A4
2025-06-14 23:21:01
2528文字
Public 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
 

That's his way of cuddling/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ

つらつら書いただけ、2人で飲んだ後のやりとり

「組み合わせがよくなかった……
アキラがこめかみを指でおさえながらうめいた。
「うう、気持ち悪い」
「大丈夫じゃなさそうだな」
「吐くまではいかないけど、よくない飲み方をしてしまった」
アキラの顔は蒼白だった。
もともと生っ白いのがさらに色を失って、心なしかいつもより目の下の隈もひどく見えた。
ルミナ・スクエアにはアキラとリンの行きつけのバーがあるらしい。2人で行くこともあれば、アキラが1人で愉しむ日もあるとのこと。
ボトルをキープしているというので、ライトはいつか行こうと誘われていた。
ヤヌス区への配達の仕事があったおかげで、さほど時を置かずにその誘いに乗ることができた。
2人はバーのカウンターで特に会話もないまま飲んだ。アキラの飲むペースがいつもより早いと感じたが、店を出るまで彼が気分を悪くしていたことには気づかなかった。
「ライトさん、公園で涼んでもいいかな」
「もちろんだ。あんたがよくなるまでそばにいてやる」
「放り出さないとは思ってるよ。ライトさんはやさしいから」
口を押さえながらよろよろ歩くのを支えてやる。
このやさしさは誰に対しても平等に向けているつもりはないのだが、それをわかっているのかいないのか、アキラはよくライトをホスピタリティのある男だと褒める。しかし、もしアキラだけにやさしいとわかっていて言うなら、それは牽制だったし、わかっていなければ、信じがたい鈍感さで、どちらにせよライトを悩ませた。
公園に着いたアキラはベンチに座った。ライトは目を瞑って呼吸を整えている彼に声をかけた。
「水を買ってくる。ここで1人で待ってられるなら?」
「子どもじゃあるまいし……うん、ありがとう、お願いするよ」
うつらうつらとし始めたので、倒れてしまわないか心配だったが、ライトは公園を出て自販機を探した。戻ってきた時に倒れて嘔吐でもしてその吐瀉物を喉に詰まらせているところまで想像した。……大所帯だったころは朝まで飲み明かし、つぶれた連中を介抱しては転がしていた。そんなことをふと思い出す。
ペットボトルを手にして戻ると、アキラはベンチに寝そべっていた。うんうん唸っている。
「水だ」
「ありがとう」
蓋を開けて渡してやると、身を起こして口にする。三分の一飲んだところで一息つき、それからまたごくごくと喉を鳴らしながら飲んだ。ライトはその様子をじっと見守った。
「ライトさんお願いがある」
「店まで送るぞ」
「そうじゃなくて。膝枕してほしい」
「は!?」
「いきなり大きな声を出さないでくれ、びっくりするじゃないか」
「驚くのはこっちだ」
「裸で逆立ちしろって言ったんじゃないんだけれど」
「そんなおねだりされるとは想定してなかったんでな」
「はは、おねだりか。うん、そうだね。ダメ?」
「もちろん、いいさ」
「その返事がすぐ聞けたら良かったんだけどね」
皮肉っぽくアキラは言うが、こんなに軽口が叩けるなら具合はそこまで悪くないらしい。
ライトはベンチに座ってアキラの頭を乗せた。
実のところ、誰かに膝を貸すなど初めてである。どんな環境にいても、これはなかった。
アキラの手が伸びてきた。何かを言ったが聞き取れず、身を屈める。サングラスが取られて、前髪を指がかき上げた。目と目が合う。そこにいかなる感情も読み取れなかった。凪いだ海のような、果ての見えない空のような、不思議な色の虹彩を持つ瞳がこちらを見ていたが、その中に自分は映っていないように思えた。
「きれいな目をしている」
「そりゃどうも。あんただけだな、そう褒めてくれるのは」
「そんなこと、ないだろう」
「いいや? 生意気だってガキの頃から殴られてきた。そのうち図体がデカくなって一方的に力を振るわれることはなくなったが、言いがかりはしょっちゅうだ。今でもな」
「眼だけじゃないよ。顔もきれいだ」
アキラはぺたぺたとライトの顔を触った。頬の形を手のひらが確かめる。指が眉をなぞり、鼻の上をすべり、むず痒くなって顔を逸らそうとすると追いかけてきて唇に触れた。
自分の気持ちには応えてくれないくせに、とライトはどこか白けた気持ちになった。
彼を好きなのは本当で、たとえ同じ気持ちを抱かれなくとも、側にあればいい、そう納得しようとしている。
欲しがれば体は与えられるのに、その先を渇望してしまう。
「遊んでないで、ちゃんと休め」
「うん」
「水、足りるか?」
「大丈夫」
「しばらく休んだら帰るぞ」
「嫌だ」
「なぜだ?」
「もう少しこうしていたいから」
アキラは言ってライトの頬に手を当てた。
「俺も嫌だと言ったらどうするんだ」
「駄々をこねるかなあ」
「なんだって」
「僕は生まれてこの方、駄々をこねたことがない。優等生だったしリンが先にむずがるからいつもタイミングを逃していた。あなたの前でならできる気がする」
真面目な顔をして言うので、ライトは笑ってしまった。
彼の生い立ちのことはほとんど知らない。こちらも話していないし、互いの間で過去はそこまで重要でないように思えた。
アキラなら自分の虚をそのままにしておいて、何を求めてくることもなく、過ごせる。
そこで気づく。
それでいいのだと。
「バカなことを言ってないで、調子が良くなったら戻るぞ。リンもイアスも他のやつらも心配してるだろう」
「わかったよ」
アキラはゆっくりと起き上がった。膝の上にあった重みと温もりがなくなる。
「帰ろうか。お礼にライトさんにはコーヒーを振る舞おう」
立ち上がったアキラは顔色が戻っていた。
ライトはホッとする。
「ありがたいね」
「で、今日はうちに泊まっていくこと」
「俺には拒否権がなさそうな宣言だ」
「これも駄々のうちに入る?」
アキラは眉を顰めて首を傾げた。
ライトはアキラの頭に手を乗せ、軽く撫でた。
こんなとき、どう返してやればいいか、わからなかった。
ひとに甘えてわがままに振る舞うことを指すなら、アキラはいつだって、ライトにそうしていた。
「そうだな」
「それで、ライトさんの返事は?」
サングラスをかけ直して、ライトは頷いた。
そんなもの、彼に従うに決まっていた。