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SSS置き場
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ミホペロ/コルセットを締める話
ペローナが朝の広間に中々姿を見せないのはままある事だ。寝坊気味のせいでベッドにまだ寝そべってウトウトしているのだろう、と。けれど今朝は何か違う予感がした。ミホークにとっては面倒くさそうな予感が。
「鷹の目~~!背中の編み上げ手伝ってくれ!」
広間の扉が開かれるのと同時に、ペローナの駄々っ子めいた声が飛んで来た。娘は元気な声と一緒に軽やかに飛び、ミホークが座るソファの元へあっという間に着地した。そしてミホークの返事は特に聞かないままソファの肘掛に後ろ向きで座ると、背中の始末を男へ委ねてきた。
ミホークの眼前には、コルセットの紐がだらりと垂れたドレスを着る背中がある。その背中は振り向きもしないし、一向に退く気配が無い。
――
予感的中だ。とミホークはひっそり思い、つい先日も似たような光景があったなと、思い返す場面が一緒に浮かんできた。
それは買い出しに向かった島での事。その内の賑やかな繁華街、アパレル店のショーウィンドウの前。ペローナはそこでじっと動かなくなった。
ミホークは何歩か歩いた先でその挙動に気づいて振り返り、不動の娘を一旦見守っていた。石になっているペローナが見つめる先には例のコルセットを誂えたドレスがある。
『決めた。私はこれからエレガントなレディになるぞ!』
ペローナは一転して動き出すと息巻いて宣言した。ツインテールを派手に揺らして、ミニスカートをひるがえすとその店の中へ消えていったのだ。
ミホークは暫し遠い目をしてみた。しかし一瞬にして現実へ戻される。ペローナが半身で振り返ってポンと男の手を叩いて、コルセットの紐を手渡していた。自分のお願いに動かない男を見て、『早くして』と言いたげにピンクの唇が尖っている。ミホークは娘の一連の仕草を受けとめると、心中でため息をひとつ吐いた。
――
レディとやらになる為には、まず見た目ではなく自立から始めねばなるまいに。
そう思いながらコルセットの紐を手繰り寄せて、ペローナの甘えに従ってやることにした。甘えと言えどもそれは堅固で崩れない。娘との生活で理解した事だ。きっとレディになるというのも当分は覆らないだろう。
紐を徐々に締めていくと、ペローナが長く垂れた自分の髪を手で緩く一纏めにして寄せた。そうすると淡く隠れていた娘の後ろ身が露わになった。ミホークは紐を一段強めて締める。目の前にあるウエストが吊られてきゅっと締まった。ミホークはその些細な連作に少し目を奪われた。
コルセットは背中の下半分から腰にかけて長い紐を編み上げ、ペローナの背筋を締め伸ばしている。交差する紐の間隔は、クビレにそって見事な曲線を描く。そこから綺麗に連なる紐をミホークはまた締めた。
「ん、」
ウエストが引き上がった分、押し出された息がペローナから小さく漏れた。ミホークは一度ゆっくり瞬きをすると、紐を持つ己の手に熱が篭もるのを感じた。
サテン地の紐は滑らかで優美だ。色さえも淡い。ミホークは他愛ないそれを僅かに操る。それだけで、ペローナの身体は強くかき抱かれたように形を変えていく。男の眼前に仄かな陶酔が香り立った。
ミホークは香気に誘われるまま徐に紐を引っ張ると、ペローナにそっと身を寄せた。
「
……
こういったものは過剰な美を追究する哀れな拘りによって、倒れるほどやってしまうのかと思っていたが
…
」
つい締め上げてしまう気持ちが分かった。
ミホークは静かに囁き、最後の言葉は殊更潜めてペローナへ伝えた。唇は肌へ触れそうなほど近かった。吹き込むようなそれは、瞬く間に娘の身体へ行き渡った。
「!!!」
ペローナの身体がビクリと一度バネ仕掛けのように動いたと思ったら、ものすごい勢いで肘掛から飛び退いた。顔が耳まで真っ赤に染まっていて、口がパクパクと動くのに言葉は出ていなかった。どうやら頭のネジやバネも飛び散らばっているようだ。
「や、やっぱり自分でやる!!」
混乱していた娘の口がやっと言葉を発すると、弾ける勢いでミホークの元から離れていった。
あっという間に去って行く娘の表情は、ちょっと怒っているような、盛大に恥ずかしがっているような色を複雑に見せていた。
どうやらペローナは存外にレディたる者らしい。ミホークは何となくそう察すると、物足りなさそうに空っぽの手を握る仕草をして苦笑した。
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