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夢篠
2025-06-15 16:36:37
2281文字
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いつも通りの愚かな話
好きな子が泣いちゃった押都長烈
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
「陣内!はやく!きなよ!」
昆奈門に急に呼ばれて腕を引かれる。忙しいのに無理矢理引き摺られるのだから相当の緊急事態なのだろう。取る物もとりあえず同行すると、押都の私室に辿り着く。一体何なのだと訝しく思っていると静かに、と昆奈門に示されて、障子の隙間から覗くように示された。忍務でもないのに他人の室を覗くなど、と思いはしたが一応一瞬だけ覗く。そこには。
「ほ、ほら、もう泣くな。目が溶けてしまうぞ」
「うぅ゛~
……
、とけぢゃうん゛ですか~」
押都の部屋にいたのは押都だけではなかった。あれは
ナマエ
だ。彼女は二、三年程前に城の女中として入った娘で、見目麗しく気立ても良い。そのせいか彼女は有り体に言って引く手数多だった。忍軍の中にも幾人か、彼女に懸想している者がいると聞いていた。そして押都もまた、この純粋な娘に惹かれているようだった。その
ナマエ
が、泣いている。ボロボロと、それはまあ、泣いている。対する押都はありありと焦っているのが分かった。雑面で表情など分からない筈なのに、それはもう、ありありと。
「押都が泣かせたのか?」
「さア?知らなーい」
忙しい折に無理やり引っ張って来た割に気の無い返事をする昆奈門を一旦睨み付けてから聞き耳を立てる。まあ、気にならないと言えば嘘になる。幼馴染である押都長烈は、なんというかその、割と若い頃は女にだらしなかった。持ちうる全ての特徴が女を良く惹き付けて離さなかったから、女の方から寄って来て、彼は彼女らと適当に交流し、飽きたら次と、まあ、いつ背中から刺されても可笑しくない日々を過ごしていた。だから、と言うと語弊を招くかもしれないが、
ナマエ
に対してどういう振る舞いをしているのかは、純粋に気になった。もし若い頃の振る舞いのまま
ナマエ
に接しているのであれば、それは
ナマエ
を傷付けるだけだから。
「ゔえ゛え~~
……
」
「おい、もう泣くんじゃない
……
。っ、そうだ、これをやろう」
私の知っている押都なら、泣いている女はきっと無理にでも抱き寄せて口を吸って黙らせていたような気がする。だが目に見えて焦っている様子の押都の指は
ナマエ
の肩にも触れず、その周辺を正に彷徨っていると言って良い。昆奈門が「本当に好きな子って中々触れられないよね~」とぼやく。噴き出しそうになった。そうこうしている内に、いまだ大粒の涙をボロボロと零す
ナマエ
の前に、何やら一つ、二つと並べられていく。
「え、あれ、最近城下で流行ってる茶屋の団子じゃん。朝から並ばないと昼には売り切れて買えないって聞いたんだけど」
「そういえば、彼は今朝、早くから出掛けていたな。まさかこのために?」
「え?でも押都は甘いの嫌いじゃなかったっけ」
「
…………
」「
…………
」
まさか、とは思うが。二人して室内の様子を覗く。串に刺さった団子が一つ、二つ、三つと並べられていく。量多いな。五つ程並べて流石に押都も
ナマエ
の様子を見るが、彼女は顔を覆ったまま泣き止まない。あ、焦っている。表情なんてまるで見えない、ともすれば長く共にいる私ですら読めない感情が、如実に分かる。押都は今、焦っているし困っている。見ている分には面白い。そして押都には悪いが私は知っている。以前たまたま、会話の流れで聞いたのだ。
ナマエ
は団子のような所謂甘味より煎餅のような塩気のある菓子の方が好きだという事を。黒鷲隊の癖に、調査が不足しているようだな。室の中の二人はまだ困っている。
「
……
ん、そ、そうだ。梟でも撫でるか?以前触りたいと言っていただろう?」
「ん
……
、い、いまは、いい、です
……
」
「そ、そうか。今はいいか
……
」
それ以降沈黙。こちらは面白いが本人にとっては堪ったものではないだろうな、と思った。いい加減見ていられない。矢羽音を飛ばす。大丈夫か、と。昆奈門が「陣内~~」と不満そうな声を出した。もう許してやれ。押都は頑張った。私たちの気配には当然気付いていたのだろう押都からの矢羽音が返ってくる。ナイタ、タスケロだそうだ。昆奈門が後ろで声無き声で笑っている。
ナマエ
の泣いた理由を聞いてみる。ワカラナイ、だそうだ。なんだこいつ。
「う、うぇえ~、おされつさま~!」
「!?」
あ、と思った時には押都の腕の中に
ナマエ
が飛び込んでいた。押都が焦っている。手は
ナマエ
に触らないように大袈裟に広げられている。こうなるともう、黒鷲隊の小頭も形無しだろう。
ナマエ
の身体が押都に寄せられている。押都の指が震えているのが遠目にも見える。その指が
ナマエ
の涙を拭う。
「な、泣くな
……
。お前に泣かれると、どうして良いか分からん
……
」
囁くような声音にかつて娘たちは群がるように堕ちたけれど、きっとあまり
ナマエ
には効果は無いのだろうなと思った。事実
ナマエ
はその顔を赤らめる事は無かった。ただ、押都に静かに顔を近付けている。あ、よろしくない。
「ほら、もう行くぞ」
咄嗟に昆奈門の目を覆って引っ張る。え~、と不満げな声が上がるが無視した。後で進捗は聞くとして、流石にこれ以上の覗き見は不粋だろう。という事で後から色々聞いた話では
ナマエ
が泣いたのは目に塵が入ったせいだったそうだ。つまり
ナマエ
が最後に顔を近付けて来たのは、目の中の塵について確認してもらうためだったそうだ。押都は二つ返事でそれを叶え、その日は二人で団子を食べて解散したそうだ。
……
なんだそれ。
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