窓についたカーテンの隙間から、静かな光が差していた。光は部屋の隅にあるごく普通の木の本棚に伸びて、二冊の本を照らしていた。ドアを押して部屋に入ってきた少女の目に一番に止まったのは、本棚の隣に置かれたタンスの上に飾られたいくつかの写真だ。大きな飛行船の前で色んな人たちがポケモンと共に映っている一枚、サンドイッチを持って笑顔を向ける少年と少女、大きくなった彼らが白い衣装を見に纏い、幸せそうに笑い合っている姿。少女はそれらに目を輝かせる。するとそこに、窓の隙間からそよ風が吹いた。風に親から受け継いだ桃色の髪を撫でられて、少女は右を向いた。そして、光に照らされた本棚に目を向けた。少女の背の高さでも届く下から二段目にある二冊の本が光で白んでいた。少女は片方を手に取った。
『いにしえの冒険者』
少女が両手で掴んだ赤い絵本の表紙にはそう書かれていた。表紙には黒い帽子のような、顔のようなものが描かれている。少女は床に座って壁にもたれかかり、胸を高鳴らせて本を開いた。
『昔、昔、百年も昔。黒いレックウザを従えた一人の冒険者がいました。』
一ページ目にはそう書かれていた。少女はいつもよく遊んでいるポケモンのことを思い浮かべた。そのポケモンもまた黒いレックウザで、少女の家族だ。レックウザを連れている人は多いのかな、なんて考えながら少女はページをめくっていく。絵本に描かれる壮大な冒険、仲間になったポケモンたち、そして辿り着いた楽園。少女はその青い瞳をキラキラと輝かせる。こんな冒険がしてみたい。少女の胸に熱い思いが宿った。
また、風が吹いた。気持ちよく涼しいそれを浴びて少女は少しだけ落ち着き、絵本を本棚に戻した。次に手に取ったのは、隣で同じように光を浴びていた本だ。さっきの絵本よりも分厚くて、ちょっと重い。少女はよろけながらそれを引き出すと、表紙は空のように青い。どこかで見たような黄色いシンボルが目に止まる。真ん中のところをよく見ると、ピカチュウっぽい。持って読むのは大変だと思い、少女はそれを床に置いた。表紙に書かれたタイトルはこうだ。
『大空を飛ぶライジングボルテッカーズ』
少女はまた鼓動を高鳴らせる。ライジングボルテッカーズってなんだろう…でもそういえばお父さんかお母さんが言っていたような…疑問が解消されないまま、ひとまず少女は本を開いた。一ページ目から、また大きな絵が描かれている。さっき読んだ本よりも随分かわいらしい絵柄で、一枚の絵の中にいくつかのものや出来事がある。どこか見覚えのある感じの絵だと少女は感じた。文章を読むと、日付とその日のことが記載されている。どうやらこれは絵本ではなく、誰かの絵日記らしい。
『色々あって学校を出ることになりました。何が起こっているのかまだまだ分からないけど、ポケモンと一緒なら大丈夫。』
『訪れた島で不思議なボールを持つ男の子——と出会った。ボールとペンダントが共鳴して、中から黒いレックウザが現れました。』
『レックウザの情報を追いかけた先で出会った森で出会ったオリーヴァといにしえの冒険者の絵本…私たちの冒険が真に始まった気がします。』
『ペンダントが変化したポケモン…この子はおばあちゃんによれば、テラパゴスと言うそうです。』
少女は本に描かれた冒険に心をときめかせていた。それと共に安心も覚えていた。いつも話している人の優しさを受けているような感覚だった。
冒険の中でいにしえの冒険者の六英雄と呼ばれるポケモンたちと出会う。そして知る百年前の真実。失われた楽園と真実。新たに始まった取り戻すための冒険。それが終わっても続いていく旅。少女はワクワクしながらページを読み進めていった。そして最後のページに辿り着くと、著者の名前と顔写真が載っていた。少女はそれを見て驚いた声を上げた。心臓がさらにバクバクと鳴る。少女はドキドキしたまま本を持ち上げようとした。しかしよろけて落としてしまい、尻餅をついて「いたた…」とお尻をさすった。すると、重い本が落ちた衝撃でか、本棚の同じ段にあった表紙が赤、裏表紙が青の冊子が一冊落ちた。少女が拾うとこう書かれている。
『——と私の日々』
開くと、そこにあるのはたくさんの写真だ。まだ子どもの頃のお父さんとお母さん。二人とも楽しそうに笑っている写真ばかり。ページをめくっていくと、段々と成長していき、二人の表情も少し照れていたり、より幸せそうなものに変わっていく。後半になると結婚式での写真もあった。お父さんがお母さんをお姫様抱っこしていて、ほんとうにほんとうに嬉しそうな二人。さらにページをめくっていくとまだ赤子の少女がいる。二人はまた嬉しそうな顔を浮かべていて、少女もなんだか嬉しくなった。
「——、ここにいたんだ。なに読んでるの?」
「お母さん…」
「わ、アルバム見てたんだ。それにこっちは…」
「ねえお母さん!教えて!冒険のこととかもっと!」
「いいよ。じゃあお父さん帰ってきたら聞かせてあげるね」
少女は大喜びしてはしゃぐ。その様子を母親はニコニコと見つめていた。三度目のそよ風が部屋に入った。二人はもう部屋を去り、リビングにいる。しばらくして父親が帰ってくると、少女は両親を質問攻めにし、彼らは丁寧に楽しげに語る。そんな二人を見て、少女は冒険への憧れをより強めていった。
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