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SSS置き場
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モリア様と七武海/クロコダイル
高級な船体を水面に光らせて、一艘の小型船が海を進んでいく。船室には黒髪の女と葉巻を咥えた男がいた。二人の間に会話は無い。それぞれ一人掛けのソファに座っている。葉巻の男
――
クロコダイルは軽い思考を紫煙と共に燻らせていた。
七武海の招集を終えた帰りの今。とある噂のことを考えている。
その噂をクロコダイルは容易く入手した。何せ手広く網を張っている。裏社会を牛耳る男の元へ届かない情報は無い。己が参入した七武海もその範疇だ。一癖も二癖もある連中ばかりで、関する情報を掘れば幾らでも出てきそうだった。その中でも眉唾のような怪しい尾ひれを持っていたのが、とある噂
――
ゲッコー・モリアに関する噂だった。
霧深い海の波間に消えたり現れたりする幻のような巨大船の主。この世との繋ぎ目も霞む彼の領域では、不死のゾンビたちが作られて王であるモリアに従っている。
クロコダイルには陳腐な怪談話にしか聞こえない文言ばかりだ。恐れるにしても何の根拠もなく、不死のゾンビというのも大方モリアの能力によるものだろう。ほぼ話の種が知れている。それでなくとも、モリアという男のことは昔から知っているのだ。
ゴールド・ロジャーの処刑を皮切りに、大海へ猛者たちが躍り出た頃。モリアはその先頭争いをする勢いにいた。クロコダイルは当時の空気に触れている。皆が野心のままに蹂躙するのを、時に裏から虎視眈々と見ていた。そして宝や夢を求める猛者たちは、大半が名も無きルーキーとして呆気なく散っていった。それはモリアも例外ではなかった。ごく平凡なルーキーは、夢をくじかれて全てを失った。偉大なる航路に於いては特別な話ではない。
ところが、話は終わっていなかった。クロコダイルは今日モリアと顔を合わせた。つまりモリアは、死の淵から這い上がっていたのだ。あの時代の漲る野心は消えて気怠い巨大な影になっていた。しかしその暗い雰囲気は霧めいて奥にまだ息づくものがあるようだった。生気の境界が霞む。まるで彼の領域
――
スリラーバークそのものだ。モリア自身がゾンビのようになり復活したとも思われる。
クロコダイルは弄んでいた葉巻を一度吸い、口内に溜めた煙を静かに吐いた。今まで弱く揺れていた煙の線が真っ直ぐ一筋になって昇っていく。それをクロコダイルの傍で控えていた女が視線で追った。
「
……
ミス・オールサンデー」
「はい」
呼ばれた女は長い睫毛を伏せるように瞬きをして、クロコダイルに返事をする。それ以外は微動だにしない。
「ミリオンズ、いや、最近ビリオンズに上がった奴らを何人かスリラーバークへ向かわせろ。そして細かく調査させろ」
「承知しました。サー」
ミス・オールサンデー、もといロビンは返事をすると席を立ち電伝虫の用意をし始めた。クロコダイルはソファに悠然と座ったままだ。
――
スリラーバーク、この世の理がない地。煙のように跡もつかない場所は、今後ビジネスの役に立つかもしれない。
そんな風に思案を働かせながら、クロコダイルは葉巻から昇っては消える煙を眺めていた。
※
「サー、悪い知らせが」
平穏な午後の日にクロコダイルの職務室へ現れたロビンが、まず発したのは冷静な声だった。書類と向き合っていたクロコダイルは顔を上げ彼女を見た。表情からは一切その悪い具合は汲み取れない。彫刻のように整った顔はただ男の指示を待っている。
「
……
なんだ?」
ロビンの氷の相貌に凶報をひしと感じながらクロコダイルは続きを促した。低い声は威圧感を増していたが、ロビンの顔色は澄んだままである。
「スリラーバークへ向かわせたビリオンズたちが消息不明になりました。おまけに彼らを追って来ていた海軍も一緒に消えたみたい」
「
…………
あぁ?」
眉ひとつ動かさずにロビンは凶報を告げる。クロコダイルの予感は当たったが、その内容はかなり肩透かしだった。不明。消える。クロコダイルのビジネスの利益上でそんな言葉は知りたくない。男の不満はあからさまに声と表情に出た。
「そんな怖い顔なさってもこれ以上の報告は無くてよ?文字通り、消えたんです。スリラーバークへ向かった者たち全てが」
ロビンがやっと表情を動かした。眉を少し下げて肩を竦める。男が醸し出す剣呑な雰囲気はその他愛ない仕草で軽く躱されて、クロコダイルは苦い顔のまま葉巻を手に取った。
ほどなく葉巻から煙が立ち昇る。それを黙って見ているとクロコダイルの頭にも煙のような、白い霧が現れてきた。
薄ら寒く白い霧。海上に煙るそこから突如現れる島のような船。光の届かない生ける死者たちの領域。黒く巨大な影が笑う
……
「魔の海域、何者かが口を開けて待っている
……
」
遠い目をしていたクロコダイルを呼び戻す声がした。ロビンが己の細い顎に指をあて、空想しているように目を閉じ呟いていた。まるでおとぎ話を読み上げる調子である。
「調査は続けるおつもり?」
「
……
いや、止めておく」
ロビンは片目をチラリと開けてクロコダイルに訊いた。問われた男の毒気はごっそりと抜かれてしまった。伏し目がちになって葉巻を咥えて返答をする。ロビンはそれに「yes,sir」と、とても滑らかな発音で答えた。そして軽やかな靴音までさせて部屋から去って行った。
一人になった職務室でクロコダイルは椅子に深く座った。頭を少し背もたれに乗せると、天井へ昇る葉巻の白い煙がよく見えた。
「
……
七武海ってのはろくなもんじゃねえな」
クロコダイルの口から自然とボヤキが出ると、葉巻の火は無造作に灰皿へ押しつけられた。その一瞬に聞こえたキシリ、と葉巻がもみ消される音は、不気味な笑い声に似ていた。
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