を毛布で包んだカカロは、その小さな体を抱きしめたままベッドに横たわった。毛布の隙間から手を差し込み、忌炎のうなじに這わせる。
「っ、ふふ、くすぐったい」
カカロの胸元で、忌炎がくすくすと笑う。カカロは妙な気持ちになりかけたが、いやいや相手は子供だぞと自分に言い聞かせて平静を保った。
手のひらから伝わってくる忌炎の周波数に集中する。
・・・普段とは、大きく異なる周波数だ。時間をかけてゆっくりとチューニングしてやらないと、忌炎の体が保たないかもしれない。
「少しずつやっていこう。途中で寝ても構わない」
「はい」
カカロは手に意識を集中させ、忌炎の周波数を引っ張り上げるようなイメージを強く思い浮かべた。
少しずつ、少しずつ。慎重に。壊さないように。
「・・・ん、っ」
忌炎が小さく声を上げる。大丈夫か、と尋ねると、彼は小さく頷いた。
「はい、なんだか温かくて・・・少しぴりぴりするけど、大丈夫です」
「そうか。痛くなったり、何か異常を感じたりしたらすぐに言ってくれ」
「はい」
しばらくチューニングを続けていると、忌炎の呼吸が荒くなってきた。
ふぅ、ふぅ、と大きく息を吐き出し、頬を赤く染めている。
「暑いか?」
「・・・すこ、し。でも、つらくはないです。・・・順調、ですか?」
「ああ。元の周波数にかなり近づいてきている。もう少しだ」
「・・・もう、いっそ一思いに、やってください」
忌炎の言葉に、カカロは苦笑した。
彼は時々、こうしてひどく雑な提案をすることがある。案外短気というか、力業を好むというか。
「駄目だ。リスクが高い」
「・・・わかりました」
「ゆっくりやろう。時間はたくさんある」
それから少しして、カカロはチューニングをしていない方の手で忌炎の頭をぽんぽんと叩いた。
「忌炎。あとほんの少しでチューニングが終わる。準備はいいか?」
「はい、いつでも大丈夫、です」
「よし」
カカロは意識を集中させ、忌炎の周波数をぐっと引っ張り上げた。
細部まで、ずれがないように。お前の形は『これ』だと分からせるように。
「う、・・・っ」
「・・・忌炎、分かるか?この周波数だ。これが、成長したお前だ」
「はい、わかり、ます。・・・少し、変な感じはします、が・・・大丈夫。少しずつなじんでいる、と思います」
「そうか。なら、もう少しこのままでいよう」
しばらくそうしている内に、忌炎の呼吸が落ち着いてきた。頬の赤みも引いている。
カカロは声をかけようとして口を開いたが、結局何も言わないまま口を閉じた。いつの間にやら、忌炎が寝入ってしまっていたからだ。
「おやすみ、忌炎」
忌炎の額に、ちゅっと口づける。
その小さな体を丁重に毛布で包み直した後、カカロも目を閉じた。
明日は、元の体に戻った忌炎に会えるだろうか──。
*
「おはよう、カカロ」
目を覚ましてすぐ、カカロは忌炎の声を聞いた。その声に幼さはない。大人の声だ。
「!」
がばりと起き上がる。
カーテンから差し込む朝陽の中、忌炎ははにかんだ笑みを浮かべていた。
「ここ数日、迷惑をかけたな。だが、もう大丈夫だ」
「そうか・・・よかった」
安堵の息を漏らすカカロの頬に、忌炎の手が触れる。カカロが目を閉じると、やわらかな口づけが降ってきた。
ちゅ、ちゅう、と可愛らしい音を立て、お互いの唇をやさしく吸い上げる。それは肉欲を煽るのではなく、慈しむようなキスだった。
ふ、と湿っぽい吐息が口元にかかり、忌炎の顔が離れていく。
カカロが目を開けると、彼は先ほどとはやや異なる種類の笑みを浮かべていた。金色の瞳があまくとろけて、きらきらと光っている。
「前から思ってはいたが・・・お前はいい男だな、カカロ」
「なんだ、急に」
「簡単に言うと、惚れ直した。強くて、優しくて、おまけに料理もできて・・・いい彼氏だ」
忌炎はそう言うと、カカロの頭をわしゃわしゃと撫でた。まるで大型犬を撫でるような手つきだが、カカロは結構それを気に入っている。
「ああ、そうだ。俺のために夕食に一品追加してくれただろう?豆と魚のトマト煮込み。美味しかった、ありがとう」
「・・・どうして、俺が作ったと分かった?」
「俺好みの味付けだったから」
「・・・そうか」
味付けを褒められ、カカロは素直に喜んだ。忌炎のことを思って作った甲斐があるというものだ。
忌炎の後頭部に手を回し、引き寄せて、もう一度キスをする。
「ん、っ・・・」
可愛らしい子供の姿も悪くはなかったが、やはり大人の姿の方がしっくりくる。
彼が元に戻って、本当によかった。
口づけながら、ぎゅうと強く忌炎を抱きしめる。お返しとばかりに抱きしめ返されることが、なんだか嬉しくてたまらなかった。
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