今年もこの季節がやってきた。グリダニアのミィ・ケット野外音楽堂に愛の伝道師たちが訪れて、盛大なイベントが開催される。街中が可愛く飾り付けられ、どことなく浮き足だった人たちの姿が見える。
ヴァレンティオンデー、愛を伝える日。
一年のうちでもっとも甘い、恋の季節。
今年もまたイベントの手伝いをしていたらしい英雄と呼ばれる彼女は、その日の午後になってから、オールド・シャーレアンのバルデシオン分館を訪れた。
去年と同じ、チョコレート色の衣装を身につけ、両手に大きな荷物を抱えて。
「ハッピーヴァレンティオン!」
そう言いながらクルルとオジカに、二種類のチョコレートを渡す。
「ありがとう、頂くわ」
「俺までいいの~?」
「いつもお世話になってるから感謝の気持ち」
そう言って彼女は微笑む。彼女曰く、調理師ギルドのマスター・リングサスがグリダニアに売り込みに来ていたのがこの二種類のチョコレートらしい。それを大量に買って、世話になった人たちに配ってまわっている、ということだった。
あとはアルフィノやアリゼー、もしかしたらエレンヴィルやウクラマトにも渡してきたのかもしれない。
「グ・ラハは……」
ちらりとクルルたちの方を伺って、それから彼女は言った。
「ちょっとナップルームに来てくれる?」
「え? ああ」
平静を装って返事をするが、クルルとオジカの笑う顔がはっきりと見えた。
いや、もう、彼女と恋仲なのは周りみんな知っていることだけれど。
彼女が使用している部屋に行くと、二人と同じチョコレートの他に、もう一つ小さな箱を渡された。
「グ・ラハには特別だよ」
中身はハートの形をしたチョコレートのケーキだった。
「ありがとう。すげー嬉しい」
彼女の想いが込められたものなら、なんだって嬉しいけれど。
特別、ということがなによりも嬉しい。
「オレからも、あんたに」
そう言って渡した包みの中身は、ラストスタンドで売っていた、珈琲にもよく合う丸い形のチョコレート。
彼女は包みを開けると、花開くような笑顔を見せてくれた。礼を告げて、それから一粒口に放り込む。
「わ、美味しい」
蕩けるような彼女の笑顔を見ているうちに、ふと湧き起こる衝動。
そのまま身を任せて、彼女の頬に触れ、そして。
「……!」
二つ目のチョコレートが口に放り込まれる前に、彼女の唇を塞いだ。そのままぺろりと舌で舐めると、甘い香りと味がする。
「はは、チョコの味、だな」
「当たり前でしょ! もう……」
怒ったような呆れたような真っ赤な顔をして、彼女は指先で摘まんだチョコレートに視線を落とした。食べようとしたのに食べ損ねたらしい。今食べたらどうしたって思い出すだろう。
「責任とってよね!」
そう言いながら、彼女の手からグ・ラハ・ティアの口にチョコレートが放り込まれる。
「ん、美味い」
思わず口元が緩む、そのまま彼女を見つめていると、彼女は怪訝そうに首を傾げた。
「あんたから食べさせて貰えるなんて幸せだなー」
大仰に告げれば、今度こそ彼女は返答する言葉を失ったのか、真っ赤になったまま顔を覆ってしまった。
別にからかっているつもりではなく、本心なのだけれど。
さて、あまり長居しすぎてはあの二人に何を言われるかわかったもんじゃない。
「また、あとでな」
そう告げると、彼女はこくこくと頷いて、手を振ってきた。
彼女はまだ、しばらくこの部屋にとどまることになりそうだった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.