かん
2025-06-15 18:01:11
6380文字
Public
 

マドンナって、こんなに大変なの?

森田ひかるさん

「ご馳走様です」




〇〇:ありがとうございました


紫色の空が広がる夕方。

今日もこの喫茶でバイトをする。



「次のお客さんでラスト!」


〇〇:はーい、次の方





ひかる:よっ!






〇〇:一名様ですね


ひかる:ねぇ!



いつもの時間、今日も律儀に待ってくれる。

今日は可愛い挨拶をされた、ご機嫌らしい。



ひかる:ちょっと距離感じるんですけども〜


〇〇:それはどう反応したらいいの?


ひかる:そこは一緒によっ!でしょっ!



そんな馴れ馴れしくできない緊張する。



〇〇:やりません


ひかる:むぅ


〇〇:あなたお客さんだから、店長に怒られます


ひかる:確かに、お客さんか笑



口元を抑えて大きく笑うマドンナさん。

そしてそのまま、いつものカウンター席に座る。

相変わらず少し足が届いてないのが可愛らしい。



学園祭まで1週間に迫った放課後。


あの一件以降森田さんはよくこの店に来てくれるようになった。

自分がいる時はいつも来てくれるので、多分毎日来てくれてるんだろう。



ひかる:ねぇ、聞いて!今日の2限の



自分が作っている間ぷんぷん文句を垂れるマドンナさん。


森田さんは最近、自然に喋ってくれるようになった。

マドンナとしてではない、素直な彼女。

彼女自身の話や友達との出来事。

悩みや文句もよく喋ってくれる。

こういう、友達にしか話せないこと。


それを聞いたり話したりできることがすごく嬉しい。



〇〇:あーいるよねそういう人


ひかる:ひどいよ、私別に賢くないのにさぁ


〇〇:前回クラス何位だっけ


ひかる:……31


〇〇:……ふふ


ひかる:ちょっと!?



確かに意外、森田さんはそんなに賢くない。

むしろちょっとうん。



〇〇:ごめんごめん笑


ひかる:笑いごとじゃないよぉ



手で顔を覆って恥ずかしがる森田さん。








彼女を見てまた、別の感情が湧いてくる。



ひかる:そんな言うなら、〇〇くんは?


〇〇:ん?


ひかる:何位?


〇〇:12


ひかる:普通笑


〇〇:いや平均ちょい上だから!


ひかる:普通〜ぶっあっはは!



また謎のツボにハマってしまった。

爆笑するほどじゃないだろ



〇〇:なんで自分より下に笑われてんの


ひかる:ごめんごめん笑





ひかる:はぁ



疲弊し切った表情を見せるマドンナさん。

絶対我慢してるから。

周りには見せないけど。



〇〇:これ、食べてみてほしい



飲み物とお菓子を前に置く。




ひかる:羊羹だ


〇〇:そう、初めて作って



鏡のように綺麗な小豆色。

かなり難しかった




ひかる:いただきます



フォークで四角い羊羹を一口サイズに。

そしてそのままパクっと頬張る。



ひかる:


〇〇:どう?





ひかる:おいひぃ




ほっぺが緩やかに上がるのが見えた。




〇〇:よかった


ひかる:んふふこれ最高



幸せそうに頬張る森田さん。


森田さんを笑顔にできた。

それだけで、努力したものが返ってきた気がする。



ひかる:……んっ、抹茶と合う!


〇〇:よかった


ひかる:〇〇くん


〇〇:ん?






ひかる:あなた天才よ





あまりに真っ直ぐこちらを照らす瞳。

これを向けられて尚、気がない人はいない。





〇〇:全然そんなっ


ひかる:んっ……うまっ


〇〇:おかわりありますよ?


ひかる:えっ!いいんですかお願いします!


〇〇:ふふ……ちょっと待って


ひかる:んふふ



鼻歌を歌いながら足をぷらぷらさせる。

ご機嫌な様子。






烏滸がましい。



マドンナさんとこんなに仲良くなれて

彼女のことたくさん知れて

下の名前で呼んでもらったりして


十分過ぎるくらい恵まれている。

わかってる。




でも、芽生えてきた想い。


もっと知りたい

もっと知って欲しい


他の人と仲良くしてほしくない

その笑顔、他の人に見せたくない


自分だけの大切な人であって欲しい



傲慢だと言われてもおかしくない。

でもその想いを抑えられるくらい大人ではなかった。




彼女を

森田さんを異性として好きだって気づくのに

そんなに時間はかからなかった。









ひかる:あもうこんな時間


〇〇:あ早い



気がつけば閉店まで残りわずか。

部活終わりに来てくれたので、時間か限られる。



ひかる:あーもっと喋りたかったぁ



さらっと、嬉しいこと言ってくれる。

思わせぶりもいいとこだ。



〇〇:


ひかる:って、学園祭までもうちょっと!?


〇〇:うん、早い


ひかる:頑張らなきゃな〜


〇〇:



結局、森田さんはチェキを撮る。

彼女曰く、やる以外の選択肢がない、と。



あの大衆を止められる権力と人望がない。

あんなこと言っといて、結果何もできない罪悪感で潰されそう。



〇〇:ごめん、結局何にもできなくて


ひかる:ううん、話聞いてくれるだけ全然違うから



優しい表情が更にこっちを切なくさせる。



〇〇:でも


ひかる:大丈夫!休憩とってくれるし!






大丈夫、この言葉が嫌いだ。



やりたい、やりたくない。


やってもいい。


相手に委ねる言い方。

自分の意思は捨てたみたいに。


大丈夫、そう言ったってことは、

別に大丈夫ではない。



大丈夫に隠された本心を、見抜ける人間になりたい。

あなたに、大丈夫って言わせないようにしたい。




ひかる:じゃあ、また明日!


〇〇:また明日


ひかる:バイバイ!



相変わらず、大きく手を振るマドンナさん。


でも扉越しに見えるその背中は

いつも以上に、小さく寂しそうだった。







**********************






「じゃあ飾りつけしてこ!」


「こっちでどのコスプレするか決めるから、みんな集まって」


「生徒会室からセロテープ取ってきてくれない?」




学園祭前日、午前中で授業は終わり午後はクラスで準備する。


わちゃわちゃしてる奴、真面目にやってる人、帰りたそうにしてる人。

心情はいろいろ。



「ひかる!こっち来て!」


ひかる:はーい


「可愛いっ超似合ってる!」


ひかる:ほんと笑?よかった〜


「次これ付けてみて!」




森田さんは相変わらず。


女の子に引っ張りだこで、色んなものをつけたりかけられたり。

同性人気も高いのが、流石というか





改めて、彼女に似合わない服飾はない。

そう思う。





「ごめーん」


「誰か買い出し行ってくれない?」



学級委員がクラスに伝えた。



「お金は?」


「学校から出るよ」


「え、熱い」

「てことはさぁ




「その代わり!」



「レシート、ちゃんと貰ってきてね」



「うわーいっつも捨ててる

「ちゃんとした奴じゃないと務まらないね」




「俺は!?」




「ダメダメ」







「●●」



嫌な予感がした。



〇〇:ん?




「買い出し、行ける?」



〇〇:いやいや


「確かに!いいじゃん」


「正味やることないでしょ?」


お金を任された自分、今日はすることがない。




〇〇:この後バイト




「●●くんお願いっ!」







〇〇:わかった


「ありがとう!めっちゃ助かる」


口々に感謝を述べるクラスメイト。

心はこもってない、まぁいらないけど。



多数の暴力、身を持って思い知った。

これ逆らうの無理だ。

容易く応援するもんじゃないな




〇〇:これ



LINEに送られる必要なものリスト。

多いな



〇〇:じゃあ、行って





ひかる:私も行く!





〇〇:は?



「え?」



ひかる:いってきます!



「いやいやいやいや」


「も、森田さんはここでやることが」




ひかる:〇●●くんひとりは大変、私も手伝います!



〇〇:まずい



「じゃ、じゃあ俺が付き添いに



ひかる:行かせてくれない


いや、その





ひかる:お願い♡




ぐへへは、はーいうへへ





〇〇:



一瞬で解決した。


マドンナ、すげぇ。







ひかる:じゃっ、いってきまーす



「いってらっしゃーい」



女の子はみんななんか応援してる?なにを?




男は……やばい。やられる。




ひかる:〇〇くん、行こ!



なんで下の名前



〇〇:苗字で呼ばないとっ



ひかる:えへへこっち!


〇〇:あっ



手を引っ張り2人で教室を飛び出す。




そしてぴったりくっついて離れない彼女の手。


細くて小さい柔らかくていい匂いも



ダメだ落ち着け。

学校、ここ廊下。



〇〇:森田さん今すぐこれを





ひかる:離しちゃ、ダメだよ?







悪戯に笑うマドンナは


自然体で、嬉しそう。



そんな表情されたら





心臓の鼓動が治まりそうにない。





**********************






ひかる:ねぇ、最初はどこ行く?



〇〇:



昼過ぎの通学路。

普段この時間に通らないからか


また別の何かか。


いつも通ってるはずなのにとても新鮮な感じがする。




って


〇〇:森田さん、手


ひかる:森田さんは手じゃありませーん


〇〇:いつまでこのまま?


ひかる:〇〇くんが決めていいよ


〇〇:


ひかる:ふふ無視せんでよ〜笑


〇〇:森田さん


ひかる:なんかさぁ




ひかる:カップルみたいだね!





〇〇:は、はぁ!?


ひかる:あははっうるさ笑



普段出ないくらいの声が出た。



〇〇:いやカップルとかカ、カップル


ひかる:〇〇くん照れてる笑?落ち着いて冷静に


〇〇:れ、冷静ですけど?


ひかる:またまたぁ〜笑



ツンツンされて、更に硬直。

変な汗が止まりません。



〇〇:森田さん


ひかる:ん?



〇〇:森田さんって、意外と意地悪だよね



ひかる:えぇ〜そうかなぁ?


〇〇:うん


ひかる:ひどーい笑



今までとは全然違うイメージだった。


マドンナの森田さん、隣で笑う森田さん。

どっちがいいとか、そんなんじゃない。


むしろ嬉しいのかも。


どっちの森田さんも魅力があって、目が離せない。



完璧な人、自分とは世界が違うんだ。




ひかる:



なぜかこちらをじっと見つめる森田さん。



〇〇:なに?


ひかる:なんでもない


〇〇:そっか


ひかる:ほら、行くよっ!


〇〇:えっちょっ、森田さんっ!?



突然勢いよく走り出すマドンナさん。



ひかる:まずは材料!レッツゴー!


〇〇:そっちは違う!反対!



別に離すことはできるのに。




その手は、しっかり握られたまま。











「ありがとうございます!」


〇〇:ありがとうございます


ひかる:ありがとうございます!



やっと、やっと終わった


昼過ぎから始まった買い出しもう空が橙色に変わってる。


両手にはずっしり入ったレジ袋。


せっかく繋いでたのに




ひかる:もう夕方になっちゃったね


〇〇:だね


ひかる:なんかテンション低い?


〇〇:そんなことは




ひかる:あっ!もしかして



〇〇:えいやいやそんなっ






ひかる:バイト!行けなくなったからだ






〇〇:


ひかる:いやーまぁしょーがないよ、切り替えて行こ!


〇〇:はい


そりゃそうだ、友達だし。

自惚れるな。



ひかる:まだみんないるのかな


〇〇:いたらまずいの?


ひかる:え!?な、なんで.


〇〇:表情、言い方もあからさまだったから



ひかる:よく見てる



〇〇:ん?なに?


ひかる:なんでもないっ!


〇〇:はぁ




ひかる:いや、違うよ?みんなが嫌いとかじゃない、むしろ好きだから




ひかる:でも、みんな必死に頑張ってる一位になるために


〇〇:


ひかる:なんか、しんどくて色々と


力なく笑う。



みんな必死なのはいいこと。


一丸で頑張ろとしてる。


彼女も、そう思ってる。



なのに、まるで自分はそのための道具みたい。


貢献というか、利用されてる。



ひかる:



〇〇:ごめん



ひかる:え?


〇〇:さっきちょっとだけだけど、森田さんの気持ちわかった気がして


ひかる:あー、あはは




〇〇:みんなから言われて自分も断れなかった



ひかる:





〇〇:そんななのに森田さんにアドバイスというか説教して嫌だったよね




〇〇:ほんとに





ひかる:そんなことない






〇〇:







ひかる:〇〇くんが言ってくれたこと、嫌なんかじゃない



〇〇:






ひかる:私は、〇〇くんに救われた




〇〇:




ひかる:だから、そんなこと言わないで



〇〇:あ、ごめ






ひかる:ありがとう、救ってくれて




〇〇:




ひかる:はい、じゃあ早く帰ろ




今しかない。






〇〇:森田さん!




ひかる:ん?




〇〇:その学園祭が終わったら







〇〇:お疲れ様会しませんか




初めて、踏み出す。





ひかる:2人?



〇〇:あ一応そのつもりで



ひかる:あのお店



〇〇:ごめん嫌だ







ひかる:わかった







〇〇:へ?



ひかる:いいよ!やろ!お疲れ様会!




〇〇:えや、やろ




ひかる:何突っ立ってんの笑?




〇〇:まさか、いいよって言ってくれるとは





ひかる:その代わり!



ひかる:私、二日間頑張るから!






ひかる:ちゃんと見てて









ひかる:わかった












〇〇:わかった




この独特で、変な感情。



恋でしかしない感じ。





この空気は、いつまでも味がするはず。






**********************







「わたあめいかがですかー?」



「二組でカジノやりませんか!?」