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マエバ・セイボスキー
2025-06-16 18:25:40
1915文字
Public
パーバソ
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熱砂にのまれて─白亜の紳士は甘いブラウニーがお好き─
無配したパーバソ。現パロ。ドバイの空港で出会うはなし
ドバイ国際空港。
世界一位の旅客数となったこともある、中東への玄関口とも言えるこの国際空港のターミナル3で、バーソロミュー・ロバーツは途方に暮れていた。
屋内にもかかわらず生い茂る椰子、流れる川、ささやかな瀑布、流石と言わざるを得ないが、バーソロミューは今豪華なターミナルを満喫するどころではなかった。
到着するまでは、デューティーフリーショップ限定のゲランで香水瓶を選んでみようかな、とかジミー・チュウがいくらで買えるのだろうかとか、夢を膨らませていた。
その胸の内に膨らんでいた夢や希望は、飛行機を降りた瞬間に一瞬でしぼみきった。
荷物がない。
幸いパスポートと財布は機内持ちこみをしていたので問題はなかったが、それ以外には何もなかった。
バーソロミューは、こういったアクシデントへの適応力はある方だ。
買えるモノは現地で買ってしまえば良いと切り替えることも出来るし、その財力もある。
ただ、ひとつのことだけが、バーソロミューを落ち込ませ、座り込んだベンチから立ち上がることを阻んでいる。
荷物の中には、小さな熊のぬいぐるみが入っていた。小さくともかさばるので、機内に持ち込まなかったのだ。
大切なぬいぐるみだった。あれだけは、もう買うことは出来ない。
「
……
」
荷物が見つかる可能性はある。
スタッフによると、恐らくトランジットの荷物に紛れて出国してしまった可能性が高いとのこと。
滞在先は伝えてあるので、見つかればすぐに手配される。けれどもし、みつからなかったら。
鉛でも撃ち込まれたような気分だった。
深くため息をつく。
悲しい。
組んだ己の指を無意味に眺め続けて、そろそろ小一時間経つ。いい加減、エスコートサービスを再手配しなくては。
「失礼」
視界に、ぴかぴかに磨かれたプレーントゥが入り込む。
先端に行くに従い、グラデーションに濃くなっていく上品な革。それだけで上流階級を感じさせる美しいつま先。
「先ほどからそうされていますが、お加減でも?」
控えめな声、お手本のようなクイーンズ・イングリッシュ。
バーソロミューもなるべく美しい文法で喋ることを心がけているが、それは大人になって学んだものだ。恐らく、この声の持ち主は違う。
バーソロミューは、そろりと顔を上げた。
鞄とともに失くした熊のぬいぐるみは、白くてふわふわしていて、首に橙色のリボンをしている。青い目をしたそのぬいぐるみの名前は、
「
……
パーシィ」
「?ええ、はい、どこかでお会いしましたか?」
男は、穏やかに笑み首を傾げた。
「あ、ああいや違う、すまない、しりあい、に似ていたものだから」
そこには、大きな男が立っていた。
ライトグレーのスリーピース、橙色のタイ、ミスト・ホワイトの髪、完璧な弧を描く胸元をみるに、スーツは間違いなくオーダーメイドだ。
そして、バーソロミューを心配そうに見つめる、セレスト・ブルーの瞳。
バーソロミューの頭の中に、薄れかけた思い出が蘇る、幼かったあの日。
行きたくないと涙しながら、それでも気丈に振る舞っていた姿。
大きな青い目は溶けた飴玉みたいに揺れて、小さな熱い手が、バーソロミューの手を握った。
『いつかむかえにくるから』
それまできっとこの子がバーティをまもってくれるから、と差し出されたぬいぐるみ。
そうしてその子は、ぴかぴかの大きな車に乗って行ってしまった。
結局、あれから二度と会うことはなかったけれど、バーソロミューはそのときに貰ったぬいぐるみにその子の名前をつけて、お守りのように大事にしていた。
パーシィをみると、きっと今でも、自分を想ってくれる相手が、世界のどこかにいるのだと思えた。
けれど、それも愚かなミスでいなくなってしまった。バーソロミューは今、孤独の中にある。
だから、目の前の立派な紳士を見て、ぬいぐるみに似ているなどと思ってしまったのだろう。
「本当に、大丈夫ですか? よければ、表に私の車が来ているはずだから、病院へお連れしましょうか」
「いや、結構。お心遣い感謝する、長旅に少し疲れただけだから大丈夫」
「そうですか、問題無いならよかった」
紳士は、それ以上しつこくするようなこともなく、爽やかに笑い、実にスマートに去って行った。
バーソロミューは、離れていく大きな背中を見送りながら、ため息をついた。脱力して、深く背もたれに寄りかかる。
「バイバイ、私のかわいいパーシィ」
遠く、どこかの飛行機が飛び立つ音が聞こえる。
バーソロミューはこのとき、人生を変える再会が待っていることなど、少しも想像していないのだった。
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