【スタゼノ】パーティーの途中で

スタゼノワンドロワンライ 第206回お題「キャンプ」「バーベキュー」
休日にゼノの家でだらだら過ごす二人のもとに、パーティーの挨拶のため隣人がやってくる話。

 昨日は夜中まで散々ゼノとファックしたっていうのに、どういうわけか太陽が登りきっていない時間に自然と目が覚めた。元々眠りが浅い性分だというのもあるのだろう、とも思ったが、それにしてはスマホがさす時刻は遅かった。俺も、日常に疲れていたのかもしれない。最近はずっと新人教育って名の虐待みたいな訓練を指揮していたし、それでこちらも疲弊していたから。
 そんなことを考えているうちに、二日酔いってやつでもないんだろうが頭が痛み、そこに近所の誰かの馬鹿騒ぎが聞こえた。朝早くから街を上げてのパーティーでもあるのか? そろそろ長い夏休みが始まるから、ゼノの買った家の近所の連中が皆キャンプにでも出かけるのか? なんだか香ばしい匂いもするからバーベキューか?
 俺はそんなことを考えつつ、ベッドの上で身体をひねる。まだ手足はだるくて、抱き締めたままのゼノは俺の腕の中で幸せそうにまばたきをしていた。まだ眠ってていいぜダーリンって思って、銀髪が散る綺麗な額にキスをする。昨日は散々した、でも今日一度目のキスをする。
 ベッドの足元にはバドワイザーの瓶が転がっていて、ベッドルームに置かれたテーブルにはTVディナーのプレートが積まれていた。毛足の長い絨毯にはぐしゃぐしゃになった俺の制服、これもまたぐしゃぐしゃになった彼の白衣、それから、俺がほとんど冗談で買って来た、馬鹿みたいな数がまとめられたばらの花束が転がってた。
「ゼノ、起きてる?」
 俺は彼の肩を抱きつつ、愛しい男の背中を軽く叩く。すると彼は眉根を寄せて呻き声を上げ、あと少しって俺にねだった。まるで夜更かししたティーンエイジャーが、朝起こしに来た母親に文句を言うみたいなそれが愛しくて、俺は彼を抱き締めたまま、エアコンで冷えてしまった身体をさすった。
 今日の予定はない。休暇は取っているが、どこに行くかなんて予定は立てていなかった。特に俺たちの記念日でもなかったし、俺としてはゼノとずっとこんなふうにひっついて眠っていたかった。抱き合うと少々暑かったが――季節はもう夏だったので――それでも彼と胸を合わせて眠れるのは、俺にとっちゃあ特別な時間だった。
 でもその特別な時間も、突然のブザーによって遮られてしまった。ブー、ブー、ブー。繰り返し三度鳴らされたそれは、家中に響いて俺たちを起こそうとした。
 俺はそれに身体を起こし、ゼノの肩を叩く。客だぜって、耳元に囁きながら。でもゼノはすぐに起きなかった。やっぱり、あと少しだけ寝かせてってかすれた甘い声で言って俺にねだり、訪問客についてはどうでもいいみたいだった。俺は仕方ないなってため息をつき、急いで制服のスラックスをはき、ベルトを締め、勲章のついたジャケットはそのままに、白シャツを羽織った。ネクタイは締めなかった。休日くらい、窮屈なそれからは解放されたかったので。
 ゼノはぐしゃぐしゃになったシーツの上で、君が出てくれってつぶやきながら寝転がっている。そして俺はこの家の主人に遠回しに命じられるまま、スマホをスラックスのポケットに入れて、客人を出迎えることにした。
「今行く!」
 俺は声を張り上げ、ゼノに軽くキスをしてプリンセスはここで待ってなって額にキスをした。ゼノは笑って、そうするよって言った。そしてまた目を閉じて、シーツに顔を埋めた。
 しかし、こんな時間に一体何の訪問だろう? 理由なんて別にどうだっていいのだが、やはり気にはなった。またブザーが鳴る。ブー、ブー、ブー。しつこいな。こんな朝早くから何だ? ゼノが何かを忘れてるのか? 自治会の集金か? 今、現金の持ち合わせはないんだよな、小切手で大丈夫か?
「待たせてすまなかったな」
 小走りに廊下を行き、薄緑に塗ったドアを開き、鼓膜に残るブザーの音に顔をしかめていると、そこに立っていたのはまだ若い、ハイティーンの少女だった。手には鳥が彫られた木のトレーと、その上に乗った湯気の立つ白い陶器がある。そこから漂う腹に来る匂いに、俺はそういえばまだ朝食を取ってないことを思い出す。
「ウィングフィールドさん? の、お友達? ですか?」
「あぁ、そうだけど? ゼノを起こす?」
 本当は恋人だけどね、って思いながら、俺は扉に寄りかかりながら、ハイティーンの少女を見た。三つ編みにした赤毛は野暮ったく、身につけている服もヨーロッパ式の伝統的なものだ。今日はやっぱりパーティーなんだろうか? 何のためのそれかは知らないが、子供が走り回っているところから見ると、誕生日のための集まりなんだろうか?
「いいんです。お疲れのところすみません……。ただ、ちょっと子供たちがうるさくするから、挨拶をして来いってママが。バーベキューもするし……。お疲れのところすみません。これ、ママが作ったマカロニグラタンです。よかったら食べてください」
 そう言うと、彼女は木のトレーを俺に渡し、俺の顔をじろじろと見た後、どういうわけか顔を赤くして去って行った。それを追うようにひょいと首を出すとここいらに並ぶクラフツマンスタイルの家々は飾り立てられ、庭の花々の周りにバルーンまで転がっていた。やっぱり誰かの誕生日か? って俺は何となく思う。それくらい元気に子供達が走り回っていて、ピエロの宣伝をするバンが隣家の前に停まっていたので。
 俺はトレーをキッチンのテーブルの上に置き、湯気の立つマカロニグラタンを眺めた。腹がぐぅっと鳴ったけれど、これはこの家の主人であるゼノに運ばれてきたものだ。勝手に食うわけにはいかない。でも、味見をするくらいなら? そんなことを考えて、俺は勝手知ったるキッチンの引き出しからフォークを出す。そしてとろけたチーズとマカロニを引っ掛けて、口に運ぶ。玉ねぎ、海老、マッシュルームにパルミジャーノチーズとパン粉、お袋もよく作ってくれた懐かしいアメリカの大衆家庭の味わい。少しチーズが濃いから、ビールが欲しくなる。どうしようか、確かまだバドワイザーが残っていたはずだけれど。
「主人を置いて食事かい?」
 俺が冷蔵庫に向かおうとした時、後ろから声がかかった。それはもちろんゼノで、彼はシャツだけを羽織った姿で俺を見ていた。細い太ももは昨日の情事の跡が残っていて、俺は息を飲みそうになる。でもそれを悟られたくはなくて、俺はあんたってやっぱりセクシーだなって、軽口を叩く。
「マカロニチーズ?」
「そう、赤毛の女子高生が持って来たんだ。俺にウィングフィールドさんの友達? って聞いてたぜ」
 あんたのダーリンなのにな。そう笑うと、ゼノは困ったように俺の肩を叩き、冷蔵庫から冷やした紅茶を取り出し、ピッチャーからグラスに注いだ。
「あんまりからかってやるなよ。あの子はまだティーンエイジャーなんだ、君の冗談はちょっと早い」
「知り合い? 妬けんね」
「隣の家に住んでるってだけさ」
 そう言いながら、ゼノはマカロニグラタンを皿の上に器用に乗せた。そしてそれを俺に差し出し、自分もフォークで食い始める。それは上品な手つきだったが俺たちは立ったままで、とてもじゃないがマナーがなってるとは言いづらかった。でもファックした後の初めての食事なんだ、これくらい下品でもいいだろう? だって、俺たちは昨日、あんなに情熱的に交わったんだから。
「君、ちゃんと襟元を締めなよ」
「どうして?」
「キスマークが残ってるからだよ。それであの子に会ったのかい?」
 え? いつの間にって、俺は思う。あんたが俺にキスマークを? って。
 でも不可抗力だとも俺は思う。あの子ももうティーンエイジャーなんだろう? 俺たちならあれくらいの頃は研究、実験、そして朝までのファックだった。クラスでの話題も、どの女とやったか、具合はどうだったかってことばっかりだった。女の場合は知らないが、きっと似たようなもんなんじゃねぇの?
「君ってもっと自覚すべきだよ。今度から誰かを出迎える時は、ちゃんと服を着るんだね」
 ゼノはシャツを羽織っただけの格好でしかめつらしくそう言って(自分が俺を差し出したっていうのに!)、マカロニグラタンを平らげ、グラスから紅茶を飲み干した。髪はまだ乱れていたが、それを片手で撫でつけると、彼はバスルームに消えて行こうとした。
 ――そういや、まだシャワーも浴びていなかったっけ。ということは、俺は夜の匂いをさせたままティーンエイジャーの少女と会ってしまったってことか? この退屈そうな街で、噂になってしまう? いや、俺たちが長く続いているカップルってことくらい、このあたりの連中は知っているだろうけれども。
「それって嫉妬?」
 俺は冷蔵庫の中のバドワイザーを取り出しながら、動揺を隠しつつゼノにそう声をかける。すると彼はそうだよって笑って、でも気分がいいねって笑って、多分それはさっきの少女に自分の男を見せびらかしたってことで、だから俺も気分が良くなった。
 ゼノはバスルームに消えてゆく。俺は瓶ビールに口をつける。ホップの味がして、喉が心地良い。
 さて、今日はどうしようか。ゼノはシャワーを浴びに行ってしまった。だったら一緒にバスルームにしけ込むか? でもその後はどうする? またベッドルームに行く? それとも、昨日酔っ払って買って来た、あのばらの花束を入れるためのバケツでもインナーガレージの中から探すか?
 俺はそんなことを考え、子供達がきゃあきゃあと叫ぶ声を聞きながら、平凡な幸せが寄り集まったこの街のパーティーを窓から眺める。派手なピエロに子供が集まり、なんと近くには花で飾り立てられたポニーまでいるではないか。子供のために、随分尽くしたものだって思う。
 俺は一度は羽織ったシャツのボタンを外し、とりあえずビールを飲み干し、ポケットに入れたスマホに連絡が来ていないかを確認する。でもそこには上官からのショートメッセージはなく、俺はだから今日はずっとあんたと一緒だって思った。
 ゼノ、今日はずっとあんたと一緒だ。だったらこんな平凡な休暇を楽しまなくてどうするっていういんだって、俺はビールを飲み干し、そのままバスルームに行く。あんたにキスをしたい、あのティーンエイジャーの少女に、今度はあんたの首筋を見せつけてやりたい、俺が跡が残るくらい噛んでやるから、あんたはマカロニグラタンの皿を返しに行く時に見えやしないか、冷や冷やすればいい。
 俺はそんなことを考え、ゼノを追いかける。
 休日はこれからだ、パーティーはこれからだ。子供達のための馬鹿騒ぎに紛れて、俺たちも楽しんでしまおう。キスをして、ファックして、だらだらTVを見て、誰よりもだらしなく過ごそう。それくらいなら、生真面目なゼノでも許してくれるだろう。あの男はああ見えて、俺に甘かったから。
「ゼノ!」
 俺はバスルームの扉を開ける。するとそこには俺を待っていた彼がいる。ぬるい湯が立てる湯気の中にいる、彼がいる。
 俺はそしてそのほっそりとした白い首筋に口付け、甘く甘く噛んでやる。秘密の跡を作って、あんたが明日も俺を思い出してくれるようにって思って、愛しい男に口付ける。
 パーティーはまだ続く。バルーン、ピエロ、ポニー、それから祝いに駆けつけた人々が、騒がしくパーティーを続ける。俺たちはそんな騒ぎの途中で、バスルームの中でいつも通りのキスをする。優しく求め合うように、でも強く噛み付き合うように、そんなキスをする。繰り返し繰り返し、まるでそれだけが挨拶みたいに、ただただキスをする。



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