293_tora
2025-06-15 23:45:39
2687文字
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Some One_ステルベル・ホース

【ステルベルの生前について】

ステルベルは両親と貧しいながらも温かい暮らしを送っていました。
慎ましい田舎町で父は農作業に勤しみ、母は機織りの音を響かせ、穏やかな日々が流れていました。

ステルベルは小さな体に活力が満ち溢れる、まさにやんちゃ盛りの女の子でした。
朝は太陽が昇ると同時に跳ね起き、寝癖をそのままに家を飛び出します。

露が残る草むらを走り回り、畑仕事をする父の周りを駆け回っては、水筒の水をこっそり拝借して喉を潤していました。父の邪魔をしては優しい小言を言われることもありましたが、彼女の目はいつも好奇心と遊び心に満ち溢れ、小さな村の隅々までが、彼女にとって尽きることのない遊び場でした。
彼女は母の機織り作業を真剣な眼差しで見つめ、ときには小さな手で糸巻きや糸通しを手伝いました。その手つきはまだおぼつかなかったものの、真剣に取り組む姿は母を笑顔にさせました。

「将来は領主さまが着るような、綺麗なドレスを作る仕事がしたいの!」

「きっとラナにも似合うよ。ラナのドレスも、いつか作らせて欲しい!」

当時の彼女は将来の夢を幼馴染に語りました。その言葉には、小さな体いっぱいの希望と、故郷の自然のように伸びやかな心が込められていました。

​──
7歳

前触れはありませんでした。
家に戻った彼女の目に飛び込んできたのは、変わり果てた両親の姿でした。
温かかったはずの彼らが、冷たく動かない「もの」になっていたのです。
幼い彼女の心に、死への強い恐怖心が刻み込まれるには十分すぎる出来事でした。

本来、「人類断捨離計画」の対象者となったのは一家3人でした。彼女は殺戮の惨劇から奇跡的に免れ、たった一人の生き残りとなってしまったのです。

​──
8歳

両親を失い絶望の淵にいたステルベルを救い上げたのは、遠い親戚にあたる女性でした(以降、義姉と記載)。
最初は心を閉ざし塞ぎ込んでいたステルベルでしたが、義姉の分け隔てない愛情と献身的な世話によって次第に心を開いていきました。貧しい生活は変わりませんでしたが、義姉は実の子のようにステルベルを慈しみ、彼女の小さな世界に再び光を灯してくれたのです。

そして、2人の暮らしに慣れた頃。星空がいっとう輝く日でした。まるで夜空の秘密を教えるように、義姉は話し始めました。

「人の体は土に還って、心はお星様のところに還ると言われているの」

「あなたの両親もね、今はあの満点の星空で輝いているお星様なんだよ」

義姉はそっとステルベルの手を取り、その小さな手を胸に当てました。

「でもきっと、あなたの両親は、どこか遠い場所から見守っているだけじゃないんだよ」

「ステラ、あなた自身の心の中に、ずっといる」

「いつもあなたの一番近くで、見守ってくれている」

抱き続けた「死」への恐怖は、この温かい言葉に慰められ、薄れていきました。

死んでも離れない。
死んでも、家族同士の永遠の愛は、分かたれることはない。

彼女は夜空を見上げるたびに、そして自分の名が呼ばれるたびに、両親の存在を近くに感じられるようになりました。
​──
10歳

義姉にかけがえのない家族愛を抱いていたステルベルにとって、義姉の婚約者の紹介は大切な宝物を奪われたような衝撃でした。

「わたしのお姉ちゃんを取った……!」

寂しさから、ステルベルは婚約者に対して反抗的な態度を繰り返しました。しかし彼はどんな時も穏やかで、心優しくステルベルに接し、決して彼女を突き放すことはありませんでした。その深い優しさに触れるうちに、ステルベルの頑なだった心は少しずつ解きほぐされていき、やがて彼にも心を開いていきました。

​──
11歳

時が満ち、義姉と彼の婚約者はついに夫婦となりました。それが決定した日の夜、新郎新婦は揃ってステルベルの前に座り、少しばかり緊張した面持ちで、しかし温かな眼差しで、ある願いを告げたのです。

「ステラ、僕たちの子供になってくれないか」

ステルベルを正式に養子として迎え入れたいという、心からの申し出でした。

その言葉には、世間が口にするような「人類の人口増加を防ぐため」といった冷たい大義名分など微塵もありませんでした。
ただ純粋に彼らの心にあったのは、三人で本当の家族になりたいという暖かい願いだけでした。ステルベルは胸いっぱいに温かい光が差し込むのを感じました。彼女は迷うことなくその申し出を受け入れました。

これからは血の繋がりを超えた、正真正銘の家族として、彼らと共に生きていくのだと誓った瞬間でした。

​──
本当のものでなくても、家族の温かみが得られると知っていたからこそ。
ある日親しくなったその人に、君を家族として招き入れたいと提案しました。
​──

13歳

築き上げたささやかな幸せは、再び「人類断捨離計画」によって打ち砕かれました。
不要な人間と判断された一家の元に、拳銃を持った政府の人間がやってきたのです。
死の危険が迫ったその時、義兄はステルベルと義姉を庇うように一歩前に出ました。義姉は実の子を守るかのように、ステルベルを強く抱きしめました。
降り注ぐ弾丸が全てを貫きました。
温かかったはずの家族は、冷たい3つの骸へと変わっていきます。死の淵にあっても、ステルベルの心には不思議なほどの安堵と喜びが広がっていました。最期の瞬間まで、彼女は家族の一員として愛されていたことを実感できたのです。
それは「死」への恐怖を永遠に忘れさせるほどの、深く温かい感情でした。

幸せに包まれる感覚と、数え切れるほどの後悔を胸に、ステルベルは長い眠りにつきました。
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ルルディとして生き返った彼女に使われた花は「ヘデラ」。
ヘデラの花言葉は以下である。

『永遠』
『不滅』
『結婚』
『家族愛』
『永遠の愛』
『死んでも離れない』

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……





…………






………………







……政府の人間が一家の死体を回収する前のこと。

ステルベルと義両親の遺体の前に、フリージアの花が手向けられた。

人造人間ルルディの体を構成したのは主に生命力溢れるヘデラである。
しかし、その場に捧げられたフリージアのわずかな名残が、再構築された彼女の髪に​​──まるで存在を示すかのように、淡い色となって現れていた。

フリージアの花言葉は以下である。
『親愛の情』
『友情』
『感謝』

​──君はまだ、生きている。