スサ
2025-06-15 09:29:46
2129文字
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【鬼水】大トロとキャンディー

父の日に回転寿司食べにいく義親子の話です。鬼水かはふんわりしてるけど鬼→水なのは確かなので…。


 近所に回転寿司ができるらしい、というのを初めに聞かされた頃は、回転する寿司とは?、回転しながら食べるとか回転焼きのような作り方の寿司とか?、と困惑を露わにしてニヤッと笑われたものだが(行ってみたら理解できたが、ニヤニヤする水木の肘を肘でこっそりつついた)今ではすっかり慣れた。
 鬼太郎に食べ物の好き嫌いは特にない。それでも、小さな頃水木がたまにお土産に持って帰ってきたいなり寿司と干瓢巻き、かっぱ巻きにはやはり懐かしさがある。何か良いことがあったり、水木が賞与をもらった時などに握り寿司を桶で届けてもらうのがご馳走だった。だから、寿司は好きだ。そんなわけで回転寿司もすぐに好きになった。
 水木は鬼太郎に何かを食べさせるのが好きだから、今は彼も回転寿司が好きである。だが、水木が最近鬼太郎を回転寿司につれて行きたがるのは他にも理由があって

「ここは初めてですね」
 店内をきょろりと見回して、鬼太郎は言った。普段通り落ちついているようにも見えるが、水木にはわかる。鬼太郎は少しソワソワしている。
 なお、目立つから、という理由で服を現代風に変えてもらっている。ご先祖様──ちゃんちゃんこにはボーダーの幅を適度に変えてもらい、黒と黄色のツートンのようなパーカーになってもらっていた。
 ご先祖様達も末裔である鬼太郎が喜んでいるのが嬉しいのだろう。わかる、と水木は内心頷いた。
「そうだな。俺も初めてだ。いっぱい食べていいからな」
 笑いかけて手をつなげば、鬼太郎は微かに眉をひそめた。
そんなに食べませんよ、僕」
「そうだなあ」
「水木さんこそ。いつも僕のことばっかり。ちゃんと食べてください」
 と、決意みなぎる顔になり、鬼太郎は半ズボン(ここは変わらなかった。長ズボンは暑くて動きにくいらしい)のポケットから大きながま口を取り出して見せた。
「心配しないでください。今日はちゃんと僕、お金もってきてるので」
 周りで見ていたら、お小遣いでごちそうしようとしている子どもと、笑いをこらえて穏やかに微笑んで見せている大人の図だ。父の日に見ると本当に微笑ましい。鬼太郎だけは気づいていないが。
ん。ありがとな」
 あえて逆らわず、水木はぽんと鬼太郎の頭を撫でて笑った。
 何か言い返そうとした鬼太郎だったが、席に案内されてしまったので、「本当に本当ですからね」という念押しは口の中に消えた。

 ……で、どうなったかというと。
 水木は隣の、一定のペースでまぐろ、しかも大トロを食べ続ける義息に目を細めた。
 タッチパネルで大トロ三巻セットなるものを注文するのも忘れない。
 鬼太郎はマグロが好きだ。特に大トロが好きだ。
 知ってはいたが、回転寿司という、好きなネタを延々食べても良い店に連れてきたら、水木の想像以上に好きらしいことがわかった。
 次々積み上がっていき、とうとう二本目の塔を建て始めた金色の皿を満足気に見つめながら、水木は、ちびちび日本酒を舐めながら、コハダ、しめ鯖、ハマチ、とゆっくりしたペースで口に運ぶ。
「うまいか?」
 鬼太郎はこくりと頷いて、それからハッとした顔で水木を見た。
、み、水木さんは」
「ん?」
 自分が無心に大トロ食べマシーンになっていたことに気づいて、動揺しているように見える。
 ふは、と水木は笑った。いたわさを注文した。もはや寿司ではない。
 鬼太郎の髪をかき混ぜながら、水木はひたすら上機嫌だ。
「おまえが食べてるの見るのが好きだから、俺も満腹だよ」
「で、でも」
「ほら。まだ食えるだろ?たんとお上がり」
 目を細めて微笑み、最後にもう一度、名残惜しげに栗色の髪をかき混ぜて水木は手を離した。

 結局鬼太郎が大トロを食べ過ぎたこともあり、いつも通り会計は水木がした。
 けれども大きながま口を握りしめて悔しそうな鬼太郎の頭をぽんと叩くと、じゃああれ買ってくれないか、と棒付きの飴を水木は指さしたのだ。
「俺が自分で買うのは少し恥ずかしくて。買ってくれないかな」
 水木が気を遣ってくれたのはわかったが、それでも挽回のチャンスは嬉しい。
 鬼太郎は棒付きの飴を三つ買って、一本は水木に渡し、もう一本は自分の手に残し、最後の一本はポケットにしまった。
「おやじさんのか?」
 すぐに意図を察した水木に頷いて、鬼太郎は言う。
「父さん、すぐヤキモチをやくので」
 この台詞に水木は最初目を丸くし、すぐに笑い出した。その楽しげな様子を見ながら、鬼太郎はぺりぺりと飴の包装を剥いていく。
「鬼太郎?」
 気づいた水木に、鬼太郎は飴を差し出す。ぱちぱち瞬きするだいすきなひとに、鬼太郎は笑いかけた。
「水木さん、あーん」
…………
 ぽかんとした水木だったが、すぐに優しい目をして口を開けてくれた。飴を迎える舌の動きを飴についた棒の微かな振動と視覚で認識する。鬼太郎はひそかにごくりと唾を飲んだ。
ん。ありがとな」
 飴をくわえるために屈んだせいで、礼を言う水木はやや上目遣いで。頬が熱を持つのを感じながら、は、はい、僕こそ、とどうにかこうにか鬼太郎は答えたのだった。