「ご馳走様です」
〇〇:ありがとうございました
紫色の空が広がる夕方。
今日もこの喫茶でバイトをする。
「次のお客さんでラスト!」
〇〇:はーい、次の方
…
ひかる:よっ!
〇〇:
…一名様ですね
ひかる:ねぇ!
いつもの時間、今日も律儀に待ってくれる。
今日は可愛い挨拶をされた、ご機嫌らしい。
ひかる:ちょっと距離感じるんですけども〜
〇〇:
…それはどう反応したらいいの?
ひかる:そこは一緒に
…よっ!
…でしょっ!
そんな馴れ馴れしくできない緊張する。
〇〇:やりません
ひかる:むぅ
…
〇〇:あなたお客さんだから、店長に怒られます
ひかる:確かに、お客さんか笑
口元を抑えて大きく笑うマドンナさん。
そしてそのまま、いつものカウンター席に座る。
相変わらず少し足が届いてないのが可愛らしい。
学園祭まで1週間に迫った放課後。
あの一件以降森田さんはよくこの店に来てくれるようになった。
自分がいる時はいつも来てくれるので、多分毎日来てくれてるんだろう。
ひかる:ねぇ、聞いて!今日の2限の
…
自分が作っている間ぷんぷん文句を垂れるマドンナさん。
森田さんは最近、自然に喋ってくれるようになった。
マドンナとしてではない、素直な彼女。
彼女自身の話や友達との出来事。
悩みや文句もよく喋ってくれる。
こういう、友達にしか話せないこと。
それを聞いたり話したりできることがすごく嬉しい。
〇〇:あー
…いるよねそういう人
ひかる:ひどいよ、私別に賢くないのにさぁ
…
〇〇:前回クラス何位だっけ
…?
ひかる:
……31
〇〇:
……ふふ
…
ひかる:ちょっと!?
確かに意外、森田さんはそんなに賢くない。
むしろちょっと
…うん。
〇〇:ごめんごめん笑
ひかる:
…笑いごとじゃないよぉ
…
手で顔を覆って恥ずかしがる森田さん。
彼女を見てまた、別の感情が湧いてくる。
ひかる:
…そんな言うなら、〇〇くんは?
〇〇:ん?
ひかる:何位?
〇〇:
…12
ひかる:普通笑
〇〇:いや平均ちょい上だから!
ひかる:普通〜
…ぶっ
…あっはは!
また謎のツボにハマってしまった。
爆笑するほどじゃないだろ
…
〇〇:なんで自分より下に笑われてんの
…
ひかる:ごめんごめん笑
…
ひかる:
…はぁ
…
疲弊し切った表情を見せるマドンナさん。
絶対我慢してるから。
周りには見せないけど。
〇〇:
…これ、食べてみてほしい
飲み物とお菓子を前に置く。
ひかる:
…羊羹だ
…
〇〇:そう、初めて作って
…
鏡のように綺麗な小豆色。
かなり難しかった
…
ひかる:いただきます
…
フォークで四角い羊羹を一口サイズに。
そしてそのままパクっと頬張る。
ひかる:
…
〇〇:
…どう?
ひかる:
…おいひぃ
…
ほっぺが緩やかに上がるのが見えた。
〇〇:
…よかった
ひかる:んふふ
…これ最高
幸せそうに頬張る森田さん。
森田さんを笑顔にできた。
それだけで、努力したものが返ってきた気がする。
ひかる:
……んっ、抹茶と合う!
〇〇:よかった
…
ひかる:〇〇くん
〇〇:ん?
ひかる:あなた天才よ
あまりに真っ直ぐこちらを照らす瞳。
これを向けられて尚、気がない人はいない。
〇〇:
…全然そんなっ
…
ひかる:んっ
……うまっ
〇〇:おかわりありますよ?
ひかる:えっ!いいんですかお願いします!
〇〇:ふふ
……ちょっと待って
ひかる:んふふ
…
鼻歌を歌いながら足をぷらぷらさせる。
ご機嫌な様子。
烏滸がましい。
マドンナさんとこんなに仲良くなれて
彼女のことたくさん知れて
下の名前で呼んでもらったりして
十分過ぎるくらい恵まれている。
わかってる。
でも、芽生えてきた想い。
もっと知りたい
もっと知って欲しい
他の人と仲良くしてほしくない
その笑顔、他の人に見せたくない
自分だけの大切な人であって欲しい
傲慢だと言われてもおかしくない。
でもその想いを抑えられるくらい大人ではなかった。
彼女を
森田さんを異性として好きだって気づくのに
そんなに時間はかからなかった。
ひかる:あ
…もうこんな時間
〇〇:あ
…早い
気がつけば閉店まで残りわずか。
部活終わりに来てくれたので、時間か限られる。
ひかる:あー
…もっと喋りたかったぁ
さらっと、嬉しいこと言ってくれる。
思わせぶりもいいとこだ。
〇〇:
…ね
ひかる:
…って、学園祭までもうちょっと!?
〇〇:うん、早い
ひかる:
…頑張らなきゃな〜
〇〇:
…
結局、森田さんはチェキを撮る。
彼女曰く、やる以外の選択肢がない、と。
あの大衆を止められる権力と人望がない。
あんなこと言っといて、結果何もできない罪悪感で潰されそう。
〇〇:
…ごめん、結局何にもできなくて
ひかる:ううん、話聞いてくれるだけ全然違うから
優しい表情が更にこっちを切なくさせる。
〇〇:
…でも
ひかる:大丈夫!休憩とってくれるし!
大丈夫、この言葉が嫌いだ。
やりたい、やりたくない。
やってもいい。
相手に委ねる言い方。
自分の意思は捨てたみたいに。
大丈夫、そう言ったってことは、
別に大丈夫ではない。
大丈夫に隠された本心を、見抜ける人間になりたい。
あなたに、大丈夫って言わせないようにしたい。
ひかる:
…じゃあ、また明日!
〇〇:
…また明日
ひかる:バイバイ!
相変わらず、大きく手を振るマドンナさん。
でも扉越しに見えるその背中は
いつも以上に、小さく寂しそうだった。
**********************
「じゃあ飾りつけしてこ!」
「こっちでどのコスプレするか決めるから、みんな集まって」
「生徒会室からセロテープ取ってきてくれない?」
学園祭前日、午前中で授業は終わり午後はクラスで準備する。
わちゃわちゃしてる奴、真面目にやってる人、帰りたそうにしてる人。
心情はいろいろ。
「ひかる!こっち来て!」
ひかる:はーい
「可愛いっ
…超似合ってる!」
ひかる:ほんと笑?よかった〜
「次これ付けてみて!」
森田さんは相変わらず。
女の子に引っ張りだこで、色んなものをつけたりかけられたり。
同性人気も高いのが、流石というか
…
…改めて、彼女に似合わない服飾はない。
そう思う。
「ごめーん」
「誰か買い出し行ってくれない?」
学級委員がクラスに伝えた。
「お金は?」
「学校から出るよ」
「え、熱い」
「てことはさぁ
…」
「その代わり!」
「レシート、ちゃんと貰ってきてね」
「うわー
…いっつも捨ててる
…」
「ちゃんとした奴じゃないと務まらないね」
「俺は!?」
「ダメダメ」
「●●」
嫌な予感がした。
〇〇:
…ん?
「買い出し、行ける?」
〇〇:
…いやいや
「確かに!いいじゃん」
「正味やることないでしょ?」
お金を任された自分、今日はすることがない。
〇〇:
…この後バイト
…
「●●くん
…お願いっ!」
〇〇:
…わかった
「ありがとう!めっちゃ助かる」
口々に感謝を述べるクラスメイト。
心はこもってない、まぁいらないけど。
多数の暴力、身を持って思い知った。
これ逆らうの無理だ。
容易く応援するもんじゃないな
…
〇〇:
…これ
LINEに送られる必要なものリスト。
多いな
…
〇〇:
…じゃあ、行って
ひかる:私も行く!
〇〇:は?
「え?」
ひかる:いってきます!
「いやいやいやいや」
「も、森田さんは
…ここでやることが」
ひかる:〇
…●●くんひとりは大変、私も手伝います!
〇〇:
…まずい
「じゃ、じゃあ俺が付き添いに
…」
ひかる:行かせてくれない
…?
「
…いや、その
…」
ひかる:お願い♡
「
…ぐへへ
…は、はーい
…うへへ
…」
〇〇:
…
一瞬で解決した。
マドンナ、すげぇ。
ひかる:じゃっ、いってきまーす
「いってらっしゃーい」
女の子はみんななんか
…応援
…してる?なにを?
男は
……やばい。やられる。
ひかる:〇〇くん、行こ!
なんで下の名前
…
〇〇:
…苗字で呼ばないとっ
…
ひかる:えへへ
…こっち!
〇〇:あっ
…
手を引っ張り2人で教室を飛び出す。
そしてぴったりくっついて離れない彼女の手。
細くて小さい
…柔らかくていい匂いも
…
ダメだ落ち着け。
学校、ここ廊下。
〇〇:森田さん
…今すぐこれを
…
ひかる:
…離しちゃ、ダメだよ?
悪戯に笑うマドンナは
自然体で、嬉しそう。
そんな表情されたら
…
心臓の鼓動が治まりそうにない。
**********************
ひかる:ねぇ、最初はどこ行く?
〇〇:
…
昼過ぎの通学路。
普段この時間に通らないからか
また別の何かか。
いつも通ってるはずなのにとても新鮮な感じがする。
って
〇〇:森田さん、手
ひかる:森田さんは手じゃありませーん
〇〇:
…いつまでこのまま?
ひかる:〇〇くんが決めていいよ
〇〇:
…
ひかる:ふふ
…無視せんでよ〜笑
〇〇:
…森田さん
ひかる:なんかさぁ
…
ひかる:カップルみたいだね!
〇〇:は、はぁ!?
ひかる:あははっ
…うるさ笑
普段出ないくらいの声が出た。
〇〇:いや
…カップルとか
…カ、カップル
…?
ひかる:〇〇くん照れてる笑?落ち着いて冷静に
〇〇:
…れ、冷静ですけど?
ひかる:またまたぁ〜笑
ツンツンされて、更に硬直。
変な汗が止まりません。
〇〇:
…森田さん
ひかる:ん?
〇〇:
…森田さんって、意外と意地悪だよね
ひかる:えぇ〜そうかなぁ?
〇〇:
…うん
ひかる:ひどーい笑
今までとは全然違うイメージだった。
マドンナの森田さん、隣で笑う森田さん。
どっちがいいとか、そんなんじゃない。
むしろ嬉しいのかも。
どっちの森田さんも魅力があって、目が離せない。
完璧な人、自分とは世界が違うんだ。
ひかる:
…
なぜかこちらをじっと見つめる森田さん。
〇〇:
…なに?
ひかる:
…なんでもない
〇〇:
…そっか
ひかる:ほら、行くよっ!
〇〇:えっ
…ちょっ、森田さんっ!?
突然勢いよく走り出すマドンナさん。
ひかる:まずは材料!レッツゴー!
〇〇:そっちは違う!反対!
別に離すことはできるのに。
その手は、しっかり握られたまま。
「ありがとうございます!」
〇〇:ありがとうございます
ひかる:ありがとうございます!
やっと、やっと終わった
…
昼過ぎから始まった買い出し
…もう空が橙色に変わってる。
両手にはずっしり入ったレジ袋。
せっかく繋いでたのに
…
ひかる:もう夕方になっちゃったね
〇〇:
…だね
ひかる:
…なんかテンション低い?
〇〇:
…そんなことは
ひかる:あっ!もしかして
…
〇〇:え
…いやいやそんなっ
ひかる:バイト!行けなくなったからだ
〇〇:
…
ひかる:いやーまぁしょーがないよ、切り替えて行こ!
〇〇:
…はい
そりゃそうだ、友達だし。
自惚れるな。
ひかる:
…まだみんないるのかな
〇〇:
…いたらまずいの?
ひかる:え!?な、なんで
….
〇〇:表情、言い方もあからさまだったから
ひかる:
…よく見てる
〇〇:ん?なに?
ひかる:なんでもないっ!
〇〇:
…はぁ
ひかる:いや、違うよ?みんなが嫌いとかじゃない、むしろ好きだから
…
ひかる:
…でも、みんな必死に頑張ってる
…一位になるために
〇〇:
…
ひかる:なんか、しんどくて
…色々と
力なく笑う。
みんな必死なのはいいこと。
一丸で頑張ろとしてる。
彼女も、そう思ってる。
なのに、まるで自分はそのための道具みたい。
貢献というか、利用されてる。
ひかる:
…
〇〇:
…ごめん
ひかる:
…え?
〇〇:さっき
…ちょっとだけだけど、森田さんの気持ちわかった気がして
…
ひかる:
…あー、あはは
…
〇〇:みんなから言われて
…自分も断れなかった
ひかる:
…
〇〇:そんななのに
…森田さんにアドバイスというか
…説教して
…嫌だったよね
…?
〇〇:ほんとに
…ご
ひかる:そんなことない
〇〇:
…
ひかる:〇〇くんが言ってくれたこと、嫌なんかじゃない
〇〇:
…
ひかる:私は、〇〇くんに救われた
〇〇:
…
ひかる:だから、そんなこと言わないで
〇〇:
…あ、ごめ
ひかる:ありがとう、救ってくれて
〇〇:
…
ひかる:
…はい、じゃあ早く帰ろ
今しかない。
〇〇:森田さん!
ひかる:
…ん?
〇〇:その
…学園祭が終わったら
…
〇〇:お疲れ様会
…しませんか
…
初めて、踏み出す。
ひかる:
…2人?
〇〇:あ
…一応そのつもりで
…
ひかる:あのお店
…?
〇〇:ごめん
…嫌だ
ひかる:わかった
〇〇:
…へ?
ひかる:いいよ!やろ!お疲れ様会!
〇〇:え
…あ
…や、やろ
…
ひかる:何突っ立ってんの笑?
〇〇:
…まさか、いいよって言ってくれるとは
…
ひかる:その代わり!
ひかる:私、二日間頑張るから!
ひかる:ちゃんと見てて
…
ひかる:わかった
…?
〇〇:
…わかった
この独特で、変な感情。
恋でしかしない感じ。
この空気は、いつまでも味がするはず。
**********************
「わたあめいかがですかー?」
「二組でカジノやりませんか!?」
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