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紫輝
2025-06-15 13:59:13
9231文字
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リとヌと御仔の話
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レヴィのちちのひだいさくせん
リとヌと御仔と父の日の話。この世界線ならこれは!絶対!書かなきゃいけないし書きたいって思ってました!!!!!満足です!!!!!
「よし。それじゃ、任務開始だ」
「がんばろうな、レヴィ!」
「あい!」
ノンビリラッコの描かれたエプロンを装備し、しっかりと袖を捲って、“とうさま”譲りの銀髪をきちんと結んだ少年が力強くうなずいてくれる。制限時間は約三時間。少年から依頼された『ちちのひだいさくせん』が幕を開けた。
レヴィのちちのひだいさくせん
「おねがいがあるの」とこの依頼を持ちかけられたのは一ヶ月ほど前だった。街中で同じような広告をよく目にするようになったのだという。少年がそれについて尋ねたのは(今思えば)幸運なことにクロリンデで
――
彼女は度々「水の上」で少年の護衛を務めている
――
彼女はその広告が『父の日』のものであることと、『父の日』がどういうものであるのかを教えてくれたのだそうだ。
父親にありがとうを伝える日
――
そう聞いた少年がこの計画を立てるのは必然だったと思う。この仔は父親たちが大好きなのだから。
かくして大好きな“パパ”と“とうさま”に日頃の感謝を伝えるべく立ち上がった少年に「お手伝い」を依頼され、空は少年と共に綿密な計画を練り準備を進めてきた。そして決行日である本日、こうして龍王様御一家のお宅にお邪魔しているのである。
計画はシンプルだ。食卓に少年が手ずから摘んだ花を飾り、ディナーを作って、プレゼントをする。花は壺洞天で用意済み、プレゼントも準備の上しっかり隠してある。あとは主役のディナーを完成させるだけだ。
『作戦会議』を重ね、本日のメニューはミートボールとポテトのオーブン焼きとバブルオレンジのせサラダに決定している。この家族は主食がライスであることも多いようだが、流石にハードルが高いため今回の主食は御一家御用達のベーカリーの白パンだ。
ディナーを用意するにあたりご両親には出かけてもらっていた。何を作るかは勿論秘密なのだから。
察しと頭の回転が良すぎる二人を誤魔化すのは実質不可能だ。少年は“とうさま”に似て嘘がつけないし、例えば「二人に内緒で相談がある」なんて言ってしまったら二人は心配するだろう。彼らは少年を目に入れても痛くないほどに可愛がっている。喜ばせたい人たちを心配させるような嘘を、少年につかせたくはない。そこで空が提案したのは『素直にお願いする』ことだった。
「おねがいしたらないしょにできないよ?」
「そういう作戦なんだ。レヴィは「これからびっくりさせることがあるから楽しみにしててね」って言われたらどう思う?」
「
…
たのしみにする!」
ぱち、とアイオライトを瞬いた少年の疑念が納得に変わったのに「ね?」と小首を傾げてみせて、『お願い』の言葉を一緒に考えて、練習して。
「あのね、いまからね、しゃぷ、さ、さぷりゃいず、するから、おでかけしてきてほしいの」
愛する息子から『お願い』されたご両親は一瞬その動きを止めた。会心ダメージが入ったようだ。この少年の対両親時の会心率は200%くらいありそうだし会心ダメージも500%くらいはあるだろうな、なんて思う。家族仲良しで何よりだ。
「
…
口にしてしまってはサプライズにならないのでは?」
「そうかい? 俺は俄然楽しみになってきたけどなぁ。レヴィ、俺たちはどれくらい『お出かけ』してきたらいいんだい?」
予想通り首を傾げるヌヴィレットの隣で、こちらも予想通りのフォローを入れてくれながらリオセスリが楽しげに肩を揺らす。
「えっとね、とけいが“5”になるまで!」
「三時間くらいか。デートにはちょうどいい時間かな。
…
そういうわけみたいだ。俺とデートしてくれるかい、ヌヴィレットさん?」
「それは、勿論」
少年の元気な返答に瞳を細めて笑ったリオセスリが差し出した手のひらに、ヌヴィレットが迷う素振りも見せずその手を重ねるのに無性に微笑ましい気持ちになってしまった。ふうふも仲良しで何よりだ。
「よし、決まりだな。じゃあ俺たちは出かけてくるよ、レヴィ」
「あい!」
「旅人が一緒だから心配はしていないが
…
危険な事はせぬようにな」
「あい! パパ、とうさま、いってらっちゃ!」
両親の睦まじい様子と作戦の第一段階が成功した確信ににこにこと笑顔を咲かせる少年にふりふりと手を振られ、二人は出かけていって
――
冒頭に戻る。ヌヴィレットは玄関を出るその時まで何か聞きたそうな顔をしていたが、まあリオセスリがなんとでもするだろう。今は少年の『お手伝い』任務を完遂しなくては。
「今から俺はミートボールを作る準備をします。レヴィはその間に、パイモンと一緒にサラダを作ってね」
「サラダ!」
こくこくとうなずく少年の前に、レタスとプチトマト、バブルオレンジにドレッシングの材料を並べる。相棒にアイコンタクトを送れば、頼もしい相棒は任せろと胸を叩いてくれた。サラダの手順は相棒と相談済みだ。レタスをちぎり、ヘタをとったプチトマトを散らして、薄皮をむいたバブルオレンジを飾って、ドレッシングをかける。火も包丁も使わない、少年の手だけで作れるサラダだ。
「レタス、トマト、バブルオレンジ、ドレッシングだぞ、レヴィ!」
「あい!」
指揮者のように指を振りながらレシピを説明する相棒の声にうなずきで応えた少年のちいさな手がレタスに伸びる。
「
…
上手いなぁ、レヴィ」
「いつもおてつだいしてるから!」
迷いのない手つきに相棒が感嘆の呟きを漏らすのに、少年はふふんと胸を張った。
「パイモンちゃん、できた!」
「よし! じゃあ次はトマトだ! トマトのヘタを取る手伝いはしたことあるのか? やり方わかるか?」
「えっと、そーっともって、ぷちってすればいいんだよね?」
「そうだぞ。ヘタをしっかり持って、トマトをくるって回すと簡単なんだ」
小さな頭を突き合わせてえいと実演してみせた相棒の手腕に少年の歓声が上がる。先の少年のように胸を張る相棒につい肩を揺らしてしまった。彼女は少年相手の時に限らず「おねえさんすごい!」ムーブに弱いのだ。
「トマト、みんなおんなじなのにすっぱいのあるよね
…
」
「わかるぞ
…
びっくりするよな
…
」
「すっぱいトマト、みてわかったらいいのにね」
「そしたら「すっぱい!」ってならなくて済むもんな
…
」
パパととうさまにお願いして交換こしてもらえるのに。
旅人に食べてもらえるのになぁ。
微笑ましくも不穏な会話を聞きながら手を動かす。空の任務は野菜を切ることだ。玉ねぎの一部とニンニクはみじん切りに、じゃがいもは角切りに。必須の工程ではないが、玉ねぎは少し炒めてしまおうか。
赤と黄色のパプリカと、残しておいた玉ねぎは一口サイズに。少年とヌヴィレットはあまり一口が大きくないが、リオセスリの一口は体格に見合った大きさだ。家族全員が無理なく、食べ応えを感じる大きさというのは中々難しい課題ではあるが、古今東西あらゆる国の仲間たちに料理を振る舞ってきた己のスキルを駆使すれば『超難題』に括るほどのものでもない。ああ、トマトソースも仕込んでおかなくては。フォンテーヌは美味しいソース類が市場で簡単に手に入るので助かる。
野菜とソースの相手をしている間にサラダ作りも進んでいるようだ。バブルオレンジの外皮にはあらかじめ切れ目を入れておいたが、上手くやれているだろうか。
「ぼくね、このまえ、オレンジのしろいところちゃんとむけたの。とうさまとパパいっぱいすごいねっていってくれたんだよ」
「バブルオレンジ、むくの難しいもんな。凄いぞレヴィ。レベルアップだな!」
「ん!」
漂うオレンジの香りと相棒の拍手の音、誇らしげな少年の声に、サラダにオレンジを採用したのは大正解だったなと心中で拳を握る。刻んだゆで卵を散らしてミモザ風にすることも検討していたのだが、「自分がやった感」を感じられるのはオレンジをむく方だと考え直したのだ。潰れてしまったとしてもドレッシングとして輝いてくれる確信もあったので。
ミートボール用の玉ねぎを炒め終えた辺りで三度目の「できたー!」が響いて振り返る。瑞々しく煌めくサラダが、ドレッシングを待っていた。
「美味しそうにできてるね。ここにある材料を混ぜてドレッシングを作って、サラダにかけたら完成だよ」
「まぜまぜする!」
小さな泡立て器を握った少年のアイオライトが輝くのに吹き出してしまった。気持ちはよくわかる。攪拌の工程というのはテンションが上がるものだ。
ドレッシングは簡単シンプルに、オイルとレモンの絞り汁、香りづけにハーブを入れて、塩少々。分離の危険もない、基本のそれだ。
少年の手により注意深くボウルに入れられた材料達が、くるくる混ざって一つになる。どうですかと言わんばかりの瞳に見上げられて、笑顔で親指と人差し指で丸の形を作ってみせた。
「ばしゃんしちゃったら大変だから、スプーンでそっとかけようか」
「ん。ばしゃんはね、こわいんだよ」
神妙にうなずいてくれる少年に相棒と顔を見合わせる。過去何かあったのかもしれない。
スプーン作戦は功を奏した。ドレッシングを纏って艶を増したサラダに少年が快哉を上げる。
「できたー!」
「うん、完成だ!」
「美味そうだぞ! 第一目標達成だな!」
ハイタッチで完成を喜びあったあと、空が取り出したものに少年は首を傾げた。
「おにいちゃん、それなあに?」
「これはね、魔法のカバーだよ。これをかけておくと、サラダを作り立ての美味しいまま置いておけるんだ」
食材の保持する水分と衛生状態を保ってくれる特殊フィルムは西風騎士団所属の錬金術師部隊謹製だ。実用化に向けて鋭意改良中だというフィルムのテスターとして、空は幾度かフィードバックを送っている。閑話休題。魔法のカバーをサラダに被せて、ボウルごと冷蔵用マシナリーに入れればサラダの準備は完了だ。
「よし。これで、あとはオーブン焼きと一緒にテーブルに並べるときにカバーを外せば、作りたてみたいに美味しいサラダが食べられるよ」
「まほうのカバーすごいね
…
?!」
「モンドの友達が作ってくれたんだ」
「おともだちにぼくの“ありがとう”いっておいてね」
そっか、とうなずいた少年の、両の拳を握ってのお願いに必ず伝えるよと答えたところで、相棒の「時間大丈夫か?」の声がかかる。
「それじゃ、ミートボール作ろっか!」
「あい!」
余裕はあるが巻けるところで巻いておいたほうがいいだろう。引き続きがんばろう、と差し出した拳に、少年のちいさなそれがこつんとぶつかった。
「レヴィは、卵は割ったことある?」
「うん。
…
でも、あんまりじょうずくない
…
」
しょんと肩を落とす少年の話を聞くに勝率は四割くらいのようだが、今回割る卵は形を保っていなくても良いし使うのは全卵だ。殻さえ混ざらなければ問題ないだろう。
「じゃあ、一回こっちの器に割ろう。もし失敗しちゃっても大丈夫。俺がなんとかするから」
任せて、と親指を立てると、少年は少し安心してくれたようだった。
果敢な挑戦の結果黄身は崩れてしまったが殻は入らなかった二重丸卵(完璧に割れると花丸卵なのだそうだ。可愛い)を溶きほぐして、材料を入れたボウルに加える。
「それじゃあレヴィ君、お願いします」
「あい!」
ボウルを両手で支えてかけた声に元気なお返事が返って、ちいさな両手がボウルの中に着地した。ねりねりねり、と肉ダネを混ぜる少年の手つきはなかなかのものだ。
「おやすみのひね、ハンバーグつくるの」
いつもじゃないけど、と、家族全員でのハンバーグ作りについて少年は語ってくれる。変わり種も色々試しているようで、この間の豆腐入りハンバーグが美味しかったと笑う少年に相棒と顔を見合わせてしまった。やっぱりヌヴィレットの仔だ。あっさり系の代表格、豆腐ハンバーグの魅力がすでに感じられているとは。
「なるほどなぁ。『ねりねり』が上手なのはいつも作ってるからなんだな!」
「ん!」
パパととうさま、いつも褒めてくれるの、とくふり笑う少年に途方もない微笑ましさを感じつつ、無事に練り上がるまでを見守って。
「うん、バッチリだ。それじゃあ
…
丸めていきます!」
「あい!」
ガッツポーズと共にした宣言に、一度綺麗に洗った手で同じように拳を作りながら少年が応じる。その触角と思しき青い二筋はふよふよと揺れていて、彼の高揚が伝わってくるようだ。気持ちはよく分かる。こういう柔らかい素材を(この言い方はどうかと思うけれども)捏ね回すのはとても楽しいから。
とはいえ遊びすぎると体温が移ってせっかくの生地がだれてしまう。美味しいミートボールのためにも手早くささっと丸めるのがコツだと説明すれば、少年は真剣な顔でわかったとうなずいた。
手のひらに油を少々。ディナースプーンで掬ったタネをのせて、ころころ転がす。少年と“とうさま”ならフォークで二口、“パパ”なら一口でいけてしまうかもしれないくらいの、丁度いい大きさのミートボールがトレイに並んでいった。
「パイモン、そっちの用意は?」
「できてるぜ!」
相棒に頼んでおいたのはグラタン皿の準備だ。内側にはバターを塗ってもらってある。ふよと飛んできた相棒に皿を目の前に置いてもらって。
「この野菜をお皿に敷き詰めて、その上にさっきのミートボールをのせます。トマトソースとチーズをかけて焼いたら完成だよ」
「もうちょっと!」
「うん、もうちょっと頑張ろう、美味しいご飯のために!」
「ご飯のために!」
「ためにー!」
最終工程の説明をして、三人で改めて気合いを入れ直して。
『ちちのひだいさくせん』のディナーの仕上げを開始した。
◇
「よし、時間ぴったり」
時計を見た空がうなずくのに、レヴィは胸を撫で下ろす。時間を決めて料理をしたのは初めてだったけれど、間に合ってよかった。
テーブルの上の花瓶では、“おにいちゃん”の持っているポットの中の秘密基地で摘ませてもらった色々な国の花が華やかに煌めいている。プレゼントはソファの裏側に、念の為お昼寝用のブランケットも掛けて隠してあった。あとは二人を『おでむかえ』して、ありがとうを言って、プレゼントを渡して、みんなでご飯を食べるのだ。
最後まで気を抜くなよ、と、『おしごと』をしていたパパがじい達に言っていたのを思い出し、レヴィはちいさな拳を握りしめた。
「
…
それじゃ、俺たちは帰るね。今度会ったときに、今日の話聞かせてくれたら嬉しいな」
「大成功なのは間違いないからな! どんだけ楽しかったか聞かせてもらえるの、オイラたち楽しみにしてるぞ!」
匂いを嗅いだだけでお腹が鳴りそうな、絶対に美味しいミートボールとポテトのオーブン焼きとまるで作りたてのようなサラダをテーブルの上に置いた空とパイモンが微笑むのにこっくりとうなずく。
「ありがとぉ、おにいちゃん、パイモンちゃん!」
忘れず告げたお礼の言葉に響く二つの「どういたしまして」と、玄関のベルの音が重なる。
「おっと」
「『お手伝い妖精』はクールに去るぜ! 行くぞ旅人!」
「そうだね。レヴィ、今日はお疲れ様。目一杯楽しんでね」
「ん!」
本当の妖精のように目の前から消えてしまった二人を見送って踵を返す。急いで鍵を開けてよいしょと開けた扉の向こうに、大好きな両親が立っていた。
「パパ、とうさま、おかえりなしゃ!」
「ただいま、レヴィ」
「ただいま。
…
旅人は一緒ではないのか?」
「えっとね、にんむかんりょー、したから、さきにばいばいしたの」
首を傾げる両親の手を引いてダイニングを目指す。テーブルを視界に入れた二人がおお、だとかおや、だとか声を漏らすのに、最初の『サプライズ』が成功したのを確信して。
待っててね、と二人に告げて、そっと取り出したプレゼントを大事に抱えて。
「えっとね、これね、『ちちのひ』のプレゼントなの。あとごはんも。きょうはパパととうさまにありがとうするひなんだって。だからね、いつもありがと、ごじゃます!」
大好き、までを言いきって両親の言葉を待っていたレヴィはそのアイオライトをぎょっと見開く。ぱちりと瞬いた二人の目から涙が溢れたのを見てしまったからだ。
「さぷりゃいず、いやだった
…
?」
レヴィにとっての『涙』は、悲しい時や痛い時、怖い時に出るものだ。もしかして自分のしたことで二人は悲しい思いをしてしまったのだろうか。笑顔をしょんと萎れさせたレヴィの頭を、大きな手がそっと撫でてくれる。
「ごめんな。レヴィがすごく嬉しいことをしてくれたからびっくりしちまって」
やさしい手がレヴィの目の端に溜まった涙をやわらかく掬い取ってくれて。
「うむ
…
私もパパと同じだ。嬉しくて、驚いてしまっただけだから、悲しい顔をしないでおくれ」
レヴィと目線を合わせくしゃりと笑った二人の頬はまだ濡れている。プレゼントをそっと床に置いて、レヴィは両手を二人へと伸ばした。
「びっくりするとないちゃうの?」
「んー、人型の生き物ってのは、ものすごーく嬉しいことがあっても涙が出るものなんだ」
「今のようにな」
涙を拭おうと一生懸命頬に触れるレヴィの手にくすぐったそうにしながら二人がそう説明してくれるのにレヴィは唸る。涙は嬉しくても出るものらしい。そんなことあるのかな、と思うけれど、パパととうさまは嘘はつかない。二人が言うならそうなんだろう。
「
……
そっかぁ」
神妙にうなずいたレヴィに、二人はやっと涙を引っ込めてくれたようだ。いつもの、レヴィの大好きな笑顔を浮かべて、二人は改めてプレゼントを見せて欲しいという。レヴィは床に置いていたそれをそっと差し出した。
「私と、リオセスリ殿か」
「普段からじっと見つめてくれてるだけあるな。そっくりだ」
二人の指が確かめるように紙の上を滑る。レヴィが用意したのはパパととうさまの絵だった。周りには海のお友達と、ティーカップ、それからポット。二人から連想するものをたくさん散りばめた。
「ほんとはパパととうさま、ちがうかみにかこうとしたの。でも、さびしくなっちゃったから、おんなじかみにかいちゃった
…
だからこれしかないの。ごめんなちゃい」
一枚の絵を覗き込む二人にそっと白状する。勇んで描き始めた『プレゼント』。パパを描き終えた辺りで、ぽっかりと空いた空間が寂しく見えてしまった。レヴィの知っている二人は、『おしごと』の時以外はいつも一緒だ。レヴィにはそれが当然で、それがレヴィには嬉しい。うんうん悩んで、結局「いつもの」二人を描くことに決めたのだった。
「同じ紙に描いてくれた方が俺たちは嬉しいな」
「パパの言う通りだ。私たちも一人では寂しかっただろうからな。だから謝らなくて良い。むしろお礼を言わなくては。
…
ありがとう、レヴィ。とても素敵な絵だ」
「すごく嬉しいよ。ありがとう、レヴィ」
「
……
ん!」
がっかりされるどころか嬉しいと言われてしまった。絵を避難させた二人から同時に抱きしめられて、レヴィはくふくふと笑う。頑張って描いてよかった。達成感を胸にレヴィからも二人を目一杯抱きしめて
――
「パパ、とうさま、ごはんひえひえになっちゃう!」
絵を描くのと同じくらい頑張った特別なご飯の存在を思い出し、レヴィは二人の肩をぱたぱたと叩いたのだった。
◇
「ヌヴィレットさん、複製は何枚欲しい?」
「何枚、とは?」
テーブルの上の花瓶の中で各国の花々が得意げに綻んでいるのを視界の端に収めながら、伴侶の問いに首を傾げる。愛おしげに絵を撫でたリオセスリはそのフロスティブルーを細めた。
「この絵。原画は家に飾るだろ。執務室に置く分と持ち歩く分で二枚は必要だと思うんだが」
少なくとも俺はな、と続けられてうなずいた。執務室に置く分はポストカードサイズだと嬉しい。持ち歩く分に関しては、手帳に挟めるサイズにできるだろうか。複製とはいえ、可愛い息子が描いてくれた絵に折り線をつけたくはない。
「
…
確かに。では私も二枚頼みたい。ああ、額縁も手配せねばな」
要望ついでに一番大切な原画の取り扱いについても提案してみる。耐水に関してはヌヴィレットが直々に保護をかけたのであまり気にせずで良いが、耐衝撃には気を配らねばなるまい。あとは光の影響を受けないようにしたい。となるとやはり美術館御用達の額装店に依頼するのが確実だろうか。
「そっちは任せて良いか? 複製の方は俺が研究者組に声をかけてみる」
「うむ、任せて欲しい」
提案に色良い返事をもらって、今のところヌヴィレットが一番信を置ける形での複製の手配の計画を確定して。
リオセスリに倣って紙に指を滑らせる。笑顔で寄り添った自分と彼が描かれた愛息子の絵。子どもの手によるそれだ。大多数の人間は拙いと評するのだろうが、ヌヴィレットにとっては間違いなく『名画』だった。伴侶も同じ気持ちなのはその表情を見ればわかる。
「
…
『サプライズ』の理由が父の日のためだったとは思わなかったな」
ぽつりと、リオセスリが呟くのにうなずいた。探究心のある仔だから、誰かとの会話で知ったそれを実際に試してみたいのだろう、なんて彼とは話していたのだ。
花は“おにいちゃん”の秘密基地で摘ませてもらったこと。一生懸命二人分の椅子を引いてくれた立派なエスコート。今日のための特別な料理に自分がどのように関わったのか。瞳を煌めかせて語ってくれるレヴィはとてもとても愛らしかった。
息子からの精一杯のもてなしを受けた今昼間を思い返してみれば、確かに今日の廷内には『父の日』を謳うポスターや呼び込みが溢れていた。日頃レヴィに「とうさま」「パパ」と呼びかけられているのに、それが自分たちと繋がらなかったのは滑稽な話だ。
「私たちにはまだ『父』の自覚が足りなかったようだ」
「全くだ。
…
俺は来年も泣く気がする」
から、その時は見なかったことにしてくれ。
早くも“次”の想定をして頬を掻くリオセスリに肩を振るわせる。
「ふむ
…
君の泣き顔を見るためにも、良い父親であらねばな」
まずは息子から“ありがとう”を言われるような一年を過ごさなければ。決意を新たにそう口にすると、そうだなと同意を示してくれてからリオセスリは肩を竦める。
「
…
あんたも最近、ウィットに富んだ言い回しが板についてきたな」
「ふうふは似てくると聞く。君の影響だろう」
あまり自覚はないのだが会話術が向上しているようで嬉しいと応じれば、伴侶は顔を覆ってしまって。
また何か、彼を「振り回す」ようなことを言ってしまっただろうかなんて思いつつ、ヌヴィレットは小首を傾げるのだった。
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