荒船が、参考書を見て眉間に皺を寄せつつ、ノートに書きこむ。その一連の動作が好きだ。
今のところ、誰からも同意は得られていないのだが、気怠そうな時も、そうでない時も、無言でノートに何かを書き進めるその動作を、村上は美しいと思う。
「見すぎだろ」
「自覚はあるよ」
「自信満々に返すんじゃねぇよ」
荒船もそんな村上の視線にはすっかり慣れたもので、その指摘ももはや様式美に近い。
「荒船、そのペンよく使うよな。書きやすいのか?」
「あぁ、まぁな」
頷きつつ、荒船は自分のペンを差し出してくる。これは観察していいという事だろう。ごく自然に受け取って、自分の掌にそのペンをおさめてみる。
確かにペンの重さや太さ、書き心地は絶妙で、荒船が愛用するのも頷ける一品だ。
「俺も買おうかな、これ」
「おー、いいんじゃねぇか」
きっと物凄いこだわりとかはないのだろう。荒船もごく自然に頷く。村上もこれまで自分の文房具に対してこれといったこだわりはない。ないのだが。
「
……今度つきあってくれるか?」
「いいけどよ、わりとどこにでも売ってるやつだぞ」
「そうかもしれないけど」
荒船は肩を竦めて、日程決めておけよ、と言う。村上もわかった、と頷いて自身のスケジュールを確認した。今週は防衛任務が数回入っていて、その上、ソロランク戦をやるぞと申し込まれているので、わりと毎日予定が入っている。
「来週でもいいか?」
「おう」
「じゃあ、火曜日とか
…」
「火曜日なら俺も用事特に入れてないからちょうどいいな」
あっさり予定が決まって、村上は思わずにこにこと機嫌がよくなってしまった。
荒船とデートだ、と思うと村上のワクワクは止まらない。ソロランク戦は今日も申し込まれていて、相手はよりによって影浦だ。浮かれきったこの感じ、どんなに取り繕っても影浦にはばれてしまうだろう。
「そんなに嬉しいか? お揃い」
「お揃い
……あ、確かに」
「自覚なかったのかよ」
荒船は酷く驚いた様子で、目を見開く。
「自覚なかった
……」
「本当にか?」
「あ、あぁ」
「前に映画行った時も、俺と同じ上着買ったりしたろ」
「
……た、確かに」
「文房具もそうだろ。結構同じやつの色違い持ってるぞ」
「
……本当だ
…」
村上は衝撃のあまり数歩よろめいた。
全然そんな気はなかったのだが、どうも荒船の持っているものが欲しいとなりがちかもしれない。そしてそれに気づいていなかった事に、村上はただただ驚いている。自分の思考回路と、そう思っているくせに認知していないところが。
「
……まぁ別に、全部同じにしようってわけじゃなさそうだから、いいけどよ」
「
……えっと
…ごめん」
「別に俺も嫌じゃねぇからそれはいいんだよ」
「嫌じゃないのか?」
「まぁ別に
……。鋼が俺のこと好きなのは、前からだろ」
「
……さらっと言う
…」
「今更だろ」
「今更だけどさぁ、ちょっと恥ずかしいよ、特に無自覚だったし」
「無自覚は俺も驚いたぞ」
「だよな
……」
「で、どうする? やめとくか?」
「えっ、なんで? やめないよ」
お揃いにしたい気持ちに今気が付いたというだけで、買い控えたいとかそういう話ではないのだ、と村上は強く訴えた。
荒船はわかったわかった、と苦笑しながらうなずく。
その様子もまた、村上にとっては好きな表情で、思わず見惚れてしまったりしつつ。
「なんでこんなに好きなんだろうなぁ
…」
心の中に留めておくつもりだったそれを口に出してしまって、荒船が頬を赤らめるまであと数秒。
そしてその近くで、今日はソロランク戦やめておいた方がいいのでは、となっている影浦がいたのだった。
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ひむり
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