お花見とは名ばかりの、ただ場所が桜の下というだけの、飲み食いを楽しむ行事。歌い出す教師もいるが、それもまあ、普段の飲み会となんら変わりはないのである。
スーパーから取り寄せたオードブルをつつきながら冷たいビールを呷る。普段自分一人で買い食いする惣菜より、いくらか上品な味がする気がする。価格帯が違うのかもしれない、壊理の口に入ることを考えるならこれくらいがちょうどいいか、などと考えながら、相澤は心地よい春の風を浴びていた。
エクトプラズムの歌唱に合の手を入れているオールマイトが、なんとなく気になった。思えばすっかり溶け込んだものだ。彼が雄英高校に赴任した当初は、みんなどこか遠慮がちだったから。とても話しかけられないなんて緊張していた13号も、今となってはスパークリングワインを片手にオールマイトに絡み酒をしている。オールマイトもいつから慣れたのか、13号の絡み酒を半分はスルー出来るようになっているのだから、人間とは日々成長する生き物だと思う。
オールマイトは何を飲んでいるのだろう。ふと彼の手元を注視すると、ついでに頭やら肩やらが桜の花びらまみれなことに気付いた。背が高いから身体が花弁を拾いやすいんだ。なんだかおかしくて、相澤は思わずオールマイトを見つめてしまった。
相澤には色彩感覚とか、センスとかが、はっきりと言えば全くないのだが。オールマイトの金色の髪に淡いピンクが散りばめられているのはなんだか気分が良かった。カラフルで綺麗だと思う。オールマイトが、白いワイシャツを着ているのもいい。非常に爽やかな雰囲気を醸し出していて、今日の天気が快晴だとか、オードブルの玉子焼きが美味しいだとか、そういう素敵なことは全部この人が連れてきてくれたものなのかもしれないという錯覚を抱いてしまう。
「相澤くん」
風景画が話しかけてきた。気付いたらマイクはハウンドドッグの手に渡っていて、13号もスパークリングワインを手放して、今は炭酸入りの日本酒を楽しんでいるようだ。そんなに色々飲んで大丈夫なのだろうか。
「相澤くん?」
「……はい、俺ですが。どうかしましたか」
「酔っちゃったのかなと思って。さっきから、じっと動かないし、すごいこっち見てるし」
気付かれていたらしい。それはそうだろう。オールマイトは引退した身とはいえスーパーヒーローだ、視線を注がれ続けて気付かないわけはない。
「酔ってませんよ、花を見てただけです」
「桜ならもう少し上の方だと思うよ」
「いや、あなたが花まみれだから」
「え? あぁ、ついてた?」
「えぇ、綺麗なもんですよ」
「え?」
「え?」
よくない空気が流れる。不味かったのは、相澤とオールマイトに物理的な距離がまあまああることで、つまり、会話が周囲に筒抜けなところだった。
「相澤先輩がオールマイトを口説いてます」
「あらあら、あら、あら……」
「変なこと言うなよ、香山先輩が元気になるだろ」
「え。相澤くん、私を口説いてくれたんじゃないの?」
「あなたも悪乗りしないでください」
「ひどいな、弄ばれちゃったよ」
「だから違いますってば」
よよ、と泣き真似を披露するオールマイトに複雑な気持ちになる。面倒くさいという気持ちが三割、この人が、こんな風にふざけられる場所があってよかったという安堵が六割。一割余ったな。じゃあ、泣き真似なんかするオールマイトが可愛いという感情を、そこにあてよう。
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