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Too Hip Gotta Go

バギーとアルビダ。友情のきっかけ


 海賊王が生まれ死んだ島。その意味合いは沢山の海賊たちをこの地、ローグタウンへ集める。
 なにも荒くれ者ばかり居るという事じゃない。純粋な観光客に島民も当然居て、それらが賑やかに混ざりあって一種のサラダボウルになっている島。
行き交う人達はそれぞれ目立っていても他人にはそれ程興味を示さない。要らない騒ぎでボウルにヒビが入らないように、と皆が弁えている。
 そんな独特な活気が渋滞している雑踏を、アルビダは歩いていた。最近出来た連れ合いであるバギーは一旦置いてきている。

 
 バギーはルフィを殺るため。アルビダはルフィを落とすため。微妙に目的が違う二人がこの島に降り立った時、アルビダは『買い物するからお供しな』と、バギーを指名した。――楽しいショッピングへの強気でちょっぴり無理やりな誘い文句――そんな風に良い文言へ捉えようが無い。だからバギーはアルビダの誘いにア゛ァ?!と甲高い声を出して拒否を示したが、有無を言わさずに首根っこを掴まれ連行された。
 
 アルビダがバギー他、一味をお供にする気は無かった。だって皆ふざけた道化の格好で何だかみっともないから。そして美女一人で買い物する気もない。買った荷物を両腕に抱える姿なんかはもっての外。そうなるとそのお役目は船長格で同盟主でもあるバギーならまぁ、かなり大目に見て、及第点だと判断した。
 
 一見めちゃくちゃな強行とても、良く云えば彼女なりのポリシーがあってバギーを引き連れて来た訳なのである。楽しいショッピングへの強引なお誘いもあながち間違いではないかもしれない。アルビダが店から出てくる度に荷物はバギーへ持たせる。一方的なお買い物にバギーは終始嫌そうな顔をしていたけれど。

 繁華街の中でも高級な店が並ぶ通りで、目当ての看板を見つけてアルビダは足を進める。彼女が向かうのは高級なメイク用品店。本日の買い物の締めにしようと決めた。バギーを置いてきたのは荷物も嵩張るし、何よりそれを任せた男の仏頂面に流石に少しムッとしてきたからだ。
 黒を基調にしてシックな金の縁どりやノブが着いた扉の前でアルビダは止まる。
颯爽とその扉を開けてメイク用品店に足を踏み入れた。

 落ち着いた店内には畏まった店員と、流れているバイオリンの曲が上品に歌っている。そんな綻び一つ無い空間にアルビダが現れたら、店内のそこかしこで小さなざわめきが起こった。
 店員はピシッとしていた態度がどこへ行ったのか、相好を崩してアルビダへ声をかけ媚びる。他に居た客達さえも彼女に魅力され、うっとりしていた。
 アルビダは悠々と商品を見て回り、気に入った物があれば付き従う店員に微笑みかけて手渡す。そうすると店員は魂が抜けたようになって勘定どころじゃなくなる。
 こんな感じのやり取りでアルビダの買い物は成り立っていた。彼女は形の良い鼻を誇り高くツンとさせる。
 
 悪魔の実の能力を得てソバカスが無くなった程度しか見た目の変化は無かったが、元々素晴らしい美貌が更に完璧になったのだろう。以前よりも男女問わず皆がアルビダへ従うようになった。
 気に入った商品を見つけて店員にまた手渡す。受け取る店員の顔は至上の喜びですと描かれていた。アルビダに従わない奴はきっとこの世に居ないのだ。面と向かって、拒否を示したり嫌だという顔をする奴なんぞ。居るとしたら彼女を殴り飛ばしたルフィか、もしくは美しさが分からない大馬鹿者か、あるいは――
 ふと、バギーの顔が頭に浮かんだ。

 元よりバギーはアルビダの美貌に差程反応しなかった。変な一頭身の姿になっている彼を助けて、息つく間もなくルフィの件で同盟を組む事になった。転がるような成り行きだったが、丁度しっくりと二人は肩を並べている訳である。お互い札付きの海賊がそうなると、果たして腹の中はどうなっているか分からない。アルビダの美貌になびかないバギーの腹の中は。

 美しく伸びていたアルビダの首筋がほんの少し引っ込む。視線が下がり何となく見やった棚に、長方形の細長い箱が幾つか並べられていた。

 ――ふむ。アルビダは片眉を上げた。

 
 本日最後の買い物を済ませ、アルビダは荷物の番をさせているバギーの元へ向かう。探すなんて意識は持ちたくない。それとなく視線を動かし優雅に歩を進めて通りを一つ抜ける。するとその先の壁に凭れている男の姿が見えた。

 バギーは傍に様々な店の袋を置いて、腕を組み俯いていた。特徴的な鼻は首元に巻いたバンダナを顔下半分まで上げて覆ってしまい隠れている。いつものメイクもしてない。派手を好む彼にしたらどうかと思う大人しい見た目だ。手配書とはかなり違うイメージになっているから良い変装かもしれない。単にアルビダがろくな支度もさせずに引っ張り出したせいでもあるが。ただ、目が覚めるような青い髪を高い位置でポニーテールにしているおかげですぐに彼だと分かった。

「待たせたね」

 全くそう思ってない口ぶりでアルビダは声をかけた。バギーが伏せていた顔をあげ、吊り目がちな両目を丸くさせる。

「待たせただァ?!こちとら待ちくたびれてこのまま足が石になっちまうかと――
「これやるよ」

 弾丸のように飛び出したバギーの文句を軽く躱して、アルビダは細長い長方形の包みを差し出した。
 あの店の最後に、目に留まった品。化粧筆だ。

……何だコレ」
アルビダ様からの駄賃だよ。ありがたく受けとんな」

 バギーは目をパチクリさせて問いかけた。文句を言う勢いは嘘のように無くなり、呆気に取られた表情でふらりとアルビダへ一歩近づく。手が自然に動いて彼女からの贈物を受け取った。

 こじんまりした包みを手に持ち、バギーは喋らず開けても良いかと目だけでアルビダのことを窺う。その問いかけに彼女は同じように無言で返した。それを了承と受け取った男は包みを開け始めていく。

 バギーが存外丁寧な手つきで開封していく様を、アルビダはじっと黙り見ていた。
 
 ――バギーはこの唐突な贈物をどう料理する。ただの友としてならまだしも、奪うことを朝飯前にする海賊同士で、こんな嗜好品を贈る意味とは。出方によっては、同盟の意味が変わってくるかもしれない。

 バギーが包みから現れた化粧筆を見つめた。毛先を指で弄ったり、目線の高さまで筆を持ち上げてしげしげと眺めたりしている。アルビダは一言も喋らない。努めて冷静に目の前の男を観察した。バギーは見つめられている事には全く気付かずに、尚も筆を眺める。沈黙が居心地の悪い焦れへと変わりそうな瞬間、バギーが興味深そうに片眉をコミカルな動きで上げた。そして視線をやっとアルビダへ向けた。

「気に入った。サンキュ」

 口元をすっぽり隠していたバンダナを下げて、バギーは軽い口調で礼を言った。
 ただポンと、手渡すような一言。けれど彼の笑い皺が浮かぶ笑みや自然に上がっている口元が、何の駆け引きも無い感謝を大きく物語ってくる。
 大したやり取りでもないそれは、何が飛び出すかと身構えていたアルビダの隙を突いてくるものだった。鋭く刺されたでもなく、強いて言えばおもむろに等身大のバギーを寄越されたような感じだった。
 
 想定外過ぎる返答にアルビダは文字通り面食らってただ目を丸くした。海賊のセオリーならこうだああだと何通りも巡らせていた考えが頭の中でこんがらがる。そのもつれたものがどんどん小さくなる程の、明け渡されたバギーという名の衝撃。
 切り返そうにも正体が掴めなくて、何か変なものを食べてしまったかのように口をパクパクとさせるしかなかった。

……え?お前どうした?急に睨めっこでも始めたみてぇな顔してっけどよ」

 アルビダが凡そしない顔をバギーは見て取って訝しげに訊ねた。おまけに思いがけない事をされたとでも云うように一歩引いてみせて、アルビダは直ぐに我に返った。
 何もかもバギーのせいなのに、よりにもよって顔を指摘されたのが混乱する頭を一番スーッと冷やした。消化不良の思考はもういっそ馬鹿らしくて相手にしていられない。何だか頭に少し痛みを覚える。コホン。仕切り直すように口元へ上品に手を当て一つ咳をした。

……20点」
「ア?!何の点数だよ!」
「あんたの贈り物貰った態度。0点じゃないだけとびきり甘いと思いな」
「赤点じゃねーか!!ん、赤?俺の赤っ鼻は100点満点だろが!!いや誰が赤っ鼻じゃいッ!!!」

 キィーッ!と効果音が付きそうなノリでバギーが盛大にかます。それを見てアルビダは堪らず笑い出した。
 たかが化粧筆一本で、何か試そうとして見事に失敗した。腹の中がどうだとか、なんて事は無かった。こんな結果だと笑わずにはいられない。とどのつまり、バギーはこういう奴なのだ。卑劣極まる海賊でもない、鼻の下を伸ばすそこら辺の男でもない。ただのバギー。
 ――計り知れない、などと言ったら大袈裟になるかもしれないが。いち海賊を型どるにはかなり雑で大層な答えは、アルビダの中で知らずつかえていた妙なしこりを消すには充分だった。笑ってしまうほどくだらなくて有るがままだ。
 
 一頻ひとしきり笑った彼女はパンと景気良く手を打ち鳴らした。

「計画の時刻までまだ時間がある。どうだい、それまでに一杯やらないかい?アタシが奢ってやるよ。少し早い勝利の宴さ」
 
 不敵な笑みを添えてバギーにそう持ちかけたら、眉根の寄った渋い顔がくるりと切り替わる。
 
「乗った!!へへッ、なんだ分かってるじゃねェかアルビダ!」

 ついさっきの短気で不機嫌な様子は彼方に吹っ飛ばされたみたいで、バギーは傍の荷物を進んで持ちアルビダへ笑いかけた。

「ハン!調子乗んじゃないよ!」

 肩を組んできそうな勢いのバギーをアルビダは高飛車に切り返す。ツンとした鼻はそのままで、目元だけはとても愉快そうに綻んでいた。
 呑む前から千鳥足をキメそうなバギーの腕には、荷物が零れそうになっている。
アルビダはそれをひったくると自ら持ち、荷物が空いた分だけバギーに近づく。丁度、二人の肩が並んだ。
 
 今までとこれから、全てに乾杯しても良いかと足取りも軽く、海賊たちは酒を求めて只々進んで行った。