Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
eclipsis
2274文字
Public
SSS置き場
Clear cache
ミホペロ/白昼夢の話
※二人の子どもネタ
「こっち、こっち来て」
見慣れた根城に、不本意だが聞き慣れてしまった声がする。しかしそれは、いつもと違う位置から聞こえていた。
おれの膝あたりからゴースト娘の声がする。下を見ればピンク色の丸い頭がある。娘は随分縮んで小さくなった手で、おれのズボンを掴んでいた。
「こっち、あたしのおしろ。はやく来て」
ゴースト娘はおれに臆すること無く、何やらねだっている。実に不本意だがこれも慣れてしまった。同居生活というものは厄介だ、小さい手に諦める気は無いのだろう。引かれるままに着いて行くことにした。ピンク色の結った髪が二つ、歩く度にひょこひょこと揺れている。
うっかりすると蹴飛ばしそうな位置にいるゴースト娘に少し妙な感じを覚えるが、特に考えることも無い気がする。
ここは何が起こってもおかしくない偉大なる航路。そしてとりわけ辺鄙な地である我がシッケアールだ。こういうこともあるのだろう。
尚もゴースト娘はおれを引きつれて歩く。何処へ行く気なんだと薄ら思ったとき、目の前にテントが現れた。子ども用のちゃちなテントである。その側面には布製の看板が縫いつけてあった。
『
……
の おしろ』
名前が掠れて読めない。ゴースト娘は縮んだ分、字も上手く書けなくなったようだ。
……
戯れに頭を撫でてやろうかと思った。ピンク色の頭を見下ろそうとしたら、それはテントの中へ消えていく最中だった。
「はやく!」
甲高い声がテントから響きおれを急かす。戯れはする気が無くなった。次の甲高い声が響く前におれもテントに入ることにした。娘のあの声は耳に障るのだ。
膝をつき身をかがめるようにしてテントの中へ入ると、そこは様々な玩具などで飾られた空間だった。天井からは星や月が吊り下げられ、所々に飾り布がパッチワークされて色々な柄を見せている。間違いなくゴースト娘の趣味だろう。謂わばここは、このちっぽけなプリンセスの城、聖域なのだ。現に姫はテントの真ん中という特等席にいて、お供のぬいぐるみを持っている。
「パパ、この子うごかして」
ゴースト娘がぬいぐるみを押しつけてきた。受け入れ難いものがあり、おれは対面する娘を睨んだ。
「
……
貴様のパパとやらは、モリアだろう」
ぬいぐるみも嫌だが、この人違いには何より鳥肌が立ちそうだ。咎めるおれにゴースト娘は真ん丸の瞳を瞬かせ、きょとんとした顔になった。
「モリアさまは、ジィジだよ。パパはパパでしょ」
そう言うとゴースト娘はおれの手に小さい手を重ねてきた。さも自分の言うことが正しいというような仕草である。モリアをジジィと言ったのは愉快だが、凡そが到底理解できない。しかし、こうも無防備に触れてくる者を退けることも出来なかった。ゴースト娘はこんなに近い存在ではないのだが。こんな、膝に乗り上げて来そうな程の。
ゴースト娘は突如おれの前に現れた存在だ。それ以上でも、それ以下でもない。況して出自など考えたことも無かった。モリアのことは慕っているようだが、本当の父ではない。無から湧いて生まれた訳もなく、娘にも血を分ける父や母がいるのだ。
「パパ」
小さなゴースト娘がごく自然におれの膝にいる。甘えるようにこちらを見上げたせいで、娘の首元がよく見えた。そこにキラリと光る物がある。黄金の十字架。いや、まさか。
「
……
貴様の父や、母というのは
…………
」
問いかけるおれの声が不明瞭になった。辺りが白くぼやけていく。十字架だけが最後まで光っている
――
「こんな起きないのも珍しいよな?
……
ミミズとか置いたら起きたりして。ロロノア、やってみろよ」
「ア? 何で俺がやるんだよ。言いだしっぺがやれよ、ホラ」
「キャーーー!! こっちに持ってくんな!!」
顔に伏せて置いた麦わら帽子越しに会話が聞こえる。最後の悲鳴などは麦わら帽子を容易くつんざいた。おかげで起きたての頭がはっきりと覚醒した。
畑の木陰が心地良かったから、休憩がてら一眠りしたのだ。そしてどうやら結構眠ってしまったらしい。起き上がって見る視線の先の、悪ガキ二人が何か企てようと思う程に。
おれは立ち上がり、二人に近づくことにした。まだ午後の畑仕事が残っている。歩み寄るおれの気配に二人が気づき、少したじろいでいる。
「ロロノアはあそこの瓦礫を退けてこい」
「ハ?! なんであんな畑の端っこのほう
……
」
「畑を拡張する。力仕事は修行にもなるだろう、さっさと行け」
有無を言わさず指示を出せば、ロロノアは渋い顔をしながらも瓦礫へ向かって行った。実際、畑の拡張も修行も別の日のメニューだったが、今でも良かろうと何となく思った。
畑の真ん中には、おれとゴースト娘だけが佇んでいた。娘は陽に弱いくせに麦わら帽子を被らず、紐で首の後ろに下ろしている。ピンク色の頭が、よく見える。ブラウスを着て首元にはネクタイがある。光るものは見つからない。
「な、なんだよ。イタズラは未遂だったんだから怒るなよ?!」
図らずもおれはゴースト娘をじろじろと見てしまっていた。ゴースト娘からは当然抗議の声が上がる。
……
おれは一体何を見出そうとしたのだろう。少し額の辺りが痛む気がして手を当ててみた。
痛みの原因は寝過ぎたせいだろうか。紐解くにしても白昼の夢があっという間に消えていく。
――
それで良い。おれは何某かを確かめるほど、夢のことを、ゴースト娘のことを、まだ知り得ない。
広告非表示プランのご案内