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しゃーるろっと
2025-06-15 12:17:14
2523文字
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今統律(デ死自陣)
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【今統律】夢現
「デウス・エクス・マキナは死んだ」「盲心未遂」のシナリオネタバレ/「夢苦(ムク)」のシナリオ匂わせ
架空の話。
時系列は「盲心未遂」後。「夢苦(ムク)」の前後どちらでもいけそう。
ふと目を覚まし、まだ暗い室内を見渡す。
ため息をついた律はゆっくり立ち上がり、音を立てないよう慎重に部屋を出た。
時刻は午前2時過ぎ。この時間帯に目覚めるのも最早慣れつつある。特段夢見が悪いだとか、寝苦しいといったことは無かった。ただ突然目が覚めて、暫く寝付けなくなる。それだけだった。
しかし起きていれば当然睡眠負債は増加していく一方で、じわじわと身体が疲労に蝕まれていく感覚があった。
冷えた床に足をつけながらキッチンへ向かう。棚の奥からマグカップを取り出し、牛乳を注ぐ。電子レンジの音が響く間、ぼんやりと考え事をしていた。
グレイとはもう何日もまともに会話をしていない。あの教会での出来事に関する記憶をなくした彼女からすれば、理由もなく距離を置かれて困惑していることだろう。
これ以上厄介事に巻き込むわけにはいかない。何も言わずグレイを置いてスウェーデンの実家に戻ることも考えたが、両親がそれを許すとも思えない。
何より、彼女の身にもしもがあればと思うと、そう簡単に見放すわけにもいかなかった。一連の行動が不誠実であることは律も自覚しているが、グレイを人間の世界へ連れ出した責任も重くのしかかっていた。
こんな付かず離れずの状態が、一体いつまで続くのだろうか。
ここ最近は特に強い罪悪感に苛まれ続けている。
グレイの信仰心は、両親を含む環境に影響されたものだと感じていた。そして、それが彼女自身の自由な選択や成長を妨げるものであるなら、そんな信仰は断ち切るべきだと考えていた。今もその見解に大きな変化はない。
ただ、彼女がそれを自らの意思で続けているのだとしたら?それはもう、彼女自身の選択なのかもしれないと思うようになった。
本来、選択の自由を守るなら、信仰すらも選択肢のひとつとして尊重されるべきだ。
時間が経ち、冷静になればなるほど、あのときの自分の振る舞いが理性から外れていたことに気付かされる。その事実が何よりも不快だった。
“信仰”を理屈で否定したはずだった。だが今振り返れば、それはただの拒絶反応に過ぎなかった。
こんな考えばかり巡らせているから、眠れないのかもしれない。少しでも気を紛らわせたい一心でマグカップを両手で包み込み、ゆっくりと口に運んだ。
空になったカップをシンクに置き、窓の外を見る。ミルクの温もりがまだ手のひらに残る中、律は静かにベランダの扉を開けた。
空を見上げれば、都会の光でぼやけてしまった星があった。それでも強く輝く星たちを、律は黙って見つめていた。
「
――
何してるの?」
突然背後から声を掛けられて、心臓が跳ねる。自分の体がぐらりと揺れる感覚で、ようやく自分の体がベランダの手すりに強く預けられていることに気付いた。
「
……
なんでもない」
息を呑み、慌てて背後に体を戻す。手すりを強く握りしめながら振り返った。
自分でも、なぜ身を乗り出していたのか分からない。ただ星を見ていただけ。そのはずなのに、心の奥にひんやりとした違和感が残っていた。
「少し、眠れなかっただけだ」
グレイの視線を避けるように目を伏せ、律はベランダから出た。返事が返ってくる前に、足早に部屋の中へと戻る。
背後に視線を感じながらも、振り返らなかった。まるで何もなかったように、ベッドに身体を滑り込ませる。
どうせまだ暫くは眠れないだろうが、そうするしかない。
それにしても、と律は冴え切った頭で考える。
“今日は一段とうるさい”と。
普段は気にもならない程度だが、少し前から時折耳の奥でざわめくような音が聞こえていた。それが今夜は妙に鮮明だ。
もしかするとこの音が眠れない原因かもしれない。律はふと、試しに耳を塞いでみる事にした。
筋音に混じって聞こえる音。耳を澄ませば案外心地良いようにも感じてきて、次第に眠気が押し寄せる。これでようやく寝れると安堵して目を閉じる。
耳を塞いでいるのに聞こえてくる理由も、不快に思っていた筈の音が眠気を誘う理由も分からない。だが今は、眠れるのならどうでも良かった。
▮
グレイは深夜に物音がして目を覚ます。
こんな時間に一体何事かと眠い目を擦り、そっと廊下を覗き込む。まさか泥棒か、幽霊か
…
と考えて身を震わせながら、ゆっくりとした足取りでリビングへ向かった。
ミルクの匂いを辿ってみれば、シンクには飲みきったばかりなのか、まだほんのり温かいマグカップが置いてあった。
冷たい風を感じてベランダに目をやれば、月のような金髪が夜風に揺らめいているのが見えた。
どうやら星空を眺めているようで、律は空に手を伸ばしていた。
「
…
父上」
律の呟きを聞いたその一瞬、背筋が凍りついたように動けなくなった。
律が空に伸ばした手は、更に上へ、上へと伸びていく。まるでそこに掴むべき何かがあるように宙を掻く。その体は前のめりになり、ベランダの手すりから今にも乗り出してしまいそうな危うさがあった。
「リツ
…
?」
呼びかけても反応はなく、体は更に傾く。
このままでは、律が連れ戻されてしまう。グレイは直感的にそう思った。
「何してるの?」
声を掛けたことで驚いたのか、律は一層ぐらりと体を揺らした。落ちてしまうと焦り、咄嗟に手を伸ばす。当人は急に何だと言いたげな顔で、心配するだけ無駄だったのかと思えてしまった。
「
………
なんでもない」
なんでもない訳がないでしょう、と言い返そうと口を開くが、律はグレイの目を見ることすらしなかった。
「少し、眠れなかっただけだ」
そのままベランダを出て行こうとする彼を呼び止めようとしたが、振り返ることなく自室へと戻る背中を見つめることしか出来なかった。
「どうして眠れなかったの?」とか、「そんなに夢中になって何を見ていたの?」とか。「リツには説明する義務があるのよ!」と声を張り上げたくもなったが、一先ず今は飲み込んだ。しかしただならぬ雰囲気があったのは事実で、グレイは心配せずにはいられなかった。
一人取り残されたグレイは、律が見ていたものを確かめるようにベランダの同じ場所に立つ。見上げた空は街の灯りに濁り、星の輝きはどこにもなかった。
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