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青
2025-06-13 20:00:00
8111文字
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悪食王と人質王妃
ライシュロです。急に政略結婚する事になった二人とそれにまつわるゴタゴタ。
いきなり嫁に行け、と言われた。
何がなんだかさっぱり解らない話ではある。俊朗は齢二十七にもなる男で、旅先で出会ってどうか妻にと望んだ女性にはきっぱりと潔く求婚を断られ、帰ってきて暫く経つ。無論それ自体は後悔などしていないが、此度はお前が嫁に行けという上からのお達しだった。
落ち着いてよくよく聞いてみれば、噂の新興国と同盟を結ぶためにこちらから独り身の若き王との婚姻関係をと打診した所、どうにも煮え切らない返事が返ってきたのでこれ幸いと強引に押し切ったそうな。
子供までは作らなくて良いし、要するにお互いを裏切るなという牽制の為の人質である。だから男だろうが構わない、先方もそれは承知だと言う。
人質とはいえ向こうに一生監禁される訳でもない。年に何度かひと月ほど滞在させればそれで良い、らしい。そこで白羽の矢が立ったのが、つい最近かの地から戻ってきたばかりの半本の長男だ、と。
血筋も年回りも申し分ないし、生業を考えれば宮廷に送り込むにこれほど適任はおるまい。しかも王とは既知の仲という。
そう言われても納得出来る筈がない。寝耳に水以外の何ものでもなかった為に、俊朗は始めはそれは難色を示した。しかしお前が断るならば弟たちのどちらかか、やはり若い息子や娘がいる家中からひとり連れてくるだけだと言われた。考えてみれば誰であれ、降って湧いた縁談の犠牲になる事には変わりない。自分以外の相手にとっては、見ず知らずの男と。
己ひとりが飲み込めば、全て丸く収まる。そう思えば、後は強く断る気にもなれなかった。
父は大笑いして、家のことは気にせず行ってこい、と言い放った。これは予想通りである。見事にふられて帰ってきたところへ新たな縁談が来て、こんなめでたい事はなかろうが、だそうだ。しかし言葉通りの意味で息子の結婚を喜んでいる訳でない事は、火を見るより明らかである。
要するにこの状況自体が、面白くて仕方が無いのだ。もたもたしていると白無垢まで誂えかねない勢いだったので、俊朗は船が整った時点で急いで出立する事にした。それでもただの旅とは訳が違う。上に持たされた数多の貢物と一緒に揺られながら、自分もこれらと同じただの品物であるのだと彼は溜息を吐いた。
あの男に特別な感情など向けられていない事は、彼にも解っていた。黄金郷を離れる時はそれは惜しまれたが、良くて友情以外の何ものでもないだろう。政略結婚に乗り気でないという話は、手紙のやり取りの中で聞いた事がある。周り中から何度もそんな話を持ち掛けられたが、互いの感情抜きに話を進める気にはとてもなれない、と。
(
……
)
それはそうだ。自分もあれのたったひとりの妹を外国へ連れ帰ろうとした身で何を今更、と思われるかもしれないが、だからこそしっかりと相手の気持ちを確かめずにはいられなかった。
気が重い。到底歓迎されはしないだろうと、理解はしていても、到着したところでどんな顔をして『夫』と顔を合わせるべきか
――
とうとうその地を踏むに至っても尚、正解を導き出す事は叶わなかった。
しかし、着いた先での対応は彼の予想に反していた。立派な拵えの馬車が連なって港まで迎えが来たので、すっかり呆気に取られたくらいである。笑顔で彼の目前に現れ出でたのは宰相補佐官その人で、顔見知りの姿を見て彼は少し安堵した。
「ようこそ」
しかし、ここで歓迎された所で、不安が払拭されはしない。
「浮かない顔してますね」
「
……
本当に、これで良かったのか?」
恐らく事情を全て知っているこの男にならばと、彼は道中誰にも言えなかった気持ちをふと口にした。
青年は屈託なく微笑み、勿論、と事も無げに言った。
「もっと偉そうに構えててもいいんですよ。あなたは少なくともここにいる間は、誰に憚る事なく王妃殿下だ」
「
……
」
素直に喜ぶ気にはなれずとも、拒絶されない事は有難かった。
尤も、今からまだもっと大きな仕事が残ってはいるが。
王城でも冷たい視線を向けられるという事は決して無かった。宰相には丁寧に挨拶されて、遠路遥々よくお越し下さいましたと頭も下げられた。補佐官の他に顔見知りといえば顧問魔術師であるが、大変な事になったねと労う言葉をかけてくれた。しかしそれは彼の身柄どうこうと言うよりも、人質なぞに頼らなくても、あの男が他国を威すような事をする筈が無いという困惑から来るものだろう。それは彼としてもそう思うが、狭い土地を奪い合って小競り合いの戦ばかりが続く己の国の事を考えれば、やはり広大な領地を持つ国の後ろ盾は欲しい。果たしてこの身が役に立つかは、甚だ疑問ではあるが。
王妹の姿が無いのは彼にとって少し寂しいものでもあったが、やはり今は顔を合わせなくて良かったとも思った。未だ旅の途中なのだと聞いた。彼女は彼女の仕事を、使命を全うしている最中なのだろう。良い事には違いない。
「
……
シュロー」
彼ははっとして顔を上げた。玉座から立ち上がり近寄ってきた男の表情は、喜びに満ちているとは言い辛かった。金色の瞳が曇り、少し悲しげに伏せられる。解ってはいたものの、胸が痛む。
救世の英雄、黄金郷の若き王。魔物に変じて悪魔を喰ったという話から、悪食王とも渾名される。国境付近に巣食う魔物を操るという噂もあり、早くも外からは畏怖の念を込めて、という意味もあるのだろう。彼のかつての冒険者仲間、それでいて今や王とその人質だ。
「
――
国王陛下」
不束者でございますがどうか末永く、と型通りの挨拶を述べ頭を下げる。もう一度見たその顔には、無理やり作ったような笑みがやっと上っていた。
「
……
来てくれてありがとう、疲れただろう」
そう言って外套の内に招き入れられようと、足取りが軽くなる筈はない。
望まれてはいなかった、俊朗はそう思った。単に突っぱねられなかっただけだ。けれどもう後戻りは出来ない。
今夜はささやかながら祝宴を催すので、それまでくつろがれると良いとあてがわれた部屋は、広くて豪奢な調度品に囲まれていた。寝台は少々柔らかすぎて、座ると沈む。ひどく落ち着かない。ここでひと月過ごすのならば、それでも慣れなければと思いつつ、深い溜息を吐く。
(
……
)
相手は到底喜んでいる風には見えなかった。それはそうに違いない。向こうも不本意な形で婚姻などする羽目になり、きっと困惑しているだろう。どちらにしても、もう以前のような関係には戻れそうにない。
いつか渡した対の鈴の片方は、今やどうなっているだろう。彼は自分のそれを懐から取り出して、鳴らぬようそっと手の中で転がした。
『大事にするよ。もう手放したりしない』
だからどうか、きみもまた会う日まで元気で。故郷へ帰る日、そう言われたのを思い出す。あの時の晴れやかな顔と、今日の浮かない表情は全く違うものだった。
かつて隣に居た頃は、その熱烈な視線から解放して欲しいとさえ思ったものだ。しかし、祝宴の間も向こうがまともにこちらを見る事は、ついぞ無かった。ここはもう海の向こうではない。手を伸ばせば届くような所にいるのに、ひどく遠くにいるかのような。
酌み交わされた黄金色の酒は、謂わば誓いの杯である。甘ったるい筈の味も、殆ど舌に感じなかった。
王城には大きな浴場があって、彼はそこでゆったりと身を清め湯に浸かる事が出来た。身体の方はそうでもないが、祝宴の間ずっと心は張りつめていたので、やっとそこでひと息つけたと言っていい。長く重たい髪は乾くまでに時間がかかる。部屋に戻ってもぐっすり眠るという気にはとてもなれなかったので、窓を開けて、僅かに湿り気を含んだ夜風に頬を当てていた。護衛もとい監視の目があるのはそこかしこに感じるが、この程度なら許されるだろう。
(
……
)
本来ならば結婚相手というのは寝室を共にするのかもしれないが、そんな心配は最初から無用というものだ。
しかしその時、ふと扉がノックされる音がした。彼は不審に思いつつも寝間着の上にもう一枚羽織り、用心深くそこを開けた。
「
……
!」
驚いて目を見張る。そこにあったのは誰あろう、我が夫の姿だった。
所在なさげに身を縮めて、ただ立っているので、彼は何と声をかけたものか考えあぐねた。先刻見た時よりももっと暗い顔をしている。目尻に赤みが差し、まるで泣いた後のように見える。
「
……
ライオス?」
陛下、とも。我が君、とも呼ぶ気になれず、彼は以前と同じようにその名を呼んだ。
それを聞いた途端、緊張していた表情がほんの僅かに緩む。
「
……
やっと名前呼んで貰えた」
「何
……
」
まさか今日婚姻というものを結んだばかりの相手に向かって、何をしに来たとも言えない。少し上がったと思った眉がまた下がるのが見えた。
「
……
っ」
突然、感極まったように抱擁された。そのままぐっと抱き寄せられて、驚きはすれど、その手がひどく優しいのを感じて彼は動けなかった。
「
……
ごめん」
耳元で謝る声がした。何を謝る事があるのか彼には解らない。押し付けられたとはいえ、結婚相手として気に入らなかったという話なら、もうわかり切っているのだから今更謝る必要はない。腰の辺りを撫でる手と、唇が肌に触れそうになるのを感じて、まさかと考え至る。本当にこれは自分と同じ床に入る気があるのか。
勤めというなら受け入れねばならないにしても、相手はそれでいいのか。気持ちがないのに肌を合わせる事を、悪い事だと謝っているのだろうか。今になって、急にこの男と結婚したのだという実感が湧いてきて、彼は夜風で冷えた頬が熱くなるのを感じていた。
けれど抵抗せずにいると、ふっとその身が離れていった。二人の間に出来た空間に、拍子抜けしたような、ほっとしたような気持ちになる。
「あの
……
」
相変わらず泣きそうな顔をしていると思った。
「
……
本当にごめん、すぐ、終わるから
……
」
「何が
……
」
「これ、きみに」
手を取って、そこへ何かを握らされた。品のある薄布に包まれたそれは、金属で出来た簪だった。銀の地に金の装飾が施され、美しいが派手ではなく、月明りに照らされて彼の手の中で微かに光っている。
「
……
誕生日だろ。もう過ぎてる、けど」
「お前、知って
……
」
「
……
調べた訳じゃなくて、ほら、さっき書いてたから」
「ああ
……
」
こちらに着いて早々、何枚も署名を書かされた。大事な役目であるから、契約を交わす必要があるのは当然だ。その中にあった生年月日を見たのだろう。確かに彼の生まれた日は、つい昨日だった。今頃はもう二日前になるが。
しかしそれから慌てて用意したにしては、きちんとした贈り物だと彼は思った。まるでずっと何処かに隠し持っていたような
――
否、王ともなればこのくらいのものは、何処かで手に入るのかもしれない。
「それだけ
……
」
やっと瞳の奥が笑ったように見えた。
「おやすみ」
静かに呟いて、自ら扉を閉めてしまった。彼は呆然として、手の中に残されたものを、暫くただ見つめていた。金色の意匠は水の流れのようで、その華美すぎない色合いが何かに似ている、と思った。
誕生日
――
故郷では生まれた日を祝う習慣は特になく、それでも幼い頃からの世話係は、めでたい日だからと言っては都度良いものを食べさせてくれた記憶がある。とはいえ成り行きで冒険者稼業などやっていた頃は、彼も誰かに日付を言った事は無かった。当時の仲間とはお互いに年齢も知らない。あの男と自分が同じ歳だというのも、随分後になってから、何かのついでに聞いたくらいだ。
それを今になって、贈り物とは一体どういう風の吹き回しか。装飾品を好んで身に着ける趣味はないが、しかし王から賜ったものを突き返す訳にもいかない。
よく分からない一日だった。長い溜息を吐くと急にどっと疲れを感じて、彼は慣れない寝台に潜り込んだ。
「おはようございます。良くお休みになれましたか」
身支度などお手伝いしましょう、と宰相補佐官直々に部屋まで来て言うので、彼は何か作為を感じて身構えてしまった。
眠れたかと訊かれると、正直安眠出来たとは言い辛い。それは顔に出ていたようで、肩を竦めて笑われた。
「あれ」
そして今、ひとりで何とかするからいいと言いはしたが、押し切られて髪を整えられている。その途中で青年がふと、枕元に置いてあった簪に目をやった。
「
……
ああ、昨夜は無事にことがお済みのようで。安心しました」
そこで彼は、あの男が自分にこれを寄越した意味を、やっと理解した。
本当に手をつけなくとも、夜ここへ訪れて共に過ごしたという証さえあればいい。ここまで来て、相手に気に入られなければ、彼にとっては大きな失態になる。何の手応えもなくおめおめと故郷へ帰っては、肩身の狭い思いをする事は間違いないだろう。それを向こうは解っていて、気持ちはなくとも拒絶はしないと、意思の表れとして置いていったのではないか。それなら事前に用意してあったような、妙に凝った品であるのも頷ける。
この簪は王のお墨付きという訳だ。しかし同時に、伴侶としてはあくまで紙の上だけのもの、と宣言されたようなものでもある。解ってはいたが、友人として傍にいるよりもずっと距離が遠くなった事には変わりない。
誕生日などと取って付けたような。せめてそれならそうと言えばいいのに、誤魔化されたな、と彼は思う。
「終わったら朝食へどうぞ。これ、折角ですから挿しましょうか」
「
……
いや」
「え?」
「付けなくていい。
……
申し訳ないが同席は辞退を」
簪の金色は、あの男の瞳に似ている。真意を明かす程の信頼関係すらないのに、これ見よがしに贈り物を身に着けて、城の中を歩けと言うのか。生憎彼はそこまでの恥知らずではない。晒し者になるのは真っ平御免だ。
彼の心は妙に冴え冴えと冷えていた。
「うぅ
……
なんでこんな事になっちゃったんだろう
……
」
仮にも一国の主たるその人が、朝からどんよりと暗雲を背負い、真っ青になりながら机仕事をしている。流石に可哀想になったのか、忠臣は溜息交じりにその背中へと歩み寄った。
何が『こんな事』なのかは、訊かずとも解りきっているが。
「決まってしまったものはもう仕方ないでしょ」
「こんなつもりじゃなかったんだ
……
こんな
……
」
頭を抱え、何事か呻いている。
「どんなつもりだったんです」
「もっとこう
……
! 自然に
……
!! 自然な流れっていうか
……
!! 普通にこれから仲良くなって、親密になって、きちんと告白するつもりだったのに
……
!!」
手元の紙がぐしゃぐしゃと握り潰されていく。宰相補佐官はちらりとそちらを気にしたが、幸い重要な書類ではなさそうだ。
「はぁ」
「大好きなのに、彼と恋人同士になりたかったのに、これじゃまるで
……
俺が権力振りかざして、無理やり身柄だけ手に入れたみたいじゃないか!」
「まぁ
……
そういう風にも見えるかもしれませんね」
悪意を持って見るならば、それはそうだ。人質の話が出たのでこれ幸いと、王は元々目をつけていた相手を寄越せと言った。小さな国から哀れな男が生贄の如く差し出され、遠く故郷を離れて監禁も同然で王城に留め置かれる事となる。まさに魔王の所業。
だが実際は全く違う。人質の花嫁なぞ真っ平御免だが、もし此処へ通ってきてくれるのがシュローだったら嬉しいのに、と王がうっかり口にしてしまったのが全ての発端だった。どこでどのように向こうに伝わったのか知らないが、それがいいなら是非そうしましょうと、あっという間に押し切られてしまったのである。
それは困る、と言えばすぐに別の話が来るだろう。しかし本当に彼が来るなら嫌ではないし、でもいきなり結婚なんて、と迷っているうちに輿入れの運びとなって今に至るという訳だ。
王は喜ぶどころではなかった。何故というに、本当に心から好いた相手と、色恋めいたやり取りもなく結婚する羽目になってしまったからだ。そう最初から好きだった。一目会ったその日から。妹の代わりに自分が彼と結婚して、一緒に故郷へ渡ってもいい、と思う程には。結局それ自体は叶わなかったのだが、でもだからと言って、こんな結果は全く望んでいない。
「嫌だ~! どうしよう、本人にまでそう思われていたら
……
!! 立ち直れない
……
!!」
「流石にそこまで悪印象持たれてないとは思いますが。という事は昨夜は、最後までは手を出してらっしゃらないんですね」
実に意外だ、という顔をしてみせると、王は青かった顔色を真っ赤にして訴えた。
「出さないよ!? 同意もないのに出せないだろ!!」
「その場で取れば良かったのに、同意」
「うっ
……
いやその、だってそんな急に
……
」
大体同意を取るにしたってどうしたら、手も繋いだ事がないのに、などと口の中で言い募る。
だから最初から細かく説明しろと、と宰相補佐官は思ったが、そこは言葉にしないでおいた。もう少し余計な口出しをせずに観察した方が、話がより面白くなりそうだからに他ならない。
「よく我慢出来ましたね。その点は素晴らしい」
「ありがとう
……
俺も自分で自分を褒めてやりたいくらいだ
……
」
「偉い偉い」
ぱちぱち、と軽く手を叩いてやりつつ、しかしこの事態があまり良くないというのは、賢い右腕たるものしかと理解している。
それに元はと言えば悪いのは、というか原因はこちら側にある。正直にぽろりと本心を口にしてしまったこの人を、責めるつもりは毛頭ないものの
――
「今から仲を深めればいいじゃないですか。そうしたかったのなら」
「最初のハードルが物凄く上がってしまった
……
」
(まぁ確かにこれでフラれたりしたら普通にフラれるよりキッツいしなぁ)
「なに?」
「いえ何でもないです。まぁそう悲観せず、まだあとひと月は一緒に居られるんですし、頑張ってみましょうよ」
城下の娘たちが見れば軒並み卒倒するような甘い笑顔を向けて、青年は友人でもあり敬愛する主君でもある男を励ましてみせた。
「第一歩として、プレゼントは渡せたじゃないですか」
「うん
……
彼が来るのが決まってから、居てもたってもいられなくって用意してあったんだけど
……
なんて言って渡せばいいんだか全然分からなくて
……
誕生日が近くて良かった。でもそれはそれで別に祝いたかったな」
「は? え、あれ、そういう
……
」
状況はそこまで悪くないのだから、と言おうとした青年が、さっと顔色を変えた。こいつときたらあからさまにやらかしたな、と言わんばかりの表情になる。
「誕生日なんて友人でも祝うのに。愛してるとか何とか言葉を添えました?」
「だから言ってないって
……
!! 昨日の話だよな
……
!?」
「あ~
……
もう
……
」
宰相補佐官は頭を抱えた。事態は思ったよりずっと深刻なようだ。
***
「ええっと
……
『僕の小夜鳴鳥、どうか
――
』」
「
……
っ」
彼が思わずこめかみに手をやったので、相手はたちまち首まで赤くなってしまった。
「笑わないでよ
……
」
「笑ってない、呆れてるんだ。お前、いよいよ目か頭がおかしくなったと思われても仕方がないぞ」
この期に及んで何処ぞの詩の引用とは、誠意も何もあったものではない。
迷い苦しんでいるのは、手に取るように解る。ひとの心に疎いこの男なりに、悩みぬいた結果だと解ってはいても、しかし彼がいま欲しいのは他所から拝借してきた甘い言葉などでは決してない。
「俺が小鳥に見えるのか」
「
……
いいや
……
シュローはシュローだ
……
」
「そうだ。お前の目の前にいる。
……
お前は俺をどうしたい?」
手が伸びてきて、確かめるように彼の頬に触れた。彼はそこから逃げる事はなかった。熱い掌だった。
昔々、ある所に
――
仲睦まじい王様とお妃様が暮らしておりました。
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