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匣舟
2025-06-11 13:42:14
2750文字
Public
RKRN
僕の世界を書き換えた責任取ってよ
転生パロ続きの綾乱です。リクエストに添えているかわかりませんが…ありがとうございました!
僕の世界を書き換えた責任を取ってよ
ずっと昔から雨が嫌いだった。喜八郎にとって雨は良い思い出がないからだ。雨の日は何故か乱太郎が死んでいく姿がずっと思い浮かぶのだ。あの時の声、段々と冷たくなっていく体温、そして段々と閉じられていく乱太郎の瞳を数百年経って生まれ変わった今でも喜八郎は鮮明に憶えている。
あの日は雨ではなかったけれど、喜八郎から乱太郎の頬に落ちてゆく涙が滝のように降りしきる雨のように喜八郎には見え、それからずっと雨が嫌いになった。
─せんぱい、しあわせになって。
あの時の情景が夢になって喜八郎を襲ってくることもあった。雨が降る期間が多い梅雨は特にその夢を見続けることが多くて喜八郎は梅雨があまり好きではない。
「
…
さん、
…
さん、おきて。」
誰かに揺すられている気がする。喜八郎はそんな感覚がしてゆっくりと瞼を開いた。
「
……
ん、
……
乱太郎?」
「喜八郎さん、おはようございまーぁす。」
喜八郎の目の前には乱太郎の顔があって、喜八郎は一瞬驚いたが、ああそうかと思い直してぼうっとその顔を見つめる。昨日、乱太郎の家に泊まったんだった。とまた起きたてほやほやの頭でぼーっと考える。
乱太郎の後ろの窓からは眩しい太陽の光が降り注いでいて、今がまだ朝だということが容易に分かる。
「
…
もー、喜八郎さん。まだ起きてないでしょう?」
「
…
おきてるってばぁ。」
そんなことを言いながらまだ布団から抜け出せない喜八郎を見て乱太郎はくすくすと笑っている。そして喜八郎の前髪をかき分けると額にちゅっと軽く口付けた。
「
……
乱太郎、」
「ふふ。おはよぉ、喜八郎さん。」
「
……
おはよ。」
喜八郎はのそのそと起き上がると乱太郎にぎゅっと抱き着く。そんな喜八郎の頭を乱太郎は優しく撫でて、そっと離した。
「お味噌汁温め直してくるんで、喜八郎さんは顔洗ってきてくださいね〜。」
「ん
…
わかった
…
。」
待ってますからね。と微笑んだ乱太郎を見送ってから喜八郎はとぼとぼと洗面所へと歩く。
そして、洗面所に着くと顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直してから喜八郎はまた乱太郎の居る部屋へと向かい、まだ味噌汁を温め直してるであろう乱太郎の背中に抱きついた。
「喜八郎さん、そんなにくっついたら危ないですよ。」
「
…
危なくない。乱太郎と離れてる方がやだ。」
「
…
もう。」
キッチンにいる時ぐらい大人しくしてくださいよ。と笑う乱太郎。喜八郎は先程から乱太郎を後ろから抱き締めて、その肩に顔を埋めている。そんな喜八郎に乱太郎は「仕方ないなあ。」と呆れながらも甘んじて受け入れた。
乱太郎がこんなに喜八郎に甘いのは、前世から相変わらずである。喜八郎に呼ばれたら膝枕をして抱きつかれたらなすがままにして。
だが今世で再会した今、前世よりも甘え癖が酷くなっているんじゃないだろうか
…
。と乱太郎は遠い目をしているが原因が自分にあると分かっているので何も言えずにいるし、今世はずっと彼の隣で添い遂げると決めているし、乱太郎も喜八郎を甘やかすのをやめられないので結局どっちもどっちなのである。
キッチンで喜八郎に抱きつかれながら朝ごはんを作って卓に温め直した昨夜の味噌汁と炊きあげたばかりのご飯と作ったばかりのおかず、そして野菜たちを置いて、抱きつき虫の喜八郎を椅子に座らせてテレビを付けると、どうやら今朝気象庁が梅雨入りを発表したらしかった。
「喜八郎さん、梅雨入りですって。」
「
…
ふうん。」
そうなんだ。と呟く喜八郎は梅雨入りしたことをどうでもいいらしく味噌汁を啜っている。そうか、この話題興味なかったかあ〜。と思いながら乱太郎もつられて味噌汁をそそっていると喜八郎が独り言のようにぼそっと呟いた。
「
…
乱太郎はさ、僕がまだ雨が嫌いだと思ってる?」
「え?」
喜八郎のその一言に乱太郎の手が止まる。喜八郎は乱太郎が味噌汁を啜るのをやめたのを視界の端で捉えながら、僕はもう雨が嫌いじゃないよ。と続けた。
「
…
雨になると、あの日のことを思い出しちゃって、いつも嫌だった。
…
乱太郎も雨の日に僕が魘されてるの見たことあるでしょ?」
喜八郎からそう言われて思い出すのは、一緒の布団で眠っていた時、喜八郎の苦しそうな声が聞こえたときの記憶だった。
「
…
ら、らんたろ、う。」
─置いていかないで。
乱太郎は、その声があまりにも悲痛に聞こえて。
─もうあなたを遺しておいていかないですよ。
そう、言ってあげたかった。けれど、自分は彼をおいて逝ってしまった身であるし、乱太郎と今世で会った時にあんなに自分がどこにも行かないように抱き締めていた喜八郎だから、そんな簡単に過去の記憶が消えることなどないと分かっている。
だから、乱太郎は黙って喜八郎の身体を抱き締めた。すると今度は安心したようにすやすやと寝息をたて始めたので、乱太郎もそのまま眠りについた時のことが乱太郎の脳内に呼び起こされる。
喜八郎が前世に魘されていることに対して何も言わないから、乱太郎は何も知らないふりをしていた。
「
…
ふふ、驚いた顔してるね。」
「そりゃあ、そうでしょう。いつも喜八郎さん寝てたもん。」
図星だったのを喜八郎に言われて少しムスッとした乱太郎はおかずを食べ始めた。喜八郎はそんな乱太郎を見てまたふふ、と笑いながら話を続ける。
「乱太郎がね、ああやって魘されてる時に抱きしめてくれたりしたお陰で最近では魘されることも無くなったし
…
。」
あとね、僕が雨が嫌いじゃなくなった理由後もうひとつあるんだけど、何かわかる?と喜八郎は乱太郎に聞く。乱太郎はうーん、と唸りながら考え込んでいる。そんな乱太郎を愛おしそうに見つめながら喜八郎は口を開いた。
「
…
乱太郎が僕のそばに居てくれるからだよ。」
君が僕のそばにいて、笑ってくれたり甘やかしてくれたりするだけで僕はそれだけで幸せで、あの日から囚われることなんか無くなったんだ。
だから僕はもう雨が嫌いじゃないよ。と喜八郎がそう告げると乱太郎はぽかん、とした表情をしてそうですか、と言って顔を赤くして俯いてしまった。
そんな乱太郎を愛おしそうに見ながら喜八郎は来世も、来来世も、ずっと僕のそばにいてね?と笑う。
「
…
朝から愛が重たいなあ
……
。」
なんて笑う乱太郎に、喜八郎は微笑みながらこう言ったのである。
「
…
君がいないと、僕は生きていけないからだになったんだもの。乱太郎、君のせいだ。だから、僕の世界を書き換えた責任を取ってよ。」
ね。乱太郎?と微笑みながら自分を見つめてくる喜八郎に言われなくともずっとそばに居てあげますよ。と乱太郎は愛おしそうに微笑むのだった。
了
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