ミリメートル
2025-06-11 22:12:53
1362文字
Public スケ荼
 

スケ荼SS🫗

Ratparkを聴きながら書きました。

「スケプティックは男を抱ける?」
 名前を呼ばれているので、確かに自分に問い掛けられているのだと思う。男を抱けるか。機能としては抱ける。経験はない。デリカシーがない。意図が分からない。
 様々なことをぐるぐる考えて固まっていると、不躾な質問をした荼毘は「じゃあいい」と、興味を失いましたみたいな、澄ました顔でその場を立ち去ろうとする。
 そのまま帰してもよかったけれども、最近まで真っ黒で、今は白くなった後頭部があまり逃したくないものに思えて、口をついて出たのは小言だった。
「じゃあいいとはなんだ、私はまだ回答していないだろう」
「すぐ返事が出来ないならノーってことだろ」
「貴様の礼節を欠いた発言に絶望していただけで、別に、抱けないことはない。必要性を感じないため経験がない、抱かれる方ならもっと興味がない」
「訊かれたことにだけ答えろよ」
 呆れたような声色で勝手なことを言う男に、もう一言二言文句をつけたかった。私が口を挟むことを見越したように、荼毘が「少し待て」というように手をかざすので、仕方がなく黙る。
 荼毘は考え事をしているようで、焼け爛れた腕を組んでは、時折無事な方の肌との継ぎ目を指先でなぞっている。そういう手癖なのだろう。やがて結論が出たのか、はたまた飽きたのか、皮膚を繋ぐ金属を引っ掻いてから腕を解いた。
「いいや。じゃあ、男にキスは出来る?」
……何故先程よりハードルが下がっている?」
「先にハードルが高いことを訊いて、無理だったら、次にハードルを下げたことを言えば譲歩してもらえると思って。訊きたいことをこれしか用意してなくてね……
 嫌味を言ってやってもよかったけれども、どんなにたちが悪い質問であろうとも、質問を蔑ろにする賢くないコミュニケーションを続けたくはなかった。
 せめて、何か意趣返しが出来ないか。荼毘の曇った瞳をじっと見つめると、観察される居心地の悪さからか、珍しく動揺したように目を逸らされた。そんな仕草に、何故か、照れてくれるならばと思う。
「キスくらい出来る」
……そうなんだ」
「譲歩、と言ったな。貴様は私にキスされたり抱かれたりしたいのか?」
「うん」
「うんって。恥じらいはないのか。そして私はどうすればいいんだよ、貴様に性的に触れればいいのか?」
「いっぱい喋るね。そうだな、まずキスはしてほしい。したことないからしてみたくて。セックスもそう。抱く方をしたこともないけど、折角なら受け身をやってみたい」
 随分と明け透けだ。荼毘がこんなに自分のことを喋るところを見たことがない。最近、ご家庭の事情について伺う機会はあったが。
 荼毘を見つめる。多分、今、キスしてほしいのだろう。どういう顔で待てばいいか分からないといったような佇まいだ。キスも、セックスもしたことがない。ムードの作り方が分からない。私にキスされたい。嘘みたいだが、そんな荼毘がひどくイノセントなものに思えて、「荼毘がキスされたいと選んだ相手が自分でよかった」という気持ちになる。
 ラブロマンスのお手本のような甘ったるいキスをしてあげるために、所在無さげにうつむき始めた頭を、頬を撫でて、目が合ってからは。絡み合ったり組み敷いたり、あまり、他言するようなことではないことを、沢山した。


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