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Hizuki
2025-06-13 23:15:43
4038文字
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あんスタ[零薫他]
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榛の枷、紅玉髄の牢
【あんスタ】零薫。月下の王(+グレパニ)×スコルピオの衣装パロ。薫と共に在るために『とあること』をする零の話。設定ふわふわなので、細かいことを気にせず雰囲気で読める方向け。完全に暗いわけではないけど、あまり明るくもない。例えそれが歪な方法であったとしても。
「
…
もうこんな時間か」
同じベッドに横たわっていた彼が、窓の外に目を向けてそう小さく呟いた。夜は大分薄くなり、薄らと朝日が姿を見せ始めている。それは、彼との別れの時間が迫っていることを告げていた。
「俺が魔族じゃなければ、ずっとあんたといられるのになぁ
…
」
異なる種族である彼と共に過ごせる時間は、月が世界を照らしている間だけ。名残惜しそうにゆっくりとベッドを抜け出すと、ソファに脱ぎ散らかした服を手に取った。1枚ずつ身に纏う漆黒の衣が、身体に残した痕をまるで何もなかったかのように覆い隠していく。ここを訪れた時と同じ姿に戻った彼が、こちらに歩み寄ってくる。
「そんな寂しそうな顔をしないでおくれ。別れは一時のものじゃよ」
身体を起こすと彼の頬に手を伸ばした。触れた指先が金色の耳飾りのチェーンを揺らす。グローブを付けた手を自身の手に添えられれば、手のひらに触れる熱の面積は大きくなった。離れたくない、というように目を伏せる。
「でも、次がいつかは分からないでしょ?」
「
…
それは」
彼が口にしたことは正にその通りで、言葉が次げなかった。今この場で明確な次の約束を交わすことはできない。会いたいと思う気持ちは同じでも、魔族と一国の王という互いの立場がそれを遮っている。
「
…
ごめん。あんたを困らせたいわけじゃないよ」
口を噤んだ自身を気遣うように彼が続ける。そして、彼の方からこちらの手を離した。
「またね」
「
…
待っておくれ」
身を翻して歩き出そうとした彼の手を繋ぎ留めた。振り返ってこちらを見る目は驚いたように見開かれている。
「『我輩とずっといたい』という言葉に二言はないかえ」
「え?」
自分の問いかけに、彼は戸惑ったような声を返した。
「どんな手段を使っても構わないかえ」
問いかけ、というよりは、意思の確認だった。
「
…
どうしたの、零くん?」
「薫くん」
自身の様子がおかしいことを察したのか、彼は二つ名ではなく真名で呼んだ。同じように彼の名を呼ぶ。そこから何かを感じ取ってくれたようで、薫くんは身体ごとこちらに向き直った。光の入り方で幾重にも色を変える彼の瞳がそっと伏せられた。
「叶わないから、俺達はこういう時の重ね方しかできない。
…
でも、もし本当に叶うのなら、ね」
諦めの中にかすかに滲んだ彼の願い。それが聞ければ十分だった。
「
…
そうか。その言葉、しかと我輩の胸に刻んだ」
繋ぎ留めた手を一度離し、その手を掬い上げる。そのまま手の甲に口づけを落とし、彼を見上げた。不思議そうにしているものの、こくりと頷いた彼をいつもの窓まで見送る。この部屋に招く際に、彼がいつ訪れてもいいようにと鍵を開けている窓は、一番奥にあった。静かに佇むガラスが2人を隔てる。少しだけ顔をこちらに向けて微笑んだ後、ふっと彼の姿は消えた。
「
…
もうしばし待っていておくれ、薫くん」
届かない言葉を口にする。本人からの承諾は得た。ずっと自身の胸の奥に秘めていた計画を実行に移す時が来た。きっと世間一般からすれば『許されない』ことだろう。それでも、彼の願いを、自身の願いを叶える方法は、これしかない。そのための準備をして、彼を招くための使い魔を送る。直近の満月の日を指定した招待状は滞りなく届けられた。そして、自室から連なるバルコニーで彼が姿を見せる時を待つ。
「
…
これはこれは
…
随分な歓迎だねぇ、月下の王」
意外だというような声が聞こえて、伏せていた目を開けた。彼からそんな声が漏れるのも無理はなかった。窓を背に立ち、彼の周りを自身の側近の兵達で囲っているという状況だ。歓迎、とは言ったが、本来はそう取れるようなものではない。一歩前に歩み出ると、すぅ、と息を吸い込んだ。
「
…
スコルピオ、貴様の毒が城下に蔓延する病の元凶だという話が我が耳に届いておる」
意識的に声を低めて、感情を乗せない声でそう告げた。
「
…
何の話?」
返ってきた声には耳を傾けない。
「よって、貴様の身柄を拘束する」
発した言葉を合図に、彼の周りにいる兵達が距離を詰めていく。
「ちょっと
…
本当にどういうこと
…
!?」
カシャン、と聞こえた金属の音が彼の腕を封じる。
「零くん!」
名を呼ぶ声は、助けを請うような、切実な音を乗せていた。動きを封じられて膝をつき、視線はそのまま地面に落ちている。顔を上げさせるように顎に手を添える。こんなに暗い色の彼の瞳を見るのは初めてだった。一度目を伏せてから、翳った淡い茶色の瞳を覗き込む。ぱっと目を見開いたかと思うと、そのまま静かに瞳が隠された。力の抜けた身体がこちらに向かって倒れ込んでくる。自身の魔力が一番高まる満月の日を指定したのはこのためだった。
「
…
彼を例の場所へ。くれぐれも丁重にの」
完全に意識を失った彼を兵に託し、部屋の中に戻る。そしてクローゼットの中にかけられている真新しい服を取り出した。黒を基調に赤と金でアクセントを付けたそれに腕を通し、白のロングコートを羽織る。ベルトのループに通したリングには鍵が2本かかっていた。
人目を避けるように道を選んで城内を抜けて裏庭に出る。そして、木々に隠された少し離れたところにある石造りの塔へと向かう。中に入れば、カツンカツンと階段を上る自身の足音だけが響く。階段が途切れた先には扉が一つ。下げていた鍵で錠前を開けて、静かに扉を押した。僅かに開いた隙間から中の様子を盗み見る。そこにいることを知らせるように、差し込む月明かりが自由を奪われた状態で窓際に座る彼を照らしていた。相応しくない表現だとは分かっている。それでも、ただ美しい、と思った。もう少し眺めていたいと思う気持ちを押し留めて、中に踏み込んだ。足音に気付いた彼が冷ややかな視線をこちらに向ける。
「
…
王自らこんなところにおいでになるとはね。しかも、そんな看守みたいな格好で」
かけられる声もいつもより低い。不信感が滲み出ている。そんな態度を取られても仕方がないことを、自身は彼にしたのだ。
「俺の毒は人を病に侵すようなものじゃないって、あんたも知ってるはずだけど」
もちろん知っている。彼の毒が薬になることはあっても、人を殺めるようなことは決してない。
「
…
何か言ったら」
「
…
すまぬ。こうするしかなかったんじゃよ」
彼の側に跪くと、もう1本の鍵を腕を封じている手錠の鍵穴に差し込んで回した。金属の枷は外れ、そのまま床に落ちる。敷いてあるカーペットが音を吸いこんだ。
「
…
え?」
「王である我輩が、魔族のおぬしと共に在るための方法は、これしか思いつかなかったんじゃ」
食い込んだ枷が白い手首に残した赤い跡をそっと撫で、唇を寄せる。国に被害をもたらす者、もたらした者、つまり『罪人』であれば、その身を拘束して牢の中に、言うなれば『王の監視下』に置くことができる。正当な手続きを踏んで、『彼』を『自身の側』に置くことができる、というわけだ。
…
そのために彼の意に沿わないことをしなくてはならなかったわけでもあるが。もちろん、あの話も本当に広まっている話ではない。広まっているのは真逆の話だ。
「
…
自分の家臣達すらも欺いて、ってこと?」
彼からの問いかけに首を縦に振った。
「真実を知っておるのは我輩が特に信頼を置いているあの場にいた数名のみじゃ。ここにいる間は我輩がおぬしを守る。そのための格好でもあるんじゃよ」
「ふ~ん
…
つまり俺は牢の中に閉じ込められた偽りの罪人、ってわけだ」
立ち上がってコートの裾を軽く広げて見せる。この姿であれば『牢』に立ち入っても何ら問題はない。そして、この牢の鍵を持っているのは自身だけで、他に立ち入れる者は存在しない。
「
…
牢っていう割には随分綺麗な場所じゃない?」
「そのように作り替えたからのう。外に出ること以外は、決して不自由ない生活を約束しよう。望みがあれば何でも言っておくれ」
部屋の、いや牢の中を見回して彼が言う。表向きの名がどうであれ、彼が過ごすことになる場所なのだから、快適に過ごせる場所でなくてはならない。彼のためならば惜しむものは何もない。王という立場だからこそできることがある。
「
…
呆れた。たかが魔族一人のために一国の王がそこまでする?王の座を追われる可能性だってあるのに」
「愛する者のためじゃから。王を降ろされるならば、それも構わぬよ。むしろ、その方が都合がいいやもしれぬ」
逆に、王でなくなったのならできることもある。自ら退くのか、他者から追われるのかの違いはあれども。
「その時は同じように罪を背負い、罰を受けよう」
「
…
全く、あんたって人は」
眉を下げて、困ったように笑みを浮かべる。そのままするりと両手のグローブを外し、こちらの顔に手を添わせた。滑らかな指先が輪郭を撫でる。彼の手を堪能するように目を閉じ、触れられる感覚に意識を傾ける。
「確かに、俺はこの国で暮らす人達からしたら罪人なのかも」
いつもと同じ調子でそう言ったかと思うと、動かしていた手を止める。
「善良な王を誑かした悪い魔族だ」
見上げるように合わせられた瞳は妖しさを孕んでいた。同時に心を掴んで離さない。誑かした、と彼は言うが、気付いた時には自分の方が彼に堕ちていたのだ。
「
…
だから、俺が逃げ出さないようにちゃんと見張っててよね、看守様?」
言いながら自身の手に指を絡めてくる。手のひらを合わせ、隙間なく絡められた指からは逃げるような気配はこれっぽっちも感じられない。
「安心せい。おぬしをここから逃がしはせぬよ」
言葉を誓うように唇を重ねる。愛という名の鎖が互いの身体を縛り、枷を付けている。もうこの牢獄から抜け出すことはできないだろう。彼も、自身も。抜け出せるのは共に朽ちる時が来た時だけ。
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