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たかせ
2025-06-15 23:35:04
1951文字
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ロウリン小話
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結婚報告
本編ED最後のイラスト後 カラグリアに戻ったロウとリンウェルの小話
※本編ネタバレあり
20240303初出
「親父、ただいま」
乾いた土の上に上等な酒の瓶を置いて、ロウはそう小さく呟いた。
瓶の中で揺れる酒の味を、ロウはまだ知らない。
先日、苦楽を共にした友人たちが結婚式を挙げた。
盛大なものではなかったが、あたたかくて、笑顔に囲まれた、彼らの新しい門出を祝うにふさわしい式だった。
「二人とも、すげえ幸せそうだったぜ」
墓の前にしゃがみ込んだままロウは目を細めてそう告げる。
新郎による入念な婚礼の儀の下調べを元に、仲間達で協力してつくりあげた式。その真ん中で寄り添う二人の姿に視界を滲ませていたのはきっと自分だけではなかったはずだ。
出会ったばかりの頃の彼らを知る父は、生涯を共に歩むと決めた彼らをどう思っただろうか
――
ふと過った考えを問いかけようと薄く開かれた唇は、少しして音もなく閉じられた。
問いかける機会を奪ってしまった一端は自分にある
――
今も胸の奥深いところに刻み込まれているその事実は、時折こうしてロウの口を重くした。
目を閉じて、深呼吸をして。
溢れそうになったものを飲み込んだロウは、もう一度ゆっくりと口を開いた。なるべくいつもの調子で聞こえるように。
「
――
それ、アルフェンから幸せのおすそ分けだってよ。大将
――
あー、テュオハリムが、いい酒だって言ってた」
亡き父に供えた酒は元領将が新郎のためにと選び抜いた逸品らしい。辛口で旨いと喜ぶアルフェンの顔はいつになく締まりがなかったのを思い出す。それを見て窘めているようで、笑顔が隠しきれていないシオンの表情もまた、幸せそうだった。
「また落ち着いたら、二人で挨拶に来るってさ」
そう言って笑顔の2人を瞼の裏にそっと隠し、ロウは静かに手を合わせた。
しばらくして顔を上げたロウは静かにその場に立ち上がった。そのまま視線を階段下に向ければ、別れた時と同じ場所でリンウェルが待っていた。
心なしか心配そうな表情を浮かべて見上げてくる彼女に、ロウは大きく手を振る。
「終わったぜ」
「
……
もういいの?」
「おう」
ロウが頷いたのを見届けたリンウェルは、ゆっくりと階段を上ってきた。彼女が父に向かいあえるようにロウは半身を引いてその場所を譲る。リンウェルは空いたスペースにちょこんとしゃがみ込んで、大事そうに抱えていた小さなブーケを酒瓶の隣にそっと供えた。
「久しぶり、ジルファ」
手を合わせたリンウェルはそう呼び掛けて微笑んだ。
「これね、二人から預かってきたの。白くて綺麗でしょ」
リンウェルが式のためにとアルフェンと見守っていた可憐な白い花。テュオハリムの地の星霊術の力を借り、リンウェルが水の星霊術でここまで鮮度を保ってきたその花は、カラグリアの大地でも見事に咲き誇っていた。
「このお花をつけてたシオンもね、すっごく綺麗だったんだよ。アルフェンったら照れちゃって
――
でも、すごく幸せそうだった」
そう言って、リンウェルは二人から受け取ったブーケを見つめる。
「
……
ジルファはひょっとしたら知ってたかな。カラグリアに咲く幸せの白い花
――
シオンとアルフェンから、ジルファにも、感謝の気持ちを込めて」
リンウェルの細い指が、風に揺れる白い花弁をそっと撫ぜた。
父親の名を口にする少女の傍らでその様子をぼんやりと見下ろしていたロウは、無意識の内に唇を開いていた。
「
――
親父が見たら、何て言ったかな」
先ほどためらったはずの問いかけがするりと口をついて出る。はっとしたように口をつぐんだロウを、リンウェルはしゃがみ込んだまま見上げた。二人の視線が静かに重なる。
悪い、何でもない
――
そう言おうとロウが一呼吸置く間に、リンウェルはさらりと答えた。
「どうかな
……
案外やっぱりな、って言ったかもよ」
「え?」
思わず目を瞬かせて問い返したロウに、リンウェルは顎に手を当てたまま空を見上げて続ける。
「何となく、だけど
……
ジルファはあんまり驚かないような気がするんだよね。いつかアルフェンとシオンが手を取り合って進んでいくって、わかってたんじゃないかなって」
私が勝手にそう思うっていうだけなんだけどね。
自分の知らない父親の姿を、少しだけ知っている少女。彼女の口から語られるその姿は、自然にすとんとロウの胸の中に納まった。
「
……
そっか」
「うん」
視線を戻してやわらかく笑うリンウェルにつられるようにして、ロウも目元も緩ませる。
リンウェルに倣うようにして見上げた空は今日もまだ土埃の舞うくすんだ色をしているけれど。
この空の上で、ひょっとしたら親父は全部お見通しだったのかもしれない。
ゆるく頬をなでた風の向こうに、「お似合いの二人だな」と満足げに笑う父の姿を見たような気がした。
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