りっこ
2025-06-15 12:26:04
2485文字
Public レオジャミ
 

アラアラアラ

れおじゃみ

#1:バグってる

ジャミル・バイパー、朝から絶不調。

──というのも、だ。
魔法薬学室付近を歩いていた、その時。
実習棟から魔法暴発。
何事!?って慌てて身をひるがえしたら

そこにいたのが、あのレオナ・キングスカラー先輩。

「ぐぉ!?」

ドスン。
草むらで、ふたり、見事に倒れ込む。
つぶれたカエル、もといライオンの声もこんなのか。

気がつけばジャミルの手がレオナの腰を抱え、レオナの脚がジャミルの脚をがっちりロック。
思わぬ密着、思わぬ温度。
一瞬、思考がフリーズする。

で、同時にふたりが思う。

「──アラ、柔らかい」

……まじかよ。

レオナはレオナで、こんなにしなやかなヤツだったか?と内心ザワザワ。
ピシッとしてると思いきや、細くて意外と密度があって、香りもいい。
ジャミルはジャミルで、胸筋やわらか! この人、見た目以上に体温高いな……なんて思っている。

なんだこの妙な間。
ヤバい、これはマズいと察知して、慌てて立ち上がる。
絶対目は合わせない。
さっきまで全然意識してなかったのに。

なのに!

(なんだあの腰)(なんだあの腕)
(見るな、見んな)(でもちょっと、なんか)

──アラアラアラ。

火種は投下された。

ここからが早い。

廊下ですれ違うたびに『目が合う』。
つまり、向こうもこっちを見ている。

(あれ? 俺が見てるから見てくるのか?)
(いや、振り返っただけ)
(むしろ向こうが見てるのでは?)
……どっち発信??)

脳内では“チェス・プロブレム”が始まる。
勝者は誰だ。負けるのはプライドか。

そんなこんなで、ふたりは同時刻、別々の場所で空を見上げて呟く。

……絶対、向こうから言わせる」

同じ空、同じタイミング。

そう、ふたりのプライドが、いま静かに点火した。

──恋の幕は開かないまま、
チキンレースの火蓋だけは切って落とされたのであった。





2:読めないからこそ

レオナ・キングスカラー、世間的には「怠惰な獣」。
寝そべってばっかり、動かない、やる気ない。たまに吠える。それがデフォルト。

──だけど、知る人ぞ知る“裏顔”もある。

ややこしいもの、扱いにくいもの、解き明かすのが好きである。

たとえば古代呪文語。
規則も例外もごちゃ混ぜ、イントネーションひとつで意味が変わるアレ。
そんなものを自分から選び、講師に「前世で使ってた?」と引かれながらも突き詰めてしまう性分。

要するに
『ややこしい相手を、自分の手で手懐けたい』
それがレオナの根っこにある。

問題は、あの事故以来──

ジャミル・バイパーの挙動が「ややこしい古代呪文語」になってしまったこと。

・廊下で目が合えばふいっと目線を外す(でも口元だけ微笑む)
・ふたりきりだと無言なのに、なぜか袖が自分側に向いている
・実習中にぐっと距離を詰めてきたと思ったら「……なんでもないです」と逃げる(なにそれ)

未解読の古代文字か? ってくらい、読めない。
懐くのでも、惚れているのでもない。

けれど、
「読めないなら読みたい」
「放っておくなんてできない」

すでに選択肢はなかった。

昼休み、植物園のベンチ。
訳本をパラパラしながら、既に覚えたページばかりぼーっと眺める。
(午後からあいつ錬金術だな)

「あ、いた」

不意打ちの声。
顔を上げれば、ハーブの束を抱えたジャミルが、少しだけ警戒した顔で立っている。

「実習準備です。通りかかっただけです。……別に、探したとか、そういうのでは」

言い訳が先行。
すでに“古代呪文語的バグ”である。

……そりゃどうも?」

レオナは、本を閉じて立ち上がる。
いつもより半歩だけ、近い距離。

どちらも下がらない。

レオナは「読めるか?」の顔で笑い、
ジャミルは「読ませるかよ」と目を細める。

この“めんどくさいやつ”を手に入れたら、絶対面白い。
こいつに「好き」って言わせたら、たぶん最高。

だが、ふたりの心は同じ。

──「絶対、先に言うもんか」

アラアラアラ。
読みたいと思ったその瞬間、
“本”のほうもこちらを読んでいた。




#3:詰ませたつもりが、盤上にいた

ジャミル・バイパー、策謀家である。
全方位把握し、先回りし、最善手を選ぶ──要するに、予測と制御の人間。

だから、ここ最近のレオナ・キングスカラーの動きも、それなりに読みきったつもりだった。

普段はだらけてるくせに、何故か視界の端にいる。
植物園、廊下、教室近くの窓際。

明らかに、見られている。

(アラ……?)

策謀家の勘が告げる。これは、何かが始まっている。

惚れられてるとは思ってない。
だが、「あのレオナが自分に“何か”を見出している」状況が、客観的に面白かった。

事故のあと、チキンレースはスタート。
そして、視線の密度は確かに変わった。

歩けば目が合う。
すれ違い様に視線が走る。
植物園では「よう」と声がかかる。

いつものレオナじゃない。
何かを読み解こうとしている顔。

(ふふん)

つい、靴の音を忍ばせて角を曲がる。
気づいてないフリの精度も増した。

(詰ませてる感、あるな)

けれど。

とっくに自分が盤上にいることには気づいていなかった。

「今日も植物園か……

ハーブの束を手に、廊下の影から木陰を覗く。
顔だけ見て帰ろうと思うのに、足が動く。

今日も声をかけるのは、どっちだ。

──全てが、ちょっと楽しくなってきている。

ジャミル・バイパーは策士である。
だが、今や『チキンレース』そのものが楽しいと認める日が来るとは、思っていなかった。

だって、こういうゲームは“負けを自覚したときが、本当の始まり”なのだ。

たぶん、レオナもそろそろ仕掛けてくる。
まだ自分だけが詰ませてると思い込んでるけど、

ジャミルは今日もひとつ仕掛けて見せて、笑う。

アラアラアラ。
ちょっと、可愛いんじゃない?