ガイベル
2025-06-14 01:00:00
5402文字
Public お話
 

Do not refuse me.

サニバジほのぼの日常
同棲済

ぱちり。

陽の光が室内を満たすころ、サニーは目を覚ました。人にとってどうだかは知らないが、彼にとってこの時間は特別早くもなく、遅くもない。
いつも隣に寝ているはずのバジルの気配は影もなく、おそらくは、もう既に日課に取り掛かっているのだろう。
サニーはそのまま二度寝をするかどうか……しばらくの逡巡のあと、いつも通りにのそのそと起き上がって身支度を始めた。

☀︎

しばらく経ってサニーがリビングに到着すると、窓の前に立って庭の様子を眺めているバジルの後ろ姿があった。外で作業でもしていたのか、なぜかキャスケットを被っている。花のワッペンのついたそれは、バジルのお気に入りのものらしい。まだサニーには気が付いていないようで、開け放たれた窓から入る風や鳥のさえずりが、穏やかに彼を包んでいるようだった。

「バジル」
「あ、サニーくん。おはよう」
「おはよう。……帽子、かぶってるの珍しいね」

バジルは少し目線を上げて帽子のつばを左手で触った。

「えっ?あ、ああ……、さっきまで庭にいたんだけど……もう、だいぶ日差しが強くて」
「そうなんだ」
「うん。でも、天気がいいのは嬉しいよ。この子たちも、太陽が大好きだから」

バジルはそう言って笑いながら、窓から見える外の花たちに再び目線を移した。「この花も、夜とか雨の日は閉じちゃうんだよ」と続ける彼の隣に立って、サニーも窓の外に目をやった。

彼の言うとおり、鮮やかなオレンジや黄色を持つ花たちは、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
今たくさん咲いているこれは……ええと。うーん、たしか……ポピー……?だったかな。昔、学校でも習ったような気がするけれど、州花とかだった気がする。……いや、違うかもしれない……。どうだったかな。授業はぼんやり聞いたり聞いていなかったりで、正直定かではない。
これがたとえばチューリップ、ひまわり、すずらん……グラジオラス、サボテン、バラ……。みんなのお花の事みたいにバジルが教えてくれていたとしたら、きっと間違いなく覚えていた。のかもしれない……とか、思うけれど。まあ、それはそれ。


そんなことより……

……バジル」
「ん?なあに、サニーくん」
………………

名前を読んでからじっと見つめるサニーの視線に、バジルは少し困惑した様子になった。

「な、なに?」
…………

もしかして、忘れてる?気づいてないのかな。
朝のルーティンがこれで完了というには、今ひとつ物足りないと感じているのは……自分だけだろうか。
しばし無言で見つめ合う。

……あ!」
「! ……うん」
「サニーくん、寝癖がついてる……。ふふ」

横にぴょこんと飛び出ていたらしいそれを、優しい手が撫でて直してくれる。けど、ち、ちが……う、そう……、そうじゃなくて……。はあ。

……バジル、……おはよう、の……
……あっ、ああ」

結局、言外にねだるような流れになった。一度肩透かしを食らった上に、改まって向き合うと恥ずかしくなってきて……。むず痒い空気の中、顔を寄せお互いの頬にちゅ と軽い挨拶をする。
大事な植物の毎日のお世話もいいけれど、こっちのことも忘れてもらっては困る。と、思う……

でも最近のバジルはと言えば、サニーが居てくれればそれで満足です、とでも言うように大人しい。正直なところ、一緒に住んでいる……それも恋人同士なんて、もっと四六時中、わけもなくくっついたり、見つめあったりするものだと……。思っていたのだけど。……もしかすると記憶の中の身近なお手本は、あまり参考にならないのかもしれない。

そんなサニーの胸中を知る由もないバジルは、いたってのほほんとした様子で話し続けている。
「サニーくんは今日は何をするの?」……とか。
そんなたわいもない話を進めるバジルにふと違和感を覚えて、返事もそこそこに彼を見つめた。ぱっと見、おかしいところはないはずだ。……なんだろう。でも、すごく、なんとなく。

「ど、どうしたの」
……
「さ、サニーくん?」
「バジル……何か、隠してたりする?」
……え?えーっと……
………………
「べ、べつに?」

そう返事をしながら笑った彼はすごく……とても、非常に……。強調をあらわす言葉の限りを尽くせそうなほど、わかりやすかった。これは絶対に、なにかある。

──となれば。

……僕には、言えないこと?」

サニーはあからさまにシュン、とした態度をしてみせた。ちょっとずるいかもしれない……とは思いつつも、いつも効果が抜群だから、つい。

「う、う〜〜、うーーん……
「バジル?」
「う、……じ、実は……ま、前髪切るの、失敗しちゃって……
「ふーん……。ちょっと見せて」
「や、やだよ!」

サニーくんに見られたくなかったからこうしてるのに、と言って、彼は帽子を余計に深く頭に押し付けた。室内では少し違和感のあるその姿は、その場しのぎの彼なりの応急処置だったのだろう。

「でも、これからずっと帽子かぶってるの?」
………………
「それは……

…………
…………

結局バジルはむむむ、と不服そうに頬を膨らませたあと、しばらく考え込んで……諦めたように息をついた。

……絶対笑わないって、約束してくれる?」

その言葉にサニーはうん、と頷いた。
どの程度の失敗か知らないが、なんだったら、僕が直してあげられるかもしれないし。
……だって、結構刃物の扱いは得意なつもりだ。



☀︎



……ねえ!絶対笑ってるでしょ!サニーくん!!笑わないって約束したのに!」
ひどいよ、と言いながらバジルの顔がさらにむくれる。

「ちがう、笑ってない。でも……ふ、ふふ」
「止まってない……
「だってなんか、その……、っふ」
「もう……いい。絶対、バカにしてる……
「だから、違うって……気にしすぎだよ」

バジルの前髪は、確かにハサミを入れるのは難しい程度に短くなっていて、手の施しようはなさそうだ。誰が見ても伸びるのを待つほかないだろう。
けれどサニーも別にバカにしているつもりはなく……ただ、バジルがすごく勿体つけて恥ずかしがっていたから気が抜けた、というか。
だって元々恋人の欲目を抜いても彼は整ったかわいらしい顔をしていると思うし、正直そこまで気にするほどではないと思う。
それに……その。
目新しい、少し幼さが戻ったような彼の姿もかわいいなと思ってしまったのだから、仕方がない。

「そりゃあ、変なかっこうになってるのはぼくが一番わかってるけど……。そんなに笑わなくたって、よくない?」

そう言って少し悲しそうに下がった眉毛が、今は普段以上によく見えた。じわじわうるうると、瞳が歪んできている。
自分の足りない言葉だけでは、なんだかどんどんこじれてしまいそうだと思ったサニーは、思い切って…………
そのいつもより広く見える額に唇を寄せ、触れた。

「えっ」
「ね、バジル。……もう笑ってない。許してくれる?」
「〜〜〜〜っ!!!?」
……ふふ」

声にならないような反応が面白くて、サニーはついまた笑ってしまう。バジルは一気に赤くなった顔とおでこを両手で隠しながら、複雑そうにサニーを許すか許さないかを考え込んでいるようだった。
最初のやり取りが尾を引いているのか……やっぱり笑ってしまったせいなのか。……はたまた別の理由か。すぐには返事が返ってこなかった。

…………
…………

しばらく何か言いたそうに口を開けたり閉じたりしているバジルの言葉を、サニーはじっと待つ。

「じ……じゃあ、」
「うん」
「ぼくのお願い……聞いてくれたら……笑ったことは、許してあげる……
「うん」

お願いの内容にもよるけど……。と、サニーは心の中だけで返事を付け足した。

「えっと……、その……。ぼくの髪が元の長さになるまでね……
「うん」
……ま、毎日!……毎日、今みたいにしてくれる、なら……、いい……、よ」
…………ん」
「ま、毎日、だよ……?」
「うん。いいよ」

わかった。約束ね。
──約束。
そう言って、サニーはもう一度バジルの額に唇を落とした。
再び驚いた彼が反射的に「……もう!」と声を出したのは、照れ隠しだとわかっていたから全然怖くはなくて……サニーは首をすくめて、また笑った。





それからのバジルは、サニーが起き出した気配を感じると、すぐに自分から寄ってくるようになった。
今までは先に起きている彼を、サニーがひと通り部屋という部屋をうろうろしながら探すことの方が多かった気がするのに。
そしていつもの挨拶が終わると、わかりやすく何かを待つようにサニーを伺う。少しの上目遣い、ほんのりと赤く染まった頬が期待に満ちている。

そこにサニーが再び顔を寄せると、バジルはすぐに花がほころぶような笑顔を見せた。





少しだけ特別な習慣が、二人の当たり前の日課みたいに根付くころ。
それがどれくらいかと言えば、まさにバジルの前髪もとっくのとうに伸びるくらいの。

でも彼は相変わらず、毎朝少しそわそわしながらサニーの元にやってくる。……バジルはもう、きっかけを忘れているだろうか。それとも……いや、どちらにせよ。サニーだってこのやり取りが嫌なわけじゃない。
何故なら何よりこの時、この後の……サニーが触れた時の、バジルの嬉しそうな顔ときたら!言葉がなくとも、どれだけ愛されているのかという実感が湧く。……毎日、毎日。太陽が昇るのと同じように、同じことの繰り返しでも。彼は日差しに呼応して花が開くみたいに、笑ってくれる。
だから、だから……サニーだって満更でもないのだ。……素直には言えないけれど。続けるなら正直いつまでだって良い、だなんて思うくらいに。

今日もサニーはそのまま……いや、今日は、そっとバジルの前髪をかきあげて。
いつも通り優しくキスを贈った。
瞼を緩く閉じ、それが済むのを待っていたバジルの青い目が少しの瞬きの後にサニーを見つめる。

……でも、前髪が避けられた額に見える彼の眉毛は、今日は何故だか彼が前髪を切り過ぎた日と同じくらい下がっていた。

「えへへ……あの……。サニーくん。……あのさ、ぼくの前髪、結構伸びたよね。」
……うん」
「だからその……。流石にもう……今日でおしまい、かなって」
少しだけ名残惜しそうに微笑んでから間髪を容れずに、バジルはぱぱぱっと恥ずかしそうに前髪を整えてしまった。

……あ、」
「じゃーん!ほら、もうすっかり元通りだよ。ね!」
……
「流石にもう、変じゃないでしょ?」

みてみて、と、わざとらしいほど明るいバジルの声にそうだね、と返すことしかできなかった。
……別に、サニーは今までだって『変だ』なんて言った事はなかったけれど。
習慣が終わる時は、いつも案外あっけないものだ。


☀︎


翌日いつもの、ルーティン。
ハグをして、頬におはようのキスを贈り合う。
それで、おしまい。
でも……

なんだかまだ物足りないような、離れがたいような……
お互いがそう思っているのか、そっと静かに寄り添ったまま、沈黙が流れる。

サニーはこれから自分がどうしたいのか、そのままじっと考えて……そして、決めた。
まだ腕の中にいるバジルも、何かを言いたげにしている。でもきっと、この世界も先手必勝だ。



「ねえ、サニーく、んっ……?」
先に沈黙を破ってバジルがサニーの名前を呼びかけた瞬間、サニーの唇がバジルの唇に重なって、すぐに離れた。

「えっ……?」

驚いた表情で固まるバジルに、サニーは目を合わせながら絞り出すような、かすかな声で言葉を発した。……今は触れている場所全て、そしてどうしようもなく、耳が熱い。


…………今日からは、こっちにするから」


「え?……えっ!?……あっ、サニーくん?!」


………………おやすみ」

「え?!あ、いや、いま起きたばっかりでしょ!?ま、まってよ……!」


サニーは後ろから追ってくる声に聞こえないフリをして、足早にリビングを出て行った。
もちろん、少し慌てた足音も、そのあとに続く。


そうして二人がいなくなった部屋の中にも、朝の日差しは柔らかく満たされている。




──どこで見たのか聞いたのか、あるいは読んだのか、忘れてしまったけれど……
花が美しく咲くのは、太陽にキスをされるからだとか、なんとか。


庭には、今日も陽の光をたっぷり浴びてキラキラと輝く花たちが嬉しそうに咲き誇っている。


end.



_

突然致死量のサニーを浴びて心臓ばくばく瀕死のバジルとサニバジkiss見たい

没でしたが書き始めサニーがバジルの前髪を切って失敗する流れもありました

タイトルはカリフォルニアポピーの花言葉より。


☀︎❀
朝の庭で伸びた前髪を弄りながら花たちに
「もうずいぶん伸びちゃったけど……ぼくがもし、このまま黙ってたら……、サニーくんは挨拶じゃない方のキスも続けてくれるかな……?」
とか相談してたとかしてなかったとか