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片桐 遊奈
2025-06-15 23:59:44
3893文字
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ゆめくろ
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【ymkr・クーエマ】あなたに捧げる愛の日に
・夢の始まりクーヘンのシナリオネタバレ有り
・愛の日が夢100仕様のIFです。
愛の日には感謝を込めて贈り物を。そんな宣伝文句が街を賑わせる季節。
日頃の感謝を伝えるのには良い機会だからと考えてみたものの、お世話になっている人はあまりに多くて。一人一人にプレゼントを選んでいては時間もお金もかかってしまうので、大量に用意できて平等に渡せそうなもの、と考えた末にエマが選んだのが手作りのチョコレートだった。
食べ物であれば後に残るわけでもないし、受け取る方も気楽だろう。
なにより、チョコレートを選んだのは多少の自信があったから。
美食ギルド・ガストロノミーのマイスター、ショコラティエのクーヘンの元で短期間とはいえ弟子入りをし、未熟ながらも彼やオスカーに認められるだけのものを作れたことは、エマにとって貴重な経験だった。
それに、エマ自身がチョコレートが好きだというのも理由の一つだ。特にクーヘンの作るチョコレートは、本当に美味しくていつも自分を幸せにしてくれる。もちろん、本職の彼には遠く及ばないけれど、いつも頑張っているマイスターたちに少しでも幸せな時間を提供できたら、という想いに変わりはない。甘い物はリラックスできるとか、気分転換には最適だろう。
今はレコルドにいて月渡りのキッチンを占拠しているけれど、愛の日本番はディレッタントのガストロノミーに仕事に行くことになっている。
ギルドキーパーの仕事の合間をぬって材料やラッピングに必要なものを集め、半日の休みを利用してまとめて調理した。
すぐに会える人たちばかりではないので、直近で会えそうな人の分だけだけれど。それでもできあがった時には山のようなチョコレートができていた。
作ったのはシンプルなトリュフ。味はスイートとビターを用意した。
テンパリングはチョコレートの種類によっても違うと、クーヘンにひたすらたたき込まれたからしっかりと身についている。彼に教えられた時に使っていたのと同じ材料が手に入ってよかった。なめらかなチョコレートはそれだけでも美味しいけれど、形を作ってココアパウダーで飾り付ければ更に美味しくなる。
一つ一つ、気持ちを込めて作り上げていく。一通り箱につめて、それからエマはまだ手をつけていない材料に手を伸ばした。
少し早いけれど、と月渡りのメンバーやギルド連盟本部の人たちに渡したら、みんな美味しいと言って喜んでくれた。褒めてもらえたことも嬉しいけれど、気持ちが伝わったこと、口にした時の幸せそうな顔を見られたことが一番嬉しい。
ガストロノミーの人たちも喜んでくれるかな、と期待を胸にギルドへと向かった、当日。
「オスカーさん、今日はよろしくお願いします」
「あぁ、期待している」
「それから、あの、ささやかですがいつもお世話になってる感謝の気持ちです」
「ほう」
ラッピングした箱を渡すと、オスカーは目を細めた。
「お前の心遣いに感謝する。あとでゆっくり頂くとしよう」
そうしてオスカーは、すぐに視察へと出かけていった。
エマの本日の仕事は舞踏会のホールや、販売の業務だ。すぐに着替えて、店にでる支度をした。
「わぁ、素敵!」
「どれも美味しそう。贈り物と自分用と両方買おうかな~」
ショーケースにならんだチョコレートは、繊細な模様や飾りが施され、色とりどりの宝石のように輝いている。楽しそうにそれを選ぶ人たち、その幸せそうな顔を見ていると、急に不安に駆られてしまった。
クーヘンが作るチョコレートは一流品だ。ただでさえ自分のものは見劣りするだろうに、もう一つ肝心なことを忘れていた。
ショコラティエのクーヘンは一年中チョコレートを作っているが、この時期は特に作る量が多いのだ。毎日朝から晩までチョコレートと向き合っているのに、貰っても嬉しいと思えるだろうか。
不安が一つ生まれると、それはだんだんと大きくなっていってしまう。
お客さんの幸せそうな笑顔を見れば見るほど、裏腹に心の奥が曇っていくようだった。
仕事の間は笑顔で乗り切ったけれど、終わっていざ渡そうと思うとどうしても気が引けてしまった。
チョコレートがまだ残っている袋を抱え、エマはため息をついた。
「エマちゃん、どうしたの?」
うつむいていると、キュイに声をかけられた。
「あ、その
……
」
「忙しかったから疲れちゃった? それとも何か悩みごと?」
心配そうにキュイがのぞき込んでくる。近くにいたリッシュもこちらに寄ってくる。クーヘンは厨房にいるからここにはいない。エマは慌ててかぶりを振った。
「ううん、違うの。その、愛の日のプレゼントを、みんなに用意したんだけど。なんだか、ずっとクーヘンのチョコレート見てたら恥ずかしくなっちゃって」
エマは一瞬迷ったけれど、心配して声をかけてくれたキュイに嘘をつくこともできなかった。
「えっ、それって」
エマは荷物から小さな箱を取り出して、キュイに手渡した。
「みんなにはお世話になってるから感謝の気持ち。口に合えばいいんだけど」
キュイはその小さな箱を見つめ、柔らかな笑顔を浮かべた。
「エマちゃんの手作り? すごく嬉しいよ、ありがとう」
続いて、リッシュの方にも箱を手渡す。手を触れないように、ほんの少し離れ気味で。
「少しだけど、リッシュもいつもありがとう」
「ありがとう
……
ございます」
しかし受け取ったリッシュは少し困ったような顔で告げてきた。
「二人に渡すのも恥ずかしいんだけどね。クーヘンのチョコレートに慣れてるだろうし」
そう告げると、キュイとリッシュは顔を見合わせた。
「クーヘン兄さんのチョコレートが素晴らしいのは今更ですが。だからといって、あなたのチョコレートの価値が落ちるものではないでしょう」
「そう、こういうのは気持ちでしょ」
「貰えると思っていなかったので、すみません。用意がなくて。チョコレートに合うワインでもあけましょうか」
そう言って、リッシュはワインを取りにいった。
「エマちゃん、今日はもう遅いから。明日の朝食、楽しみにしててね」
そうして、三人で仕事終わりのチョコレートとワインを少しだけ楽しんだのだった。
そして、ささやかな時間が終わって、部屋に戻る。
結局渡せずじまいだった箱を抱えていると、部屋がノックされた。
「はい」
慌ててあけると、そこにいたのはクーヘンだった。心臓がどくんとはねる。
「お前、チョコレート作ってきたんだって?」
「えっなんで知ってるの」
「リッシュから聞いた」
部屋に戻る直前まで一緒にいて、別れてからは時間が経っていないのに。ワインを取りに離れた時だろうか。
「で、俺には?」
「だって
……
クーヘンに渡すのは恐れ多いというか」
「弟子入りしたときにさんざん試食してるだろ。それに、お前の腕前は認めてる」
「それでもなんだか恥ずかしいんだもん」
「オスカーにも渡してたんだろ」
クーヘンは溜め息をついた。
普段から美味しいものを食べ慣れているオスカーに渡すのも緊張はしたが、それでも世話になっている彼への感謝の気持ちなのだ。
ただ、その、クーヘンは。
「本当は
……
特別なの、用意してて。でも、みんなに渡したのと違うから、どうなのかもわからなくて、だから」
「いいから。食わせろよ、お前のチョコレート」
それでもエマが首を振っていると、クーヘンはにやりと笑みを浮かべた。
「嫌なら、代わりにお前を食うけど」
「待って、なんでそんな話になるの!?」
「俺だけプレゼントなしは酷いだろ? それとも、俺には伝える感謝もないのか?」
本当はそんなこと思ってなさそうな顔でしれっと意地悪なことを告げてくる。
かと思えば手をとられて指先に口づけられ、エマはびくりと身をすくめた。
「わかった、わかったから
……
!」
観念して箱を渡すと、エマは安堵の息をついた。
「へぇ、シンプルだけど工夫してきたな」
ココアで包んだものだけではなく、ドライフルーツやナッツを乗せてみたりしている。
あとは、形がハートになっているものもある。これは、これだけはクーヘンにだけ特別だ。
「頑張ったな」
予想外の言葉に、エマはぱっと顔をあげた。
「そりゃ、うちの店に出せるかっていったらまだまだだけど。そこらの店には負けてない」
遠回しな褒め言葉だが、クーヘンの顔には優しい笑みが浮かんでいる。
「何より、お前が、俺のためだけに作ってくれたんだろ? 嬉しいに決まってる」
箱に残っているチョコレートを、目を細めて見つめている。ここにあるのは、他のみんなと同じものだけじゃなくて、正真正銘、クーヘンのためだけに作ったもの。
感謝と、心からの愛情を込めて。
「お前はもっと自信持て。気持ちも努力も、ちゃんと伝わってるから」
「うん
……
」
クーヘンは箱を仕舞うと、エマの身体を抱き寄せた。
頬に口づけられ、エマは慌てて身を捩る。
「ちょ、ちょっとまって、チョコはあげたよね?」
「それとこれとは話が別だろ?」
「別じゃないよ!?」
至近距離まで近づいてくる顔を、無理矢理手で押しとどめる。端正な顔が間近に迫っていて心臓に悪い。
「お前は味見させてくれないの?」
「味見って」
エマは一瞬言葉を失ったが、すぐに視線を反らして小さな声で答えた。
「だったら
……
最後までちゃんと食べてよ
……
」
クーヘンはぱちりと目を瞬かせ、それから笑った。
「了解。俺の全力で甘やかしてやるよ」
そうして言葉通り
……
甘い愛の日の夜を過ごすのだった。
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